ヘルヘイムの力を感じたその場所に到着したその時、最悪な事態が起っていた。
チームレッドバロンのリーダー曽野村にヘルヘイムの植物が巻き付いていく。
ルクア、お前は…
「やめて兄さん」
ルキアの叫びに俺も悲しくなっていた。操られているわけじゃない。
自らやっているそんな、ルクアに俺は何とも言えない。
「ちっ…あんたも来たのか。で、鳥とでも呼べばいいのか?」
やっぱり俺には反応するのか。認めてもらおうとは思っていない。ただ、これだけは駄目だ、ルクア。
「ああ、鳥でもいいから、さっさとそこにいる奴のヘルヘイムの植物外してやれ」
俺はさっとルクアを睨んだ。まあ、姿が白い鳥だからそんなに厳しい顔に見えないかもしれないが。
「いくらあんたに言われても、外せないね」
その一言に、ルキアがため息をつくと、そっと曽野村に近づいていくヘルヘイムの植物に手を翳す。
兄のやっていることが許せないんだろう。
すると、スルスルとヘルヘイムの植物が引いて行った。
「毒は注入されてません。早く逃げたほうがいいですよ…しかし、兄さん。白い鳥様の言葉すら聞かないなんて」
そうだな、やはりガツンと言わなきゃいけないよな。俺がなよなよしていたら、この世界に迷惑がかる。
あの世界も大切だが、この世界は俺達にとってあの世界と変わらないほど大切なものだ。
「だから、その呼び名はやめてくれ…ルクア、今回の件帰ってからな。言っとくが、さすがに許さないからな。…あとそこのお前、あんまそういうことばっかりやってると、俺達が相手になるが」
レッドホット達はすぐに逃げ去っていく。相変わらず、最低な連中だな。やってることがまるで変ってない。
まあ、あの時もロックシードでインベス操って、店を襲うような連中。変わるわけはないか。
それよりも、ルクアだ。
「許さないって?何が悪いんだ。この世界の連中、身勝手で俺をあんな中に閉じ込めたり、力がないわりには力に頼ろうとしたり。はっきり言って、なぜお前が固執するのかわからない」
その言葉に俺はため息をついた。
「一面だけみて、勝手に決めるな。俺はこの世界にいる仲間を信じている。ここには優しくて、皆を守ろうとした連中だっていた。あんな連中ばかりじゃない。それにさ、あいつらまでは正直自信ないが、中には間違いに気づいてやり直せる奴だっている。だから、俺はそういう人達を信じて味方でありたいと思っている」
わかってくれと言っても、無理だろうな。俺と違って、ルクアは元々人間なのかどうかもわからない。別の存在だった頃の記憶をもっていないからだ。
「あのさ、あんたは弱い割にいちいち言ってくるよな」
「兄さん、白い鳥様は弱くないです」
あんま強いとか弱いとか気にしていなかった。力の使い道を完全に変えたからかもしれない。
破壊と創造を司る力。
目に見えて見えるのは破壊の力の方が理解しやすいのかもしれない。でも、力なんて見せつけるためにつかうものじゃない。
俺が今使っている創造だって、立派な力だと俺は思っているんだけどな。
「よくいう。ビルス様に比べれば」
俺、ビルスと戦ったことあったけ?
そもそも、そういやあ本気であの世界で戦ったことなかったな。平和というより、侵入者がいても戦わせてもらえないためだろうな。そのビルスに…
「それは、あくまで白い鳥様が本気で戦わないだけでと、聞いたことがあります」
「あくまで噂。弱い鳥なんかに指図される謂れはない」
パシン
よほど頭にきていたのか、ローズがさっと移動しルクアを平手打ちしていた。
その音が鳴り響いているため、とても痛そうに感じる。
「いい加減になさい。ビルスがいいなら、ビルスの傍にいけばいい。ただ、あなたのやったことを正当化できることではない。子供だからって何やっても許されるわけじゃないの。ちゃんと自分で責任をとりなさい。…実際、ルシアがどこにいるのかもわからない。それも平気なの?それに、この世界の人を恨むのは勝手だけど、あんたのせいでこの世界が危険にさらされたのも事実。理解なさい」
ルクアはローズを睨みつけていた。だが、その力を知っているためか抵抗はしていない。
結局、力でしか推し量れないのか?
