IS~宿命の砲火~『出来損ないと呼ばれしドイツの帝王』(更新停止中)   作:弐式水戦

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第五十七話~皆、俺の大事な人だと思っていますからね~

「た、黄昏君………なのか?」

 

まるで、悪戯が見つかった子供と言うか、知られたくないことを知られた人みたいに目を見開き、上白沢先生は、彼女自身の前に居るのが黄昏狂夜であるのかを尋ねてきた。

 

「あ、はい。そうです…………よ…………」

 

俺はこの状況でどうすれば良いのか分からず、ただ目の前に居る、姿が変わった上白沢先生をモロに視界に捉えている状態で、表情をひくつかせながら後退りをしていた。

いくら前世で『ドイツの帝王』と呼ばれていた俺でも、いきなり人が妖怪になりかけている様子を間近に見れば、そりゃ後退りぐらいするわさ。

 

俺が少しずつ離れていってるのに気づいたのか、上白沢先生はゆっくりと、俺に近づこうとする。

俺が1歩下がれば、上白沢先生は1歩近づいてくる。

 

今、この場で瞬間移動を使い、寮の部屋に逃げ帰ってしまうのは簡単だ。だが、今の俺には、それをするだけの余裕がなかった。

ただ、近づいてくる上白沢先生から後退りするだけだった。

 

「ま、待ってくれ黄昏君。これには、その……………訳があるんだ」

「あ、いや、分かりますよ?訳があるのは分かるんですが、ね?」

 

そうして後退りしていくうちに、俺の背中に何かが当たるような感じがした。

後ろを向くと、其所には自販機の隣にある倉庫みたいな建物のドアがあった。ヤベエ、逃げ道がねえ。

 

そうこうしてるうちに、上白沢先生が目の前に迫っていた。

 

「は、話を聞いてくれ、黄昏君!こんな姿にはなったが、私は君に、何も危害は加えない!」

「いや、そう言われましても……………」

 

両腕を広げ、何もしないと言いながら近づいてくる上白沢先生の表情は、今の俺以上に怯えたものだった。

それ程、誰にも知られたくなかった事実。『満月の夜、どういう訳か姿が変わってしまう』という事実。それを教え子の一人に見られたのだ。気味悪がられると思っているのだろう。

いや、実際の俺は気味悪がってると言うより、戸惑ってると言った方が適切だが。

 

そうしてると、もう上白沢先生は、俺の真ん前に来ていた。

俺は一旦目を瞑り、状況を整理しようとした。

 

 

取り敢えずは落ち着け。落ち着くんだ黄昏狂夜、否、フェルディナンド・ポルシェ。

先ずは状況を整理しよう。

 

Q、先ず、今回の出来事は?

A、上白沢先生が、まるで妖怪になり損ねた人間のようになった。

 

オッケー、では次

 

Q、今の状況は?

A、上白沢先生から後退りで逃げようとしたら、いつのまにか倉庫みたいな建物のドアの前に来ていた。しかも上白沢先生が真ん前に居るので、現在は瞬間移動以外の逃走手段はない。

はいオッケーです!整理終了!

 

 

なんてしてるうちに、俺は知らん間に落ち着いていた。

先程のような、『怖いものから逃げたい』という動物的本能が働いていない。

今の俺となっては、『きっと殺られたりはしないだろうし、殺られたら殺られたで、俺の第2の人生は其処で終わりだな』なんて楽観的な考え方まで出来るようになっている。

 

よし、この調子なら、目を開けられるだろう。

 

そう思った俺は、ゆっくり目を開けた。そして、視界に捉えた上白沢先生は……………

 

 

泣いていた。

 

 

 

しゃがみ込んではいないが、表情はすっかり怯え、目尻に大粒の涙を浮かべている。頬を伝う涙の筋を、直ぐ横にある自販機の光が照らしている。

 

それを見た俺は、再び混乱してしまった。まさか、これで泣き出すとは思わなかったのだ。

いきなり過ぎる事にどうすれば良いのか分からず、取り敢えず俺は、先生を抱きしめていた。

そうした瞬間、上白沢先生はビクリと体を震わせた。

 

まあ、俺が何をするつもりなのか分からない以上、そんな反応もされるだろうな。それに、あんだけ怯えてたら尚更か。

そう思いながら、俺は上白沢先生の頭に手を乗せ、優しく撫でた。長谷川先生に時折やられていたので、相手を安心させられるような撫で方は身に染み付いている。

 

そうして撫でていると、次第に先生の体の震えが収まってくる。震えがある程度収まった辺りで、俺は一旦離れようとしたが、上白沢先生が背中に腕を回し、離れようとしない。

余程怖かったんだろうな。自分の知られたくない姿を、よりにもよって教え子に見られるなんて事が。

 

「……………仕方無い、か」

 

俺はそう呟き、上白沢先生を強く抱き返した。それから暫く頭を撫でた後、瞬間移動で俺の部屋へと転移した。

流石にこんな状態を誰かに見られたらマズイからな。

 

 

 

 

 

 

