IS~宿命の砲火~『出来損ないと呼ばれしドイツの帝王』(更新停止中) 作:弐式水戦
さてさて、国や八雲重工からの勧誘を終えた俺達は、最後の話し合いを始めようとしていた。
俺が真ん中に座り、俺を挟む形で上白沢先生と山田先生が座る。そして、俺の前にデュノアが座り、その両隣に織斑ツインズが座った。
部屋の窓から見える外の様子からして、もう夜だな。あー、学食行きてえ~。
「さて、一応聞いておくが、何故お前達がこの場に呼ばれたのか、分かるな?」
そう思っていると、上白沢先生が話を切り出した。
「は、ハイ」
どういう訳か、少し目付きが鋭くなっている上白沢先生の気迫に押されたのか、デュノアが少し怯えながら返事をする。
「では先ず、明日、デュノア社社長、パトリック・デュノア氏と、お前の性別を偽った転入を裏で手引きした者達への訴訟に乗り出す」
「なっ!?」
「ど、どういう事ですか!?」
上白沢先生の口から放たれた言葉に、デュノアと織斑兄が反応する。織斑弟も、信じられないとばかりの表情を浮かべている。
「お前の性別を偽った転入を、裏で手引きした者達の動機が明かされた。行動を起こすのは、ついさっきも言ったように明日だ」
「ま、待ってください!!シャルルは悪くありません!!」
「織斑兄、お前は何を言っている?専用機のデータを盗む等、犯罪行為以外の何物でもないぞ。それに、ウチの企業の事を聞き出させる等、ふざけてるにも程がある」
「で、でもそれは、シャルルに命令した奴等のせいではありませんか!何故シャルルにまでそんな扱いをするんですか!?」
今度は織斑弟が喚き出した。
「確かに、お前の言う事も一理ある」
「で、でしたら!」
「だが、それなら何故、教師に洗いざらい話してくれなかった?何故そのような、人の人生に関わるような事を大人に相談しない?一歩でも間違えれば、その人の人生を滅茶苦茶にするどころか、最悪、その人の人生がその場で終わる可能性だってあり得るのだぞ?」
「そ、それは…………」
上白沢先生のごもっともな質問に、織斑弟は口を閉ざしてしまった。まあ、完全に正論だからそうなるわな。
「それに織斑弟、お前はさっき、『デュノアは悪くない。悪いのは命令した連中だ』と言ったな?」
「は、はい…………」
「はっきり教えてやろう。その考えは間違っている」
「ど、どういう事ですか!?」
「デュノアはそれについて、対処したのか?お前達の様子からすると、していないように見えるが?」
「……………」
デュノアも織斑ツインズも、完全に沈黙している。その様子だと、あの話し合いから何もしていなかったようだな。
「その沈黙は、『何もしていない』と受け取って良いんだな?」
そう上白沢先生は言うが、誰からも返事が返されない。この場で使われる言葉と言えば、『沈黙は肯定と受けとる』だな。
「まあ、良い。さて、それでは最初の質問に話を戻そう。デュノア、何故我々教師に話してくれなかった?黄昏君には話せたのだろう?」
上白沢先生は、先生からすれば斜め前のデュノアを真っ直ぐ見据えながら聞く。
少しの沈黙の末、漸くデュノアは口を開いた。
「あ、IS学園の特記事項の事を教えてもらったので、それを用いて、これからどうするかを、考えようと思っていたんです」
「それは、特記事項第21の事だな?」
「そ、そうです」
それについても、あの時俺に話したのと同じか。この学園にいる間は、どの国家や組織からの干渉も受け入れないってヤツ。
そこで俺は、1つ物申す事にした。
「口を挟むようだけどさ、それって今のお前に通用するのか?」
「え?」
そう言った途端、全員の視線が俺に集中する。
「どういう事だよ、春馬兄?」
「織斑兄、俺は織斑春馬じゃねえって何度も言ってんだろ…………まあ、今はどうでも良い。ようはだな…………………」
そこで一呼吸置いて、再び口を開く。
「不正ルートで編入した奴に、そんな権限が貰えるのか?正式に編入したなら未だしも」
「ッ!」
俺が言った言葉に、3人の目がハッと見開かれる。
そう。その特記事項は、あくまでも正式に入学・編入した奴にのみ適用される権限だ。それが不正に編入した奴にも適用されたら、この学園は犯罪者の良い寝床になる。
流石にそうとでもなりゃ、俺は適当な理由を付けて、ソッコーでこの学園を辞めてるぜ。それから親父とお袋を連れてどっかで静かに暮らすか、解体所に居続けて、俺達をモルモットにしようとする連中を始末して過ごすか、このどちらかの生活だろうな。
「ああ、それから織斑兄弟、はっきり言っておくが、お前達はスパイを匿った罪もある。私達がその気になれば、お前達はあっという間に学園から放り出されるものと思え」
「そ、そんな!!」
オイオイ、それぐらい予想しとけよ。
「だがまあ、その事については、黄昏君から話を受けている。よって、お前達を警察に突き出すような真似はしない」
そう上白沢先生が言うと、3人は安堵の溜め息をつく。
「さて、私からの話は以上だ」
ん?上白沢先生からの話?
