「はぁ……またこれかい。」
俺は奴のいるトイレを一度見てから溜息をつき魂魄の方を向いた。彼女は顔を赤くして体を震わせていた。
「あのー魂魄さん?大丈夫ですかー?」
「は、はい!?勿論大丈夫ですよぉ!あぁ!!失礼しました!!」
彼女はころころと表情を変え、この状態に問題を感じたのかすぐに立ち上がって走り出した。すると彼女は台所の曲がり角で小指をぶつけてうずくまった。
「お、おい……本当に大丈夫か?」
「何たる不覚……。九十九さん、さっきは乱してしまって申し訳ありません。」
「んー?俺は大丈夫だな。というか大丈夫か?俺は魂魄の方が不安なんだが?」
「わ、私は大丈夫です。それでさ早速食事にしましょう。」
「ん、んー?まぁそうだなおい純。早く出てこい飯くうぞ。」
俺はそう呼び掛けるとキィっとトイレから顔だけが出てきて奴はぼそりとつぶやいた。
「俺は妖夢さんを……その、食べるつもりは無いぞ?食べるんならお凛々一人で……。」
「…………。」
取り敢えず俺は素早く奴に近づき、奴の足を思い切り踏みつけた。
「それじゃあお凛々!!お誕生日おめでとー!!」
「きゃあああ!!おめでとうございます!!」
奴はにやにやとしながらそう言い、魂魄はクラッカーの音に驚きながらもそう言ってくれた。
「魂魄、ありがとう。」
「ちょっ!俺は?」
「気持ちだけ貰っとく。」
「企画したのは俺なのにな……。」
奴は大袈裟に両人差し指をチョンチョンと打ち付け合いながら悲しそうに言った。まぁそれに関してはありがたいと思ってるんだが何でかな全然嬉しくない。…………実のところ理由は明白なんだが。俺はそんな事を思いながら彼女の作ってくれた料理を口へと運んだ。そしてある事に気がついた。
「なぁ……魂魄?」
「な、何でしょうか?」
「飯は美味いんだが……これ作るのにどんだけかかったんだ?」
「どんだけ……かかる?」
彼女は頭を傾げてそう返した。するといつの間にかモリモリと食っている奴が答えた。
「んー?そういや全部入れて五万円くらいじゃないかな。妖夢さんも張り切ってたし止められなくてねぇ。」
ハハハと軽快に笑い飛ばすが、五万円とかめちゃくちゃ金かけてんじゃんか。何してるんだよ。奴は俺の思惑に気がついたのかこう言ってきた。
「いいんだよ、ただの自己満足なんだから。俺はこれだけで幸せさ。」
俺は何も返す事が出来なかった。魂魄が再び首を傾げていたがそんな事は全く気にもならなかった。
ワイワイと話しながら夕飯を食べる事二時間近く。テーブル、卓袱台、カウンターに置かれていたご飯の三分の二は食べ切るとお腹が満たされ始めてきた。
「かなり食べたな……。」
「少し作り過ぎてしまったみたいです……。」
「まぁ取っておいて明日食べればいいんじゃ?」
「それが妥当か。」
「幽々子様の夕食の量では多かったみたいですね。」
「その幽々子様ってのは偉大だ……。」
「偉大というよりな……。」
「お凛々、その先は言ってはならん。おっと、忘れてたのがあったよ。」
奴はいきなり立ち上がると冷蔵庫に向かい、その中から何やら箱を取り出してテーブルの上の皿を何枚か退けて置いた。
「あぁ、そういやこれマジでケーキか?」
「もちろんさ!」
俺の問いに奴は某、ハンバーガーショップのキャラクターの真似をした。これが地味に似てる。
「あっそ……じゃあ開けさせてもらうよ。」
俺は嫌な予感を感じながらその箱を開き、覗いてみた。
ケーキの中身はケーキではあったのだが……。
I LOVE YOU
とケーキには描かれていた。
男からこんなケーキを貰うのは気持ち悪ぃな。
そう思った俺は切り分ける為に用意されていたナイフを手に取りぶった斬ってやろうと思った。
「うわぁ……これがケーキという物ですか。この不思議な模様とかも綺麗ですね。」
しかし彼女はそのケーキを見て感嘆していた。まぁものすごく精巧に作られてるからそう言うのも無理もないか。俺は取り敢えず落ち着いてナイフを皿の上に置いた。
誤解無いように言っておくが斬る対象は奴のことだからな?ケーキには何も罪はないという事だけは心に留めておいて欲しい。
その後間もなくケーキを切り分けた。俺は何で三人なのにホールケーキにしたんだよ。この為だけに金をかけたのか。俺の誕生日で遊ぶんじゃねぇなどと少しイライラとした気持ちを持ちながら、そのケーキを口にした。
「美味いな……。」
「本当に、美味しいですね。」
