町にでると沢芽市内の映像に全て、DJクロスの生配信の映像が流れていた。
黒い革ジャンに茶色の髪、赤いバンダナを巻いている男だ。さらにトレードマークの黒い仮面をつけているのだから、怪しいことこの上ない。
見ている女子からはキャーキャー声が上がっているが…その辺は理解不能だ。
光実はこの男の事をはじめから、好きになれなかった。
『イエーイ、ハローエブリバディー。チーム鎧武は失踪していたリーダー角居裕也と用心棒、葛葉紘汰がもどり、これにより戦極ドライバーを持つ者は二人になった。このままチーム鎧武がぶっちぎるのか?今後に期待するぜ』
もうすでに、紘汰さんと裕也さんが戻ってきていることを放映している。
兄さんもザックも、この映像をみているだろう。とはいえ、今でも本当に信じられない。
『さて、新しいロックシードを知っているかい?』
新しいロックシード?
なんだそれ。今までのロックシードとは別物なのか?
ただでさえ、ロックシード自体が存在すること自体がおかしいのに。新たなロックシードだなんて、驚愕以外のなにものでもない。
光実は食い入るようにスクリーンを見つめている。
『そう、これだ…すごいだろ?』
そのロックシードは、ヘルヘイムの果実の絵柄が描かれ、周りの装飾はヘルヘイムの植物であるあの蔦が絡まっている模様がついている。
見覚えが全くないロックシードだ。
『これから、このロックシードがゲームをさらにエキサイティングに盛り上げてくれるぜ。さあ、1位の栄冠を勝ち取るのは一体どのチームか?楽しみにしてるぜ』
そう言って、配信は終わった。
僕はその時、あのロックシードの事が頭から離れなかった。
それは僕だけではなかった。すぐに携帯がなっている。
見てみたら、兄さんからであった。
『配信を見たか?』
「ええ。見ました」
『ユグドラシルのロックシードではない。もしあんなわけのわからないものが出回っているのだとしたら、何が起こるかわからない。気をつけろ』
「そうですね。しかし、こうなるとどこかに研究施設があると考えるべきですね」
『確かに。あれほどのものを作成するとならば、戦極凌馬なみの頭脳をもつ研究者がいるということを考えるべきだな。私はもう一度、ユグドラシル関連を当ってみよう』
「はい。お願いします。…早くこんなことやめさせないと、あの頃と同じことが起こりそうですね」
『ああ、人為的にな。…あの時は理由なき悪意であったが、今回は理由がある悪意のようだ』
「僕は錠前ディーラーと、他のビートライダーズのチームなどに目を見張らせます」
『その辺は頼む。ではまた』
そう言って兄さんは電話を切った。まあ、兄さんも自分の仕事にプラスして調べてくれている。かなり大変なのはわかっていた。
だからこそ、光実は早く貴虎を手伝いたいと思っていた。
ふと、僕は、周りを見回した。そこにあるのはいつもと変わらない日常。
子供が走ったり、スーツ姿のサラリーマンが足早に去っている。そう、やっと取り戻した平和な町。
それが、また何かに巻き込まれていく。あまり考えたくない事だ。
今でも、クラックが開いて浸食してきたあの出来事は思い出す。その際犯した、自分の過ちもそうだ。
「行こう。ここでこんなことしている場合じゃない」
自分自身にそう言うと、光実は足早にフルーツパーラー、ドルーパーズに向って行く。
錠前ディーラーは、シドの時と同じく、よくあそこを使っていた。
阪東さんからもよく情報をくれるから、こっちとしてはありがたいが。阪東さんはいつも協力してくれる。
そうやって走っていく途中、不思議な女が歩いているのを見つけた。
赤いレースのついたショート丈のドレスを着た女だ。胸の部分は赤いバラの紋様があしらわれている。黒い長い髪をそのまま下し、カラコンなのか赤い瞳をしている。
最も目を引いたのは、白い見たことのない鳥を肩にのせていること。光り輝いている光沢のある羽をもつ実に美しい鳥だ。
周りには見えていないのか?通り過ぎていく他の人たちは気にも留めていない。
「ちょっと待って。君は一体」
そう声をかけて手を伸ばした瞬間、その女はまるで煙のように消え去った。
あれは幻だったのか…
他の人たちは光実の事を不思議そうにみて歩いている。
「なんだったんだ…」
辺りを見ても、そこにはあの女はおろか白い鳥もいなかった。
狐につままれたような気分のまま、光実はとりあえず、ドルーパーズに走って行った。