昔ある所に、まぁ昔と言っても十年やそこらの前の話。あるところに二人の夫婦がいました。とても裕福な家庭と言い切る事は出来なかったけれど夫婦円満で毎日を過ごしていました。
ある日妻が子どもを身ごもりました。初めてな事だったので不安や悩みもあったみたいでしたが、新たな生命の誕生に二人とも歓喜でいっぱいでした。
そしてその子はきちんと大きな問題も抱えずに元気な男の子が産まれてきました。お父さん言わくその生まれてきた赤ちゃんはお母さんに似て可愛いという事から名前を「凛」と名付けられました。彼はすくすくと育ち幼稚園児、小学生とどんどん成長して行きました。
そんな小学一年生の夏休みの事でした。
コーラを買ってくるという理由で親は出掛けると言いました。彼も一緒に行こうと言われたみたいだったけど彼は自分はもう子供じゃないんだと、大切な二人の時間を邪魔しないようにと留守番するようにと言い張りました。初めての申し出に二人はびっくりしていましたが彼の必死の説得に困惑しながら、二人は彼に留守番を任せて出掛けました。
留守番を自ら買って出たとは言ってもまだ一年生。いつもは親がいるけれどいざひとりになってみるとやはり寂しいものでした。まだ帰ってこない……まだ帰ってこないと待ち侘びているとインターホンの音が聞こえてきました。親の見よう見まねでジャンプして受話器をとりもしもしと声を掛けました。
受話器から聞こえてきた第一声は彼にはあまり馴染みのない「警察」という方々でした。
警察
九十九さんからは町の治安や警備をする団体と聞きました。幻想郷でいう慧音さんや霊夢さんみたいな感じらしいです。
「それは一体何故?」
悪い事をしていない彼には全く関係ないはずです。しかし何故なのでしょうか。私は疑問でいっぱいでした。
「……まぁ単純な事なんだけどね。」
中村さんは軽く息を吐いてから続けました。
その警察という方々はここを開けろと言いました。彼は扉の向こう側に危険を感じて扉を開けずに無視をしました。怖い、恐ろしい、助けてなどと思って暑い中布団に潜りこんでいました。日も暮れ始める頃再びインターホンの音が聞こえてきました。恐る恐る近くの窓から覗いてみると小学校の担任の先生とそのクラスメイトの子が大勢いました。彼はホットして扉を開け、飛び出しました。彼は先生達の前でわんわんと寂しかった事、怖かった事などを話して、泣き、叫び、そして慰められました。
彼は一段落してから再び警察に話し掛けられました。彼は警戒を続けていましたが周りには仲間がいると思い前よりは心を強く持てました。そんな彼へと警察が言った事は簡単な事でした。
「貴方の御両親は……
お亡くなりになりました。」
その言葉だけを聞いても彼には理解出来なかった。だから学校の先生達にその意味を聞いてみた。すると先生達は少し狼狽えながら彼に言った。
凛君、君はもうお母さんとお父さんに会えないんだ。
何で?それは嫌だ。どうして?僕はお父さんに迷惑をかけたつもりじゃないのに……お母さんの事が大好きなのに……。そんなそんな……何で何で何で……どうしてどうして?やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ……
彼の頭の中はぐちゃぐちゃでごちゃごちゃで何が何だか分からなかった。けれどこれだけは分かっていた。
僕が悪かったんだなぁ……と
彼の両親は事故死であった。スピードを上げすぎたトラックにはねられて即死だったという。小学一年生の彼がこの言葉の意味を知るのは彼が小学校の高学年になった頃だった。
「そんな事があったんですか……。」
私は彼の身に起きた出来事に絶句していました。そんな日時の一時で大切な人を……失うなんて。幼い私の身にそんな事が起きて立ち直れる自信なんて私にはありません……。
「そ、でも同情なんかしても無駄だよ。凛にはもう過ぎた事だし。そんなことされても今の妖夢さんには迷惑だと思う。」
「そんな事……」
分かっています……そんな事くらい。それでも私は……あれ?今、中村さんはなんて?
