東方病愛録   作:kokohm

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 何か真面目に書いたら妙に長くなりました。



ナズーリンの愛

 

 

「君、ちょっといいかな?」

「はい?」

 

 そう言って、彼に声をかけてきたのは少女だった。頭の上には耳が、その腰の辺りには尻尾が生えている。その形状からしてネズミか何かの妖怪だろうと、彼には判断できた。

 

「この辺りで何か、価値のあるものを知らないかな?」

「価値、ですか?」

 

 そう言われ、彼は辺りを見渡してみる。彼らがいるのは人里から少しばかり離れた林の中、ざっと見た限りでは植物ぐらいしか目に入るものはない。これまで何度かこの辺りを訪れている彼の記憶にも、特段価値のあるものは見つからない。

 

「いえ、特には」

「そうか……」

「何か、探し物をしているのですか?」

 

 それほどでもないが少しばかり落ち込んでいるように見える彼女の姿に、彼は思わずそう問いかける。その問いかけられた少女の方は軽く驚いたような表情をした後、いやと軽く首を振る。

 

「特にこれと言って探しているものがあるわけじゃないんだよ。単なる暇つぶしとして、私にとって価値のある何かを、という条件で調べてみただけだからね」

 

 一応このあたりにあるみたいなんだけどね。そう言って彼女は手に持ったダウジングロッドに目をやる。そのような漠然としたものをダウジングロッドなどで見つけられるのかと彼は疑問に思ったが、人知を超えた妖怪ならばどうにか出来るのだろうと納得する。

 

 

 

「ところで、君」

「はい?」

「先ほどから気になっていたんだが、何故敬語で話すんだい?」

 

 何故? と思った後、彼は彼女の言葉の意味を理解した。目の前の彼女は背が低く、顔立ちも幼いほうだと言えるだろう。一番初めにも思ったが、その姿は普通の少女にしか見えない。そんな相手に何故丁寧に接するのか、と彼女は聞きたいのだろうと彼は解釈した。

 

「その姿を見れば貴方が人間でないことは察せます。仮に妖怪だとして、その年齢は見た目とはずれている可能性が高いと判断出来ました。であったので、とりあえず年上として対応するのがいいかと思っただけです。……そもそも、初対面の方相手に親しげに話すほど、軽いほうではないので」

「……なるほど」

 

 彼の言葉に納得がいったのか、彼女は軽く何度も頷く。

 

「自己紹介が遅れたね、私の名前はナズーリンだ。君の名前を教えてくれないか?」

 

 

 

 彼女の言葉に彼もまた自分の名前を名乗る。その名前を口の中で何度か転がせた後、彼女は満足そうに口を開いた。

 

 

 

「……さて、せっかくだから人里によって何か団子でも食べようと思っている。君も一緒にどうだい?」

「……それはまた、何故?」

「一期一会とでも言っておこうか。で、どうする?」

 

 彼女の問いかけに彼はしばし黙り込む。どうするかと彼は心の中で自問自答していたが、その最中の彼女の表情を見て決心する。

 

「分かりました、ご一緒しましょう」

「ああ、それはよかった。じゃあ、よろしく頼むよ」

「ええ」

 

 彼女の横に並びながら、彼は先ほど何故彼女が不安そうな表情をしていたのか、そして何故申し出を受けたときには安堵したかのように息をもらしたのか、そのことを僅かに考え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、昨日ぶり」

「貴女は……」

 

 翌日、彼の元に来客があった。昨日出会った、ナズーリンという名の少女だ。昨日も人里に入るときに被っていた帽子でその大きな耳を隠している。そんな彼女は昨日も見せていた余裕の感じられる笑顔を浮かべ、大人びた口調で口を開く。

 

「早速で悪いんだが、君、今日も私に付き合ってくれないか?」

「……突然ですね、理由はなんでしょう」

「昨日私が言っていたことは覚えているか?」

 

