IS~宿命の砲火~『出来損ないと呼ばれしドイツの帝王』(更新停止中) 作:弐式水戦
「八雲重工、か……………確か、男性でもISを扱えるようにするメカニズムを研究してる企業、だったか?」
「ええ、大体合ってます」
八雲重工は、今のご時世の男からすれば『救世主』のような存在だ。なんせ、今のご時世、ISが女にしか扱えないということから、『女性=強くて偉い』、『男性へどんなに勝手なことをしても許される』、『男は格下だ』等と言う、女性が男性に何をしても許される、所謂女尊男卑の風潮により、男は常に、形見の狭い生活を強いられている。
町を歩いている最中、運が悪ければ、見ず知らずの女に荷物持ちや、代金の肩代わりを要求され、断れば冤罪を掛けられて社会的立場を滅茶苦茶にされる。
そんな生活が何時まで続くのかと思っていた時、現れたのが八雲重工だ。
『女尊男卑思考の緩和』を目的として発足したこの企業は、最初のうちは誰にも見向きされなかった。
今まで、そのような文句を掲げて、ISに対抗しうる兵器が開発されては、試験稼働としてIS学園に運ばれて模擬戦し、無惨な敗北を飾るという結果になるのが日常茶飯事の事。だが、八雲重工で1機だけ、男性でも扱えるISが開発された時には、世界中が沸き上がった。
それから、八雲重工が今や、良くも悪くも全世界からの注目の的になっているのだ。
「それで、その社長さんが、私のような一教師に何の用だ?まさか、コイツを引き渡せ等と言うつもりではあるまいな?」
千里が睨むと、紫は首を横に振る。
「まさか、そんなことをする度胸、私にはありませんわ。それに、恩人にそんなこと出来ませんもの」
「恩人?」
千里は首を傾げた。狂夜はこの連休以外、ほぼ全く学園の外には出ていない。そのため、彼女との接点は皆無な筈。ならばどういうことだと、首を捻っていた。
その様子を見かねたのか、紫が口を開いた。
「先日のクラス対抗戦での無人機襲撃事件の事です。あの時彼が居なかったら、慧音含む、私の企業のパイロットが死んでいたかもしれませんから、彼は彼女らの、命の恩人なのですよ」
そう言われ、千里は納得したような声を出した。
自分も狂夜に命を救われた身、それについては激しく同意できる。
紫の言うことに納得していると、紫がニヤニヤしながら話し掛けてきた。
「ところで、貴女は狂夜君の事が好きなのですか?」
「ん?何故いきなり、そんなことを?」
そう聞いてくる千里に、紫は千里の顔を指差して言った。
「だって、狂夜君を膝枕してる貴女、とても幸せそうにしているんですもの。まるで、好きな人に膝枕してるようにね。それに、私が現れた時、貴女、狂夜君を抱きしめていたのよ?今も尚、ね?」
そう言われ、千里は目線を狂夜へと移す。
狂夜は紫が言った通り、千里の胸に抱かれていた。強めに抱かれているが、一行に目を冷ます気配がないのが、今の千里からすれば救いだった。
暫く狂夜を見ると、千里は言った。
「ああ、好きだ。勿論一人の男としてな」
「あら、慌てたりしないのね?少し残念だわ」
からかうつもりだったのか、紫は残念そうな笑みを浮かべたが、千里はどこ吹く風と言わんばかりの表情をして、一層強く、狂夜を抱きしめる。
「せめて、教師と生徒のケジメくらいはつけたらどうなの?」
「知らん、それ以前に一人の男と一人の女だ、教師など、ただの肩書きにすぎん」
「それで良いのかしら……………まあ、そちらがそれで良いって言うなら、まあ良いわ」
そう言って、紫は立ち上がる。
「さて、ちょっと用事を思い出したから、私は帰るわ」
紫はそう言って歩き出したが、何かを思い出したのか、また千里の傍に戻ってきた。
「どうした?」
「いえ、貴女に言い忘れていたことがあるの」
「言い忘れていたこと?それは何だ?」
そう千里が言うと、紫はニヤニヤしながら言った。
「狂夜君に好意を抱いているのは、貴女だけではないわ。現に、私の企業のパイロット数名が、彼に惚れているもの。競争率が高いわよ?」
「のぞむところだ、相手が生徒だろうと関係ない。真っ向から向かっていくだけだ」
そう言うと、紫は満足げに頷き、茂みの中へと入っていった。
「さて、もう暫くの間、この感触を楽しませてもらうとしよう」
そう千里は呟き、狂夜の額にキスをした後、狂夜が目覚めるまでずっと抱きしめていた。
「ん…………ふわぁ~あ……………」
あーよく寝た、膝枕スゲー気持ちよかったから長々と寝ちまいましたよ。
さて、今何時かな………………
そう思ってスマホを見ようと、先ず頭を上げようとした時だった。
--ふにょんっ
「んあっ……………」
「ん?」
あれ?何故か顔に柔らかい感触が………………って、ファッ?
