俺達はこっそりその建物に入って、オーバーロードとルシアの気配を探っていた。
ルキアも同じように感覚を研ぎ澄ましている。兄弟だからこそ、俺よりも感じ取れるはずだ。
「白い鳥様、ルシアを見つけました」
「よくやった、ルキア。行こう。二人でルシアを迎えに」
ルキアは嬉しそうに頷いている。
ルシアはいつもルクアにくっついていっているが、ルキアとしてはどのみち兄弟であることに変わりはない。だからこそ、心配もするし助けたいと思うものだろう。
ルシアの場所に移動したとき、ルキアは急いでルシアの元に向った。
ルシアは、訳の分からない液体に入れられ、そこにいる。ルキアは自分の爪を攻撃形態に変化させる。必死に叩きつけるが傷一つつかない。
ルキアはまだ子供だ。攻撃力はオーバーロードよりも劣る。
「ルシア…助けたいのに」
泣きながらそうやっている姿に俺も悲しくなった。
こういう時のためにある力。確かに、負担がかかろうと俺には関係ない。
「ルシア、今助ける。ルキア、危ないからそこをどいてろ」
俺はさっと形態を変えた。
そう、これはあの力の欠片。だからこそその力は普通のオーバーロードをも凌ぐ。
そっと黄金に輝く爪をあてただけで、その謎の素材でできた入れ物はわれ、液体と共にルシアが出てきた。
そっと、その頭をなでてやると、さっとルシアが目を覚ました。
「僕はなんでここに?…それにあんたは誰?」
そうか、この実験のせいで力を使いすぎたようだな。俺の気配を感じることができないのか。
「お前のよく知る者だよ。先に戻ってろ。俺の本体がお前を治療するから心配すんな」
「本体…まさか、あんたなのか。ルクア兄ちゃん、怒らないでくれよ。兄ちゃんは僕のために」
「そのあたりは帰って聞くから。さあ、戻っててくれ」
そっと俺が手を触れると青く光り輝いた途端、ルシアはその姿を消した。これで戻れたはずだから、大丈夫だ。
俺はそっとその姿を鳥に戻す。
さすがに、使いすぎてふらふらになってしまった。
「大丈夫ですか。白い鳥様」
落ちる俺を拾って、ルキアが心配そうにしている。
「無事だって、もう残された時間は少ないけど、なんとかな。…それより、やらなくちゃいけないことがまだあるんだ。倒れている暇はない」
そう言いながら起き上る俺に、ルキアは笑いかけていた。
「白い鳥様、僕を頼ってください。皆を助けたお礼です。僕の肩にいればだいぶ楽でしょ?それに普通のオーバーロードを追い込むくらいなら僕にもできます」
そうだな。頼ってもいいか。
俺達は仲間だしな。それにみんなを助けるためにも、無理をするわけにもいかない。
俺はそっとルキアの肩に乗った。それだけで楽になる。
「移動も僕の力使いますね。白い鳥様ほどじゃないけど、軽くなら移動できますから」
「ごめんな…なんか俺…」
「それ以上は言わないでください。そろそろ彼らを助けるんですよね」
そう、そろそろ皆が来てるころだろう。早めにあの訳の分からない機械人形を処理しないと、あいつらの身に危険が。
「ああ、行こう」
やはりか、このままいけばこいつはこの姿で貴虎やミッチを傷つける。
そんなのはゆるせるか。
「いや、それは…」
そう葛葉紘汰の機械人形が言いかけたときだった。ルキアがその背にさっと爪を突き立てた。
「こ…紘汰さん」
ミッチが駆け寄ろうとするのを、貴虎が止めている。
頼む。冷静に判断してくれ。こいつはお前たちが思っている存在じゃないんだから。
「どういうことか、説明してもらおうか」
貴虎の言葉に怒りが感じられた。
そんなに心配してくれているのか皆は…
なんかそんなことを考えると、俺は頭にきていた。そもそも、こいつの姿は本当に許せない。貴虎やミッチの思いをこれ以上踏みにじるのはゆるせない。
冷たい目を俺はその機械人形に向ける。
「こいつを始末したら、ゆっくり話す。…ルキア、やれ。こいつまだ動ける」
「白い鳥様、分かりました」
ミッチと貴虎は同時に変身し、ミッチはブドウ龍砲を貴虎は無双セイバーを構え、銃を放つ。
その銃弾をあまり使いたくないが俺の力で防ぎ、ルキアの爪で機械人形を引き裂いた。
「何をするんだ」
「貴様…よくも葛葉を」
ミッチと貴虎が動こうとしたその時、ルキアがヘルヘイムの蔦を操って、貴虎達の動きを封じていた。
それとともにこの機械人形からいやな感じがする。
こいつは・・・
「ルキア、そいつから離れろ。爆発する」
ルキアは、さっと後ろに飛ぶと、機械人形は思った通りに爆発した。辺りには機械の部品のようなものが散乱している。
元からこのように設定してるんだろう。なんか、嫌なもん見た気分で本当に胸糞悪い。
「正直、あんた達をずっと見てた訳じゃないから知らなかったが、こんな奴、よく信頼したな」
