暫くすると純が部屋に入ってきた。奴は麦茶をテーブルに置くと俺に向かってこう言ってきた。
「ねぇお凛々?僕は客人が来る時くらいはエアコンの電源を入れないって言うほど鬼じゃないよ?妖夢さんに酷い仕打ちをするなんて……。」
皆さんお察しの通り殴ってやりました。
俺は痛がっている奴の姿を見ながら言った。
「にしてもこんな物掘り出してたなんてな、何で出したんだよ。」
「んー?トランプだけじゃ話題を引っ張れそうに無かったからかなー?」
「ふーん、あっそ。」
「何で疑問形なの?とかの返しは無いの?」
「ねぇよ。アホか。」
「ひっでぇな。」
これは奴なりの配慮だったのだろうがそんな事は知ったことか。そんな様子を気にせずに魂魄は奴にさっき俺に見せてきた写真を渡した。
「中村さん。これって本当に中村さんなんですか……?」
奴はそれをちらりと見ると彼女に視線を合わせて言った。
「んー、それ?そだよ、僕の写真だよ。」
「ほ、本当なんですか……?」
「信じらんない?じゃあちょっと待っててね。」
奴は彼女の呟きにそう言うとわしゃわしゃと髪の毛を下ろし、バックの中にあった青いケースから眼鏡を出し、つけてから再び彼女の方へ向いた。
「どう?今はちょっと髪の毛が短いからそっくりとはいかないだろうけどさ。」
そう言われると彼女はその写真と奴のかおを何度も往復した後にはっとしてある事に気がついた。
「本当だ……中村さんに似てますね。」
「似てるんじゃなくて本人なんだがな。」
「お凛々の言う通りだよ。」
「そ、そうでした。すみません……。」
彼女は奴の正面に体を向けて頭を下げて言った。
「いやいや気にしないでいいよ。そう分かる人はいないよ。まぁまぁそれはともとしてトランプしよう?」
奴は彼女の方にブンブンと手を振り笑って話をそらした。
「取り敢えず、ババ抜きから始めよう。二人ともそれでいい?」
「んー?オッケーオッケー。」
「あ、はい。私も大丈夫です。」
俺は二人の返事を聞くと直ぐにトランプを箱から取り出しシャッフルを始めた。
二時間程、俺達は七並べ、ババ抜きをずっと続けていた。すると魂魄に異変が起きた。
「これで八連敗……。どうしてそんなにもジョーカーの位置がわかるんですか?」
理由は簡単、俺達が勝ち続けていたのだった。
「何でって言われてもねぇ……勘?」
「中村さん……貴方は霊夢さんですか……?」
「霊夢さんってのはその凄い人間だっけ?別にそんな大層な事をしてないよ?」
「嘘つけ。お前アレやってただろうが。」
「アレ?」
俺が奴の発言に鼻で笑ってからそう言うと、彼女は俺の発言に食いついてきた。
「アレをやってのける奴が大層な事をしてないはずないだろう。」
「そうかな?お凛々でも出来そうな気がするけどね?」
「無理だろ、本気に勝ちにきやがって。」
「許してヒヤシ「分かったから黙ってお茶もってこい。」冷たいなぁ……。」
俺がそう言うと奴は立ち上がったあと伸びをしてあー立ちくらみや……と呟きながらリビングへと向かった。奴が部屋から見えなくなると彼女は俺に近づいて耳に口を当てて囁いてきた。
「あの……中村さんが言ってた方法ってたアレってなんですか?」
「え……あぁ、アレの事か簡単な話だよ。
アイツはジョーカーから目を離してない。」
「え、どういう事ですか?」
「ジョーカーが自分の手札にした後に、俺が引くとする。そうしてから奴はその引かせたジョーカーだけを見ている。俺の手札の何処にジョーカーがあるのかをな。次に魂魄がそのジョーカーをひいたとすると、次は魂魄の手札ばかりを見て自分が引かないように操作してる。」
「え、それならシャッフルすれば?」
「アイツにシャッフルが通用するとしたら一個一個を丁寧に組み替えていくしかない。二枚、三枚、四枚はシャッフルが短調になるから本気のアイツには無駄なの事だ。」
