……月……日
今日、私は一目惚れをした。自分でもまだ混乱しているけれど、これが恋という感情なのは分かる。正直、悪い気持ちじゃない。
こうして日記を書き始めると多少気持ちも落ち着いてきた。これからどうするかを考えよう。順当に行けば告白をする、がいいのだろうか? だけど、突然好きですと言ったところで困惑させるだけだろう。せめて、彼がどういう人なのかなどを知らないといけない。
いきなり聞く、というわけにもいかない。かといって自然な手段で知り合う方法はちょっと思いつかない。まずは、木陰から彼を観察してみればいいのだろうか。
……月……日
色々と彼について分かってきたと思う。こうなると次はいよいよ彼と接触する方法を考えるべきだろう。どうしようか? やはり、しぜんな接触方法というものは思いつかない。妹たちのほうがこういうことは慣れていそうだけれど、こういった相談はどうにも気恥ずかしいし、からかわれそうな気がする。とりあえず、今はもう少し、彼の観察を続けてみよう。詳しい生活パターンでも分かれば、何か良い手が見つかるかもしれない。
……月……日
観察を続けて分かったことだけれど、彼は結構活動的だ。人間にしてはやや珍しく、積極的に人里の外に出ているようだ。きっかけであった私達のコンサートもそうだけれど、何だかんだ遠出が好きらしい。私はあまりそういうタイプではないが、彼の為ならば何処にでもついて行こうと思う。
……月……日
今日彼は釣りに行った。腕が良いのか、あるいは運が良かったのか。傍から見る限りは大量であったようだった。陰から見ているだけだけれど、彼と一緒に一喜一憂をすると、何やら私も彼の隣で釣りをしているように感じられた。これはおかしなことなのだろうか? 何とも不可思議な気分を、私は覚えている。
……月……日
今日、彼は森の入り口の辺りで山菜を採っていた。この手のことに知識があるようで、山菜を取る手に迷いや不安は見受けられなかった。ただ、やはり森の入り口ということで他の人間に既に取られているのか、あまり山菜を見つけられないようであった。だからと、つい木の葉や草花を揺らすなどをして、山菜がありそうな場所へと彼を誘導してしまった。最初は彼もいぶかしんでいたようだったけれど、最終的には首を傾げながらも、私の事を信じてついてきてくれた。そのことが、非常に嬉しかった。
……月……日
最近、本当に不思議な感覚に陥る事がある。彼の事を木陰から、空から、陰に日向に見ていると、何と言うか、彼の隣にいるような気がしてくるのだ。離れて見つめているのではなく、すぐ隣で彼を見ているような、そんな奇妙な錯覚だ。おかしい、と自分でも思っているのだけれど、その感覚が収まることがない。いや、それどころか、そちらのほうが正しいような気がしてくる。私はどうなってしまったのだろうか? これが恋、ということなのだとしたら、一体私は…………
……月……日
今日、彼は人里の外をふらふらとしていた。目的はよく分からなかった。散歩、にしては物騒な道選びだったと思うけれど、まあ何でもいいと思う。重要なのは彼がいて、そして私がいることなのだから。それが分かっていたら、十分だろうと思う。
……月……日
今日、彼は永遠亭まで薬を取りに行った。何でも知人に風邪薬を取りに行ってほしいと頼まれたらしい。彼と一緒に竹林を歩いたが、相変わらず迷いそうになった。何でこんなところでやっているのか、やや疑問に思わないでもない。願わくば、彼がここのお世話になることがないように。
……月……日
今日、彼は博麗神社を参っていた。何か願い事でもあったのか、真剣な面持ちで祈りをささげていた。その隣で、私も願った。どうか、ずっとこの日々が続きますようにと。
……月……日
今日、彼は香霖堂を訪れていた。どうやら外の世界から持ってきた物を売りに行ったようであった。値段交渉か、あるいは世間話か。店内でやや長めの会話を店主と交わしていた。私はそういったことは 不慣れなので力にはなれなかったが、彼はそれなりに満足のいく取引を行えたようだったので、それで十分だと思う。今度来る時は買い物をしたいと思う。
……月……日
今日、彼はまた釣りに行った。釣りをするのは彼だけで私は隣で見ているだけだったが、それだけで十分楽しかった。こういう日常が続けば良いと思う。
……月……日
彼が事故に遭った。
……月……日
彼の意識が中々戻らない。永遠亭の医師だか薬師だかの言葉では頭を強く打った所為らしい。早く良くなって欲しい。それまでは、欠かさず見舞いを重ねるつもりだ。
……月……日
彼が起きない。
――月――日
未だ混乱しているが、日記を書くことで纏めたいと思う。どうやら、俺は事故に遭ったらしい。らしい、というのは、俺にはっきりとした記憶がないからだ。
それどころではなく、どうにもここ一年か二年ほどの記憶がはっきりとしない。俺からしてみれば普通に家で過ごしていたのに、気付いたら永遠亭の一室にいた、という状況だ。しかも、俺の記憶から二年ほどが経った状態で。何でも、事故の際に強く頭を打ったことによる記憶の混乱とのこと。これが一時的なものなのか、あるいは永続的なものなのか。それはまだ分からない。