味はめちゃくちゃ美味かった。お世辞じゃない程本当に。ブルーベリーやラズベリーで彩られた外見。中まで詰まっているフルーツ。I LOVE YOUの文字のストロベリーソースはケーキを邪魔する事は無く寧ろ引き立てていた。しかも俺の好みを知ってか下の生地をタルトにしていたから美味かったが同時にうざかった。
「このケーキを探すのにも時間かかったんじゃねぇの?」
「んー?そうでもないよ。デパートに行けばこんなのちょいちょいで見つかるって?」
「あっそ……。」
俺は軽快に笑い飛ばしてる奴を少し訝しげな視線を送った後、何事も無かったかのようにケーキを食べるのを再開した。
「もう無くなったのか。」
「食べ切れるとは思ってませんでした……。」
「甘い物は別腹とはこのことだね。」
俺達はさっきまでケーキがあった皿を見て苦笑した。奴も乾いた笑いをしていたという事は無くなるということを想定してなかったのだろう。
「まぁ、好評だったみたいで良かったよ。」
「ケーキというのは初めて食べたのですが、非常に美味しかったです。幽々子様にもつくって差し上げたいですよ。」
「でも簡単にならば出来ない事も無いんじゃない?」
「本当ですか!?」
俺が何気なく呟くと彼女はずいっと迫ってきた。
「なら今度妖夢さんにケーキの作り方の本を買ってあげようかな。」
奴は俺達の様子を見て、にやにやしながら言った。相変わらずうぜぇ。
「いや、俺が買う。お前が何から何までするのは俺が嫌だ。」
そして俺は奴にそう言った。同居しているのは俺なのに俺が奴に全部任せるのは嫌だ。それになんだか奴に魂魄をとられてるような気持ちにもなったからよりそう思った。すると奴は何故か俺の方を見てキョトンとした後にさっきよりも顔をにやにやと作り笑顔をして言った。
「それは何?嫉妬?」
その後、俺は床に置いてあった奴の持ち物を外へと放り出した。それを見た奴は急いで靴を履いて外へと飛び出して行った。俺はその後即座に鍵を締めた。暫くしても奴は帰ってこなかった。
慌ただしい足音が急に静かになったのは多分俺の行動を理解したのだろう。
「いいんですか……?」
私は彼の余りにも大胆な行動に驚きを隠せませんでした。
「まぁ、いんじゃない?今日は遅くないし。」
私が時計を見ると十時前を指していました。遅くないですかね?まぁ、九十九さんがいつも帰る頃よりは早いですが。
「あ、そうそう。」
彼は一人そういうと、棚から湯呑みを二つと、冷蔵庫から冷えたお茶を取り出しました。湯呑みを私の前の卓袱台に置き、お茶を入れながら言いました。
「今日はありがとな。俺のためにこんなのしてくれて。」
「えっ?い、いえ、お礼なら純さんに言ってください。私一人の力じゃ何も出来なかったんですから。」
私は素直に気持ちを告げた。現にお世辞でも無く純さんのご助力が無ければ何も出来ずに、それどころか誕生日を知ることすら出来ませんでした。
「純……なぁ。まぁアイツには感謝はしてる。昔みたいに三人……メンバーは違えど楽しく過ごせてるのはアイツのお陰だからな」
「三人……というのは花穂さんのことですか?」
「……あぁ、アイツから聞いたのか。」
私の問いを聞くと少し驚いた表情をしましたが彼は物事を理解すると湯呑みに手を伸ばしました。
「えぇ……九十九さんに起きた事を。」
「それはアイツの方が辛かったと思うんだが?」
「はい?何故ですか?」
「はっ?魂魄、アイツからどんな話をしてもらったんだ?」
「どんなって……九十九さんの両親の話とかそれからどうなったのか……という事ですよ?」
何故でしょうか、話がイマイチ噛み合いません。
「それから?」
「それから!?えぇっと他には……」
彼が他に言ってた事は…………
あ、そうだ
「どうでもいいかもしれませんが花穂さんが何処か遠くを旅行しているとか……。」
「ほう……?」
それを聞くと彼は九十九さんは勢いよく湯呑みを卓袱台に叩き置きました。
「それだけで話が終わってめでたしめでたしだと思ったら大間違いだぞ?魂魄。」
「えっ……?」
私は彼の思わせぶりな発言に疑問符を浮かべました。
「……これだけは話すつもりじゃ無かったんだけどな、アイツの思い通りになるのだけは癪だな。」
彼は溜息にも似た一息をついてから続けました。
「魂魄、これだけは聞いて欲しい。俺とアイツと花穂との関わりあいについての話だ。
これは心に秘めた思いを伝えるのが不器用だった男の物語。」
だから俺はアイツを好きになれないんだよ。
彼はそれだけ言うと彼らのすべてを話し始めました。