「先生、まだ何かあるんですか?」
「ああ。ですよね?山田先生」
「ええ」
そう上白沢先生が言うと、さっきまで表情1つ変えることなく、ただ黙って座っているだけだった山田先生が立ち上がる。
「織斑兄弟、デュノア、立て」
「え?」
いきなりの事に、3人は戸惑うような反応を見せるが、やがて立ち上がった。
3人共、何故こうなっているのか分からないとばかりの表情を浮かべている。俺自身も、何が起ころうとしているのか、皆目検討もつかない。
「黄昏君、悪いが机と椅子を退かすのを手伝ってくれないか?」
「ん?良いですよ?」
そうして、俺と上白沢先生は机と椅子を部屋の隅に移動させる。
スペースが出来ると、山田先生が3人の前に立った。
にしても山田先生、何をするつもりなんだ?
そう思った時だった。
パァンッ!パァンッ!パァンッ!
「……………うえ?」
突然部屋に響き渡った、3回の乾いた音に、俺は唖然とした。山田先生が3人をひっぱたいたのだ。
つーかオイ、山田先生何してんの!?
「ちょい山田先生、何して………」
俺は山田先生を問い詰めようとしたが、上白沢先生が俺の肩を掴み、首を横に振る。『手出しするな』と言っているようだ。
訳が分からないまま、俺は様子を見ていた。
「……………私が何故、貴方達を叩いたのか、分かりますか?」
何時ものワタワタした雰囲気はすっかり消え失せ、低い声で3人に問う。
3人は分からないらしく、互いに顔を見合わせている。
こればかりには、俺ですら分からん。
「分かりませんか?ならば教えてあげますよ。貴方達は既に、ある生徒の人生を滅茶苦茶にしかけていたという事をね」
「そ、それはどういう事ですか!?」
「そうですよ山田先生!俺達は誰の人生m………「本当に?」」
織斑兄の言葉を、山田先生が遮った。
「じゃあ聞きますが、何故貴方達は、デュノアさんの事を狂夜君に話したのですか?デュノアさんの事については1年1組での問題です。3組である狂夜君は、本来無関係でしょう?」
あ、それは俺も気になってた。
「それは………」
織斑兄が言葉を選んでいるようだが、それを見かねたのか、織斑弟が口を開いた。
「確かに黄昏は3組ですが、それ以前に同じ男子です。男子同士、協力するのは当たり前の事です」
「ほう?」
その言葉には、上白沢先生が反応した。
「お前達の計画のために、黄昏君が犯罪への道に足を踏み入れる事が協力だと?笑わせる」
その言葉に、織斑弟は顔をしかめた。
「何だ、不満か?だが、間違ってはいないだろう?お前達の計画に協力するという事は、デュノア(スパイ)を匿う手伝いをするという事だ。つまりは、共犯者になるという事だろう?まさか、それすら考え付かなかったとは言うまい?」
「……………」
「図星か」
上白沢先生はそう言うが、3人は何の反応もしない。図星のようだ。
「それに織斑兄弟、お前達は黄昏君の事を、方や『出来損ない』、方や『春馬兄』と呼んでいたな?」
それに、織斑兄弟は漸く反応を見せた。
「お前達の言っているのは、織斑春馬君の事だろう?だが、彼はモンド・グロッソで誘拐され、殺された。もうこの世には居ない。そして此処に居るのは、彼とは容姿が瓜二つなだけの黄昏狂夜君だ。織斑春馬君ではない」
「でも!」
「でもも何もあるか」
「それに織斑君達は、今回のボーデヴィッヒさんのISが暴走した時も、勝手に出撃していましたよね?それで狂夜君や他の生徒も危険に晒して、そして次はコレですか?それに、狂夜君の事を散々蔑んだ挙げ句、貴方達の勝手極まりない計画に巻き込むなんて、ふざけるのもいい加減にしてください!!」
