私の師匠、ルガさんとの出会いは、私がココット村でハンターになってしばらくたった頃のことだ。その頃はまだ、闇雲にハンターナイフを振るっているだけでクエストをこなしていたが、とうとう限界が来ていた。
「イャンクック......ですか」
「オヌシの最初の飛竜種の相手じゃ。心してかかるのじゃぞ」
「はい、行ってきます!」
これまで何の不自由もなく、あっさりクエストをこなしてきた私が初めて味わった挫折、それがこのイャンクックだった。
鳥竜種イャンクックは多くの初心者ハンターの最初の壁とも言えるモンスターであった。落ち着いて戦えば苦戦することはまずないのだが、戦い方というものをそれまで考えてこなかった私にとってこいつはムカつくほど強くて、何度もクエストに失敗してイライラしていた。
そんな私のことを見ていたのか、村長の差し金か、ある日私の家の前にルガさんはやってきた。
「お前の戦い方はなってない」
初対面の人間に、しかも見たことすらない自分の戦い方を開口一番批判されて、怒らない人間はいないだろう。
(何この人......感じ悪い)
「アンタは何者なんですか、いつもその変で酔っ払ってるくせに、何を偉そうに説教なんてするんです?」
私がそう問いかけると、女性は答えた。
「お前がボロボロになっていく姿を見るに耐えなくなった。これからは私がお前にハンターの戦い方というものを教えてやる」
「な、何を偉そうに!」
そうして無理矢理にでも女性を押しのけて村長の元へ行こうとした時、私もさっきのクラウスと同じように投げ飛ばされた。何が起きたのか一瞬理解できなくて、でもやがて悟ることになる。
(この人に逆らったらやばい......)
それが私の師匠に対する第一印象であった。
***
ルガさんはかつてミナガルデの街でハンターをしていたという。へビィボウガンを担いだ二人組の最強コンビといえば......ええと、ヘルブラザーズって言ったかな? とにかく彼女はかつてそれくらい有名なハンターのひとりだったらしいんだけど、ある事件をきっかけにコンビを解消して引退してしまったのだ。
師匠の元で私はモンスターをよく観察すること、そして弱点や隙を見極めて作戦の道筋を立てるように言った。また何より私に足りないものを指摘してくれた。
「お前には忍耐力がない」
「忍耐力......ですか」
「そうだ、本来狩りというのは時間を掛けて行われる。今のお前は何か急いでいるように思える。勇敢と無謀を履き違えるな。攻めるときは攻め、守るときはしっかり守る。戦いにもメリハリというものが重要になるんだ。そこでだ......」
そう言って師匠が手渡したのは二つ折の巨大なボウガンだった。
「武器のことで私が教えられるのはコイツだけだ。私の弟子ならば、今後はこのへビィボウガン、アルバレストを使って訓練してもらう」
「え、ええ!? いきなりへビィボウガンですか!?」
へビィボウガン、興味こそあったものの、それは見た目がかっこいいとか、使いこなしてる人がかっこよく見えるとかそんな理由であり、新米ハンターの私にいきなりそのような玄人向け?の武器を渡すとか普通ありえないっしょ......
文句は一切受け付けてもらえず、その日私はすべての剣士用装備を全て売り払ってバトルシリーズと呼ばれるガンナーの防具一式を購入させられるはめになった。
訓練所でも訓練用のモデルを少しは使ったことがあるが、なるほどなかなかの重さだ。これを抱えたまま動いて、しかも目標に狙いを定めて撃たなきゃいけないとは......なかなか無骨な。腕っ節の強かった自分を褒めてあげたい。
村の外れで私は師匠に言われながら弾のリロードや、銃身の手入れ、扱いを教わった。
「狩りの時以外は必ずセーフティをつけろよ、暴発するとリムで首がちょん斬られる」
「は、はいい!」
村に戻ってきた後は座学。
「散弾の長所と短所を言ってみろ」
「ええーと......広範囲に弾をばら撒くので、ランポスなどの群れに囲まれた時に非常に有利ですけど、射程がかなり短く遠くの敵には効果が少ない、ですか?」
「もう一つの短所は?」
「え? ......えーと?」
「パーティを組むときは味方に誤射する危険があるので極力使用を控えなければならない、だ。覚えたな?」
「......」
「返事はどうした?」
私は思い切って師匠に尋ねることにした。
「こんなことだけで本当にハンターに必要な力が身につくんですか?」
これまで私が師匠に教わってきたことといえばアルバレストの扱い、弾の種類、ガンナーの心得。それなりに扱えてるつもりだった片手剣や大剣でさえ勝てなかったのに、ましてへビィボウガンで太刀打ちできるような相手じゃないとその時は考えていた。
「いずれわかる。今はとにかく私を信じてそいつの扱いをしっかり頭に叩き込め!」
ただそう言って、まともに取り合ってはくれなかった。
師匠との訓練を始めてしばらくたった頃、私はついにアルバレスト改を使ってドスランポスを倒せるまでに成長していた。しかも驚くことに......
