狩人達の軌跡   作:SHIPS

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第二章
2-1 獣出ずる地に思いを馳せて


 

 分厚い雲に覆われたモノクロの大地。毒キノコの振りまく瘴気と霧とが入り交じり、湿地帯は昼でも夜のような雰囲気を狩人達に与える。一寸先の闇からいつ、何かが現れたっておかしくない。あるいは、何かが向こうへ消えたら最後、その正体が分からなくなっても不思議はない。

 湿地帯を飛ぶ一頭の毒怪鳥。そいつが底なし沼を越えて、背の高い金色の草原で翼を休めようとしていることは彼女にもすぐにわかった。

 

「目標来ますわ。読み通りね」

 

 千里眼の薬が入っていた瓶を小脇に抱え、集中のためにもう一本の空いてる手を額に当てながら女性は呟いた。その気品のある口調とは裏腹に彼女の腰にはシンプルな直方体に棘がついただけの無骨な形状をしたハンマーが留められていた。

「作戦通りとは......さすがですな軍師殿!」

 男は女の報告を受けると満足そうに微笑んだが、軍師と呼ばれたもう一人の女はため息混じりに「軍師って呼び方はやめてくれ」と返した。

「そうですわムラマサ、私達は軍隊ではありませんことよ?」 と、最初の女が加勢する。

「ぐぅ......承知したヴェロニカ......女性二人に責められてしまっては男としての面目もない.....」

「んな!? 責めるですって......このような戦時に何を破廉恥な......」

「二人とも......頼むから集中してくれ」

 

 二人もやがてモンスターの影を捉えると、黙ってそれぞれの持ち場につくべく。散開した。

 

 ロロアは妃竜砲【姫撃】の銃身を二つ折から銃の形にすると背の高い金色の草に身を投じた。偽装ネットを付けることも考えたが、後で二人に加勢して戦うことも考えると抱えて歩くには面倒だったので、攻撃力を高めるためにパワーバレルを装着してきた。

 

 肉眼でも毒怪鳥ゲリョスの姿を捉えると、次に彼女は火炎弾を取り出してリロードし銃のセーフティも外した。スコープでゲリョスを追いながら、二人の出す合図を待つ。

 

 マサムネとヴェロニカはゲリョスを挟み撃ちする形で草の中に隠れていた。ゲリョスが地面に降り立つと同時に草むらから飛び出し、それぞれ背中の武器に手をかけて突進した。作戦開始だ。

 

 ゲリョスははじめムラマサと対峙する格好となった。こちらに向かってくる狩人の姿を認識すると、はしゃいでいるかのような鳴き声をあげて威嚇し、迎え撃とうと首を振りおろした。

 

 だがゲリョスの啄みが来る前に、頭部で突然小さな爆発が怒りゲリョスの攻撃は脇にそれた。その隙にムラマサは鞘から太刀を抜き出し、圧倒的な早さでふり抜いた。

 

 ムラマサの斬撃は毒怪鳥の特徴的なトサカを半分だけ、切り落とした。続いて返し刀でゲリョスの胸部めがけて振り抜くが、刀が体に触れた途端ゴムのような質感が刀を包み、上手く刃を入れる事が出来なかった。

 

 (さすがはGクラス、皮の厚さも耐性も桁違いか......)

 

 続いてゲリョスの尻尾がムラマサめがけて振り下ろされるが、身を屈める事でやり過ごした。

 

 尻尾を振り回した事でゲリョスの頭部は次にヴェロニカの方を向くことになる。ムラマサの方へ集中していたゲリョスは未だに彼女に気がつかずにいる。

 

 ハンマーは武器の中でも特に破壊力があるがリーチも短いというピーキーな性質を持っている。彼女がゲリョスに大ダメージを与えるにはゴム質の皮てを覆われてはいない頭部を狙うこと。

 

「そこで、私の出番というわけだ......」

 

 二人の戦う場所から少し離れたところでロロアはニヤリと笑いながらスコープをのぞき込み、素早くゲリョスの頭部に照準を合わせて引き金を引いた。弾丸は再びゲリョスの頭部に命中し、小さな爆発でよろめく。ゲリョスの頭部がゆっくりとヴェロニカの前に降りてきた。

 

 「感謝致しますわロロア」

 

