それから私は九十九さんと過ごしてから二十日近く経ちました。暑さは以前より増して来て、よくアイスという物を食べたり、団扇で扇いだりして過ごしています。私の主観ではありますが九十九さんとより仲良く、踏み込んだ関係になれた気がします。ここに来た当初より、私と彼との笑顔が多く見る事が出来る様になったおかげでしょう。中村さんは最初に思っていた印象とは違って真面目だという事も理解して、自分の未熟さを実感した気がします。
そんなある日の事でした。
私は九十九さんがバイトというもので出掛けている時彼の本を読んでいると、インターホンを押す音が聞こえてきました。
「はーい、どちら様ですか?」
私は読んでいた本に栞を挟み、卓袱台の上に読んでいた置きました。
「あー、俺俺。俺だから開けて。」
私は玄関に向かい、ドアノブに手を掛けようとした瞬間それを聞いて止まりました。そしてある事に思い至った後に二三歩下がって言いました。
「…………それを巷ではオレオレ詐欺という悪質な事だと聞きます。失礼ですが帰っていただけませんか?」
「妖夢さん……それを何処で学んだんですか?」
扉の向こう側から困惑と驚きが混じった声が聞こえてきました。
「九十九さんの持つ小説の主人公が巻き込まれていて大変という所を見てです。」
「それはお凛々にも心強いね。あぁ、俺は中村純だから開けてくれない?」
「中村純?誰ですか?」
「えっ?」
「すみませんが存じ上げません。家をお間違えになられたのでは?」
私は悪ふざけでこんなことを言うとトーンを下げて言葉を続けました。
「えぇ……嘘でしょ?」
「はい、嘘です。」
私はそんな中村さんの声を聞きながらクスクスと笑みを浮かべながら鍵を外し、扉を開きました。外には引き攣った様な笑顔の彼が立っていました。
「こんにちは中村さん。九十九さんはもう三十分程前にバイトへ向かいましたよ?」
「あぁ、うん。知ってる。僕は妖夢さんに用があって来たんだけど……一ついい?」
「何でしょう?」
「今さっきのは何?」
「何って何時も私に意地悪をしてくる中村さんへのささやかな仕返しですよ?」
それを聞くと彼は苦笑いを浮かべながらお邪魔しますと言って部屋に奥に入って行きました。
どうやら作戦は大成功だったみたいです。
扉の鍵をしめてから部屋へ向かうと中村さんは座布団を敷いて座っていました。
「一泡ふかされちゃったかぁ。」
彼は私のした事に全然気にする様子もなく寧ろ嬉しそうな表情でこちらを見ていました。
「何でそんなに嬉しそうなんでしょうか?」
私はそんな彼の様子を少し不思議に思い、彼へ訪ねました。
「んー?だって俺は冗談を交えるとかみたいなそういう親しげにしてくれるなんて思ってなかったからさ。俺の性格は周りに評判が良いように思われないしね。」
確かに……
私は失礼にもそんなことを思ってしまいました。
「まぁ、それはともかく妖夢さんにお願いしたい事があるんだけれど……いい?」
彼は前の様に少し悪い笑みを浮かべてから私に少し近づいてきました。何だか嫌な予感しかしないのは気のせいでしょうか?その様子を察したのか彼は悪い笑みを消して話しかけました。
「なぁに、変なことじゃないよ。近々お凛々の誕生日だからさ、お誕生会を企画したいと思ってるんだよ。」
「誕生日会……ですか?」
なんだか中村さんから初めてまともなお願いをされた様な気がします……。中村さんがこちらに怪しげな視線を送っている事は……気にしないようにしましょう。
「それで具体的に何をすればいいのでしょうか?」
誕生日というものは特別な日です。一年に一度しかないので派手にやりたい物ですが……どうすれば喜んでくれるのでしょうか?