そうだ。気付いてほしかった。これが偽物だと。
信じてくれるのは本当に嬉しいが、それでこんな危険な目にあってたら、これから先、いくら命があっても足りない。俺も全て助けられる訳ではないし。
「なにがだ…お前に紘汰さんの何がわかるんだ。やっと戻ってきたのに。こんなことって…」
ミッチは怒りでヘルヘイムの植物を引きちぎると、すぐさまブドウ龍砲を俺に向って放った。俺は防御のバリアを張っていたが、その圧力に吹き飛ばされていた。
やはり力の使い過ぎが効いてきているようだ。本当に残された時間は少ない。
ルキアが焦って、俺を追いかけてきた。
「何をするんだ。大丈夫ですか?…この方になんかあれば、お前達も」
俺は急いで飛び起きる。ルキアが怒りで、俺の正体をばらしてしまったら意味がない。それに、もう大丈夫だ。
さてと、そろそろ気付いてもらおう。貴虎なら恐らく、ちゃんと判断してくれるはずだ。
ミッチも感情的になってしまってるが、貴虎が言えば信じてくれるはず。
ミッチ、本当にありがとな。その気持ちは嬉しんだけどさ、向け方が間違っているよ。
「ルキア、大丈夫だから落ち着け。お前らも、そいつをよく見ろ。それから俺を攻撃してこい」
そう言って、ルキアに頷くと、ルキアが貴虎の植物を解錠した。ミッチはまだ戦おうとしていたが、貴虎がさっととめ、機械人形のいたあの場所に冷静に向かう。
「なるほど…凰蓮達が危ないな」
さすがだな、貴虎。あんたなら、ちゃんと冷静に判断してくれると信じてたよ。それにすぐシャルモンのおっさんが危ないと気付くところなんて、相変わらずだな。
「冷静に判断してくれてよかった。…大丈夫、あっちにはローズとルクアが行っている。片付けている頃合いだ。一応連絡してみればいい」
貴虎はすぐに連絡を取っている。
何やら凰蓮さんと話し込むと、頷いて俺を見つめた。
「確かに、大丈夫なようだ。…光実、冷静になってもう一度この地面をみろ。そうすれば、なぜそこのオーバーロード達が、この物体を処理しなきゃいけなかったかわかる」
やはり、ローズたちはやってくれのか。ローズ自体強いがさらに、ルクアも3兄弟のなかでも兄という事もあり、だいぶ使いこなせるようになっていた。
まあ、あの性格だし、俺の事を馬鹿にしてビルスにしかついて行かないけど…。
貴虎に、そう言われたミッチが機械人形のいた場所にいく。
これで気付いてくれるだろう。冷静さを取り戻したら、ミッチはそもそも勘だっていいし、何よりおれよりも賢いんだしな。すぐに気付くだろう。
とはいえ、しばらくは考え込んでいた。まあ、信じられないということが本当だろう。
「紘汰さんじゃない?じゃああのドライバーは?」
そっか、鎧武のベルトが余計に信じさせたというわけか。まあ、本物は本体が持ってるから、それもまた偽物というわけか。
「奴等はユグドラシルの情報を手にいれている。似せてつくったのだろう。…どこで気がついたんだ?」
「あの訳のわからない集会で奴等を追い詰めたが、逃げられて、そろそろあんた達が掴んでいるだろうと思って、後をつけさせてもらったら…そこにあいつらがいて。もっと早くに気づいていたら、とっとと片付けておいたんだが。あいつらからは、生きているものの気配がしなかったから、俺らはすぐに気がついた」
まあ、確かに生命反応がなかったのもあるけど、それ以上にありえない存在だからなんて、説明できない。なんせ、俺の正体がバレバレになってしまう。ここまで頑張った意味がなくなってしまう。
今回はすまないが、挨拶もしないで帰るつもりだし。やることがあるしな。
「じゃあ紘汰さんは?」
「さあな。そいつ自体俺はしらないが、恐らくは生きているんだろ?何処か別の場所で。あいつはあくまで偽物だから。どうかしたか?」
心配してくれているのか。ミッチ、ほんといい奴だよな。
ちゃんといるよ、無事で。あいつも無事だ。
だから心配するな。それに、そんなことでどうにかなっちまうほど、俺は弱くないしな。
「何で紘汰さんに変化していたんでしょう?」
それを俺に聞かれても。俺の方が聞きたいし、俺はそれを許せない。
まあ、敵にそれを言ったら、俺があいつらの探している神で、あいつらに誰が果実をとったのかばれてしまう。
「それは、あんた達が詳しいんだろ?それなりの理由があるということだろ?…俺に言われてもな。さてと、オーバーロードについては、俺達に任せろ。最初から仲間を探しだしたあとは、俺達で蹴りをつけるつもりだった。まあ、あんたらがあいつらを庇うなら別だが」
俺は、あいつらだけはゆるせない。ルキアも自分たち兄弟にやられた行為に、かなり頭が来ているようだ。
さっきから目つきが怖い。
「本当にお前達は、敵にはならないようだな」
