今となって思えば、それは単なる偶然から発見した出来事だった。
この高校には魔女が7人いたなんて...
「さて、それでは今日はここまでにしましょうか。」
「うん!」
「おう。」
雪ノ下は本を閉じて解散の号令をかけた。俺と由比ヶ浜はそれぞれいつもの通りに返事をする。
「じゃあ、鍵を返しにいってくるわ。」
「ゆきの~ん!一緒に行くよー!」
そういって由比ヶ浜は雪ノ下に抱きつく。
う~ん、実に百合百合しいですね。目の保養になりますねえ。うんうん。
そんなことを心の中で呟いていると、用事を思い出した。
「ああ、そうだ。俺も一緒に行くわ。平塚先生に進路希望調査票提出するの忘れてたし。」
普段は愛するマイエンジェルリトルシスター小町に1秒でも速く会うために即帰宅するのだが、いつもと違う俺の発言に困惑したのか、百合ヶ浜さんと百合ノ下さんがそれぞれの反応をする。
「え...ヒッキーいつもならすぐ直帰しちゃうのに...なんかキモい...」
罵声だった。しかも理由が酷い。なんてったって、なんかって言ってる時点で理由ないじゃんそれ...理由ないのにはっきりとキモがられるって酷すぎやしませんかねぇ...
雪ノ下は雪ノ下で、腕で自分の体を抱きながら、
「堂々と私たちの前で犯罪行為をする宣言を行うなんて、ついに目だけではなく頭まで腐ってしまったのかしら。それとも元からかしら?ストーカー谷...いえ、スト谷君。」
と、少しドヤ顔しながら罵倒を続けてくる。
いや、人を罵倒するセンスがハイレベルすぎやしませんかね...その態度でほかの人にもそう接してるんですかね...八幡心配だよ...主にどこがとは言わないけど。うん。
「なんで提出物を出しにいくだけでそんな罵られるんですかね...タイミングもちょうどいいし。いいだろ別に。」
「あら珍しい。比企谷君が権利を主張する前に義務を果たすなんて。」
「別に平塚先生に殴られないようにしてるだけだ。こんなもん適当にパパッとな。」
あの人のパンチ強烈だしな。
「あーもし聞いていいなら、何書いたの教えて?」
由比ヶ浜がそう尋ねる。
「いや専業主夫だが。」
「即答?!」
「まだ変わってなかったのねあなたの将来志望...」
雪ノ下はこめかみを手で押さえながら首を横に振る。
由比ヶ浜は由比ヶ浜で苦笑いをしている。
「たはは...てかそれだとどっちにしろ先生に殴られちゃわない?」
「......そうかもしれない...」
「気づいてなかったのね...」
雪ノ下はさらにため息までついている。おい。幸せ逃げちゃうぞ。
なんて、他愛のない話をしながら運動部のかけ声や吹奏楽部の楽器の音を通り過ぎ、残っている生徒の話し声を尻目に俺たちは職員室に向かった。
「失礼します。」
「......」
「あら、先生が誰もいないわね。平塚先生はどこにいらっしゃるのかしら。」
「別にいいだろいなくたって。職員会議でもやってるんじゃねえの?先生の机に置いときゃそれで十分だろ。」
そういって俺は調査票を先生の机に置いた。
「安全性の意味をとればまったく良くないのだけれど...まあでも、特別棟の教室の鍵を盗る輩なんていないだろうし、それに盗ったって意味なんてないだろうし。いいわよね。」
そうして雪ノ下は平塚先生の机に鍵を置き、書置きをした
「なんか、ゆきのんがああいうことするのってちょっと珍しいかも。」
由比ヶ浜さん、唐突に顔を近づけないでもらえますかね。あなたのその吐息が耳にかかってゾクって来るから。あああ近い近い柔らかいいい匂い恥ずかしい!
「お、おぅ。そうだな」
「む~。なんか適当。キモい。」
いや適当はともかくキモい反応してしまったのはあなたのせいなんですがそれは...
「ま、まあ確かにな。雪ノ下って義理堅いイメージあるからな。」
「そうだねっ!」
相も変わらず由比ヶ浜は太陽のように微笑む。やだ、八幡灰になっちゃう!
それから俺たちは下駄箱に向かって階段を下りていた。
もちろん、俺は2人より3段ほど後ろから付いて行っていたが。
「ゆきのん!今日は金曜日だしゆきのんのおうちにお泊りしてもいい?」
と言いながら由比ヶ浜は雪ノ下の腕に抱きついた。
ほんとこいつ雪ノ下のこと好きだな...
いや雪ノ下さんも一々そんなに頬を赤らめなくていいから...
え、もしかして2人ってもうすでにそういう関係だったの?いやそんなわけ...え、ほんとに?
いやでも...などと考えていた。
そのときだった。
俺は階段に足をつけようと思ったが、何の拍子か、足を捻って踏み外してしまった。
必死に抵抗したが重力には逆らえない。
当然、階段を落ちていく。
条件反射的に両手を突き出して
「おおおぉぅ?!」
なんて情けない声を出すと、当然2人も驚いて振り向いた。
しかし、反応はしきれなかったようで。俺はそのまま雪ノ下に飛び込んでしまった。
...え、いや俺雪ノ下に飛び込んじゃったのかよ。マジかよ。また後で散々怒られるんだろうなあ。罵倒されるんだろうなあ。
なんて考えていたのもつかの間。せめて巻き込んでしまった雪ノ下に怪我をさせないように、庇おうと彼女の体を抱いて落ち、踊り場に頭を打った瞬間に俺の意識は暗転した。
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「......ん...?」
知らない天井だった。いやマジで。微かに薬のニオイがすることから、ここは保健室か...?
てか、落ちるときに発してたおおおぉぅって声なんだよ...オットセイかよ...
...すっげえ恥ずい。
とか考えてると、突然右腕に抱きしめられる感覚があった。
「ゆ、ゆ、ゆきのん!だ、大丈夫!?」
由比ヶ浜が目に涙をためていた。いや慌てすぎて俺のこと雪ノ下って呼んでんぞ。
...あれ、俺由比ヶ浜にも飛び込んじまったっけ?
「落ち着け由比ヶ浜...俺は俺だ。比企谷八幡だ。いやだが、本当にすまない...まさか階段を踏み外すとh...何でお前そんな顔してんの?」
話している途中で由比ヶ浜の顔を見ると、彼女はすごく困惑した顔をしていた。
「...え?何言ってるのゆきのん...?それヒッキーの真似...?」
...は?え、どういうこと?ボク八幡だっていってるジャン?
「あのなあ由比ヶ浜、確かに俺が悪いが今冗談を言うのはタイミングが悪いんじゃな...は?え?...は?」
何の気なしにズボンのポケットに手を突っ込もうとすると、そこにはズボンなんてなかった。
いや、すでに脱いでいたとかそういうオチじゃなく、本当にズボンなんて穿いてなかったのだ。脱いでいたってどういう状況だよ。変態じゃないよ!
布団を退けてみると代わりにスカートを穿いていた。
...いや、何を言ってるかわかんねーと思うが俺もわからん。え、どゆこと?俺いつの間に女装なんてしてたのん?
心なしか声も高いし、頭も重いし、...髪も長いし?
はっとした俺は、すぐさま寝ていたベッドを飛び出し、鏡を探した。
やはりここは保健室で、お目当てのものは入り口ドア横にあった。
複雑な気持ちで鏡を覗く。
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そこには、俺のたった数人の知人の、雪ノ下雪乃の姿が映っていたのだった...