神は存在しない。
もしいたとしてもそれはいるだけに過ぎない。
何かをする訳でもなく、ただ茫然と俺達の世界を見ているだけだ。
神が忙しいから俺達に何もして来ないというなら幾千幾万という神とやらは一体どんな仕事をしているというのだろうか。
小さな事の連鎖で起きた事故で死んでしまった、アイツを救えない程の事をしていたというのだろうか?
居ても何もしないというのは居ないのと同義である。これだから神なんて信用ならない。仏なんかも同じだ。
これが彼の、九十九凛の持論だった。
キーンコーンカーンコーン
騒々しい教室に授業の終わりを告げるチャイムがなった。
「起立!気をつけ!礼!」
「ありがとうございました。」
威勢のいい号令が告げられたがまともに返事が聞こえたのは俺の声だけだった。一瞬の静寂の後、授業をしていた時のように再び騒がしくなった。俺はすぐに持ち物をバックの中にしまい、バックは机にあるフックに引っかけた後に突っ伏して睡眠を始めた。俺は一人暮らしで、昨日はバイトで遅かったからまともに寝る事なんて出来なかった。次の短いホームルームを終えれば明日からは夏休み。バイトと部活の日々が始まる。つまらなく、果てしなく青春の無駄遣いだとアイツは言うがそんなのは知らない。今の俺に出来るのはこれだけだから仕方が無い。
そんな事を思いながらでうたた寝していると先生がやって来て教壇の上から机をトントンと叩いてきた。俺は目を擦りながら先生の始めた話を聞いた。そして騒がしさが残りながら、今学期最後の号令が終わり各々で帰り始めた。俺は部活の予定表を貰う集まりに出席するために階段を降り始め、一階ほど降りると方を叩いてきた奴に気づいた。本能的に振り向くと頬を人差し指でつつきながらニヤニヤする一人の男がいた。
「お凛々。一緒に帰ろーぜ?」
「………………。」
俺はその憎たらしい行為に腹が立ち、奴の人差し指を握りしめて曲がらない方向へと力を込めた。
「あだだだだだだだ!痛い痛い痛いから!痛いから!!やめやめやめやめやめ!」
そいつは俺が手を握るのと同時に顔を青くし、途端に大きな声で騒ぎ出した。うるさいな皆がこっちを見てるじゃないか。俺はあまりにもうるさいので離してやった。奴は腕を振りながら恨めしそうに見ていた。
「全く…………お凛々は照れ屋さんなんだから……もう少し露骨に優しくしていいんだよ。」
「うるせぇよ。死ね。」
「ひでぇ。」
俺が死ねと言った相手は俺の幼馴染みで中村純という。見た目を一言で表すと血〇戦線の黒髪の絶望〇みたいな奴だ。純は力なく溜息を吐いた後に気を取り直してこう言った。
「まぁまぁ、それはともかく帰ろーぜ?」
「無理だ、今からミーティングがあるからな。」
俺がそう答えると奴は手をポンと叩いて言った。
「あぁー、俺もだったわ。忘れてたよ。じゃあ終わったら一緒に帰ろーぜ。待っててよ?」
純は壁の方に向いてからシャフ度でこちらを見て言った。
「無理だって言ってんだろ。終わったらすぐバイトだ。」
俺はそんな奴の態度に溜息をつきながら言った。
「別に少しくらい待ってくれても良くね?」
「お前は前にそう言って三十分待たせたろ、」
「そだっけ?」
純は舌を出してそう言った。あぁうざい顔だ。
「ちょっとそれ酷くないっすか?」
「あれ、声に出てた?悪いな。」
「僕の言葉に肯定してくれないのか……。」
「もちろんさ!」
「ダニィ!」
俺達はギャグをかましながらつまらない世間話をした。話がつけ終わる頃には一階降りて、奴と別れた。俺は暫く歩いたあと集合する教室に入ってミーティングが始まるまで寝て待った。
「それじゃあ、明後日から夏休みの部活が始まるんで忘れない事。以上!」
「起立、気をつけ、礼。」
「「「「「「あざっす。」」」」」」
俺が号令をかけるとてんでばらばらなタイミングで一人一人違った言葉を発した後にぞろぞろと教室を出て行った。俺もそれに乗じてまだ少し廊下や教室に残っている生徒を尻目に帰ろうとした。すると後ろの方から声を掛けられた。
「おい、九十九。予定は前に渡したのとあまり変わらないんだが、大会の日にはなにか予定入ってたりするのか?」
振り返ると部活の顧問の先生が白髪になりかけの頭を弄りながら言ってきた。
「いえ、今年は去年みたく空いていないという訳ではありません。」
俺は予定表を頭に浮かべながらそう言った。
「分かった、それならいいんだ。それじゃあ今年は受験生だから大変だろうが最後の夏休みを有意義に使いなさい。」
