「はいそこまでね。」
魂魄が木刀を下げた頃に奴はそう言ってきた。おせぇよと思いながら俺は竹刀を置き、面を外してふうっと息を吐いた。すると彼女はお辞儀をすると近づいて来て言った。
「ありがとうごさいました。九十九さんは反射神経はいいみたいですがそれに体がついていってないように見えます。もっと実践を積んだ方がいいと思います。」
「あ、あぁ。そうか。」
手厳しいなと思いながら俺は返答した。
「しかし最初の動きには驚きました。本気を出さないと負けるかもなんて思いました。」
「お、おう。そか。」
あの最初の動きを躱すのが本気じゃないのかと驚きを覚えながら、そんな奴に本気を出せたのか?という何か不思議な気持ちを合わせて感じながら俺は再び返答した。
「おぉーよかったねお凛々。妖夢さんみたいな方からお褒めの言葉を預かる事が出来るなんてね。」
「あぁ、それについては俺も思った。」
いつもはうざい奴だったが今この瞬間だけは奴に同意が出来た。
「妖夢さんマジ強すぎだよ。何年間やってるの?」
「私ですか?私は自分の年を数えた事は無いので分かりませんが物心ついた時は剣豪とも言えるお爺様に剣術を教わってました。」
「ほー、妖夢さんはお爺さんから剣術を学んでたんだね。」
「えぇ、そうですね。九十九さんはどのようにして剣術を学んでいたのですか?」
「ん?俺か?俺は上手い奴のをずっと見ててそれを完璧にこなす様にやって来ただけだ。」
「そのようにしていたのですか……。因みに剣術をするきっかけは一体なんだったのですか?」
「え、それはな……「んな事今いいから!早く家に入って飲み物でも飲もうぜ!はよはよ!遅いぞお凛々、ハリハリハリハリハゲ!」魂魄……この話は後でだ…………。」
俺は竹刀を持ち直し奴の事を睨みつけてそう言い放った。
「え、は、はい……。」
彼女は少しおどおどとしながらもそう答え、俺達から距離を取った。
「え、お凛々?いくら何でもそれはないよねぇ……。」
奴は引き攣りながらも手を広げて宥める様な仕草をとってきた。
「俺だってこんな事はしたくないさ……。」
「うわっ、くさっ!演技くさ!」
「よろしいならば戦争だ。」
「い、痛くしないでね……。」
「善処する。」
俺は奴の弁解の言葉を一蹴してひゅんと勢いよく腕に竹刀を振るった。閑静な住宅地に叫び声が響いた。
「本当に仲がいいんでしょうか……?」
私は中村さんがビシビシと竹刀で叩かれているのを見てそう呟きました。友達や幼馴染みで長い付き合いならもっと仲良さそうに見える物です。しかし私が見た中で二人が仲良さげに話している姿なんて見たことありません。本当に二人はどのような時間を過ごしてきたのでしょうか……今までこのような事ばかりをして来たのでしょうか……今の私には分かりません。
「それでも……。」
私は分かっています。
「九十九さんは優しい人だって……。」
「さて、取り敢えず家に入るか。魂魄、いくぞ。」
俺は奴を竹刀でペチペチと叩きながら彼女に声を掛けて家のドアを開けた。
「え、入って大丈夫なんですか?」
彼女はそこから一歩踏み出さずにそう言った。すると俺の足元の方から返答があった。
「あー、入っちゃっていいよ。そのまま帰るってのも芸がないしね。なんならシャワー浴びちゃってもいいけどさ。」
「という訳で邪魔させてもらうぞ。」
「あいあい。」
「お、お邪魔します……。」
俺はドアをストッパーでとめた。俺、魂魄、純の順で入り、奴はドアを閉めた。俺は彼女から木刀を返してもらい玄関の隅に防具や竹刀と共に置いた。そして階段を上り、家の二階にある奴の部屋に入っていった。俺達は部屋のベットに座ると、奴は折りたたみ式の机を広げてから飲み物を取りに行くといって下へ降りて行った。