 その言葉に彼は彼女が語った内容を思い出してみる。彼女は存外饒舌で、彼が聞き役に回っていたこともあってかなりの言葉を紡いでいたはず。そのうちのどれのことを言っているのだろうかと少しだけ考えて、ありえるとすればあれかと見当をつける。

 

「貴方にとって価値のあるものを探している、でしたか」

「そう、元は暇つぶしのつもりだったが見つけられないのもなんだか癪に障ってね。今日も捜してみようと思ったんだよ」

「それは結構なことなのでしょうが……、何故」

「何故君を誘うのか、だろう?」

 

 ニヤリと笑う彼女に対し、彼は黙って頷く。それを見て彼女は満足そうな笑みを浮かべて話し出す。

 

「なに、簡単な話だよ。私が昨日辺りをつけた場所に君が居たんだ、とすれば君が私の捜し物に導いてくれるんじゃないかと思ってね」

「……そういうものなのですか?」

「さあ、どうだろうね?」

 

 彼の問いに彼女は不敵な笑みを浮かべながらはぐらかす。何処まで本心なのか、彼には分からない。

 

「どっちにしても私は人里に慣れていないからね。案内をしてくれる人を必要としていたのもある。……どうだろう、付き合ってはくれないかな?」

「……そうですね…………」

 

 彼女の誘いにしばし彼は考え込む。受けるか受けないか、昨日会ったばかりの妖怪を信じるか否か。無言で考え込んだ後、彼は一つ頷いた。

 

「分かりました、お付き合いしましょう」

「ああ、それは助かるよ」

「ですが私も人里に詳しいというわけではないので、良ければ一人同行者を増やしてもいいでしょうか?」

「うん? 君はここの住人なんだろう?」

 

 彼の言葉に彼女は首を傾げる。そういえば昨日は言わなかったなと思いつつ、彼はその理由を語る。

 

「私は元外来人ですからね。まだこちらに来てから一年程度しか経っていないのですよ」

「ああ、そうだったのか。まあそれはかまわないよ、今すぐに出られるかな?」

「少しお待ちを、彼女を呼んできますので」

 

 そう言って、彼は家の中に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……彼女?」

 

 剣呑な声で呟く彼女に気付かぬままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ」

「……貴女ですか」

 

 次に彼女が声をかけてきたのは、彼が昼食をとっていた時だった。日にちでいえば彼女の人里探訪に付き合った、その二日後のことだった。

 

「こんなところで会うなんて、奇遇だね」

 

 そう言いながら彼女は店員に注文を済ませる。今彼が食べているものと同じ品だ。

 

「いいのですか? そう何度も人里に来て」

「大丈夫さ、どうとでもなる」

 

 妖怪の彼女が人里に入ってきていいのか、そう彼は思うものの当の本人がこの調子ではどうしようもない。これ以上は気にせず、彼女がさらに言葉を紡ぐのを待つことにした。

 

「ところで君、この間の少女のことだけども」

「彼女がどうかしましたか?」

 

 ここでいう彼女というのは、彼が人里でお世話になっている家族の娘のことだ。幻想入りして途方にくれた彼を、善意から面倒をみてくれた家族の子で、彼のことを実の兄のように慕っている。そんな、先日十になったばかりのその子を連れ、二人は人里を歩き回ったのである。

 

「いや、私は彼女に嫌われていただろうと思ってね」

「そんなことは……」

 

 そう否定はしてみるものの、彼女が言っていることは事実であった。家に帰った後、本人が彼女のことを嫌いだと言っていたのを彼は聞いている。

 

「否定しなくていいよ。あの目はそういう目だったからね」

「目?」

「男を取らせまいとする女の目、男を取ろうとする女を見る目、まあそんな感じの目だったよ」

「まさか」

「女の子は成長が早いものだよ。知らなかったのかい?」

「……」

 

 その言葉には何か心当たりでもあったのか、彼は黙り込んでしまう。そんな彼の様子に笑いながら、彼女はさらに言葉を続ける。

 

「まあ、君が納得しやすいように言うのなら、お兄ちゃんを盗られまいとする妹の目だな。これなら納得はいくかい?」

「……まあ、それでしたら」

 

