……最近の文はおかしい。
写真を見てニヤニヤとしていることが多くなった。何なんだろうか、どうしても気になる。とはいえどんな写真か見ようとしてすぐに隠すし、……少しの間密着取材でもしてみようかな?
さてさて、さっそく追跡をしてみたけれど何か……ん? 随分とそわそわしているけれどどうしただろう? えっと……あの男の人を見ているのかしら。
……あれ? 声をかけないんだ、うーん、追うか取材かどっちがいいかな? ……よし、あの男の人に何かあると見たわ、早速取材といきましょう。
「ちょっといいかしら?」
「ん? 君は……」
「私は姫海棠はたて、烏天狗よ」
「ああ、文の同業者か」
「文の事を知っているのね? だったら少し聞きたいことがあるのだけれど、最初に貴方の名前を教えてくれないかしら?」
それじゃ、文との関係を教えてもらいましょうか。あの写真の謎も都合よく分かればいいんだけど。
むー、今度こそは! ……って、あれは。
「あら、文。奇遇ね」
「はたて? どうしてここに?」
「ちょっとね、知り合いに会いに来ただけよ」
前回ははぐらかされて話を聞けなかったけど、今回はやってやるわ、新聞記者の名にかけて!
「ははは! それはまたやらかしたわね!」
まったく、この人と話していると本当に面白いわね。もう取材の為に通っているのかお喋りするために通っているのか分からなくなってきた。
「笑うなよ、まったくあの後ご機嫌をとるのにどれだけかかったか」
「ごめんごめん、面白かったからつい」
今回も取材できないみたいだけれどもう良いや、楽しいし。
「……はたて? どうしたの? そんな格好で取材?」
文? また妙なところで会うわね、ってそうでもないか。縁日なんてめったにやらないから記事にはなるか。
「違うわよ、待ち合わせよ、待ち合わせ」
「待ち合わせ? 一体誰と」
「すまん、待たせたか? む? 文もいたのか」
あ、来た来た。
「!? どうして貴方がここに?」
「大丈夫、私が早く来ただけだから」
むしろ時間ピッタリ、相変わらず几帳面な人ね。
「そうか、だったら行こうか」
「ちょ、ちょっと待ってください。行こうかと言うことはもしや」
「そうよ、デートよデート、邪魔しないでね?」
「デートと呼ぶものなのかね、これは。まあいいが、じゃあな文」
「え、あ、はい……」
? 文の様子が変ね、どうかしたのかしら?
「何か気になることがあるのか? はたて」
「何でもないわ」
「そうか。……ふむ、浴衣、似合っているぞ、はたて」
「あ、ありがとう」
恥ずかしいけど嬉しい、何かこそばゆいわね。
ちょっと遅れちゃった、何か緊張して眠れなかったよね。
「……待たせたかしら? って、文?」
文と話していたのね、それにしても何で文がいるのかしら?
「はたて、ということは待ち人というのは」
「ああ、はたてだ」
「それで何なのかしら? 急に私を呼び出して?」
「ああ、その事なんだが……」
ちらりと彼が文のほうを見る、文がいると都合が悪いってことかしら?
「……あ、私は邪魔ですかね。では失礼します、また会いましょう」
「……気を使わせちゃったわね、それで本題は何?」
「回りくどい方が恥ずかしいんでな、単刀直入に言わせてもらう。姫海棠はたて、俺はお前が好きだ」
「え?」
今なんて?
「もしお前も俺のことが好きならばこの手をとってくれ、俺の勘違いであったのなら頬を叩くなりなんなりしてくれ」
「……随分と、急な話ね、こんな大事なことを、急に」
本当に、急な話ね。昨日までそんなそぶり見せてなかったのに、そんな風に思っていてくれるなんて知らなかった・
「躊躇ってお前を他の男にとられるのは嫌だからな、それでお前の返答は?」
「……決まっているじゃない!」
彼の手を取り、そのまま彼の胸に飛び込む。彼はすぐに私を抱きしめてくれて、私の耳元で囁いた。
「愛している、はたて」
「私もよ」
ああ、今が多分人生最良の日なのね。……違う、これから沢山の最良の日が生まれるのか、彼なら私にそれをくれるはず。私達はゆっくりと唇を近づける、……幸せ、本当に。
……ここは……? っ!? 動けない!? 口も塞がれている!? 一体何が!? 確か私は、彼の家に向かっている最中で……
「おや、ようやくのお目覚めですか?」
この声は――文! 文、何処にいるの?