「具体的に?そりゃあまぁ。何か物を贈ったり、ケーキを食べたり、料理を食べたりとかする事が一般かな。」
「成程……」
どうやら宴会が無いだけで幻想郷とは大差は無いようです。
「そういえばこの世界にはお酒は無いのでしょうか?それとも九十九さんも中村さんもあまり好きでは無いのですか?」
「お酒?好き嫌い以前にそもそも飲んだことないかな。」
「あ、そうなんですか!?」
「そんな意外?」
「えぇ。幻想郷はお酒が必需品だったので、その点では驚きです。」
「お酒ってアルコールが入ってるじゃん?あれは小さい頃から飲み続けるとあまり体によくないって言うからこの世界では規制が入ってるんだよ。」
「そ、そうだったんですか。」
霊夢さんや魔理沙さんにはお酒を控えろと言った方がいいんでしょうか……。
「この国の法律でいうとあと二三年後くらいには俺やお凛々も飲めるんだよね。」
「へぇ……。」
九十九さんと一緒に飲む事が出来るのはそう遠く無いんですね。すると彼は突然手を叩き何かを思い出したかのような素振りをみせました。
「それはともかく出掛けるよ!お凛々に何か贈るために行くよ!帰ってくる前に!早く!」
そう言うと彼はすぐ様扉の外に出て待機し始めました。私はもう出かけたのかと思うと怒りが込み上げてきましたが、どうやら私の着替えを見ないようにと彼なりの配慮だという事に気が付きました。
九十九さんが彼を憎めないのもなんとなくわかる気がしました。
私は着替えてから身だしなみを整えて、玄関の外へと出ました。私は彼の部屋にある鍵を持ち出し、鍵を閉めると中村さんと共に出かけに行きました。
向かったのは前にも服を買いに行ったあの大きなデパートでした。
慣れない電車の揺れにすこしどきどきしながら九十九さんへの贈り物を考えていました。デパートに着くと私と中村さんは彼へと贈る物を考えてふらふらと回っていました。
「さーて、何にすっかなぁ……。」
「あの……中村さん。私、お金を持ってないんですけど……。」
私はなかなか切り出せないでいたお金の問題について聞きました。
「んー?それは俺が支払うから大丈夫だって。妖夢さんは何かプレゼントを選んでよ。」
「し、しかし…私が贈るものを中村さんが支払うなんていいのでしょうか?」
私は彼の発言に驚きを覚えました。確かにその手段は元々頭の中ではあったのですが……少し私には受け入れることが出来ませんでした。
「じゃあお凛々みたいにバイトする?日雇いなら無いわけじゃないけど妖夢さんは人と関わっていける?ここは幻想郷ってところじゃないんだよ?」
「そ、それは……」
「あと、明日はお凛々バイト休みだから二三日家を空けたら怪しまれるかもしれないよ?」
「……分かりました。中村さん、お願いします。」
私はこれは彼の考えたより良い方法だと思い、不満を我慢して彼に返しました。
「機嫌悪くしないでよ……。」
私の思っていた事が態度に出てしまっていたのか彼は私の様子を見て、苦笑いをしてから九十九さんへの贈り物を真剣に検討し始めた。
しょうがないじゃないですか。私は九十九さんの為にやれる事は全部やりたいんですから……。
結局、私達は彼の贈り物をその日中では決めることが出来ませんでした。
後日、様々な所を回り様々な物を検討しました。
そしてある日、私はある物に惹かれました。
形を変えずに綺麗なままでそこに生えている物は私には驚きと共に安らぎを与えました。
「ふうん……なかなか面白い物に目をつけるね。」
「中村さん……これでお願いします。」
「了解。ちょっと待っててね。」
彼はそれを手に持つと店員へと持って行きました。
ふふふっ
どうやら私は九十九さんの誕生日がより一層楽しみになってしまいました。
「因みに中村さんは去年、九十九さんに何を贈ったのですか?」
「去年?去年は水を一箱。」
「えっ?」
彼は嫌がらせの達人なのでしょうか……?
いやーあれは重かったなぁ、と一人呟く彼を見ながら私はこう思っていました。
二リットルの水を一本なら去年、作者もやった事があります。まだ消費してないんだとか……