 不承不承、といった風に彼は頷く。

 

「だからまあ、私としても彼女がいるとあまりよろしくなくてね。だから次は二人だけで歩かないかな? ああ、それと私はあまり友人が多くなくてね、君ぐらいしか頼れる相手が居ないんだよ」

 

 だったら自分以外を頼ったらどうか。彼女に先んじられた結果、言い出せなくなった言葉を彼は飲み込む。その代わりか軽くため息を吐いた後、彼は口を開く。

 

「ええ、ではお付き合いさせてもらいます」

「ああ、それはよかった。断られたらどうしようかと思っていたよ」

 

 まあ、彼としても彼女との会話が楽しみになってきていたところだったのだ。付き合いを増やすこともまた悪くはない選択だった。

 

 

 

「……ああ、そうだ」

 

 と、ここで彼女が思い出したかのように言う。

 

「君、いい加減敬語を止めてはみないか?」

「敬語を、ですか?」

「ああ、少しは親しくなってきたんだ。もういいんじゃないかな?」

「……分かった、これでいいか?」

 

 相手が望んでいることだし、別にかまわないか。素の口調で話すことを決めた彼に、彼女は満足そうに頷いてみせる。

 

「ああ、それで頼むよ。この間も君があの娘には素の口調で私には丁寧語だったからね。内心彼女がうらやましくて仕方がなかったんだ」

 

 そう、冗談とも本気ともつかぬ言葉を口に出しながら彼女は笑う。その笑みは今までと同じく、満足そうな笑顔であるように見える。だが、その目が笑っていなかったことに彼が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、今日も楽しかったよ」

 

 そう彼女が言ったのは、もう何度目の探訪の終わりだっただろうか。もう人里で訪れていないところはないのではないだろうか、そう思うほどのものなのは確かだった。

 

「いや、こちらも楽しかったよ」

 

 彼もまた彼女に同意を返す。きっかけこそ彼女の強引な誘いであったものの、今では彼にとっても楽しみな時間となっていた。いつも同じようで実は違う、彼女の服装、言葉、表情、それ以外にもいろいろな彼女を彼は知っていった。いつしか、彼にとって彼女の存在は、特別な物となっていった。

 

「……さて、実は今日は言わなくちゃならない事があるんだ」

「何だ?」

 

 何だろうか、と首を傾げる彼に対し、彼女は一つ息を吐いた後、いつになく真剣な表情で告げた。

 

 

 

 

 

 

「――私は、君が好きだ」

 

 

 

 

 

 その言葉に、彼の思考が一瞬止まる。思考が動き出した最初に思った言葉を、彼は思わず口に出した。

 

「……先に、言われたか」

 

 いつか自分から言おうと思っていた言葉を、先んじて言われてしまった。そのことにどう反応すればいいのか分からない彼に、彼女はいつもの自信に溢れた笑みを浮かべる。

 

「それは、両思いということでいいのかな?」

 

 その彼女の言葉に、彼は言葉ではなく、行動でもって示すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、どうだろうか?」

 

 彼女が言った内容に、彼は軽く顔をしかめた。

 

「いや、こっちでも前から匂わせてはいるんだが、どうにもな」

 

 何のことを言っているのかといえば、それは二人の今後の話であった。彼女は二人で暮らしたい、つまり同居をしたいと言っていて、それに対し彼のほうが難色を示しているのである。と言っても、別に彼が彼女との同居を嫌がっているというわけではない。問題なのは彼が世話になっている例の家族のことであった。彼ら、特にあの女の子が、彼が家を出ることに否定的なのである。

 

「困ったね、本当に」

「すまん、こっちとしても無理やり出て行くのは人情がな……」

「いや、別に君が悪いわけじゃない。こればっかりはどうしようもないだろう」

 

 どうしたものか、と二人は少しばかり考える。そもそも未だに二人の関係すら話せていないのだ、前途多難と言うより他なかった。

 

