狩人達の軌跡   作:SHIPS

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1-5 この師匠にしてこの弟子あり

 辺り一面に雄火竜リオレウスの咆哮が響いた。大型モンスターの咆哮はあまりの音圧にハンターたちの身を竦ませてしまうだろう。ロロアとてその音圧に驚くが、ある程度慣れていたこともあってすぐに気を取直し、相手の出方をうかがうことにした。

 蒼い翼を羽ばたかせると、リオレウスは目の前の獲物めがけて低空飛行で突進した。先にこちらに突っ込んでくることを読んでいたロロアは、慣れた手つきで一度妃竜砲を背中に戻すと、走ってリオレウスの突進コースから外れてアイテムポーチから取り出したペイントボールを翼爪に引っ掛けて着色させる。これでしばらくの間、リオレウスを逃しても匂いで追跡を続けることができる。再びリオレウスは狙いを定めて飛びかかろうとするが、これも彼女は要領よくかわした。前転しながら背中のボウガンに手をかけると、鮮やかな手つきで二つ折の状態から武器の形態にし、弾丸を込める。固定倍率スコープを覗くとまだ蒼い王者はこちらを振り向いてすらいないようだ。

 

「まずは一発......」

 ロロアが引き金を引くと、大きな音を立てて弾丸が一直線に飛んでいった。弾丸がリオレウスの脚に直撃する。スコープで弾丸の食い込み具合を察するに悪くないダメージを与えていると彼女には推測できた。

 続いて撃った弾丸は狙いがずれて翼の外角に当たるが、こちらはほとんど肉質を削ることができない。

 

 いつまでもこちらばかりチャンスがあるわけではない。振り返ったリオレウスの口からは黒煙が吹き出ている。火球のブレスを吐く前の兆候だ。亜種といえども戦い方は似てるらしい。いち早く危険を察知したロロアはすぐに元いた場所から離れようとした。

「うわっ!」

 しかしながら放たれた火炎は原種のそれとは桁違いの威力であった。火球がさっきまでロロアの位置にあった溶岩の壁を粉々に吹き飛ばしてしまった。あんなものを食らったらひとたまりもない。間近に迫っていた死を意識して唾を飲み込む。

 ブレスを吐いた後も、空の王者の猛攻は止むところがない。原種よりも更に凶暴となり、ことごとく獲物を追い詰めようとする姿にロロアの中では恐怖と同時に奇妙な感覚が芽生えた。こんな強敵を相手にできる喜びを噛み締めた。外の世界でこんな強敵と合間見える瞬間を彼女はいつも待ち望んでいたのだ。

 火球を放つのはリオレウスにとっても体に負担をかけることになる。生き物が安安とノーリスクで火を吐くことはできない。特にリオス科と呼ばれるこの飛竜たちは火球を吐く度に喉を焦がすのだ。さらにそれを急激な速度で回復させる仕組みもあるが、それはほとんど気休め。実際にはかなりの苦痛を伴うはず、そしてそれはリオレウスの実際の行動に現れている。

 火球を吐いた後喉に残った焦げを払おうとする瞬間は、頭部を狙うチャンスでもある。そのチャンスをロロアは決して逃さない。立て続けに引き金を引いてすべての弾丸をリオレウスの頭部に命中させた。

 頭部へのヒットをスコープで観察して、ようやくロロアは気がついた。原種ではあんなに血を吹き出して効いていた頭部だというのに、この蒼い王者の頭部からはわずかに血が出ているだけ。

 

(堅いわね...やっぱり狙うなら脚?)

 これまでに撃ってきた部位を観察し、モンスターの脆い部分を推測して戦いを有利に進める。

 ガンナー最大の武器は知識。彼女をボウガンの世界に引きずり込んだ師匠の言葉を思い出し、ロロアは頭の中でひとつの道筋を立てた、効果的にリオレウスの弱点を狙うための立ち回りを......

 

 自然と彼女の顔は不敵な笑みを浮かべた。その間にもリオレウスは再び口から黒煙を漏らしてこちらをゆっくり振り返る。

 ロロアはリオレウスに向かって走り出した。間もなく真正面から火球が飛んでくることもわかっていながら躊躇なく突っ込む。そして火球が放たれる直前のタイミングでしゃがみこむと、火山灰で摩擦の少ない地面を滑ってリオレウスの股下に潜り込んだ。

 目の前の敵が消えたことに不意を突かれたリオレウスは、長い首を回してその姿を追跡しようとするが見つからない。ところが次の瞬間脚部や腹部の痛みに襲われて状況を察した。死角に潜り込まれたのだと。

 驚くリオレウスの股下でロロアは脚部や腹部めがけて込められた分を全弾発射した。甲殻の薄い部分を弾丸は容赦なく貫いていく。

 

「空の王者も形無しだな!」

 その後も嬉々としながら引き金を引きまくる一人の女ハンター。妃竜砲の爆音が何度も火山に響いたという......。

 

***

 

