IS~宿命の砲火~『出来損ないと呼ばれしドイツの帝王』(更新停止中)   作:弐式水戦

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第三十六話~もう、手遅れなんや!~

「テメエ……………今更何しに来やがった。少なくともテメエを二次会に呼んだ覚えはねえぞ」

ドアを開け、ノックした人物を視界に捉えた瞬間、ペパロニの機嫌は急降下した。

ドアをノックした人物がセシリアだったからだ。

 

彼女が狂夜に好き勝手に言う場面を間近で見ていたペパロニにとって、『セシリアが部屋の前に姿を現した』=『また何かしら言いに来た』という解釈になっているだろう。

腕を組み、殺気を撒き散らしながら睨み付けるペパロニが恐いのか、セシリアは顔を合わせようとしない。それは、ペパロニの怒りのボルテージをさらに上昇させるだけだった。

 

「何だ、用も無しに来やがったのかよ……………ならさっさと消え失せやがれ。テメエ見てるだけで吐き気がするぜ」

 

そう吐き捨て、ペパロニはドアを乱暴に閉めようとする。

 

「ま、待ってください。あの、狂夜さんは居ますか?」

「あ?当たり前だろうが、此処兄貴の部屋だし(つーか、何馴れ馴れしく名前で呼んでやがんだよ、この金髪クソアマが……………)」

 

ペパロニは忌々しげに答え、チラリと部屋の方へと振り返った。

 

其所では、未だに狂夜争奪戦を繰り広げている、桜花、氷華、葛城にタジタジしつつ、アンチョビに助けを求めている狂夜と、それを見て笑っているアンチョビが居る。

 

本来なら、ペパロニもあの輪に入って悪ふざけをしているのだが、こんな相手に時間を取られるのかと、苛つきを表すかのように、右足の先を、地面に何度も打ち付け、コツコツと音を立てていた。

 

「んで?何しに来たんだって質問してんだが、さっさと答えろや。二次会の邪魔されてイラついてンだよ」

 

そうぶっきらぼうに言うと、セシリアはポツリポツリと口を開いた。

 

「あ、あの…………………狂夜さんに今までの無礼をお詫びしたく「はあ?ふざけてんのかテメエ?ダメに決まってんだろうが」な、何故ですの?」

 

最後まで聞くことなく答えたペパロニにビクつきながら、セシリアは理由を聞いた。

 

「当たり前だろうが、あんなこと言いまくって、許されるとでも思ってんのか?イギリスの貴族様は随分と身勝手な思考の持ち主なんだなァ……………」

 

そう言って、ペパロニは一際強く、足を床に打ち付けた。ザッ!と、ペパロニが履いている靴と廊下の床が擦れる音が鳴り、セシリアはペパロニの怒り具合に怯む。

普段のペパロニは非常に陽気で、何時も狂夜やアンチョビと一緒に行動し、時折狂夜をからかっては笑い、狂夜に突っ込まれたり、報復されたりしているのを何度か目にしたため、ペパロニが激怒して、自分の胸ぐらを掴み上げた事を、セシリアはすっかり忘れていたのだ。

 

現に今、目の前に居るペパロニには何時もの陽気な雰囲気はない。本気ではないとは言え、かなり不機嫌だ。

そのためセシリアは、なるべく早く用件を済ませようとした。

 

「で、ですから、以前の事について謝ろうと……………「コラ、ペパロニ。何客を外で立たせたままなんだ?」

 

「あ、アンチョビ姐さん」

 

部屋のベッドからペパロニに声を掛けたのは、いつの間にか持ち出していた漫画を読んでいるアンチョビだった。

アンチョビは溜め息をつき、漫画を閉じると出てきた。

 

「客人なら早く部屋に入れてやらん…………………か………………」

 

ヤレヤレと首を振りながら歩いてきたアンチョビは、『客人』の正体を見て凍りついたが、直ぐに目付きが鋭いものとなり、セシリアを睨み付けた。

 

「貴様、何しに来た?また狂夜に嫌味を言いに来たのか?」

「んにゃ?何か謝りに来たんだとさ」

「ほう?今更謝罪か………………」

 

ペパロニに、セシリアが訪ねてきた訳を聞いたアンチョビは、まるで獲物をいたぶるような目をして、セシリアを見つめた。

 

「あ………………アンチョビさん?」

「オイ、このクソ女。兄貴だけならず、アンチョビ姐さんにまで馴れ馴れしくその名で呼ぶんか?厚かましい」

 

そう言って、ペパロニが殺気混じりの目で睨み付ける。

アンチョビはそれを手で制し、嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「謝らせてやっても良いんじゃないのか?」

「え、姐さん?」

 

まさか、アンチョビがそんな返事を返すなんて到底思えなかったのか、ペパロニは唖然とした顔で声を発した。

 

「今から狂夜を呼んでくるから待ってろ。ペパロニ、行くぞ」

「りょ、りょーかい」

 

そうしてペパロニは、アンチョビに続いた。

 

 

 

 

 

「アンチョビ姐さん、いきなりどうしたんです?」

「いや、そろそろ選手交替の時間だと思ってな……………………そうだろう?狂夜」

 

そうアンチョビが言うと、先程まで繰り広げられていた狂夜争奪戦から何とか抜け出した狂夜が居た。

 