俺の望む未来って、なかなか難しいよな。
「できない…だけど、ルシアは取り戻す。それまでは協力してやる。それでいいんだろ?」
「偉そうにしないで。貴方のせいで主様は巻き込まれたの。…一つの方面しか見れないのでは、貴方はそのビルスの傍にもいれないわ。主様、申し訳ありません。つい手を挙げてしまいました」
「そうだな。力で物をいわせたんじゃ、結局意味ないよな。…でも、ありがとうローズ。さあ、人も集まってくるし。とりあえず行こう。…ルクア、なんなら帰ってもいい。俺達でルシアを取り戻すから」
「…俺のせいだ。そこは認める。ルシアは俺の大切な弟。だから、俺はその間はあんたの傍にいる」
そこには決意の目を向けていた。俺としては正直戻っていてもらった方が楽だった。
とはいえ、ルクアはルクアなりに反省しているのはわかる。本当は認めたくない俺の傍にいると言ったのもそのためだろうな。
「わかった。さあ、探しに行こう」
これ以上目立つわけにはいかない。それに一刻も早く、ルシアを見つけないと…
そう思って色々と探したが、一向に感じ取ることができない。何らかの力が働いているのか?
「一度、御神木にもどろう。あそこが一番落ち着ける」
「そうですね。主様」
あれは、俺と舞がもう一度この世界に現れた際に、できたヘルヘイムの植物が個体で残ったもの。そして駆門戒斗が眠る場所だ。
あそこはもはや鎮守の森とかして、人もなかなか寄り付かなくなっている。なにより、俺達にとってあそこが、俺達の世界へとつながっている出入り口だ。
御神木に到着をしてさっとその目を向けた時、正直驚いてしまった。
まさかミッチがここにきているとは、思ってもみなかったからだ。
「良いとこに目をつけたよな…確かにここは避けては通れない場所だ。…で、俺達に何か話があるのか?」
さすがだなミッチ。やっぱりお前はすごいよ。
昔っから頭良かったし、色々作戦練ったのもお前だったよな。
なんかあの時が本当に懐かしいよ。
俺はそんなことを考えながら、ミッチにその視線を向けた。ミッチはじっとそんな俺を見つめてくる。
「あんた達なら、奴等がヘルヘイムの植物を繁殖している場所を感知できる筈ですよね…教えてくれ」
そっかそうだよな。俺は思わずため息をついてしまう。
わかっていたら、俺達も動いているんだけどな。
「教えるもなにも、知りたいのはこっちだ。…気づいているだろうが、あと一人俺達の仲間が捕まっている。捕捉できてたら、既に行って救出している。どういう力を使ってか、捕捉出来ないようにされている。とはいえ、どんな技を使っても地上で起こっていたら、俺は捕捉できている。つまり、相手は地下にいるということ。そこまでは俺達も把握できている」
そう、どういう力なのかもわからないけど、ずっと探れていない。おかげでずっと手をこまねいていた。
こっちはとっとと片付けて自分たちの世界に戻りたいんだけどな。
「あんた達は、自分の仲間を見つけたら帰るんですよね。その言葉に嘘は?」
ミッチ、俺だと言えば信頼してくれるのかもしれないけど、それはしちゃいけない。
今回は戻ってきていることを知られちゃいけないんだ。
仕方ない。俺は異世界のオーバーロード。そう演じるしかないか…
「信じろと言っても、俺達は異世界のそれもオーバーロードのようなもの。…まあ、あんた達にとっては異質な存在。信じないのもわかるから、信じてもらおうだなんて思ってもいない。ただ、どんなことがあっても、俺達は必要以上の者とは戦わない。…こんなことのために、ここに来たのか?」
こんなこと俺の本心じゃない。でも、こう言うしかない。
なんかすごく虚しく感じてしまう。
ミッチ、ほんとごめんな。
「信じる信じないというのは別ですが、あなた方の理念は分かりました。それで、自分の仲間を救うために頑張っている、あなた方を応援したいのですが。この世界の特に沢芽市のことについては、僕達の知識が上です。情報もそれ相応のものを持っています」
「なるほど取引ですか…主様はこういうのは不得意なので、わたくしがお答えしましょう。 確かに我等は異世界のもので、沢芽市でしたっけ?ここの知識はあなた方より劣ります。しかし、主様を危険に晒すわけにもいけません。あなた方がわたくし達を信頼してない以上、どこかで命を狙ってくる可能性も否定できない。そのような状態での協力はありえません」
ローズ、恐らく俺の気持ちを察して言ってくれたんだろうが…
「ローズ…言いすぎだ。確かに俺達の事を認めてもらおうとも、慣れ合うつもりもない。お前たちと俺は別な存在。相容れない存在であることは俺自身わかっている。それに命を狙われることくらいな。異質な存在って忌み嫌うからな。情報共有、ある程度なら了承した。それでいいか…それで他に知りたい情報でもあるのか?」