「……よし、今度私が直に行って交渉してこよう」

「大丈夫か?」

「なに、行ってみなければどうにもならん。この小さな賢将に任せておいてくれたまえ」

「心強い言葉だ」

 

 どうなるか、それは分からない。ただ、どうにか出来るかもしれない。このときは二人とも、そう思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫か?」

「………………ああ」

 

 落ち込む彼に声をかけたのは、彼女だった。

 

「月並みだが、元気を出してくれ。私もついている」

「……ああ、ありがとう」

 

 彼女の言葉にも彼は顔を上げない。無理もないだろう。何しろ、彼の面倒をみてくれていた家族、その全員が亡くなったのだから。

 

「……何故、彼らだったんだろうな」

「それは、犯人に聞かないと分からないな」

 

 ――彼らは、殺されたのだ。仕事帰り、帰宅した彼を出迎えたのは血まみれで倒れる家族の姿だった。笑って彼を引きとってくれた父親も、毎日美味しい食事を作ってくれた母親も、彼を兄のように慕っていた少女も、その全員が血の中に伏していた。よほど苦しんだのだろうか、その顔はひどく歪んでいて、まるで彼を睨んでいるようでもあった。少なくとも、彼にはそう見えた。

 

 それからどうなったのか、彼はよく覚えていない。後から聞いたところ、悲鳴を上げて気絶していたようだった。それほどの心労を受けた彼であったが、横で支えてくれた彼女のおかげで、どうにか彼らの葬儀ぐらいは行えるほどに回復していた。もっとも、それが終わった今は、また意気消沈していたのだが。

 

「どれほど、彼らは苦しんだんだろうな」

 

 ぼそりと、彼らの死に顔を思い出して彼は呟く。

 

「のどを切られていたんだからな、かなり苦しんだと思う」

 

 彼の呟きに、彼女も淡々と答える。返事が返ってくるとは思っていなかった彼はその言葉に反応を見せなかったが、徐々にその意味を理解して顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――何故、知っている」

「え?」

 

 困惑する彼女に、彼はさらに言う。

 

「彼らが殺されたとは説明した。だが、その死因にまでは言いふらしていない。知っているのは医者の先生と、俺ぐらいのはずだ」

 

 なのに、と彼は彼女を見て言う。

 

「何で、お前はそのことを知っているんだ?」

「…………はあ」

 

 彼に追求に、彼女は深くため息を吐いた後、やれやれと呟く。顔を下に向け、手で押さえながら自嘲するかのように言う。

 

「つい、口からこぼれてしまったようだね。まったく、小さな賢将ともあろうものがこれとは、本当に情けない」

「お前……」

 

 否定を、しない。そのことに彼はどうすればいいのか分からなくなる。怒り、追求すればいいのか。悲しみ、理由を問えばいいのか。何をすべきか分からなくなった彼は、混乱しつつも言葉を一つ紡いだ。

 

「――何故だ?」

 

 その彼の言葉に、彼女はゆっくりと顔を上げて言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、そうだろう?」

 

 彼女はいつもの笑顔を浮かべていた。彼女はいつもの声音だった。唯一つ、彼女の目だけが違った。その目には、狂気がありありと映し出されていた。

 

「誰だって自分の一番の宝物を盗られそうになったら抵抗する、そういうものじゃないか」

「……宝、物?」

「決まっているだろう? ――君だよ」

 

 何を言っているんだ? そう言いたげな彼に、彼女はこともなげに言ってのける。

 

「――私にとって価値のあるもの。あの日、そういう条件で私はそれを探し、そして君に出会った。最初は分からなかった、だがすぐに、君と話して気がついたんだ」

 

 一つ、息を挟んで彼女は叫ぶ。

 

 

 

「――君だと!」

 

 

 

 歓喜、と呼ぶのが一番正しいのだろうか。だが、それには狂気が多分に含まれている。

 

「君が私にとって価値あるものなのだと、私は気付いたんだ。だから私は君と行動を共にするようになったんだ。私にとって価値あるものを探すと言う口実でね」

 