「さあ、着きましたよ先生」

 

寮の部屋に転移してきた俺は、未だに抱きついている上白沢先生に言った。

ベッドに先生を座らせ、その横に俺も腰掛ける。

 

「…………」

「…………」

 

それから暫くの沈黙。

気まずいでゲス………………

 

だが、だからと言って、何か気の利いたことを言えるのかと聞かれると、そうとも言えない。

まあ、前世でイワンと人外染みた喧嘩してたとしても、少なくとも俺達は、人間の形をしたままだった。それが転生してみたらどうだ?満月の夜、どういう訳か妖怪みたいな姿に変身してしまう担任とくるではないか。

こんなの前世含めて60年ぐらい生きてきた俺でも前代未聞だぜ。

 

さて、何を言うべきなのだろうか………………

 

「………………いか?」

「はい?」

 

今、この状況で何を言うべきなのかで、もう時刻が0時になりそうなのも構わず頭をフル回転させていると、上白沢先生の消えそうな声が聞こえた。

 

「私が……………怖いか?」

 

怯えた表情で、上白沢先生はそう聞いてくる。

 

「………………」

 

少しの沈黙の後、俺は口を開いた。

 

「まあ、驚きはしましたよ。まさか、先生の姿が変わるなんて、思いもしませんでしたからね」

「そうか……………」

 

俺の返答に、先生は顔を俯ける。

 

「取り敢えず先生、アレは一体何だったんですか?」

 

俺がそう聞くと、上白沢先生がますます下を向く。それからまた、暫くの静寂が部屋を包む。その静寂の居心地の悪さで、俺の頭がおかしくなりつつある状態で、上白沢先生は話そうと、口を開こうとする。だが、その口は、思わぬ人物の登場により、驚愕の声を上げるだけとなった。

 

「じ、実は私は―――「慧音、その話については私が代わりに話すわ」ゆ、紫!?いつの間に!?」

 

上白沢先生が俺の方を向いて驚愕の声を上げる。誰も居ない筈なのに、何言ってんだろうな?

そう思いながら、顔を上白沢先生とは逆向きに向けると、ベッドに腰掛けている金髪の女性が視界に映った。

 

腰辺りまで伸ばされたロングヘアに、西洋風のドレスを着て、さらにナイトキャップを被っている、20歳辺りに見える美女だった。

まあ、取り敢えず……………………

 

「どちら様ですか?」

 

これ聞かなきゃ話が始まらんよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、八雲重工の………………」

「そうよ、狂夜君。私が八雲重工社長の、八雲 紫(やくも ゆかり)よ。よろしくね」

 

そう言って、八雲紫社長は微笑む。

つーか、マジでなんということだろうか!上白沢先生が唯の人間ではないと分かった次は、八雲重工の社長さんと会ってしまった!今日は本当に、なんて日だよ。

 

「紫、なんで此処に……………?」

「今日の月は満月でしょう?去年までなら会社の中だったから平気だったけど、今年度からはは学園に居るのだから、心配になったのよ」

 

どうやら、彼女は先生の事をよく知ってるみたいだ。まあ、それもそうか。何時聞いたかは忘れたが、上白沢先生も美鈴や早苗、鈴仙と同じように、八雲重工のパイロットの一人、そして八雲 紫という、八雲重工社長。互いに知ってて当たり前だな。

 

「何時かは、誰かにバレる日が来るとは予想していたけど、思いの外タイミングが早かったわね………………計算外だわ、にとりにその辺りを話しておかないと……………」

 

そう呟く社長さんを見ながら、俺はおずおずと手を挙げた。

 

「あの、社長さん」

「ん?どうしたの?」

 

流石にコレを尋ねるのは些か憚られるが、念のために聞いておこう。

 

「いつの間にか俺の横に居た事とか、上白沢先生のあの姿とかありますが……………八雲重工の方々は、一体何者なんですか?」

 

そう尋ねると、社長さんは少し真剣な表情を浮かべて話を始めた。

 

「実は、私達八雲重工のメンバーはね………………………………………

 

 

 

 

…………………皆が私が造った、この世界とは隔離された別の世界、幻想郷からやって来た妖怪、若しくは普通の人間ではない人間なのよ」

「…………………はい?」

 

 

 

 

社長さん(名前で呼べと言われたので、以後は紫さん)が言うにはこうだ。

 

先ず、上白沢先生は、ハクタクという妖怪と人間のハーフ的存在、所謂、半人半獣(ワーハクタク)と呼ばれる種なんだそうだ。そして満月の夜になると、あの姿になるらしい。

本来なら、あの姿になるとかなり攻撃的になるらしいが、その辺りは、先生が何とかして抑えているんだとか。

 

それに紫さんは、美鈴や早苗、鈴仙や魂魄さん、八意先生の事について話してくれた。

 

