「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。」
俺は営業スマイルを見せつつ、客へと声を掛けた。
「お疲れ様。九十九さんはもうそろそろ時間だからあがっていいよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
俺は店長からそう告げられるとペコリとお辞儀をした後更衣室に戻り手早く着替えた。制服を簡単に畳み、スクールバックの空きスペースにすっぽりと収めると他の従業員達に別れを言って裏口から店を出た。
最寄駅に降りる頃には辺りは真っ暗で電柱の光が煌々と照っていた。俺の住んでいる所は最寄駅から徒歩十分でそこそこ遠い。アパートに一人暮らしで住んでいる。親に迷惑を掛けないように家賃は自分で払い、高校は奨学金で行っている。まぁ後付けでしかないのだが…………。そうこうしていると今日も無事に家に帰れた。たまに不良や警官に目をつけられる事があるからツイテいる。
このアパートは防犯対策に簡易的なロックがされていて敷地内に入るには鍵をタッチさせるか、長いパスワードを入れないといけない。二十年前に子供の悪戯で部屋を荒らされた管理人が半年かけてつけたらしい。なんとも不運な事だ。いつも通りそこそこ頑丈に出来ている階段を踏みしめながら自分の部屋へ向かった。すると家の前に不思議な物体がただずんでいた。物体を近づいて見て、台車の上に段ボールが乗っているものだと理解した。段ボールの上には何やら紙が貼ってあった。
「九十九さんがいない間に業者らしき人が来て置いていきました。家で預かろうと思いましたが九十九さんはいつも帰るのが遅く一晩預かるのは悪いと思いこの紙だけを用意しました。雑ですいません。 ――倉田――」
倉田さんは隣に住んでいる人だ。俺は何故業者で預かってくれないのか?と思いながら段ボールを持ち上げようとした。しかし、
「重い…………。」
持ち上がらない……物凄く重い。俺は取り敢えずこの台車を玄関まで入れて扉を閉めた後ある事に気が付いた。
「これアレだな……伝票が無いじゃん。」
段ボールに貼ってある紙は倉田さんの紙だけ。上の面にも側面にも……まぁ裏面は見ていないけど。俺はそれを不思議に思い中身をあまり刺激しないように部屋からカッターナイフを持ち出して段ボールを開け始めた。
ズズズズズ
と音をして上の面のテープを切ってからゆっくりゆっくりと箱を開けた。中に入っていたのは…………。
「すぅ…………すぅ…………。」
「……………………はぁ?」
銀色の短い髪を持つ女性だった。
皆さんはどう思うだろうか?
帰ってきたら宅配物が来ていてその宅配物の中身が女性だった……という超絶シュールな展開が訪れたら。一部の男性は喜んで有効活用をされるかも知れないが俺にはそんな趣味はない。取り敢えず段ボールの中は可哀想に思い、引き続きカッターナイフを使ってそーっと段ボールの解体を続けた。一つ、二つと角を切って行った。
そして四つ目が終わってほっとしようとした時に
「うぅん…………。私は一体……?」
銀色の短い髪を持つ女性は目を覚ました。
あれ?私は一体何をしていたんだろうか。確か幽々子様と紫様と話をしていたら…………何があったんでしたっけ?取り敢えず私は目を覚まし起き上がると一人の男の人がこちらをじっと見ています。一体何だろうと思っていましたが彼の手にはキラリと銀色に光る物があるのを見つけました。私は刃物を持った彼が危険人物だと思い、距離を取り剣に手をかけようとしました。
「白楼剣が……ない?」
彼は呆然とこちらを見てきましたが頭を激しく横に振り頬を数回程叩くと声を掛けてきました。
「えぇっと…………君は一体?」
「私の名前は魂魄妖夢で半人半霊です。」
「半人半霊?それは一体?」
「半人半霊というのは文字通り半分が幽霊で半分が人間だという事です。」
「つまり、君は半分死んでいるのかい?」
「えぇ、まぁそういう事になります。それではこちらから質問をいいですか?」
「あぁ、どうぞ。」
「あの…………
ここは一体何処ですか?」
「何処……とは?県?市?」
「けん、し?確かに私は剣士ですが?」
私は彼の意図を汲み取る事が出来なかったのでこう聞き返してしまいました。彼は少しの間目をつぶって考えた後こう答えました。
「もしかして君…………
この時代の人じゃない?」
「え、それは一体…………。」
「君の服装から見て……まぁコスプレじゃなければ俺達との生活できている服が全然違う……。判断材料としてはまだ弱いけどさ、俺達の世界は剣を常備していていいものじゃない。さっき君は剣が無いって言ってたしね。」
