彼女と暮らし始めてから三日経った。毎日の様に純は訪ねてきたため魂魄の警戒も解けていき、仲良くかは知らないが楽しげに話をしている。時々奴の阿呆な発言に拳を入れながら俺も話に加わっている。奴はふと時計を見るとこんな事を言った。
「ねぇねぇお凛々。部活って何時からだっけか?」
「お前に言う必要は無いだろ。」
「ケチ!、ケチんぼ!ハゲ!「遺言はそれだけか……?」おぉ怖い怖い。」
俺が手を上げると奴は大袈裟に怖がって彼女の後ろに隠れた。殴りたい……その笑顔。
「すみません……部活とは一体何なんですか?」
俺がやつを睨んでいると彼女がこう言い出した。
「部活かぁ……。学校に所属するある団体の一つってのだと分かりにくいよなぁ……。」
「じゃあいいじゃん、趣味で。」
「趣味……ですか?」
「そーそー、色々な種類の趣味をやる団体を総称して部活って感じかな。因みにお凛々は剣道部。全国大会出場目指して頑張れー、わー。」
「何その声援超ムカつく。」
「まぁまぁ、気にしない気にしないー。」
「九十九さんは剣道をしていらっしゃるのですか?」
怒りを覚えてる俺に彼女はそう言ってきた。
「ん?あぁ、そうだな。今年は大会の日が奇跡的にバイトと被ってねぇから大会に出れるんだよな。」
「というかその日は休めば良かったじゃんか。融通が効かねぇな。」
「その日は絶対に休むなって言われてたからしょうがないだろ。」
「律儀か。」
「律儀で悪かったな。」
「うん、最低最悪。」
「一回死ぬか?この野郎。」
文面だけ見れば仲が悪いように見えるが俺は大して気にすることは無かった。
「剣道というのは勿論剣を使うのですよね?」
「剣は剣でも竹刀っていう竹で作られた剣なんだ。頭、手、体に判定があって先にその判定がある所に一撃を当てる様にする戦いなんだ。」
「成程……。」
「これがお凛々の持ってる竹刀だよ。」
奴は部活のバックに入っている竹刀を彼女に手渡した。いや、勝手に触るなよ。
「へぇ……これが。何時もの剣よりも軽い気がします。」
「そりゃ勿論これは竹出てきてるから。そっちみたくこの世界……まぁ、この国はそんなにも殺伐とはしてないよ。」
彼女の何気ない一言に奴は引き攣った笑みを浮かべながらそう言った。
「九十九さん、もう一つこれと同じ物はありませんか?」
「いや?竹刀は一本だけだがどうして?」
「いえ、是非とも手合わせをして頂けないかと思いまして。」
「そういやあれがあったじゃんか。」
奴はそう言うと玄関の方へと向かって歩き戸棚を開閉させる音を出した。そしてすぐに戻ってきてある物を差し出してきた。
「たらららったらー!ぼくとー!」
そして阿呆みたいな声、まぁ阿呆その物なんだが奴は何故か家にあった木刀を床に置いた。
「何でこんなもんがあるんだよ。」
俺はため息混じりに奴へ問いかけた。
「何でってお凛々が修学旅行で買ったんでしょ?何を馬鹿な事を。」
「よく覚えてやがったなこの野郎。俺でも忘れてたわ。でもあれだな、防具が無いぞ。」
自身満々に胸を張ってきた奴をさらりと流して俺はそう言った。
「私は防具をつけなくても大丈夫ですよ。」
「しかしそういう訳にもなぁ……」
「でも妖夢さんはいつもつけてないんじゃない?」
「えぇ、そうです。だから大丈夫です。」
「はぁ……じゃあどこでやんだよ。正直目立つだろ。」
「そこら辺はノープロよ。お凛々は妖夢さんを案内しといてね。先行っとくからさ。」
「はぁ?え、おいまさか……。」
「そのまさかだよ。それじゃ、昼過ぎに来てねーじゃあの。」
奴はそう言うと持ってきた鞄を持ち部屋を出た。暫くするとバイクの音が平日の住宅地に鳴り渡っていた。
「九十九さん、中村さんは行ってしまいましたが何処へ行ったのですか?」
彼女は奴の持ってきた木刀を構えてこちらに顔を向けながら言った。
