東方病愛録   作:kokohm

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 特別回です。てゐ、さとり、メリー、衣玖の四人のお話の、とある一幕となっています。



少女たちの愛・弐

 

その四.正直者と、嘘つきと

 

 

「は? 私と?」

「うん」

 

 彼女は驚いたような表情を浮かべていた。突然のことだったからかもしれない。

 

「いやいや、アンタ分かっている? 私がどういうウサギなのかってことをさ」

「分かっているよ、その上で僕は言ったんだ」

 

 僕の答えに彼女は、てゐちゃんは、はあ、とため息をついた。

 

「本当かねえ、まったく」

 

 てゐちゃんがこういうのも分からないわけじゃない。イタズラ好きで、嘘つきで、よくトラブルを発生させる、というのが彼女の噂で、それは事実でもある。

 

「よく一緒に居たんだ、分かってないわけないじゃないか」

 

 でも、僕はそんな彼女とよく行動を共にした。いくら嘘をつかれても、僕は彼女の言葉を信じた。どれだけイタズラに巻き込まれても、僕は最後には笑っていた。知り合いや友達に、止めた方がいいと言われてもずっと、僕は彼女の傍にいた。だって、初めて会った時から、

 

「僕は、君が好きなんだ」

 

 僕は彼女に、恋をしたのだから。

 

 

 

「……それは、本当に本心?」

「本当で、本心だよ。嘘なんかじゃ絶対にない」

 

 嘘なんかついた覚えはない。そもそも僕は嘘をついた事がほとんどない。どうも顔に出やすいみたいだから、最初から嘘をつくという選択肢が僕の中にはないのだ。そんな僕が引かれたのが、嘘つきで有名なてゐちゃんだったんだから、ちょっとおかしな話だ。人は自分が持っていないものを求める、なんて聞いたことがあるけど、本当なんだろうか。

 

「ん……、確かにね」

 

 どう答えを返されるか、とても不安だ。少しだけ、告白する前の状態に戻りたいと僕の弱い心が囁いている気がする。……でも、やっぱり僕は……。

 

 

「……分かった」

「え! じゃあ」

「その前に、ちょっとしゃがんでくれる?」

「? うん……?」

 

 言われたとおり素直にしゃがむ。僕のほうが背が高いけど、流石にしゃがむと僕の目線は彼女よりも低くなる。

 

「じゃ、ちょっとの間目を瞑っていて。勝手に開けたら許さないからね」

「う、うん」

 

 何をするつもりなんだろう。ひょっとして、答えの代わりにキスでもしてくれたりするんだろうか。ちょっとドキドキしてきた。

 

 

 

 

 

「良い子だね、じゃあ――」

「――え?」

 

 チクリと、首筋に痛みが走った。何かと思って目を開けると、

 

 

 

 

「……ああ、開けちゃうんだ」

 

 手に注射器のような物を持った、てゐちゃんだった。

 

「てゐ、ちゃん?」

 

 頭がぼんやりとしてく。これって、薬……?

 

「これはね、師匠が作った自白剤の一種だよ。これでアンタの本心を暴いてあげる」

「なん、で……?」

 

 

 僕は……何も……、嘘なんか……。

 

「――私が好き、恋人になりたい、なんてね。……この、私にだよ?」

 

 どうして……、そんな……顔を……?

 

 

 

 

「そんな言葉、信じられないね」

 

 …………ああ、そうか……。彼女は…………。

 

 

 

 

 ――嘘を、つきすぎたんだ……。

 

 

 

 

 

その五.心と、嘘と

 

 

 

「別に、気にしない」

『心を読む、ねえ。まあ別に読まれて困るものでもないし』

 

 

 ――嘘。人も、妖怪も。誰しも自分の心を読まれたくないはずだ。

 

 

「特に理由はない、強いて言うなら気まぐれだ」

『妖怪とはいえ女の子、寂しそうなのはどうにも落ち着かないんだよな』

 

 

 ――嘘。さとりの私に、そんなことを思うはずがない。

 

 

「たまには外に出た方がいいぞ」

『たまには、外でも過ごしたいかな』

 

 

 ――嘘。私といるところなんて、見られたいわけがない。

 

 

 

「理由がないと、会いに来ては駄目なのか?」

『好きな人には、理由もなく会いたくなるもんだ』

 

 

 ――嘘。私を、好きになるわけがない。

 

 

「……好きだ、さとり」

『好きだよ、さとり』

 

 

 

 ――嘘。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘。

 

 

 

 

 

 

「本当だ」

『嘘なんかじゃない』

 

 ――嘘、じゃない? ……貴方を、信じていいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、悪いな。今から向かおうと思っていたんだ」

『そうだった、すっかり忘れていた』

 

 

 ――うそ。貴方が、私との予定を忘れるわけがない。

 

 

「ちょっと先約が入ってな、何日か泊まって来る」

『たまには外で羽を伸ばそう。さとりはちょっと束縛が強すぎる』

 

 

 ――うそ。貴方が、私から離れたがるはずがない。

 

 

「この埋め合わせは今度するから、悪い」

『失敗した、こんなことに突っ込んでくるのか』

 

 

 ――うそ。貴方が、私のことを分かっていないはずがない。

 

 

「そうだったか? 違う気がするんだが」

『しつこいな、本当に』

 

 

 ――うそ。貴方が、私を疎ましく思うはずがない。

 

 

 

 

 

「本当だ」

『本当なわけがない』

 

 

 ――うそ。うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ。

 

 

 

「好きだ、さとり」

『……――』

 

 

 

 ――うそ。…………貴方を、信じているわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その六.嘘をつくのは

 

 

 

 

 

 ……ねえ、今日は何処に入っていたの?