最後の怒りとばかりに、山田先生が大声を張り上げる。3人は山田先生の気迫に押され、縮こまっていた。
まあ、そんなこんなあって、話し合いは終わった。山田先生と上白沢先生が先に出ていき、それに続いて俺も出ようとしたのだが、去り際に立ち止まり、声をかけた。
「お前等が俺を犯罪の道に巻き込もうとした事については、この際不問とするけどさ…………後半年以上はお世話になる教師裏切るような真似は止した方が良いぜ。それからデュノア」
「な、何?」
ビクビクしながら、デュノアは此方を向く。
「くれぐれも忘れるなよ?この学園に3年間は居れるが、その後からが危険だらけだという事をな」
俺はそう言って、部屋を後にした。
時計を見ると、もう7時半。学食には行けねえや。購買でなんか買って、彼処でも行こうかな。多分彼奴、まだ起きてるだろうし。
その頃、アリーナの観客席には篠ノ之箒が居た。
「(結局、出来損ないを倒すどころか、その取り巻きのような女でさえ倒す事は出来なかった。一夏や秋彦が、あの訳の分からん暮桜擬きを倒そうとしたのに、あの出来損ないがでしゃばったせいで……………………やはり私にも、専用機が必要だ。それなしでは、少なくとも出来損ないを倒せない。あまり気乗りはしないが…………………)」
そう思いながら、箒はポケットから携帯を取り出し、とある番号へとかける。
コールの音が1回もしないうちに、その人物は電話に出た。
『もすもすひねもす~?』
「姉さん、私に………………………………」
「……………………そう、分かったよ。臨海学校の日に持っていくから。じゃあね」
とある建物の屋上にて、その女性は携帯の通話を切った。
如何にもエリート企業の社員を思わせるようなスーツに身を包んだその女性は、腰まで伸びる長い桃色の髪の毛を風に靡かせる。
「誰からなの?」
その女性の背後に、金髪ロングヘアで、西洋風のドレスに身を包んだ女性が、空間の裂け目のようなものから現れる。
「ゆかりん…………」
そう言って振り向いた女性--篠ノ之束--は、通話の内容を伝えた。
「そう、妹さんが専用機を…………」
「うん。私としては作ってあげたいけど、頼みに来るには今更過ぎるし、そもそも箒ちゃん、IS嫌ってた筈だし…………何が目的なのか…………」
そう言って俯く束に、紫は近づいて言った。
「まあ、取り敢えずは作ってあげなさい。渡すか渡さないかは、後で聞けば良いわ」
「そうだね…………」
そこに吹いた一陣の風が、2人に共通した長い髪を靡かせる。
「それもそれとして、貴女には先ず、謝らなければならない人が居るでしょ?」
「うん…………」
消え入りそうな声で返答し、束は1枚の写真を取り出した。
その写真には、幼い束と写っている、獣耳のような髪型の少年が写っていた。
「彼、今は名前を捨てて、別の人間としての人生を歩んでいるそうよ……………………織斑春馬という名を捨てて、黄昏狂夜としてね」
「ッ!」
紫の言葉に、束は目を見開いた。
無理もない。織斑春馬という人物は、第2回モンド・グロッソで死んだと公表されている。もし生きていたら、別の人間の名を名乗るのが普通だ。
「でも彼は何処と無く……………………いえ、何でもないわ」
そう言って、紫は裂け目の中へと入っていった。
束は暫く、満天の夜空を見上げていた。
「……………………はるくん」
その呟きは、ヒュウッと吹いた風に乗り、何処へと運ばれていった。