 懐かしそうに、回想するかのように。虚空に視線を向けながら彼女は言葉を続ける。

 

「いや、口実とも言えなかったか。だって様々な君という、私にとって価値のあるものを見つけ続けていたんだからね」

 

 段々と言葉に熱が帯びてくる。その熱に震える身体を押さえるかのように、自分の肩を両の手で押さえ、それでも抑えきれぬ分を、身体を揺らしながら言う。

 

「その、一つ一つを見ていて言葉には出さずに喜びに震えていたものだよ。これが、これこそが……とね」

 

 とうとう恍惚すらも顔を浮かべ、彼女は彼に語る。自分が感じていた想い、その一端を彼女は語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで」

「うん?」

 

 ようやく、言葉を作った彼に、彼女はまるで出来の悪い生徒を見る教師のように反応する。

 

「それで何故、彼らを殺した?」

「ああ、そのことか」

 

 彼の質問に彼女は、どこかつまらなさすらにじませながら答える。

 

「さっきも言っただろう? 彼らは私から君を奪おうとしたと。私にとっての宝物を、私から奪おうとしたんだ」

 

 言いつつ、その時の想いを思い出したのか。彼女の言葉に怒りが混ざり始める。

 

「ああ、実に困った人間たちだったよ。特にあの少女、彼女が一番困った。――私のお兄ちゃんを盗らないで、だったか。そればかりで話になりやしない。いい加減私も腹が立ってね、つい、ね。まったく、最初から話に乗ってくれれば私だってあんなことはしなかったというのに。おかげで少しばかり、彼らを苦しめるようなことをする羽目になった」

 

 

 まるで罪悪感がないのか、彼女は平然と言ってのける。そんな彼女に対し、彼はどう反応すればいいのかますます分からなくなった。

 

 

 

 

「お前は……」

 

 

 怒りと愛、憎しみと恐怖。彼の中で彼女に対する感情が入り乱れ、交じり合う。その結果として、身体を動かす事が出来なくなった彼を、彼女はそっと抱きしめる。

 

「大丈夫だ、心配しないでいい。私はずっと君を愛で続ける、私の宝物である君を」

 

 彼に言い聞かせるように、彼女は滔々と語り続ける。

 

「足を切り落としたりして逃げないようにする、なんてこともしないから安心したまえ。私にとって君という原石は全く磨く必要がないものだ。そのままの、今のままの君が私にとっての宝物なんだからね」

 

 その言葉に欠片も偽りがないことが彼には分かった。だが分かったからといって、何をどうすればいいのか彼には分からない。

 

「だから、私に愛でられてくれ。ずっとずっと、私にその輝きを見せ続けてくれ」

 

 段々と彼の意識が遠くなっていく。彼女が何かをしたのか、それとも許容範囲を超えた彼自身の限界か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の大事な、価値あるもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……暗くなっていく彼の心に、彼女の言葉が注ぎ込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の大事な、愛する人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その言葉を最後に、彼は意識を手放した。

 




 はい、ナズーリン回です。何か書いてみたら妙に長くなってしまいました。その割にはオチが弱いかなあ、とは思っています。あとぼろを出すところとかね。失速しちゃったかねえ。

 どういう話か分かり難かったかもしれないので一応説明しておくと、ナズーリンは彼のことを、宝石とか人形とかを飾るように、自分のすぐ傍で愛でたかったんですよね。だから普通に恋人になって普通に付き合っていれば割と問題なかったかもしれません。彼の面倒をみていた家族の抵抗のせいで、彼女のそういう面が表面化してしまったとかそんな感じ。それがなかったら案外最後まで普通の関係でも終われたかも知れない、かも。

 今日は時間がかかったせいで微妙に連日投稿にはならなくなってしまいましたが、まあいいか。日付変わったぐらいの投稿の方が助かる面も結構あるし。次回はまあ、書けたらまた明日にでも投稿します。気力があるうちに連続投稿したいんですよねえ。ではまた。

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