まだ混乱は続いているが、早く寝ろと言われてしまった。とりあえず、今日はここで筆を置くことにする。
――月――日
驚きが追加された。何でも、俺には恋人がいたらしい。らしい、というのは俺の記憶にその覚えがないからだ。自分からしてみれば何とも信じがたい話だが、永遠亭のうさぎさんが、俺を何度となく見舞ったその彼女のことを話してくれた。しかし、容姿をいくら聞いてもピンとくるものがない。いくら記憶がないとはいえ、ここまで俺は薄情な人間だったのか。少々がっかりとこないこともない。
――月――日
今日、その彼女と名乗る人が来た。ルナサ、という名前だ。驚くべきことに、人間ではなく騒霊という種族だそうだ。そんな人と俺が恋人であった? どうにも、自分のことながら、あるいは自分だからか、中々信じがたい。顔を見てもピンと来るものがない、というのがさらにそれに輪をかけている気がする。
今思い出したが、確か彼女は音楽家だったはずだ。俺の主観で少し前に、人里の外で開かれた彼女らのコンサートを見に行った覚えがある。となると、その後に何かあって彼女と恋人になったのだろうか。どうにも、分からない。
――月――日
彼女からここ二年ほどにあった事をいくつか聞いた。あくまで彼女と会ったときのみであり、それはつまり人里の外に出た時の話だけだったのだけれど、話を聞く限り本当にあったことのように思える。リアリティというか、少なくとも話におかしな所は見つけられなかったし、ぼんやりとそんなことがあったような記憶はあった。相も変わらずはっきりと記憶があるわけではないので、断言が出来ないのが情けないところだけれど。
本当に、彼女は俺の恋人であったのだろうか。
――月――日
正直、どちらか分からなくなってきたというのが正直な所だ。彼女の話は確かに説得力がありとても嘘をついているようには見えない。それに俺にも、そんなことをしたような記憶はある。が、その記憶が問題だ。どうにも、その記憶の中では、俺はそこに一人で出かけていたような気がするのだ。その隣に彼女がいた、という気が正直あまりしない。だが、だとすると彼女の言葉は嘘ということになり、それはそれでおかしなことになる。どうなっているのだろうか?
――月――日
今日、俺は退院した。結局、はっきりとした記憶が戻る事もなく、俺は家に帰った。心配して様子を見に来てくれた友人たちに事情を話してみたところ、彼女に関しては正直分からないという返答があった。まあ、それもそうだろう。彼女の言葉が本当だとしたら俺達は里の外でしか会っていないのだから、友人たちが知っているはずがない。自分でも、わざわざ恋人が出来たなどということを言いふらすことはないと思うので、それはそれでいい。
結局、彼女は本当に俺の恋人なのだろうか。あれだけ真剣な彼女の態度を見てまだ疑うというのも心が苦しいが、どうしても納得が行かない点があるのも事実。これからどうすればいいのだろうか。
――月――日
今日、彼女の日記を少し見せてもらった。パッと見た限りではおかしな所はなかったし、俺の記憶を刺激するものもあった。何か違和感のある書きかたをしている気がしないでもないが、それが彼女の嘘につながるという風でもない。実際にその当時に書いたと思われる状態で、俺が意識を取り戻した前後に慌てて捏造したわけでもなさそうだ。ここまでくると、やはり彼女は俺の恋人だったのだろうか? そもそも、そんな嘘をついたところで何になるというわけでもないのも確か。疑心暗鬼もいい加減にして、彼女を信じてみれば良いのではないかとも思えてきた。
でも、やっぱり彼女が隣にいた気はしないんだよなあ……
はい、というわけでルナサ回でした。プリズムリバー三姉妹はいまいち私の中でのキャラが定まっていないということを再確認しちゃった回です。日記形式なのにいまいちそれっぽくないのもあるし、やっぱり難しいですね。
今回は妄想系といったところでしょうか。現実と妄想、願望の区別がつかなくなったタイプ。彼と恋人である事を妄想していたら、それがだんだん現実と取って代わったという風な。途中からまるで彼と一緒にいるように書いてありますが、始まりの部分が毎回第三者視点なのが現実を示していますね。このままだと多分凄くまずいことになったのでしょうけれど、その前に彼が記憶を失ったのが良かったのか悪かったのか、と言ったところでしょうか。
ルナサの妄想との混同も、本編だと結構強引に変わっていますが、本当はその過程もちょっと書いていました。ただ、その時の書き方だと冗長っぽいし何か変だったからばっさりカット。それと元々の予定ではリリカの視点で書くとか、彼にも恋人がいたけれど事故の際に死んじゃって代わりにルナサがそこに収まるとか考えていたんですけど、まあ止めました。後者に関しては、流石にそれはと思ったのもあります。結局、この話は彼にとってどんな話になったのでしょうね。
さて、次回。例の如くこの時点ではまだ思いついていないので、適当に何か案が出てきたら書こうと思います。まあ、気長にお待ちくださいと。ではまた。