東方病愛録   作:kokohm

6 / 90
「正しましょう、貴方のために」


茨木華扇の愛

 人里にて、一人の人間に一人の仙人が説教をしていた。

 

「聞いていますか!!」

「聞いている、そう何度も言うな」

「いいえ、何度でも言わせて貰います。食は生きる糧、疎かにしていいものではないのですよ」

「だから今日はたまたまだと言っているだろう」

「そのたまたまがいずれ綻びを生むのです、ですから常々忘れずに」

「はいはい、分かったよ華扇」

 

 

 時間がなく軽食でお昼を済ませた彼を彼女が叱っているのを、白黒魔女は眺めていた。

 

「まーたやってるぜ、飽きないよな二人とも」

 

 

 

 人里にて、一人の人間に一人の仙人が説教をしていた。

 

「何ですかその格好は!」

「仕方が無いだろう」

「何が仕方無いですか。いいですか? 服装の乱れは心身の乱れ、常にきちんとした格好をすることで」

「理由ぐらいは聞け、華扇」

 

 

 服を汚してしまった為肌をさらしていた彼を彼女が叱っているのを、紅白巫女はちらりと見た。

 

「相変わらずね、巻き込まれないようにしておきましょうか」

 

 

 

 人里のとある家にて、一人の人間に一人の仙人が説教をしていた。

 

「何時まで寝ているのですか!」

「……うるさい、耳元で騒ぐな」

「朝日を浴びて一日を始める、それで身体というものはきちんと動くのです。それを何ですかこんな時間まで、休日だからと気を緩めてはいけませんよ!」

「……眠い、寝かせろ華扇」

「だから起きなさい!!」

 

 

 仕事で忙しかった為きちんと眠れなかった彼を彼女が叱っているのを、歴史の教師は呆れて聞いた。

 

「朝から元気なことだ、近所迷惑だが」

 

 

 

 竹林近くの小道にて、一人の人間に一人の仙人が説教をしていた。

 

「やれやれ、どうしてこうなるのか」

「何がどうしてですか! 貴方があのようなことをしていたのが原因でしょうが!」

「だからあれは不可抗力だと」

「問答無用!」

「どうしろというんだ、華扇」

 

 

 転んだ少女を受け止めた拍子に胸に触った彼を彼女が叱っているのを、薬売りの兎は赤面しながら見ていた。

 

「……放置されるのも何だかなあ」

 

 

 

 永遠亭にて、一人の人間に一人の仙人が説教をしていた。

 

「まったく、油断しているからそうなるんです!」

「気を張り詰めていたら妖怪が撃退できるなら巫女はいらん」

「そういう問題ではありません!」

「少しは見舞え、華扇」

「それは昨日済ませました、今日はお説教です!」

 

 

 妖怪退治の流れ弾を受けた彼を彼女が叱っているのを、薬師の医者は注意した。

 

「病院で騒がないでよ」

 

 

 

 人里にて、一人の人間と一人の仙人がいなかった。

 

 

 彼と彼女がいないのを、不死の蓬莱人は疑問に思った。

 

 「……そういえば最近見ないな、アイツら」

 

 

 

 

 大きな家で、一人の人間が一人の仙人に問うた。

 

「何処だ、ここは」

「ここは貴方の生活を正すための場所です」

「さらってくる必要があったのか?」

「ここで無いと出来ないこともあるのです」

「俺は何をしていいんだ、華扇?」

「この家では好きにしてもらって結構です、ただしきちんとした生き方を心がけてくださいね。ではちょっと出てきます」

 

 

 彼女が家を出ていくのを見送り、彼は頭をかいた。

 

「……ま、とりあえずはおとなしくしておこうか。そのうち華扇も飽きるだろう」

 

 

 

「強硬策に出てしまいましたがこれでよかったのでしょうか、……いいえ、これが彼の為なのです。強引にでも正さないと困るのは彼なのですから……そうです、これが彼の為でもあるのです。何時までたっても正しく生きない彼に教える、その必要があるのだから」

 

 悩みながらも彼女は言う、それが正しいことだと言う。

 

 

 

 大きな部屋にて、一人の人間が一人の仙人に皮肉った。

 

「こんな趣味があるなんて知らなかったな」

「何が趣味ですか、これは貴方を正す為の手段に過ぎません」

「何をどうやって正すのか知らんが、何がしたいんだ?」

「貴方がきちんとした生活態度を身につけるまでここにいてもらいます」

「閉じ込めて、か?」

「逃げられると困るので」

「……逃げないからここを開けてくれ、華扇」

「駄目です、では私は用を済ませてきます」

 

 

 戸の向こうで彼女が去っていくのを感じ、彼は頭を押さえて考える。

 

「雲行きが怪しくなってきたな、華扇は何を考えているんだ?」

 

 

 

「正すためには制限すれば良い、制限すればそれしか出来なくなる。それを全てに適用すれば彼は覚えてくれるでしょう、正しき生き方というものを。私が教えてあげましょう、私が制限することで」

 

 悩みを捨てて彼女は言う、それが正しいことだと言う。

 

 

 

 大きな部屋にて、一人の人間が一人の仙人に懇願した。

 

「華扇、そろそろこれを外してくれ」

「駄目です、貴方を正すにはそれが必要なのです」

「そんなわけがあるか」

「あります、では私は席を外します」

「待て、華扇」

 

 

 目の前から彼女が去るのを目で追いながら、彼は動けぬその身で悔やんだ。

 

「……華扇。俺達は……、何処で……」

 

 

 

「きちんと食べないというのなら、私が毎食与えましょう。正しく着ないというのなら、私が着せてあげましょう。眠れず起きぬというのなら、私が目覚めさせましょう。色事に迷うというのなら、私がそれを鎮めましょう。不要な怪我を負うのなら、私がその身を守りましょう」

 

 狂った思考で彼女は言う、それが正しいことだと言う

 

 

 

「貴方のすべてを私が正しましょう、貴方のすべてを私が導きましょう、貴方のすべてを私が管理しましょう」

 

 狂った目で彼女は言う、それが正しいことだと言う。

 

 

 

「貴方のすべてを私が」

 

 狂った笑みで彼女は笑う、彼の為だと狂信する。

 

 狂った言葉で彼女は笑う、彼の為だと狂信する。

 

 狂った思いで彼女は笑う、彼の為だと狂信する。

 

 

 

「貴方の、すべてを、私が」

 




 はい、華扇回です、華扇や青娥のような珍しいキャラで書いて欲しいといわれたので書いてみました。何だか最近二時間くらいの突貫で書いていることが多い、何だかなあ。

 書いてみて思ったのですがやっぱりある程度キャラを把握できていないと何かおかしくなりますね、予定していた感じと違う感じになってしまった。説教がエスカレートしていくといった風に書こうと思ったのに何か違う気がする、うーん、リクエストなのにこれはなあ。

 おせっかい焼きでお説教をするタイプらしいからそういった風に狂って行くのを書きたかったんだけどなあ、まあこうなったものは仕方ないと思おうか。これはこれで良いかもしれないし、決めるのは読み手の皆さんです。次が何になるかは分かりませんが、良ければまたお越しください。ではまた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。