 煤で顔を真っ黒にしたロロアがココット村へと帰還したとき、クラウスは酒場で村長と昼食を食べている最中であった。ひと目見てロロアが火山に言ってきたことを悟ってきたクラウスは水を吹き出して笑ったが、その後ロロアがクエストクリアの受注書をテーブルにバンと叩きつけると今度は絶句した。

 

「うそだろ......リオレウスを?」

 

 新米ハンターのクラウスでも、空の王者と呼ばれるその飛竜の恐ろしさは充分に理解していた。並のハンターでは太刀打ちできない強さで、食物連鎖の頂点に立つと言われる。それ故に、リオレウスを倒したハンターは一人前として認められるのだ。

「途中調子に乗らなきゃ、一度もネコタクのお世話にならずにすんだのにさ......あーあームカつく!」

 

 そう言ってクラウスの皿に残っていた最後のモスポークの串焼きを一口で平らげた。

 

 リオレウス亜種を狩猟したものの、ロロアは途中で一度力尽きた。ゼロ距離で撃ち続けていた彼女は、体制を立て直したリオレウスの羽ばたきで身動きが取れないまま火球をモロにくらったのだという。力尽きた彼女を安全な場所まで運ぶためのネコタクシー(通称ネコタク)の依頼料は、クエストの報酬金から引き落とされる仕組みになっているのだ。

 

「おねーさーん! 私ホワイトレバーとウォーミル麦のビール!」

ロロアはそのままクラウスの隣に座ると、酒場の看板娘を大声で呼び止めてメニューも見ることなく注文した。

 

「ブルジョワかよ、嫌味なやつ......」

 

「まあね、今の私は羽振りがいいから!」

 

 看板娘から濡れたタオルを受け取ると、顔にペタペタと張り付けてロロアはゆっくりと息を吐いた。テーブルの向かいに座る村長はロロアの報告書と受注書を受け取ると、金貨と銀貨が大量に入った大きな袋をロロアに渡した。

 

(一回ネコタク分引き落とされてこの量!?)

 クラウスがこれまでのクエストで得た報酬といえば大体金貨二、三枚。ドスランポスを倒したときは引き落としなしで拳大くらいの袋だったのだが、彼が今見ているその袋はロロアの頭をはるかに上回る大きさをしていた。

 

「ご苦労じゃったの。火の国の姫にはかつてお世話になったからのう、恩返しができてワシも満足じゃ」

「それって、もしかして愛人ってやつ? じーちゃんも隅に置けないねえ、このこの!」

 

 返答の代わりに大きなため息をつく村長。

「ボウガンに持ち替えても、すぐ調子に乗るところは変わらんか」と眉を潜めてひとりつぶやくが、あまり気にしてない様子でロロアはニシシと笑った。

 村長が工房の加工担当に呼ばれて席を外した後、クラウスは思い切って気になっていたことをロロアに尋ねた。

 

「私がボウガンを使っている理由?」

「ああ。だってお前、訓練所にいた頃は大剣ばっかり振り回してる怪力だったじゃないか」

「一応私女なんだけど......まあ、いいや。知りたいかい? 結構長い話になると思うけど」

「ぜひ頼むよ。ハンターとしてやっていくのに、案外勉強になる気がするし。人の冒険を聞くのは好きだしな」

 今でも時々、彼は本を読む。過去のハンターたちの武勇伝がまとめられた歴史書や、この大陸にまつわる伝説。これらの本は全て彼の祖父の私物であった。

 

「そうだねえ、何から話すか......」

 

***

 

 私が初めてハンターに出会ったのは両親に連れられてミナガルデの街を訪れた時のことだった。

 それまでずっと小さな村で豚や鶏の世話をしていた私にとってその世界はあまりに魅力的だったので、私は好奇心の赴くままにお父さんにあれはなんだと手当たり次第に質問攻めにした。

 どこへ行っても人、人、人。客寄せの声で溢れる市場、盃を交わす男たちの陽気な歌声。そんな中、街の中心部に広がる市場の出店で私は発見した。

 それは店の梁にロープでつるし上げられた巨大なモンスターの頭骨だった。

 頭骨なら何度か家畜のものを見たことがあったけど、この頭骨は私の体をはるかに上回る大きさで、本当にこんな巨大な生き物がこの世にいるのかと私は目を輝かせた。そんな風にしている私を見たのか、背後から私に声をかける人がいた。

「この世界にはこんな巨大な生き物がいるのか、見てみたいなあ、とか思ったのかい?」

 振り返るとそこには一人の巨大な男が立っていた。本当に大きい! 十歳になった私の身長の三倍以上はありそうだった。そして何より目を引いたのは背中に止めてある巨大な大剣。真っ赤な鱗の生えた巨大な剣であった。

 