「この部屋も変わんねぇな……。エアコンつけるか?」
俺はそう呟いてから彼女に問いかけた。
「エアコン……は前に行った大きな建物を冷やすための機械ですよね?私は大丈夫ですが九十九さんがつけたかったらどうぞ?」
「まぁ、つけないでいいか……。」
今日の気温は30度越え、一般家庭では昼からゴロゴロとエアコンをつけながら夏休みを堪能しているだろう。因みに俺の借家にはエアコンはついていない。それに前に俺が家に来た時、エアコンをつけるとこれだから現代人は……と嘆いていた。まぁ、勿論殴ってやったが。
「にしてもこの部屋に何かあるか?ウノとかトランプ位しかないだろうな……。魂魄はトランプとか分かる?」
「はい、幻想郷でも一時期流行ってましてババ抜きや七並べは分かります。」
「それくらいなら遊べそうだな……。」
「九十九さん、この中のダンボールって何が入ってるか分かりますか?」
「ん、ダンボール?漫画でも買いすぎたか?中になんか入ってるの?」
「えぇ、こんな本の様な物が……。」
そう言って彼女が取り出したのは大きな立派冊子状の物で、表紙にはには卒業アルバムと書かれていた。
「アイツ……こんな物を掘り出してたのか。」
「あのこれは一体……?」
「あぁ、これは学校って言う、そっちの寺子屋のようなシステムがあって、そのシステムを全て終了するまでの様々な思い出や出来事が記録されているものなんだ。」
「成程……という事はこれは九十九さんと中村さんとの友情の証なのですか?」
「まぁ、その一部が記録されてるちゃされてるな。」
俺がそう言うと彼女はパラパラと捲り始めた。校外学習、合唱コンクール、修学旅行、これまで教わってきた先生、そして……、様々な記憶や思い出が蘇ってきた。すると彼女は一つの写真を見つけてこう問いかけてきた。
「あの、これは九十九さんですか?」
その写真は俺と、眼鏡をかけた男と、肩まで伸びた髪を持つ女性が楽しそうに肩を組んでいるだった。
「こんな写真とったかな……。あぁ、これは俺で間違いは無い。」
俺はそう言って真ん中の男を指さした。
「この仲良くしている男の人は一体誰ですか?」
すると彼女は更に疑問を覚えたみたいで隣の男を指さしてきた。
「ん、コイツか?」
「はい。」
「コイツはアイツだよ。」
「アイツ?」
どうやら俺の説明不足で理解してもらえなかったらしい。
「いや、だからアイツだよ。純だよ。」
「純とは、中村さん?」
「あぁ、まぁ今と違って髪の毛も上げてるし眼鏡もかけてるからな。まぁ、無理も無いか……。」
俺は顎に手を当て、少し上を向きながら呟いた。
「へぇ……この人は中村さんなんですか……。」
彼女もまた、その写真を見て呟いた。
「それにしてもこんな写真が見つかるとはな……懐かしいな……。」
「そういえばこの隣の方はどういった方だったんですか?」
「どういった……ねぇ。まぁ、根は真面目でしっかりしてて器用な奴だったよ。人見知りもするし、お化けが怖いとか言ってたけど、優しくて、気を許した奴には徹底的に尽くす奴だったな。」
俺は遠い空を見ながら薄ぼんやりと昔の楽しかった思い出に浸っていた。今までよりは俺はもっとやんちゃで純は冗談一つ言わない純粋な奴だったなぁ……。勿体無いなぁ……こんなに大切にしていた日常が
もう手の届かないところにあるなんて
「九十九さん……。」
私は彼の話してくれたその女性について気になりました。その人を話す九十九さんは何だか懐かしそうで、少し楽しそうで、とても儚く、悲しい……。私は窓の外を見ている彼の姿を直視する事が辛く、ちらちらと目線を合わせないようにしていました。そんな彼を見ていると
私は彼の事をもっと知りたい。彼の力になりたいと思いました。