「帰ったんだよ。」
「は?」
俺がそう答えると彼女は間抜けな声を出した。
「いやだからアイツは帰ったんだよ。」
「帰ったとは中村さんの自宅に?」
「あぁ、そうだよ。」
「家に帰る事と九十九さんとの立ち会いをするには一体何が関係しているのですか?」
「まぁ、アイツの家は一軒家の中じゃあまり大きい方じゃないんだ。けれどもなんか知らんけど庭が大きいんだよな。しかもアイツの父親だったかは単身赴任で車の駐車もされてないから剣道くらいなら出来るんだよ。」
「成程……そういう訳でしたか。」
彼女は再び前を向き天井を気にしながら恐る恐る木刀を振り上げて勢いよく振り下ろした。びゅっと音を立てていた彼女の顔は真剣で様になっていたので俺は見とれてしまった。
午後二時頃、俺達は奴の言われた通りに家に行った。奴の家は中学二年の時まではすぐ近くだったが引っ越して今は電車で三十分程度の距離にある。普段は俺は奴同様バイクを使っているが魂魄がいる中で使う訳にはいかない。そのため俺達は電車に乗って奴の家に向かうことにした。彼女は電車が初めて乗るものだったみたいで彼女の世界には無い物を体感していた様に驚き、心無しかわくわくしているように見えた。最寄り駅から徒歩十分弱。正直都心に続くような大きな線路がひいてあって地価の高い立地でこんな豪華な家は凄いと思うのだがこの事に触れると奴は分かってんのかどうか知らないが大袈裟に照れている。ハッキリ言ってうぜぇ殴りたい。」
「来て早々それは無いんじゃない?俺だって傷つくよ?」
どうやら最後の部分は聞こえていたらしい。
「あぁ、悪ぃつい本音が。」
そう答えると奴はハハッ……と力無く笑いながら手招きをして庭へと足を運んだ。
「それじゃあ行きますよ。」
「え、やっぱりマジでやんの?」
「ここまで来てドタキャンかよ。お凛々意気地無いなー。」
「分かったってちょっと待っててくれ。」
俺はやる気満々な魂魄の姿を見て溜息をついた。そしてせっせと防具をつけてから彼女と向かい合った。
「そんじゃ行きますか。」
「よろしくお願いします。」
俺がそう言うと彼女は目の色を変えてこう言った。
カン
最初に剣と剣が交じりあったのは立ち会いが始まって数分後の事だった。身長差をから圧倒的に有利な状況であった俺は彼女の力量を確かめる一つの手として先制攻撃を仕掛ける事にした。彼女はどう対処してくるのか、どのような反応速度を持っているのかを見極めるために。
しかし彼女はというと
寸でのところで俺の先制攻撃を交わしたのであった。
俺の先制攻撃は速い出だしに威力を持ち合わせた一撃である。これを受け止められた事や一本を取れたことはあってもよけられるなんて事は一度たりとも無かった。いくら防具が無いからと言ってもそんな事を誰が予想できたと言うのか。そして彼女は俺の一撃の後素早く下がり再び最初にしていた構えをとった。またさっきの様な攻め方をすると今度はカウンターを受けてしまう、それに相手の太刀筋をまだ見ていないため不用意に近づく事は出来なかった。
そうして俺が攻めあぐねていると今度は彼女が勢いよく接近してきた。
「はぁぁぁ!!」
彼女はそう声を上げて剣を縦に振り下ろしてきた。
「くっ……」
俺は少し重心を後ろに傾けながら受け止めた。
「てい!てやぁ!」
そして休み無く左右から鋭く力強い斬撃がとんできた。
「ちくしょう……」
俺は斬撃の勢いで彼女との距離をとった。その時に足場を確認するため一瞬下を向き、そしてすぐに顔を上げた
すると目の前には彼女の姿は無かった。
「なっ!!」
俺は少しパニックに陥った。すると彼女はその瞬間に俺の首に剣を突きつけて俺は負けを悟った。
剣道とかやった事も見たことも無いから不安……取り敢えず妖夢が凄かったと伝わって欲しい。