なぁに何も難しい事は無い。
花穂は死んだ。それだけの話だ。
「え……ちょっと!ちょっと待ってください!!」
「何?」
「何って……そんなに大事だったのにどうしてですか!?悲しくならないんですか!?」
私はそんな冷淡な返しをする彼の方を掴み、体を揺らしました。
「……今は夜だから少しは黙れ。」
「…………っ!!」
そんな私に彼は空気を凍らす程に冷静な声で言ってきました。突然の事で頭がいっぱいだった私は背中に悪い汗をかきながら反論したい気持ちを抑え、黙る事にしました。
彼は暫く俯いて目を瞑った後、ゆっくりと目を開きぽつりぽつりと言葉を連ねた。
「俺のせいだ……。」
「えっ……?」
「花穂が死んだのは俺のせいなんだ。」
「それは……どういう?」
「この世の中は小さな事で……ほんの小さな事で人生がひっくり返るんだ……。
あれは忘れもしない第一志望公立高校の受験日当日……。
よく雪の降る朝の事だった。
俺は予定よりも十分遅く起きてしまい、駆け足で駅へと向かっていた。
花穂は前々から早く起きて見送りをしたいと言っていたので駅までついてくる事になった。
そして時間を惜しむあまり、赤信号を無視して俺は道路を突っ切った。
道路を渡った後、俺はふと花穂の方を向くと
アイツは雪でスリップした大型車両に吹っ飛ばされてた。
俺はその光景を寒さで固まった様に動かずに見ていた。実際に歩み寄ろうとしても足が動かなかったから本当に固まってたのかもしれない。俺が気づいた時にはあの忌々しきサイレンを鳴らしてパトカーや救急車が現場に近づいていた。俺は寒さを感じる事も無くその場に崩れ落ちて阿呆みたいな表情でその光景を見ていたんだと思う。
本当に馬鹿みたいな話だよな…………。」
「それは!!!…………それは。」
私は自分の愚かさに嘲笑っている彼に掛ける言葉を必死に探しました。しかしどんな言葉をかけようが彼には届かないような気がして初めて彼との間で分厚い壁のような物を感じました。
「あの後……、何回か警察が俺の所を尋ねに来たが何を聞かれたかもどんな事を話したかも覚えてない。俺はその時に罪の意識を感じてかな。よく分かんねぇや。」
「…………。」
「暫くして奴が訪ねてきた。最初の内は何も言わずに俺の前で一人ウノをしだした。ウノってのはあいつの家でやったヤツな。俺が不思議に思い、顔を動かすと山札を渡してきた。ここから七枚取れって事だったんだろう。俺は別にその為に顔を上げた訳じゃなかったから再び俯いた。そして暫く一人でウノをやってるとこう言って来た。
飽きた。
ってな。」
「……はぁ。」
「多分、俺の態度が気に食わなかったんだろう。人一人死んだだけで何ウジウジしてるんだ。みたいな事も確か後から言われたんだっけな。」
「えっ……じゃ、じゃあ中村さんは花穂さんの事をどうでもいいって思ってたんですか!?」
「俺もそれは気になってた。自分の昔からずっと両想いだったのにそんな事言うなんて最低な奴だなって思って花穂が死んだ事を平気なのか聞いたんだよ。そしたらなんて答えたと思う?