先ず美鈴だが、取り敢えず妖怪なんだと。幻想郷とやらに建つ紅色の館、紅魔館で門番をしているらしい。

早苗は、守矢神社という神社の巫女で、元々は此方側の世界に住んでいたのだが、ちょっとした事情から、幻想郷に移り住んだんだとか。

人種の基本的ベースは人間だが、神に匹敵する力を持つ存在、現人神(あらひとがみ)なんだとか。

それから、魂魄さんは半人半霊、鈴仙は月の兎、八意先生は、竹取り物語で有名なかぐやひめ、蓬莱山 輝夜(ほうらいさん かぐや)の付き人的存在で、古代から生きていた不老不死の薬師なんだとさ。因みに、蓬莱山さんも不老不死で、はたまた彼女のライバル(?)である蓬莱人、藤原 妹紅(ふじわらの もこう)さんも、同じく不老不死なんだそうだ。

それに、この前取材を次の機会に回してもらった、射命丸さんは、なんと天狗なんだとか。

んで、紫さんはスキマ妖怪だとさ。

「な、何か凄いッスね………………八雲重工のメンバーって……………」

「そう?私としては、圧倒的な力で美鈴や早苗を一人で倒し、さらにISの攻撃を生身で受け止め、おまけにそのままISを破壊する貴方の方が凄いと思うわよ?」

「は、はあ……………それはですねぇ………………」

 

紫さんの反論に、俺が反応に困っていると、それを無視して紫さんが話を戻した。

 

「さて、話が逸れてしまったわね。そろそろ話を戻しましょうか……………」

 

そう紫さんが言うと、俺も真剣な顔になる。

 

「では狂夜君、正直に答えて。貴方は慧音や美鈴達が普通の人間ではないと言うことを、この学園に通う一般生徒の中で唯一の存在となった訳だけど……………どう思う?」

「…………………と、言いますと?」

 

そう尋ねると、紫さんは質問を変えるわと言って質問してきた。

 

「貴方は、八雲重工メンバーの、貴方や他の生徒には隠していた事を知ったわ。それを知ってどう思っているのか、これから、慧音達とどう関わっていくつもりなのか、答えてほしいの」

 

そう言って、紫さんは真剣な眼差しを向けてきた。初めて見た時、何処と無く感じた胡散臭さは消え、八雲重工社長としての顔になっていた。

俺は暫く考え、頭の中を整理した後、ゆっくりと口を開いた。

 

「上白沢先生達の正体を知った訳ですが、別に恐怖等は感じていません」

 

そう言うと、紫さんは一瞬、驚いたような表情を浮かべ、目を丸くしたが、直ぐに表情を戻す。それを見て直ぐ、俺も言葉を続けた。

 

「皆さん八雲重工のメンバーの正体を知った時には少し驚きましたが、関わり方を変えるつもりはありません。上白沢先生が半人半獣だろうが、美鈴が妖怪だろうが早苗が現人神だろうが関係ありませんよ。今まで通り、上白沢先生は上白沢先生、美鈴は美鈴、早苗は早苗と言った感じで接していきます。皆、俺の大事な人だと思っていますからね」

 

俺はそう言い終え、口を閉じる。紫さんは暫く此方を見つめていたが、少し目を閉じ、ゆっくりと開いた。その目は、俺を見ていた時のように、嘘か本当かを確かめるような目とは違い、優しそうな目だった。

 

「嬉しい事を言ってくれるわね。こんな人間とは、多分初めて会ったと思うわ」

 

そう言うと、紫さんはベッドから立ち上がり、俺の目の前に移動すると方膝をつき、俺の頬に両手を添えて言った。

 

「約束して。どうかその思いを、ずっと貫くことを。それから、もし慧音みたいに、あの子達が苦悩していたら、力になってあげて」

 

そう言われ、俺は少し目を閉じ、決意を固め、目を見開いて言った。

 

「勿論ですよ、紫さん」

 

 

 

 

 

 

「さて、では私は、慧音を部屋に送ってから帰るわ。今日はありがとうね」

「いえいえ、お気を付けて」

 

そう言って送り出そうとすると、上白沢先生が近寄ってくる。そして、俺を少し抱き締めてから言った。

 

「君は、今までで最高の生徒だよ……………ありがとう」

 

そうして、顔を赤くしながら、『お礼だ』と言って俺の頬にキスをして、先生方は帰っていった。

 

「転生した先は、分からない事が多すぎますなあ」

 

俺はそう呟き、部屋の窓を開ける。気が付けば、もう日が昇ってこようとしている時間帯だ。

まあ、今日ぐらいは寝なくても良いや。

 

俺はそう思い、窓に腰掛け、前世で煙草代わりに銃弾を使ってやった、煙草を吸う真似をする。

そして吹き出された息は、俺の目に見えぬまま、明け方の近い空へと昇っていく。

その光景を見ながら、俺は呟いた。

 

 

「俺にも何時かは、皆に話さなきゃならない時が来るんだよな………………

 

 

 

 

…………………俺が、転生者だということを」

 

そう呟いた後、俺は溜め息をついた。はたして皆は、受け入れてくれるだろうか?否、受け入れてくれると信じたい。

 

そんな思いが混ざった溜め息は、天へと昇っていった。

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