俺はスマホを弄りながら魂魄を待っていた。ときどき聞こえてくる不気味な笑い声や悲痛にも聞こえる悲鳴は気のせいだと思おう。十分ほど経つと純から連絡が来て今から向かうとの事だった。俺は買った物を持ち歩くのは大変だと思い、奴に帰れと言ったがネタっぽく断られたから脱力しスマホをポケットの中に入れた。
「お凛々よっすー。あれ妖夢さんは?」
「おう、魂魄はな「逃げられたんか……」はったおすよ?」
彼女が出てくるより先に奴が来てしまった。めんどくせぇと思ったがこれ以上話を続けると更にめんどいと思ったからやめた。暫くして奴は手に持つビニール袋の音を立てながら頬をかいて聞いてきた。
「お凛々……これっていつまで続くと思う?」
俺はそれを聞くと溜息を吐き
「そんな事、俺に聞かれても困るわ。」
とだけ答えた。
それから十数分後奥にある試着室が開く音がした。
すると目の前には
白いワンピースを着て、可愛らしい帽子をかぶった魂魄が姿を表した。
「ど、どうですか?変じゃありませんか?」
俺は絶句した。その姿に、仕草に。だって最早コイツは……
「花「うぉぉぉぉぉぉ!めちゃめちゃ綺麗じゃんかよ!」うるせぇな馬鹿!」
俺がぼーっとしていると奴は耳元でビニール袋をワシャワシャと動かしながら叫んできた。俺はあまりにもうるさかったのでかなりの力で平手打ちをかました。奴は俺に叩かれた勢いでくるくる回っていたが備え付けの鏡に手をかけやっとの思いで止まっていた。
「いやぁだってさ男の子格好も悪くなかったけど、女の子は女の子らしい方がいいよやっぱりね。」
奴は顔だけを彼女に向けながらそう言った。
「お客様もそう思いますか?………………こんな可愛い人逃したらそういませんよ。」
すると彼女の隣にいた店員さんは奴に近づきそう囁いた。声が大きいぞ……。
「それはあの奥手野郎に言ってやってくだせぇよ。それにしても時間が思った以上に掛かりましたけど……一体何が?」
「えっ……?ま、まぁいろいろな服を試着させていたら……ハハハ。」
「店員さん……お主も悪うございますね。因みに彼女に服を新しく買って上げたいのですが。」
「えぇ……今なら少しお安くしますよ?」
「ほほぅ……だってさお凛々。」
「はぁ?何で俺…………が。」
俺は衝動的にそう言いかえそうとした。しかし彼女は無一文。奴は朝の弁当とさっきの買い物のせいで金は無い。そうなると俺が払う事は明確だ。さっきのように言い返してしまうと服は買えない上に彼女が傷ついてしまうだろう。それを理解すると頭で財布の中身を計算しながら溜息をついて言った。
「俺が支払うわ。」
取り敢えず憂さ晴らしに奴を殴っておいた。
4階
先程と同じ様な階だったため一周回ってから上の階へと足を運んだ。気になった事があったとすれば彼女への視線が感じられる様になったくらいだ。
5階
「お客様にはお似合いですよ?」
「そ、そうですか?」
「自信もっていいんだよー?妖夢さん。」
「あ、はい……。」
この階では彼女の靴を買う事になった。純や店員は可愛らしい靴を薦めたが彼女は機能性、つまり動きやすさを重視した靴がいいと言い張った。そこで奴は
「だった両方買ったら?」
と自分が買うわけじゃないのにも関わらず無責任なことを言ってきた。俺は奴をどついた後に彼女と店員との仲睦まじい?様な買い物を見ていた。
「それにしてもいっぱい買ったよな。」
彼女の買い物であったが荷物の多さから俺の腕も両手が塞がるほどの物を買った。
「あ、あの……すみません。お金を出してもらった上荷物を持って頂けるなんて……。」
彼女は俺の前に小走りで回り込み、目と目を合わせてから頭を下げた。
「大丈夫大丈夫。お凛々は優しいから全然気にしてないよ。ねー?」
「あまり気にしてないのは事実だけどお前から言われると腹立つな……。」
能天気に話す奴に怒りを覚えながらそう言った。真顔できゃー怖いって言っているところとか余計に腹立つ。
「そ、そうですか……。」
彼女はそう小さく囁くと再び俺達の後ろにくっついて付いて行く様に歩き出した。
6階
午後2時を回り3人とも空腹だという事で近くのレストランに行こうという話になった。勿論魂魄はレストランという物を見た事を聞いたこともないので余り騒がない様にとだけ忠告をした。まぁ彼女に限ってそんな事はないとは思うが。
「お待たせしました。中華麺セットです。」
「ありがとうございます。」
純は店員を見ながら微笑み軽くお辞儀をした。俺は相変わらず外面だけいいなと思いながら奴を見ていた。
「声に出てるぞ……お凛々。」
「あ?気のせいだろ。自意識過剰か。」
「酷い……妖夢さんこの子酷くない?」
「え?えぇ、まぁそうですね。」
「僕には味方なんていなかった……。」
奴ははぁ……と溜息をついてからラーメンを啜った。そしてしばらくするとまた店員がやってきた。
「お待たせしました。炒飯セットのと海老チリセット、そして餃子です。」
「「ありがとうございます。」」
俺は彼女に炒飯を渡し、海老チリを受け取った。店員は餃子を中央に置くとごゆっくりどうぞと告げて立ち去った。
「それじゃあ俺達も食べるか。魂魄はその蓮華で炒飯をすくって食べてくれ。」
「あ、はい。分かりました。」
そう言って彼女はおもむろに蓮華で炒飯をすくって口に運んだ。すると目を少し大きく開き、頬を緩めながら言った。
「とても美味しいです!幻想郷にはこの味は無いかもしれません。」
俺は軽く笑った。その後、海老チリを食おうと思って魂魄から目を逸らした時に視界で奴が俺を見てにやけているのに気がついた。俺はさりげなく奴の脛を蹴りとばし、何事もなかったかのように海老チリを食べ始めた。その頃奴は奇声をあげ悶絶し、その様子を見た彼女は頭にはてなマークを浮かべていた。
昼食の支払いはどうするのかを考えていると純が支払うと言ってきた。会計の時奴の財布の中に諭吉が三四枚入っていた事は見逃して置いてやろう。俺達は店を出るとそのままショッピングモールも出る事にした。奴は用事があるからといって定期を使って電車で帰った。
「あの九十九さん。中村さんの事をどう思っているんですか?」
「はぁ?急にどうした。」
帰り道、魂魄は急にそんな事を言い出してきたのでそう聞き返した。
「見たところ二人はそんなに仲良く見えないのです。九十九さんは中村さんに暴力振ってばかりで……無理しているのではないかと疑ってしまいます。本当の所はどうなんですか!?」
彼女はそう叫んできたので俺は立ち止まってから彼女の方を向いて言った。
「別に仲悪くなんてねぇよ……。まぁそういうキャラを演じる頃には俺の心境が変わってきただけだ……。」
「えっ?今なんて……。」
「それはそうで帰るぞ。流石に暑い……。」
「は、はい…。」
俺はそう会話を切ると再び歩き出した。
俺は中村純を嫌いではない。だからと言って好きでもない。自分を殺している所が、周りに合わせてる所が。同属嫌悪だって分かってはいる。
でも空気を読んだようなその発言、空気を壊さないようなその行動。今日のあの時だって……。何もかも見透かしたようなその態度に腹が立つ。
俺が奴からのメールに気づいたのは帰って荷物を下ろしてから一段落した時だった。
女性の名前は間違えるなよ……と