そうなんだ。もはやオーバーロードになってしまった以上、この世界では排斥される存在。その上、俺はあの力を手に入れている。だからこそ、距離をおかないといけない。
「あいつらは何故、ロックシードに一人だけ封じ込めなかったのか。その辺の理由の想像は・・・」
ロックシードに閉じ込められていなかったのか。
つまり、考えられることは一つだな。最悪な事態になっている。
「ルシアのことか。恐らく、あいつを研究対象として見たんだろうな。ヘルヘイムの力を手に入れようとでもおもってんじゃないか?ルシアは特殊な存在。その辺に気付いたのなら、ルシアを手放さないのも分かる」
「特殊な存在?ただのオーバーロードじゃないのか?」
オーバーロードを俺達のようなものに限定すれば、オーバーロードとは言えないかもしれない。彼らはあくまで進化をしたもの。元をただせばインベスだ。
それを説明してもわからないだろうし、ミッチにも詳しくは話せない。そもそも、下手をすれば俺達の正体に気付いてしまうかもしれない。ミッチは昔から、俺と違って勘が鋭いから。
「難しいとこだよな。以前の記憶は彼らにはない。だが言語や道具もつかえヘルヘイムの力も操ることが出来る。個性もあるから似たような存在と言っている。詳しくは言えないけど、奴らからしたら良い研究材料としてみるなら最高の素材となるんだろう」
そう言いながらが怒りが抑えられない。俺の目が激しく光ってしまう。ルクア、ルキアもかなり怒っているようだ。その覇気を感じ取ることが出来る。
ローズはそんな俺を心配してなのか、じっと表情一つ変えないまま見つめてきた。
「ヘルヘイムの力なんて簡単に扱えるのか?」
ミッチ、それはどんな冗談だ?
それはお前がよく知っているだろ?ヘルヘイムの力を操れるなんて、簡単にできていたら俺達はあんな力に手を出していない。
「そんな簡単に扱えれたら、苦労してないだろう。…ヘルヘイムの力を手に入れようとすれば、それ相応の代償は受ける。それすら気にしないなら別だろうけど…まあ、奴らはまともじゃないというのはわかる。まともなら、こんな力に好き好んで手を出したりしない」
そう、代償を受けるんだ。それはもはや、ずっと俺達が背負うことになるもの。まあ、後悔は決してしていない。こうなったことも、最後は自分でちゃんと選んだんだしな。
「ですよね…じゃあ、もしかしたら奴らの狙いは…でもそれは…」
そのミッチの言葉に、ローズがふふっと笑っている。まるで、人間を馬鹿にした表情を見せていた。
ローズにとっては飽きれているんだろう。俺達がやってことを知っているから…
「いるのね。そういう奴って。…この世界でそれを手に入れれば排斥される存在になるだけ。それでも力を追い求めてしまう。…ほんと、人間って悲しい存在ね」
そう言っているのに、ローズの顔は笑っている。飽きれているのと馬鹿にしている事があわさっているのだろう。ルクトもどこか馬鹿にした笑みを浮かべている。
俺は悲しかった。俺達はそんなために救ったわけじゃない。まあ、認められようとも思っていないし、理解してもらうためじゃない。自分たちがそれを望んだ結果だ。
ルキアのみ、そんな俺に同情的な視線を見せていた。
「それでも、僕は守ります。…それが僕にできることだから。ありがとうございました。またわからないことがあれば来ます」
自分だけ情報を得て、逃げる気か?まあ、ミッチらしいけど、そうはいくかって。
「まってくれ、こっちも聞きたい。どんな人間が関わっている。…それも分かっていないのか?」
「それを聞いてどうするんです?貴方たちに言ってもわからないことでは?」
「ヒントくらいにはなる。俺達も本気で仲間を探している。だからこそだ」
ヒントどころじゃないけどな。確かに復興しつつあるこの世界の事は把握できていない。だが、昔の沢芽市なら嫌というほど知っている。俺達にとってここはずっと生まれ育った場所だ。
「一応、かつてこの世界にヘルヘイムの浸食があった際にその研究をしていた戦極凌馬という男にかかわり合った研究者と、謎の宗教団体永久の花。さらに、錠前ディーラーとなぞのDJクロスという男あたりが関わってる」
「なんか厄介そうだな」
そう答えながら、その厄介さは理解できた。戦極凌馬の関連となれば、それなりにヘルヘイムの知識があるはずだ。そもそも戦極凌馬に関わっている研究員がまともなわけないよな。
しかし、宗教団体永久の花?なんか、嫌な予感しかしないな。さらにDJクロス?
サガラがいるはずはないし、なんなんだそいつ?
沢芽市に平和って、ほんとなかなか訪れないのか?
うん?この感じは・・・
「主様感じましたか?」
「ああ、またヘルヘイムの浸食?行ってみる価値はありそうだな。…すまないが俺達はこれで」
そう、放置できない規模だ。だが、そこにはルシアがいる気配はない。
一体何が起こっているにしろ、行ってみるしかない。
俺は力を使うと、ローズ、ルクア、ルキアとともに移動した。