「は、はぁ……。」
この人はよく分からない事を言いながらも説明してくれました。私は混乱しながらも状況の整理に務めていると彼は手を差し伸べてきました。
「まぁ俺もよく分かんないけど取り敢えず自己紹介から。俺は九十九凛って言うんだ、よろしく。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
私はその手を握り固い握手をしました。
「君はそんな所から来たんだね……。なんか大変な事が起きてるんだな。」
「えぇ、私もまさかこんな事が起きてるなんて…………。」
俺は彼女と真っ暗な夜中から明け方まで話しをした。この世界には存在しえないと思っていた妖怪やら魔法やらが話しに出てきたのはマジでびっくりした。どっからが嘘なんだろうと思っていたが彼女の周りをふよふよと浮かんでいる半霊を見せつけられると何もかもが本物に思えてしまい、疑う事を忘れてしまいそうだった。一方彼女も彼女で俺の話すこと全てに驚き、水道やガスのシステムを見せてやると玩具を与えられた子供のように目を光らせていた。極めつけは冷蔵庫で何度も開け閉めをして、何度も手を突っ込んでは冷たいと言っていた。その後彼女がここに来た経緯を記憶にある限り話し、彼女が元の世界へ帰れる方法を共に探した。
「そんじょそこらの神社じゃ帰ることは出来ないの?」
「えぇ。幻想郷には神社には博麗神社と守矢神社しかありません。」
「そっか……どっちもスマホには無いしなぁ。」
「そうなんですか?守矢神社はこの世界から幻想郷に来たと風祝が言ってたんですが……。」
「へぇ……そうなんだ。」
「一体、私はどうなってしまうんでしょう……。」
彼女は膝の上の握り拳を震わせながら涙ぐむ様な声で呟いた。俺はそんな彼女を見かねて
「なぁ……魂魄。取り敢えずさ…………
飯作ってくれねぇか?」
問題の先延ばしを提案した。
「あの九十九さん?これはこうでいいんですよね?」
「あぁ、暫く捻った後なら手を離していい。」
「あ、つきました。九十九さん、これらは何ですか?」
「それは調味料で塩、胡椒、醤油、七味、だしの素ってのがある。」
「だしの素?少し味を確かめていいですか?」
「あぁ、構わない。」
「……!!これは幻想郷には無いような味ですね。一体何が出来ているのでしょうか……。」
「それは後ろの小さく白い文字で書かれた物が成分表っていって、そのだしの素の原料が書かれている。」
「へぇ……因みにこの野菜や肉の後ろに書いてあるエキス?ってのは何ですか?」
「まぁそれは野菜や肉の旨味成分を抽出した物だ。だからそれ単体で濃い味で美味しいって感じるんだ。」
「成程…………。」
まぁ俺達はそんな事他愛の無いことを話しながら朝食を作っていた。ちゃんとした飯を作るのは久しぶりの事だったが悪くない。まぁそんなこんなで朝食が出来上がった。野菜炒めにご飯に味噌汁。すげー美味そうだ。
「「いただきます。」」
俺達はそう言って飯を食い始めた。だしの素と具材の旨みが出た味噌汁、あっさりしつつも味がしっかりとしている野菜炒め。美味すぎる上に久しぶりに作ってもらったという感動を噛み締めながら俺は無我夢中でご飯を口へ運んでいた。
「美味しいですか?」
「最っ高だ。」
「そうですか?それは良かったです…。」
初めて見せた笑顔を見て俺も嬉しくなった。
ジャー
俺は皿洗いをしながら彼女の事を考えていた。帰れるのだろうか、それまで一体どうしていると言うのだろうかという心配が俺の中を駆け巡っていた。すると、
ピンポーン
というチャイムの音が部屋に響いた。俺は蛇口を締め、濡れた手で応答ボタンを押して返事をした。
「はーいどちら様「お凛リーン朝だよー。」何だお前かよ。」
奴の喧しい声に少しうんざりしながら解除ボタンを押した。そして再び皿洗いに行こうとした時に彼女に声を掛けられた。
「今のは一体?」
「え?あぁ、幼馴染みだよ。」
「幼馴染み……ですか。その人に私の姿って見られても大丈夫なんでしょうか……?」
「あぁ、それは…………。やべぇ!」
迂闊だった!いつものノリで許しちまったじゃねぇか!今日はゴミ出しの日だからって両手が塞がらない内に鍵を開けてたのが裏目に出た!俺は直ぐに締めようとしてドアめがけて駆け出したが余所見してたために彼女に正面から当たってしまった。
「きゃあ!」
そしてアニメの定番の様に彼女を押し倒したシーンが出来上がってしまい、
「お凛々入るよー。」
そんな状況下で幼馴染みが部屋に入ってきた。