先生は俺の話を聞いた後、髪の毛を弄る手を止めてからそう返した。
「ありがとうございます。それではさようなら。」
「あぁ、さようなら。」
俺は先生に挨拶をしてスクールバックを肩に掛け直してから昇降口へ向かった。
もし今日のこの後の時間にシフトを入れなかったら俺は彼女と衝撃的な出会いをしなかっただろう。
美しく大きな桜がただずむ庭で二人の女性が激しく議論をしていた。
「譲れないわ。」
「私だって譲れないわ。」
「お二人共どうか落ち着いて下さい……。」
二人の激しい口論に戸惑いながら唯一どちらの味方にもついていない第三者の女性が何とかして宥めていた。
「私はあれに勝る物はないと思うわ。その考え方はもう遅いのよ。」
「あらあら?貴女は昔からある物の不変の地位くらい分かるものだと思っていたのだけれど……。」
「そういうのは時代遅れっていうのよ?」
「「フフフフフ……」」
「二人共落ち着いて……。」
とても近寄り難い空気でありながらも彼女は健気に二人を制止し続けようとした。
「そういえば妖夢、貴女はどうかしら?」
「え?」
妖夢と呼ばれたその女性はピクッと体を反応させて一人の女性の方を向いた。
「そうねぇ。確かに貴女の意見を聞きたいわ。」
もう一人の女性も彼女と同調した。
「えっと……その……。」
「「貴女は……………………
ゴマ煎餅と海苔煎餅……どちらが美味しいと思う?(かしら?)」」
「わっ、私は……」
彼女は二人の勢いに狼狽えながら口を開いた。
「いいのよ。やっぱりゴマ煎餅は美味しいし、そのピンクの大食い主に気にしなくて言いたいことを言えば。」
「あらあら?貴女は私の妖夢になんてことを言うのかしら。妖夢?貴女はそこの胡散臭い妖怪女に惑わされなくてもいいのよ?」
「ひぃぃ!私は…………。」
彼女は黒笑を浮かべながら詰め寄ってくる二人に恐怖を覚えながら必死で最善の言葉を探した。そして放った言葉は
「私はど、どちらも美味しいと思いますよ?」
という何とも言えない微妙な答えだった。
二人は揃って溜め息をついたあと再び向かい合って討論を続けた。その光景を目にした妖夢は
「別にどちらでもいいと思いますが…………。」
と呟いた。
それを耳ざとく聞いていた二人は目を光らせて彼女の方に再び向いた。
「今なんて……」
「言ったかしら?」
「ひぃぃぃぃ。」
二人から同時に殺意を向けられた彼女はそう言葉を漏らすしかなかった。
「紫?」
「何かしら幽々子?」
「私用事が出来ちゃったからこの話、後でで言いかしら?」
「あら?奇遇ね。私もよ。」
彼女達は再び黒い笑みを浮かべてから立ち上がり妖夢に迫って行った。
「わ、私はこれで……失礼しますぅぅぅぅ!」
彼女は飛び上がって縁側を駆け抜けだしたが紫はスキマ、幽々子は大量の弾幕を展開していた。そして逃げる妖夢はスキマに落ちた後尻餅をつき、あたりを見渡すと
そこらじゅうのスキマから弾幕が展開されているのに気がついた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
という彼女の悲鳴と共に弾幕のエネルギー耐えきれなくなったスキマ空間は暴発した。
「あらあら…………少しやり過ぎちゃったかしら。」
「そうね…………幾ら何でも酷過ぎたわ……。」
二人は自分達のやった事に後悔をしながら妖夢に対する弁解の言葉を考えていた幽々子は暫く考えた後に友人の青ざめた顔に気がついた。
「あれ、紫?一体どうしたのかしら?」
紫は幽々子の方に振り向いた後、震える唇で言った。
「妖夢が……………………スキマの中にいないの。」
「えっ…………。」
幽々子は紫の話を聞いて目を丸くした。
「それだけじゃなくて……多分暴発した妖力の影響でスキマが反応して………………その。」
「その?」
「今、妖夢は幻想郷にもいなくて、何処か異世界に飛ばさちゃった……………………。」
紫がこの言葉を発した瞬間、風はピタリと止まり時間が止まったかのように感じた。
「ある晴れた日のことーふふふふふふふふふーん」
一人の男が鼻歌交じりに歩いていた。
「魔法以上の愉快ってどんなことだろ、想像もつかないなぁ……ん?」
彼は狭い路地に差し掛かると一つ大きな物が落ちているのに気がついた。
「え?はぁぁ!」
彼はその大きな物だと思っていたのが人間だという事に気づくと間抜けな声を上げた。その後に彼の口元にはからからと乾いた笑みがあった。