 

 ……そう、蓮子のところに、ね。

 

 ……何で? 蓮子のところになんで行ったの?

 

 ……遊びに行っただけ、ね。本当にそれだけ?

 

 ……ねえ、本当に、それだけ?

 

 

 

 嘘をつかないで!!

 

 

 

 知っているのよ! 貴方と蓮子の関係なんて! 知らないとでも思った? 知らないわけないじゃないの!!

 

 

 

 ええ、そりゃもうよほど楽しく遊んできたんでしょうね。何せこんな遅くに帰ってくるくらいなんだから!

 

 

 

 ……誤解? ええ、貴方はそう言うでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 ――何が誤解よ!!

 

 誤解なんかなわけないじゃない!! 私が、貴方とどれだけ、どれだけ一緒にいると思っているの!? 貴方が嘘をついているかどうかなんて、すぐに分かるに決まっているじゃないの!

 

 

 誤解、誤解、誤解!!! どうしてそんな嘘をつくの!? 嘘だって分かっているのに、何で!?

 

 

 蓮子のせい!? 私のせい!? それとも、貴方のせい!? 何で、何でそんな嘘をつくのよ!!

 

 

 ――そう、分かったわ。蓮子がいけないのね? 蓮子が居なくなったら、貴方も私に嘘をつかなくなるのね? ええ、ええ、分かったわ。

 

 

 

 

 ……止めろ? 貴方がそんなことを言うの? 何でそんなことを言うの? 私はね、別に貴方の浮気を咎めるつもりなんかないのよ。ただ、私に嘘をついて欲しくないだけ。嘘をついてさえくれなければ、私は貴方のすべてを許すわ。勿論、蓮子のこともね。

 

 ――さあ、本当のことを話してくれる?

 

 

 

 

 

 

 

 …………そう。最後まで、そんな嘘をつくのね。――だったら、そんな嘘をつけないようにしてあげる。……安心して? 話せなくなっても人間は生きていけるし、私も頑張って支えてあげるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だから、大人しく、ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その七.嘘であっても

 

 

「……」

 

 ああ、お帰りになったようですね。

 

「お帰りなさい」

「! ……た、ただいま」

 

 ふふっ、反応が大きすぎますよ。……ちょっとだけ、イタズラしてみましょうか。

 

「随分と遅かったですけど、何かありましたか?」

「あ、ああ。ちょっとね、天子に付き合わされて」

 

 目が泳いでいますよ。もっと堂々と言わないと嘘だって認めているようなものじゃないですか。

 

「ああ、総領娘様に。それはそれは、大変でしたね」

「ああ、それでこんな時間に、ね」

 

 いくら総領娘様でもこんな時間にまでつき合わせたりはしませんよ。……そもそも、私は今日、本人に会っているんですけど、ね。

 

「お疲れ様でした。お風呂とご飯、どちらにしますか?」

「じゃあ……、お風呂で」

「はい、分かりました」

 

 今は顔を合わせたくない、といったところですか? 顔を合わせてご飯を食べるのは罰が悪いから、一旦時間を空けようといった感じですかね。ああ、お背中を流しに行きたいところですが、流石に止めておきましょうか。

 

 

 

 

 

 ……それにしても、今日は一体誰が彼を誘ったんでしょうか。本当に、彼は少し優しすぎますね。そんな彼だから私は彼に惹かれたのですが、ね。恋の戦争に敗北してもなお、これほどまでに諦めない人が多いとは、全く誤算でした。まあ、私も逆の立場なら、そうしたでしょうから強くは言えませんけどね。

 

 

 

 本当に、流されやすい人です。女性の涙に弱くて、突き放すことも出来やしない。そのくせ開き直ることもできない、まったくもって、ですね。

 

 

 

 まあ、別にいいんですけど。だって貴方の一番が私だということは変わらないんですから。貴方がどれだけ嘘をつこうと、貴方が誰と一夜を明かそうと、貴方は私の元に帰って来る。それが確かなら、私は貴方のすべてを認めますよ。貴方が私を愛してくれる限り、私は貴方を愛します。どんなところも、貴方の全てを愛します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ですから、私を愛し続けてくださいね?

 




 はい、特別回です。筆が乗ったので久々に連日で書いていたらクオリティが微妙な感じに、うーむ? まあいいか。

 今回は嘘がテーマ? みたいな感じです。各々の嘘に対しての考え方とか、思いとか、そんなことを書いてみたつもり。自分が嘘をつきすぎて相手の言葉も嘘だとしか思えなかったり、彼の声と心のどちらかを嘘だと信じ込んだり、彼の言葉の全てを嘘だと思ってしまったり、嘘だとわかっていてもそれでもいいと信じたり。まあそんな風に色々と、書いてみたつもりではあります。

 で、前回も言いましたが病愛録のお話の中でどれが好みであるか、皆さんにお聞きしてみたいなと思います。活動報告のほうに場を作っておきますので、よろしければトップ3ぐらいまでをお教えくださると幸いです。前回やったときより読んでくださっている人も多くなっていますし、数名でも答えてくださる人がいると私のモチベが上がります。総合評価1000も見えてきましたからね、これからも頑張っていきますよ。ではまた。

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