彼は唇を少し歪ませていいました。
ふうん……お前のその眼には俺が全く平気そうに映ってんのか、と。」
「…………そうでした。中村さんは本当の感情を出さない人でしたね。」
「あぁ、俺もその時にはっと気がついて改めて実感したわ。」
その後に彼は中村さんを馬鹿にして呆れた様な表情をしましたが私はそれに救われてるんだと思いました。
「その後、二次募集を受けて見事受かった俺達は遠い所ではあるがいいところに通う事になった。」
偏差値とか関係ねぇなとか彼は言っていましたがよく分かりませんでした。けれど私は四苦八苦し、とてもいい人生だと言う事は出来ませんでしたがこれだけは言えました。
「中村さんに会えて良かったですね。」
「……ははは、まぁな。」
彼はきょとんとした後力無く笑い返しました。
「…………んんっ。」
私はもう何度も聞きなれた異音に気が付きむくりと起き上がりました。……どうやら寝てしまったようです。私は彼が運んでくれたであろう布団から出て、広間を見ると彼が何やら机に本を広げ、その机に突っ伏して寝ているのを見ました。その本には何やら見た事の無い記号なのか文字なのかが書いていました。そういえば学校という場所で異国語を習っていると聞いたのでそれでしょうか。私はそんな彼を見てから早足で玄関へ行き、扉を開きました。
「あらら、まだ洗い物終わってなかったのか。」
「はい……すみませんお手伝いをさせてしまって。」
「気にしない気にしない。昨日はご馳走になったしね。いやぁ昨日のパスタ、あれは絶品だったねぇ……。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
中村さんは広間で彼を見た後、真面目かよ……と呟いて私と昨日の夜ご飯の皿洗いを始めました。けれどもこの台所は決して広くないので皿洗いと食器の整理と仕事を分担して行いました。彼は狭いなりにきびきびと動き、私の邪魔をしないようにせっせと片付けていました。
そんな彼の様子を見て私はある事が気になりました。
「中村さん……一つ聞いていいですか?」
「んー?何。」
「どうしてそこまで九十九さんに優しくするんですか?」
「えっ?」
彼は食器棚に大皿を入れながらこちらを向いて聞き返しました。
「えぇ、どうしてでしょうか?」
「優しい……?俺は人生でそんな事言われたことあまり無いけど?」
「あるんですね……それはきっと花穂さんでしょう?」
「……はいはい。そゆことね。お凛々から何を聞いたか知らないけど別に俺のした事は大したことないぜ?」
彼は何かを悟ると手を横に振ってそう言いました。
「……ご謙遜なさらないで下さい。自らの辛い感情を抑え、見せないようにして他人に平気な様に振舞うという事はなかなか出来ませんよ……?」
私は相変わらずいつもと変わらないおちゃらけた態度をとる彼へと素直に凄いと思いそうきっぱりと言いました。
「妖夢さんも同じ事言うと……これは笑うしかねぇな。」
彼は最後に残ったフライパンを棚にしまうと私と向き合って言いました。
「約束したんだよ。」
「約束……?」
「俺は昔から意地をよく張ってなこれでもプライドは高い方なんだ。だから頼まれた事は最後まで通したい。それが自分の好きな人なら尚更……ね。」
「格好いいじゃないですか、それ。」
「それ言ってくれるのは俺の事をよく知ってる奴しか言ってくれないんだ。俺はお凛々程美形じゃないからモテないし、歩み寄ってくれる奴も少なければ人気者じゃないしな。他人の顔色だけ伺ってるって感じだよ。」
「は、はぁ。」
「それがふざけた事を言っても同じ。花穂が死んで丸くなっちゃったお凛々の性格には、今の俺みたいに少しは馬鹿に振る舞うとんがった奴が必要なんだよ。」
それがいつもの場所を作る支えになったり、それで救われてる奴がいるんだからさ。
彼はそういうと中から飲みかけの炭酸飲料を取り出して一気飲みをしました。
中村さんは相当な苦労人なんですね……。
私は彼への印象をさらに改善させ、二人の性格が真反対になった理由に驚嘆しました。
「見つけた!!」
これと同時刻、異世界のある場所にてこんな声が響いた。
「見つけたって……本当に!?」
「えぇ!勿論、本当よ!!」
二人の女性はそのある事に驚きを隠せないでいたがそれも束の間、気を引き締めると一人の女性は手を振って言った。
「気をつけてね。何があるか分からないのだから。」
「えぇ、分かってる。それじゃあ行ってくるわ。
絶対に妖夢を連れて帰るから。」
そう言うと彼女は異世界への一歩を踏み出した。