「すごい......一度もダメージを受けずに倒せるなんて」
師匠の言う通り、攻撃を休めるタイミングを見計らって散弾を撃ち続け、隙をみてリロード。たったこれだけのことで片手剣で挑んだ時よりもかなり楽に倒すことができたのだ。かなり嬉しかったし、ちょっとやるせない気持ちにもなった。
うっかり「へビィボウガンってすごい......」なんて師匠の前で口走ったら彼女は、それまで見たこともないような厳しい顔でこう言った。
「武器の性能ではない、まさしくお前の成長だ。胸をはれ」
「え、でも私は引き金を引いただけで......」
「タイミングをみて引き金を引いた。お前はちゃんと考えたんだよ。モンスターを観察し、隙を見つけ、最適な弾丸を選んで戦った。なぜイャンクックにも同じことをしない?」
そう言われて、私はこれまで師匠がなぜ私にボウガンを使わせていたのかを悟った。
ボウガンはそもそも敵に対して真っ向から挑む武器ではない。弾丸を仕込むスペースや武器を抱える姿勢の関係上、ガンナーの防具は剣士のそれよりも防御力が低い。故に闇雲に挑んでは勝つのが剣士よりも難しい。
だからこそ、きちんと勝利までの道筋を考えていて動く必要があり、私はそれを無意識にやっていたのだ。
***
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。師匠が教えてくれた言葉さ。大空を舞う翼もない、強力な爪や牙もない、夜目が利くわけでもなけりゃ、耳がいいわけでもない。私達はこの世界の中じゃちっぽけな存在だよな......だけど」
ロロアはクラウスの肩を掴んで最後にこう締めくくった。
「弱さを受け入れることだな。私達は自身の弱さを考えることができる。知識と知恵こそ私達人間の最後の武器だ。考えることをやめない、それがハンターにとって大事なものだと私は師匠に教わった。今度は私がお前に教える。これであってるかな、お師匠さん?」
そう言って今度はルガの方を見るロロア。ルガはやれやれといった様子で言葉を返した。
「二年なんて大した時間でもなかろうに。そんな先輩ヅラして、後で追い抜かれたら恥ずかしいぞ?」
「い、いやそれはだなあ......あれだ」
いつもの不敵なニヤニヤ笑いを浮かべてロロアは答えた。
「私は、やすやすとクラウスに追いつかれたりはしない。もっと上を目指すんだから。そういうわけでクラウス......」
「なんだよ?」
「アンタもさっさと強くなれ!」
そう言って彼女はクラウスの肩を強く叩いた。
「いてえよ!」
「次はイャンクックか? 頑張れよ」
最後に言い放ち、ロロア・ロレンスは酒場を去った。彼女の話を聞いているあいだに空は赤くなり、間もなく夕日が沈もうとしている。
「私も家に帰るとするか......おいお前、ボウガンを使ってみたくなったらいつでも私のところに来いよ!」
「は、はあ......どうも」
(この師匠にしてこの弟子ありって感じだったよな......)
二人を見送った後、クラウスはこれからのことを考えていた。ロロア・ロレンスはこの二年で見違えるほど成長した。自分が、彼女に追いつける日は来るのだろうか。そのためには、もっと己の知恵を使わなければならないのだろうか。生きるために、必死に必死に考えてこの先戦いぬかなければならないのか。
(あー、もう考えるのはやめだ!)