「興味ないだけだ。敵にはならない。…さてと、俺達はこれで。あいつらを追い込むのが俺達の仕事。だから、あんた達は自分の信じる道を貫いてほしい」
そう、心配するな。俺はミッチや貴虎の味方になることがあっても、敵になることはない。
だから、貴虎達じゃないとできない事をしてほしい。
俺達はずっと見守っているからな、貴虎、ミッチ。
ルキアは俺が頷くとその力をつかい、さっとその場から姿を消した。
俺達はオーバーロードの気配をおって、奥の部屋にやってきていた。
そこにいたのは白衣に、紫色のフレームの眼鏡をかけた男だ。パソコンに向かって何やらブツブツ言っている。こいつがプロフェッサーZとか言うやつか。
「お前の目的も、あの男と同じなのか?オーバーロードによる人類の選別などという馬鹿げたことを狙っているのか?」
俺の言葉に、プロフェッサーZは反応し此方をみている。
「ああ、クロスの言っていた、オーバーロードか。私の目的は簡単だ。科学によりオーバーロードを産み出し実験すること。人類をより高みにあげることだ。そもそも、お前達にはわからないかも知れないが、人は病にかかることも、大きな傷を負えば死ぬこともある」
「それで?」
確かに当たり前のことだ。俺だって元々は人だった。それくらい経験をしたこともある。
「オーバーロードとなれば、その危険性がなくなる。実に素晴らしいことだと思わないか」
確かに聞いていれば、表面上素晴らしいことのように聞こえる。でもその実、人でなくなることだ。食事もとれなくなるし、明らかに他の人とは異質な存在になる。
「そっか、どうやらあんたとは合わないらしい」
いくら俺が騙されやすいと馬鹿にされていても、この程度のことはわかる。こいつらは、やはりそうやって実験しているんだ。
オーバーロードになって、普通に暮らすことなど出来ない。家族と引き離された悲しみを、知らずに味わうなんて、酷いことだ。こいつらは、それを平気でやろうとしているのか。
「なるほど、騙されやすそうだと思ったが、甘かったようだな」
俺ってどういう扱いなんだ?
そんなことより、確かめなくちゃならないことがもうひとつある。
「お前もすでにオーバーロードだよな?」
自分自身でも実験したというわけか。それも、ルシアを使って。最低な連中だ。
「なるほど、感じ取ったのか。見た目はあれだが、かなりの力をもっているようだな」
「そんなの、どうでもいい。俺に残された時間もない。…ルキア、とっとと片付けて帰ろう」
もうわかった。こいつは遠慮いらない相手だということをな。
ルキアはさっとヘルヘイムの植物を操るが、このプロフェッサーZ、かなり研究しためか、その力をも上回ってこっちに、ヘルヘイムの植物が巻き付いてくる。
俺もこの姿のまま力を使ったが、それすらも跳ね返している。
「弱いな…なんだ。下らない」
こいつ…
仕方ない、まあどうせもうすぐ帰るんだ。
なら、力を使いきってもいいか。
俺は攻撃形態に変化した。
そのままヘルヘイムの植物を操り返す。
「なんだ…この力は。まさかお前は?」
気づかれたか?まあ関係ない。
こいつは、もうあの世界へ連れていく。そうすれば、もはや抵抗出来ない。
俺は無言のままヘルヘイムの植物を操り、俺達の世界へ光と共に連れていった。
流石にさっと鳥の姿に勝手に戻ってしまう。おれは地面に落ちた。
そう、限界だな…
「一足先に戻ろう。もうだめだ」
「ローズ様なら大丈夫でしょうし、白い鳥様が消えることがあれば、あの方の身にも危険が」
「まあ、その程度気にしないけど、流石にな」
さあ、これで帰れるとそう思ったとき、またあの感じを感じた。これは…なんでだ?
仕方なくルキアのちからで、そこまで飛ぶ。
まさかまだオーバーロードがいるとは。こっちは限界ギリギリだというのに。
でも、このままミッチや貴虎を危険に会わすわけには行けない。
こいつもまた手筈通り連れて帰ろう。
ミッチの前に現れたあと、さっとルキアがその爪で錫杖を止める。
まあ、そもそもこいつが誰かも知らないけど。
「もはや、こいつで終わり。オーバーロードは全て俺達の世界へ連れていった。後は、あんたらで何とかしろよ。…さてと、今まで世話になったな。もう俺達は関わらない。だから心配するな。信用するかしないかは、まああんたらに任せる。ルキア、帰るぞ」
そうもうこれで終わりだ。
俺ももう限界。あとは本体に任せないと…
まあ、この状態なら本体にも影響を及ぼすかもしれないけど、そんなこと言ってる場合じゃない。あの力はそんなに弱い力じゃないしな。
「はい。白い鳥様。…皆さん兄さんがご迷惑を。僕の弟も無事取り戻せたので、これで。それでは」
そう言って、俺とルキアは修羅をつれたまま姿を消していった。
そう、俺の最後の力を使って、ビルスの作戦通り、俺達の世界へ。