魂魄には信じ難いかもしれないがこれは事実だ。一度その手解きを受けた事があったがそこまでやるのか……と思った程だ。混ぜた回数が奇数か偶数かとか、手の動きとかで判断するとか無理に決まってんだろ!と叫んだ物だ。
「成程……だから私は勝てずに中村さんは最初にあがってばかりだったんですね……。」
彼女も納得し俺も一通り説明を終える頃奴は麦茶の入っている容器自体を持ってきた。コップを持って行って無かったのはそれが理由か……と思っていると奴は麦茶を入れながら俺に話しかけてきた。
「お凛々、今日って木曜だよね?」
「ん?あぁ確かに木曜だな。」
俺はふと壁に釣り下がっているカレンダーを見て言った。
「バイトじゃないの?」
「は?」
俺は奴の言葉を二重三重に繰り返し記憶から呼び戻してからある事に気が付いた。
「あ、そうじゃん。今日あるわ。」
俺はすぐに時計を見た。トランプをしたり卒業アルバムを見ていたため四時半近くを差していた。俺はすぐにやべぇと呟き、すぐに帰る支度をし始めた。それを見ていた奴はタンスからある鍵を取り出して俺に渡してきた。
「はい。シャッターには鍵かかってないからこれでちゃっちゃと帰りなされ。あと防具は俺が妖夢さんを送る時に一緒に持ってくからさ。」
「あぁ、悪ぃ。助かる。妖夢!悪いけど純と一緒に帰ってくれ。12時を超える前には帰れるから。」
「は、はい!分かりました。」
俺は最低限の事を二人に告げすぐ様奴のバイクに乗って家へと帰った。
「行ってしまいましたね……。」
「にしても危なかったなぁ。まぁ気づけてよかったよ。」
「はい。それにしても……」
「……?」
それにしても何でしょうかこの空間は。何となく気まずい感じがします。私が中村さんの事を知らないからでしょうか?さっきまでの楽しさがどんどん冷めていく感じがします……。彼がいないと寂しいというか、残念というか……。
「妖夢さん、どしたんですか?」
「あ、いえ。私は別に……。」
「もしかしてお凛々がいないから寂しいんですかー?」
「なっ!そんなの事は……。」
私はいきなりの発言に大声を出してしまいました。その様子を見ていた中村さんはニヤニヤとしながらこっちを見ています。
「あれれぇ、もしかして図星ですか?」
「…………。」
九十九さんが彼を殴りたくなるの分かる様な気がします。
「それにしても久しぶりだったなぁ……三人で遊ぶのは。」
私は彼の急に発した言葉を聞いて先程卒業アルバムというもので見つけた中村さん他、三人で写っている写真を思い出しました。
「そういえば先程トランプをする前に見せた写真ありましたよね?」
「んー?あぁ、あったね。」
「あと一人……写真に写っていた女の人がいましたよね。」
「女の人?あぁ……いたね。」
「その人って二人にとってどんな人だったんですか?」
私は純粋に興味を持ちました。聞いた限りでは十年以上の付き合いだと聞いたので今の関係が気になりました。
「んー……とても難しい事聞くね。」
「そう……なんですか?」
「まぁ複雑な関係なんだよねぇ……。」
なんと中村さんが珍しく曖昧な返答をしてきました。
「ぜひとも聞かせてもらえませんか?お願いします。」
私は九十九さんの事を知りたい一心で中村さんに頭を下げました。暫くすると大きく息を吐く音がしたとともに中村さんの声が聞こえて来ました。
「……分かったよ。その代わりお凛々には秘密だから。」
「はい!勿論。」
その声を聞いて私は勢いよく頭を上げそう答えました。
「ふぅ……。これは一人の少年が不幸の中で見つけた一筋の光と共に生きていった物語……。」
そして彼は湯呑みに残った麦茶を飲み干した後に語り始めました。
九十九凛という名前の彼の過去を。