「暢気なものですねえ、あんなことをしておいて」
そこに居たのね、文。早く私の……? あんなこと?
「あやややや、惚けるおつもりですか? 彼のことを奪っておいて」
彼を奪った? 彼って、文はいきなり何を?
「まったく、彼も彼ですよ。彼のことを一番愛しているのは私だというのに、これほどまでに見てきたのに」
何処を見て……!? あれって彼の?! か、壁にびっしりと貼りつくされている……。
しかもあれって、盗撮じゃないの? 文? もしかして貴方は……!?
「とはいえ彼に罪は無いですからね、悪いのは全部貴方です。はたて、彼が一時の過ちを犯したのは貴方のせいなのですから。まったく、泥棒猫って奴ですかね。あ、烏か」
文、貴方は!? っ! くそっ、どうにかしてこれを!
「暴れても無駄ですよ? そういうものなので。……あ、最後に喋らせてあげましょうか」
……痛!?
「っ! 文! 何でアンタはこんなことを?!」
「何でって、決まっているじゃないですか? 貴方を始末して彼の隣に立つためですよ」
「そんなこと出来るわけ無いじゃない?!」
「出来る出来ないの話ではないんですよ、確定したことなんです。安心してください、貴方にピッタリの墓穴は既に準備済みですから」
?! 目が、文の目が正気じゃない。
「……!! 考え直して、文!! 私が居なくなれば彼が私を探し続けるに決まっている、今なら彼にも黙っていてあげる! だから!」
まずい、今の文は絶対まずい! どうにかして逃げないと、っ!! 何で、何で外れないのよ?!
「あー、なるほど。確かに貴方を始末しても彼が私を見るようになるまで時間がかかってしますかもしれませんねえ、ふーむ」
「分かったでしょう!? だから今すぐ」
とりあえず時間を稼がないと、時間を稼いで何とか。
「思いつきました! これなら万事解決です!」
「え?」
「うん、はたて、貴方の死体は衆目に晒すことにしました、そうすれば彼は貴方の死を理解してくれますからね。恋人もどきを失い悲しみにくれる彼を慰める私、うん、いい響きです!」
あ、文?
「な、何を言って」
「いや? 親友を失いながらも彼を支える女の方が良いでしょうか? いやいや、彼は優しいから逆でもいいかもしれませんね。恋人もどきを失いながらも親友を失って悲しみにくれる私を慰める、互いに傷を舐めあった結果二人に生まれたのは。うん、こっちでもいいかもしれませんね。あやややや、どれが良いか悩みますねえ。……ま、とりあえずはたて」
何よ、それ。そんなものを振りかぶって何をするつもりなの? 止めてよ、……止めてよ?!!?
「……あ、た」
「死んでください?」
助け………………。
ぐしゃり、ぐしゃり、ぐしゃぐしゃり。
「あははははっははははははっはははっははははははっははははは」
ぐっしゃぐしゃの、ぐしゃりしゃり。
はい、文回です。…えー、はたてさんと彼女のファンの皆様、申し訳ありませんでした。今回の書き方はミスったかな、文があんまり出てこなかった。最近一気に書き上げて投稿している所為かいまいち完成度に自信が無いな。二週目があれば文のところはこれの文視点の話に決定か、これは。
内容にも触れましょうか、今回はストーカーな文のお話でした。タイプとしては愛しの彼に危害を加えるようなものではなく、彼を奪おうとする女を排除するというタイプでした。ですから彼自身が文に傷つけられるようなことは将来的にもありません、隠し撮りはされますけどね。ちなみに最初に文が見ていた写真は当然隠し撮りした彼の写真、文の部屋には彼の写真がそれこそ隙間なく貼られ、撒かれ、散乱しています。はたてが度々文にあっていたのも彼女が彼のストーキングをしていたからです、いまいち表現仕切れなかったのが残念。
さて、病愛録についてなのですが伸びが妙にいいですね、不帰録よりだいぶ良いのは複雑な気分、皆そんなにヤンデレが好きか。…ま、いいや、次回は誰にしようかなっと。ではまた。