「おじさんは誰?」

 我ながら、この時逃げずに男に質問を返した自分が恐ろしい。少女であった私に男は答えた。

「私の名は......だ。ハンターだよ」

「ハンターってhunter? 狩りをする人?」

「おお、そうだな。そうだ、俺たちの仕事はああいうでっかくて危ない奴らからみんなや街を守るのが仕事さ」

「かっこいい! それってヒーローみたいだね!」

「あ、ああ......まあ似たようなものかな。それでお嬢ちゃんはあの骨の主に会ってみたいのか?」

「うん、おじちゃんあの骨のモンスターに会ったことあるの?」

「一度だけな。そいつは定期的に街を襲いに来る困ったやつでな。ついにこの前討伐されたってわけだ」

「で、でもあんなデッカイ生き物、どうやって倒したらいいの!?」

 私の問いかけに男は豪快に吹き出して笑った。しばらく笑い続けたあと気恥ずかしそうに、軽く咳払いをして男は答えた。

「確かに体の大きさも力も俺たちには到底及ばないよな。だけどそんな俺たちにも奴らに負けないものを持ってるんだぜ。わかるか?」

「え、何? そんな力あったっけ?」

 自身の体をまじまじと見返すが、当時の私にはそれが何なのか見当がつかなかった。

 

「あるとも、知りたいか? 人間が奴らに対抗しうる最強の力だ」

 

***

 

「男は答えを教えてくれなかった。その力は私がハンターになった時に教えてくれるって約束をした。だからハンターになったわけだけど……まあぶっちゃけ知恵だろうなって結論に至ったよ」

 

 話終えてロロアは照れくさそうにニヤリとした。

 

「おいおい、いい話が台無しだぜ」とクラウスは苦笑い。

「そこから先はアンタが私と訓練所で会うってことさ。私は確かに大剣ばかり訓練してたけど、ボウガンにまるっきり興味がなかったわけじゃないぜ。確かに本当に使い始めたのは師匠の影響だけど」

「その師匠ってのは?」

「なんだ、知らないのか? すぐそこにいるだろ」

「え?」

 

 そう言ってロロアが指さした先には工房......ではなくて工房の脇の桜の木の下で眠っている女性であった。

「私が師匠の元を離れてからまーたあんな調子に戻っちゃってさ、どんだけ寂しがり屋なんだよ......ってね。うん、どした?」

「あ、あの人ハンターだったのか......?」

「しかもめちゃ強かったぜ。私なんか一度も勝てたことないぜ」

「勝った......って何をだよ?」

「そりゃアンタ、女が二人でやることと言えば腕ずもうに決まってるだろ?」

「いやそんなのお前らぐらいだろ......」

 昼間っから酒瓶を飲んでる上に外で眠ることの多いこの女性の事はクラウスが子供の頃から気になりつつも触れなかったことのひとつだ。普通に振舞っていれば彼女もなかなかの美人であるのに、何故か酒ばかり飲み散らすその奔放ぶりに言い寄る男はひとりも現れない。

 

「なあ、試しに揉んでみろよ。ありゃやばいぜ。クセになっちまう」

 後ろからロロアが悪魔の囁きをする。クラウスは頬を赤らめて否定しようとするものの、あまりに無防備な姿勢で眠るその美女に思わずつられてしまい。

「で、弟子のお前がも、揉んでいいって言ったから問題はない......だよな?」

「おー? アンタも男になったねえ!」

「ニヤニヤするな!」

 酒場の椅子から立ち上がると足音を立てないようにクラウスは恐る恐る眠れる美女に近づく。忍び足で放り出された彼女の足元まできた。ゆっくりとしゃがみこむとクラウスは彼女のはだけた衣類を手に取ろうとした。

 

突如クラウスは自分の体が宙を舞っていることに気がついた。

「えっ?」

 

 考えるまもなく何かに腕を掴まれて、クラウスは背中から勢い良く地面に叩きつけられた。あまりの突然の出来事にはじめは痛みさえ湧いてこなかったものの、やがて遠くなってた現実が戻ってきて、自分がこの女性にどうやら投げ飛ばされたのだろうと察することができた。

「痛っ! くぅぅ......」

「いやー相変わらずの感度ですな師匠は」

「......フン! 元気にやってるじゃないかロロア。いいのか、彼氏なんだろ? 私の前でイチャイチャイチャイチャしやがって、殺気だたない訳がないだろ!」

 

 口から邪気のようなものを吐きながら師匠と呼ばれるその女性は悪態をついた。

「ただの後輩だよ。師匠のこと揉みたいって言うからさ」

「ご、誤解だ!」

(話の流れから察するに、この人は気配を察して俺を投げ飛ばしたのか!? ロロアのやつ、ハメやがったな......)

「あれ? アンタ起きてたの。さすが鍛えられてるねえ。工房の兄貴は三日間目が覚めなかったらしいけど」

「こええよ......」

(この女が......ロロアの師匠!?)

 

 はだけた衣服を直すと、女性は倒れているクラウスを見下すかのような視線でこう言い放った。

「お前にロロアはやらん」

「いや、私はアンタのじゃねえし.....」

 

 ロロアはあきれ顔で訂正を加えた。

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