「そういうこった、ペパロニ。悪いがこの後は、全部俺に譲ってもらうぜ」

「まあ、兄貴がそう言うなら良いけど………………んで、許すのか?あの女」

 

そう問いかけたペパロニに狂夜は首を横に振った。

 

「いや、オルコットは俺が許す気になる期限を過ぎて謝りに来た。よって、既に手遅れってこった」

 

そう言って、狂夜はドアの方へと向かった。

 

 

 

 

 

「待たせて悪かったな、オルコット」

 

そう言って出てきた狂夜に、セシリアは許してもらえると思ったのか、表情を明るくして、気にするなと首を振った。

 

「アンチョビから話は聞いたよ。俺に謝りに来たんだってな」

「ええ、あの時の私は、その…………………」

「女尊男卑に染まり、さらに自分の力を過信しすぎていたってか?」

「え、ええ………………」

 

ふーんとだけ言って、狂夜は暫く口を閉ざしていたが、やがて、セシリアにとっては死刑宣告とも言えることを口にした。

 

「態々こんな所にまでご苦労なこった、無駄なことなのに」

「ど、どういうことですの?無駄とは」

 

そう聞いてくるセシリアに、狂夜は溜め息混じりに言った。

 

「お前、覚えてねえのか?お前にキレた時、俺が言った事を」

 

そう狂夜が言うと、セシリアは首を捻るように考えたが、如何せん思い出せない。それを見た狂夜は、またしても溜め息をついた。

 

「もう良い、何も覚えてねえならな。それに、お前が来たのは、女尊男卑思考が抜けたから、謝りに来たってんだろ?」

「………………」

「はっきり言ってやるよ……………………ふざけるな」

「ッ!?」

 

急に目付きがガラリと変わり、ペパロニのように鋭い目を向け、狂夜は言った。

 

「謝りに来るのが、いや、そもそも改心するのが遅すぎんだよ。それにお前は、あの模擬戦で言ったよな?『訓練機ごときが専用機に勝てる訳がない』と、あの態度で、俺がお前を許さねえのは確定していたんだよ。男にしろ訓練機にしろ、お前から『人を見下した態度』が抜けた訳じゃねえんだからな」

「そんな……………」

 

そうしてセシリアは、ヘナヘナと廊下に座り込んでしまった。

 

「手遅れなんだよ、手遅れ。男を見下さなくなったから、少しはマシになってくれたかと思ったら、今度は訓練機を見下し始めたんだ。どちらにせよ、お前は誰かを見下した態度を取っていたんだよ。ただ、代表候補生で、イギリスの貴族だからというだけでな。肩書きをバックに威張り散らしてただけなんだよ、お前は」

 

そう吐き捨て、狂夜は部屋に戻ろうと、セシリアに背を向けた。

 

「もう二度と、俺に関わるな。お前は、俺が嫌いな奴と重なりまくるんだよ」

 

そう言って、狂夜は部屋に戻っていった。

もうどうしようもないと思ったセシリアは、自分の部屋に戻ろうとしたが、それを呼び止める者が居た。

 

 

 

「待ちなさいよ、セシリア・オルコット」

 

振り向くと、其所には腕を組んで立っている葛城の姿があった。

 

「あ、貴女は?」

「葛城。貴女がバカにした、訓練機のうちの1機、打鉄のコア人格よ」

 

その言葉に、セシリアは驚愕の表情を浮かべた。ただでさえISのコア人格に出会った者等、未だかつて、誰一人として存在していないというのに、それを、訓練機が成し遂げていたのだ。誰であれ驚くだろう。

 

「貴女に言いたい事があって来たの……………………無様ね」

「ッ!」

 

冷徹な瞳で睨まれ、さらに吐き捨てられた、『無様』という漢字二文字の単語は、セシリアの心を抉った。

 

「貴女だって、訓練機を使用していた時期はあった筈よ。機体は何であれ、訓練機を使用していなければ、貴女はただ、適性だけで専用機を得ただけの成り上がりにしかならない。なのに、専用機を得た貴女は、訓練機への恩恵を忘れ、見下してきた。まあ、それは他の代表候補生にも言えることだけどね」

 

葛城の言うことに、セシリアが反論する余地は、最早無いも同然だった。

 

「散々バカにしてきた訓練機を操る、貴女が見下していた男に、代表候補生ともあろう貴女が、男を見下していた貴女が、あっさりと負けてしまったわねえ?そのお味は如何?恩恵を忘れ、見下してきた訓練機のコア人格に好き放題言われ、今どんな気持ち?少なくとも、見下されてきた気持ちぐらいは分かったかしら?」

「……………………」

 

何も言えず、ただ沈黙を貫くだけのセシリアに、葛城は飽きたように溜め息をつき、言った。

 

「黙り、ね………………まあ、良いわ。さて、私は部屋に戻るけど、1つだけ言っておくわ……………もう二度と、狂夜に関わらないで」

 

そう言って、葛城も部屋に戻っていった。

それから直ぐ、ペパロニとアンチョビが、二人の部屋に戻ろうとしている最中、涙を拭いながら歩き出そうとしているセシリアを追い抜いていった。

だが、それに二人が声を掛けることは、決してなかった。

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