一抹の不安を抱えながらも、テーブルに残されたウォーミル麦のビールを一気に(この国ではお酒は十八歳から飲める)飲み干して、彼も自室に帰った。
***
照りつける太陽、多量の湿気で苦しくなる呼吸。初めての狩り場ということもあり、いつもよりも更に大きいプレッシャーを感じながら立っている。なんとか脈を整えたあと、懐から取り出した時計を眺めてクラウス・クローゼはこの後の作戦について考えることにした。
(ベースキャンプを出て、怪鳥イャンクックを見つけるまで十分、戦闘開始して今まで十二、三分......残り時間は二十分と少しぐらいか)
幸いイャンクックの去り際にペイントボールを追加で投げたので、匂いで追跡するのは容易である。動きも観察できたし、そこそこうまく立ち回れてはいる。一度もお助けの獣人種、アイルーたちのお世話になっていない。
(まいったな......決定打がない)
このままでは時間切れになる。クラウスは確信していた。決してのろのろと動いていたわけではない。モンスターの動きを観察し、隙を見てはちまちまとイャンクックの脚を攻撃し離れるの繰り返しだったが、どうにもダメージをうまく与えられていない気がしたのだ。
ドスランポスと対峙していた時は考えもしなかったが、当然ながらモンスターの肉質には硬いところと柔らかいところがある。もし効果的にダメージを与えたいのならばいかによく弱点を攻撃できるかが鍵となる。
(とはいえ頭部を狙うとなると、正面に立つことになる......)
頭部を狙うのはリスクが高いことも承知していた。そもそも相手は大型モンスターであり、頭部が高い位置にあるために狙いにくい。
(弱点が分かれば、すぐにでもこいつを使うのに......)
アイテムポーチには温存された落とし穴の発生装置が入っていた。今回のクエストに赴くに当たって調合したものだ。設置すると地面を爆破して落とし穴を作るという性質上、環境維持のために完成品はひとり一つまでしか持ち込めない決まりになっている。使いどころは選ばなければならない。
(落とし穴を使ってイャンクックの頭部を集中的に攻撃するという手もあるが......小さくてもがく頭にうまく攻撃が果たして当たるか)
やはりもう少し弱点を探るということにして、クラウスはペイントボールの匂いを頼りに追跡を再開した。
けたたましい鳴き声を上げて、再び怪鳥の啄みが襲いかかる。それをガードしようとせずに懐にダイブすることでかわす。ガードをしているとあっという間にスタミナを持っていかれかねないからだ。
懐で再び脚を切り付けようとしたクラウスだったが、考えを改めて脚の隙間から怪鳥の翼めがけてアサシンカリンガを突きつけてみた。すると今度は脚を切りつけた時よりも明らかに大量の血が吹き出るのが見えた。
(今の手応え......きっとそうだ!)
弱点さえ分かれば、こちらのもの。イャンクックの突進の隙をついて、クラウスは地面に落とし穴の発生装置を設置した。離れてしばらく待っていると装置の下で爆発が起こり、瞬く間にネットと草の葉で覆われた巨大な罠が出来上がった。
「おーい! こっちだぞチキン野郎!」
クラウスが大声を上げてイャンクックを挑発すると、火炎液を辺りに吐き散らして突進してきた。
(ちょっとかわいいかも......)