「あ、あの、中村さん?今貴方は「さて、話を続ける?」……お願いします。」
私は心に僅かなしこりを残しながら中村さんの話を聞くことにしました。
それから彼はまもなくして母方の姉に、彼にとって伯母に当たる存在にあずけられた。彼の伯母にや伯父は彼の事を歓迎してくれた。二人には彼より一つ下の娘しかいない他、よく家にいて可愛がってくれたというのもあったからである。しかし彼の顔は少しやつれ、元気の無さそうに返事をするだけだった。頭は縦に振るか横に振るかだけ、晩御飯のメニューを聞いても「なんでもいい。」と冷淡に答えるだけ。次節、彼の部屋から泣き声が聞こえたりと心を特に傷つけていた。彼をどうにか変えようと必死に考えてみても上手い考えが浮かばず、伯母、伯父の知り合いや友達を訪ねて聞いてみてもこれといった進展が無かった。
そんなある夜の日の事だった。
彼が早々に寝ようと布団に入ろうと部屋に戻った。その布団は彼が見た時には布団はもぞもぞと動いていた。彼は少し怖くなって暫く遠目でその動く布団を見ていた。すると布団は動きを止めた。
そして
「暑いよ!凛君はまだなの!?」
「うわっ!」
中から小さな少女が現れた。
「あれ、凛君いたの?」
「え、うん……いたけど。」
彼は彼女の言葉にそわそわとしながら答えた。目は逸らし貧乏ゆすりをしている。
「あのね凛君……また一緒に遊ぼうよ?」
「でも僕は……。」
彼にはまだ親を簡単に忘れる事は出来なかった。毎日夢のような生活だったのにも関わらずいきなりこんな事が起きてしまうのだから無理はない。
「あのね。お父さんやお母さんが死んだのは僕のせいだと思うんだ。僕がいたら守ってあげれたかもしれないのに……。」
そして彼はこうも思っていた。自分勝手にそんな事言わなければ良かったのに、自分が悪かった……と。
「僕が自分勝手に動くと皆に迷惑を掛けちゃうんじゃないかな……。それが嫌だから、好きな人が傷つくよは嫌だから……。」
彼がすべきだと思っていた事は一つ。迷惑をかけない様に、誰とも関わらない事だった。
「だけどね……僕……出来なかったんだ…………。花穂ちゃんの事忘れようと思っても、伯母さんの事も伯父さんの事を考えると……何だか……悲しっ……くて……。僕…………どうしたらいいか………………。」
言葉を紡ぐ度に彼の目からは大粒の涙がポロポロと流れた。彼女はその様子を見ているとそっと彼の手を握った。そして息を大きく吸いこんで言った。
「凛君!!泣いちゃダメだよ!!」
目の前の少女の突然の声に涙が出るのも忘れて顔を上げた。
「お父さんが強い男の子は泣かないって言ってたよ!凛君はまず強くなるの!」
そして彼女は彼に向かって抱き着いて言った。
「辛い時、悲しい時は泣かないで私に言って!凛君は泣いちゃダメなんだから!!」
「で、でも……。」
「……私が本当のお母さんのかわりになってあげるから……凛君の事を一生支えてあげるから…………泣かないで……。私はまた凛君とかくれんぼがしたいの……。」
「花穂ちゃん……。」
彼もまた彼女の背中に手を回した。
「お願いだから……一生のお願いを使うから……。また遊ぼう?」
彼女もまたうっすらだが涙を浮かべていた。彼はそれに気づいてかは定かではないが涙をぐっと堪えて言った。
「うん……。約束だね。」
二人は互いの子指を絡ませて声高らかに言った。
ゆ〜びき〜りげ〜んま〜ん!!
うそついたらはりせんぼんの〜ます!!
ゆびきった!!!!
二人は笑顔のままだった。
「花穂?何処にいるの?」
一人の女性は二階の階段を登りながら叫んでいた。すると目の前にはある部屋を覗く彼女の夫がいた。
「何してるの?」
彼女は肩を叩きながらそう言うと、彼は振り向いて笑顔を見せながら扉を少し開けた。彼女が覗くとそこには
幸せそうな顔をした、二人の子供が布団からはみ出るような体制で寝ていた。
二人は顔を見合わせてくすりと笑うと、扉を閉め寝室へ向かった。