なんで俺の顔が長谷川先生の胸に当たってんだ?
「あの………………長谷川先生?」
「んっ…………………ああ、黄昏か。どうした?」
顔を赤くしながら聞いてくる長谷川先生に、俺は寝起きなのも忘れて問い詰めた。
「いや、『どうした?』じゃないですよ!何してるんスか!?」
今の俺の状況を簡単に説明すると、まあ………………アレだ。
一言で言い表すと、『抱きしめられている』と言ったところだな。
俺がアタフタしながら言うと、長谷川先生は首を傾げながら言った。
「私がお前を抱きしめているだけだが………………それがどうかしたか?」
「……………」
え、何?その、『お前は何を言ってるんだ?』みたいな顔での答え方は?さも、これが当然と言った感じで言われても困るんですけど………………
「と、取り敢えず……………時間を見たいから一旦離してくれませんかね?」
「いや、私が代わりに見よう。だから暫く、私に抱かれていろ」
いやいや、なんでそうなるの!?と言うか良いのかよ!?学園の外だが、一応関係上での俺達は、教師と生徒だぜ!?流石にマズイだろ!
俺は反論しようとするが、口を動かす前に、俺が何かしら言おうとして居るのを察したのか、さっきより一層強く抱きしめられる。そうすると、必然的に俺の顔が長谷川先生の胸に埋まる形となり、口を塞がれてしまった。
そうこうしてるうちにも、長谷川先生は片手で俺の後頭部を押さえつけながら、もう片方の腕についてある腕時計を見る。
「午後6時42分だ」
何か微妙な数値だなぁオイ。ってか、もうそんな時間かよ!?もう帰らなきゃならん時間帯だぞその時刻は!
「全く、もう少しこうしていたかったのにな……………時間を止められたら良いのに…………」
そう残念そうに言うと、漸く長谷川先生は、俺を離してくれた。てか、時間止められたら困るんだけどね……………どの世界でもそうだが、時間が流れてナンボだし。
「取り敢えず……………帰りましょうか」
「ああ」
そうして、俺達は学園へと帰った。帰宅途中、俺はずっと、長谷川先生に抱きつかれていた。
ゴールドウィングのリアシートには、両サイドに取っ手がついており、態々運転手に抱きつく必要はないのだが、長谷川先生は、両サイドについてある取っ手を無視し、俺に抱きついてきた。
行く時も言ったのだが…………………もう知らん、どうにでもなりやがれだ!
俺はその一心で、我が愛車を走らせた。
そうして、俺達は学園に到着した。入学前、山田先生と酷似した女の子を送り届けたゲートから入り、寮の前まではバイクを押して移動する。
そして寮の前に着くと、長谷川先生が話し掛けてきた。
「今日はありがとうな、黄昏」
「いえいえ、別に構いませんよ。では、また明日」
俺はそう言って、ゴールドウィングを待機形態であるヘッドフォンへとしまい、寮に入ろうとするが、長谷川先生に呼び止められた。
「どうかしましたか?」
そう聞くと、少し顔を赤くしながら、長谷川先生は聞いてきた。
「いや何、今日のデートの感想を聞こうと思ってな………………どうだった?」
そう言われ、俺は暫く考えた後に言った。
「まあ、かなり楽しかったですよ?膝枕とか、何かデートらしかったし」
「そうか………………それを聞けて安心したよ。では、また明日な」
「はい」
そうして、俺は我が部屋へと瞬間移動で転移し、またしても、ペパロニやアンチョビと女子会をしていた我が相棒達に、何をしていたのかを根掘り葉掘り聞かれましたとです。