シュールとさえ思える光景。しかしイャンクックの突進がクラウスに当たることはなく、落とし穴にしっかりとはまる格好となった。
「さーて......じっくり調理してやるぜ」
穴にはまって動けないイャンクックの鳴き声はこころなしか泣いているようにも聞こえたが、そこはハンターのクラウス・クローゼ。アサシンカリンガを構えると無防備となった怪鳥の翼を力の限り切りつけた。
イャンクックがようやく落とし穴から抜け出そうとした頃、クラウスは更に追い討ちをかけるべく、近くに生えていた背の高い木の元まで走った。そのまま幹を踏み台にすると、落とし穴から抜け出して飛び立とうとするイャンクックの背中に飛び乗った。
驚いたイャンクックは振り払おうともがく、クラウスはしがみつくので精一杯だったが、やがてイャンクックの体力も尽きてきたのか、なんとか背中の上で剥ぎ取り用の小さいナイフを取り出した。
甲殻と甲殻の隙間を縫うようにナイフを通すと、中の柔らかい肉質にダメージを与えることができたようで、そのままイャンクックは地面に落ちた。
最後の抵抗を続けるモンスターの首元にもう一度ナイフを突き立てると、ついにイャンクックは動かなくなった。絶命を確認した後、クラウスは慌てて懐中時計で時間を確認する。ギルドの規定した時間以内に狩猟することができたようだ。
「ふうーやったぜ!」
思わずギルドの観測隊の気球に拳を振りかざすと、なんと気球はライトをチカチカさせて応答してくれた。
イャンクックの狩猟も無事クリア、クラウスは着々と力をつけていく自分を少しだけ誇らしげに思った。また一歩、ロロア・ロレンスに追いついた、そう確信していたのだが、その一週間後彼女はさらに先へ進んでいたことを知る。
「村を出ていくって本当なのかロロア?」
「まあね、じーちゃんから許可も降りたし。私は自分の力がどこまで通用するか試したいんだ。ミナガルデの街にはとてつもない難易度のクエストを受注できるGクラスっていうレベルがあるんだ。私はそこを目指す」
ロロアが村を出ていく前日、クラウスは砂竜ドスガレオスの狩猟から帰ってきていて、村長から彼女のことを聞いた。
「悪いなクラウス、私正直言ってもうこの村のレベルのクエストじゃ満足できないんだ......もっともっと、私は広い世界を知りたい」
そう言ってロロアはポケットから一枚の紙を取り出した。そこにはこれまでの彼女の戦績、勲章などが書かれていて、最後に村長の推薦文と印が押されていた。この田舎の村のハンターとは思えないほどの数々の功績を見てクラウスは言葉を失った。
「やっぱお前すげーわ......お前に追いつこうと結構頑張ってるつもりだったのに......」
「私がここ最近飛ばしていられたのは、アンタのおかげでもあるんだけどな」
照れくさそうにロロアが答える。
「言っただろう? 二年の差なんてあっという間だ。ルーキーに追い抜かれるなんて珍しいことじゃない。私はお前が必ず私を追い抜いてくると信じてる。だから頑張れたのさ。」
「お、俺をライバル視してたってことか?」
ロロアは答える代わりにクラウスの肩をそっと叩いた。
すれ違いざまに耳元で一言、「先に行って待ってるぜ」と言い残して、ロロアはミナガルデに向かうネコタクに飛び乗った。
***
こうして俺の先輩ロロア・ロレンスはミナガルデの街へと旅立った、己の力がどこまで通用するのか確かめるために。
それからさらに三年の月日がたった頃、一通の手紙が写真と共に送られてきた。写真にはたくさんのハンター仲間に囲まれたロロアの姿が写っていた。手紙にはロロアがGクラスのハンターに昇格したことが書かれていて、ギルド始まって以来最年少の女性のGクラスハンターであるという功績と共に称えられていた。
手紙を読んですぐに決意した。もっと早く強くなりたい。彼女に会いたい。彼を突き動かすのは彼女へのあこがれただ一つ。手紙を握り締めたまま、クラウスはすぐさま次のクエストを受注するべく村長の元へと急いだ。
かけ足でしたが、これにて第一章は終わりです。
私の文章力と構成力不足のせいでいまいちパッとしないまま終わってしまった一章主人公.....残念ですが、二章から新たな主人公にバトンタッチです。一章は本当に序章の序章と言う感じで、私が文体とかこの小説の構成とかを試し試しに書いたって感じです。書きためがあるので反映に時間はかかりますが、こんな作品でも助言や感想を頂けるとめちゃくちゃ喜びます。もちろん読んだり眺めたりしてくださるだけでも励みになります。いつも本当にありがとうございます。
二章からペースダウンするかもしれませんが、ひとまず完結目指して頑張りたいと思います。ちなみにプロット作っていて、エンディングまでどうなるかだいたい決めています。おそらく70話前後で完結?あとはやる気が.....やる気が.....