 ロロアのお膳立てによりゲリョスの頭部は無防備な状態、ハンマーを振り下ろす絶好のポイントだ。ヴェロニカはあらかじめロロアの弾丸が当たることを見越して体中の気を集めていたが、ハンマーに溜め込んだ気が最高潮に達して白く光りだすと、そのままゲリョスの頭めがけて振りおろした。

 

 グシャッという派手な音を立てて、ゲリョスの頭に大きな窪みが出来上がった。想像を絶する衝撃にゲリョスが大きく後退したが、なんとこれでもまだ生きているようだ。

 

「ななな......確かに手応えがありましたのに!?」

「流石はGクラス......と言ったところかのう」

「ムラマサの言う通りだ」

「ろ、ロロア? まだ隠れていた方が......」

 

 二人が振り返るとロロアがすぐそばまで来ていた。

「Gクラスじゃ私たちのこれまでの常識は通じないって......ギルドマスターのおっちゃんも言ってただろ? もう忘れちゃった〜?」

「わ、忘れてなんかいませんわ! ぷんぷんっ!」

「いや、それいつの時代の人でござるか?......」

 ロロア・ロレンスがミナガルデの街に来て三年の月日が経っていた。街へ来たその日から彼女は破竹の勢いでクエストカウンターに貼られた受注書を平らげていった。クエストから帰ってきたその足でカウンターに趣き、持ち帰った素材をアイテムボックスに放り込んではまた出発。彼女がマイルームのベッドで眠った日はこの三年でも数える程だ。

 彼女の活躍ぶりはすぐさまギルドマスターの耳に届く。そして、彼女の力量を試すべくGクラス昇格試験として単独でのイャンクック亜種の狩猟を与える。結果はロロアの勝利。晴れて最年少の功績とともにGクラスハンターに迎え入れられた。

 今はヴェロニカとムラマサという二人の仲間とパーティを組んでGクラスの狩りに明け暮れている。Gクラスに登りつめるまで彼女はミナガルデで実に多くのハンター達とパーティを組んでいたが、この二人が一番しっくりきた。

 ヴェロニカは色白の肌に綺麗なブロンドの髪の毛をした「まるで絵本の世界のお姫様」のような外見をしている。丁寧な口調で会話し、時に厳しいが基本ノリがいいというか、ちょっとズレてる感じがロロアは気に入ってた。

 

 大陸の極東に存在するたいうシキ国からやってきたというハンター、ムラマサはとにかく面白い。生真面目だが、仲間思いでモンスターの気を引く役割もしばしば買ってでる。何より面白い。時々「テンジョウテンゲー!」とか「ユイガドクソーン!」とか奇声をあげながら変な必殺技を繰り出す。

 

 ヴェロニカとムラマサが二人でいるとその真価は発揮される。ヴェロニカが盛大にズレて、マサムネが無理やりつっこんで話を戻す。ズレてるのに息ピッタリだなんて自分でも何を言ってるのかわからないが、とにかく夫婦のような二人の茶番に付き合うのが彼女の日課でもある。

 

(って......私は結局面白いやつが好きなんだよな。もう少し緊張感は持って欲しいけど)

 

 なんていってもGクラスは一瞬の油断が命取り。死ぬときゃ死ぬ、そんな覚悟でみんなは生きている。だからこそあまり死というものを意識したくないという気持ちは彼女にも理解できないことはなかった。

 

 怒りのあまり暴れだすゲリョスを見て、流石にこれ以上会話をしている余裕がないと察したロロアは二人に再び散開するよう伝える。

 パーティでの狩りも必ず楽になるという訳でもない。これだけのチームワークを得るのも、三人は大いに苦戦した。特に同じ剣士でリーチの短いハンマーを使うヴェロニカと、リーチの長い太刀を振り回すムラマサは相性最悪で、イャンクックを倒すにもお互いがお互いを吹き飛ばしたりこかしたりでいつも喧嘩になっていた。

 

 それでも二人は彼女についてきた。彼女の作戦どおりにやれば、大体は動きやすいし、それほど二人がぶつかることもなくなる。いつからかムラマサがロロアのことを「軍師殿」と呼ぶようになったのは、彼女の類希なるセンスを評してからだった。最も本人は気にいっていないが。

 

 ゲリョスがその場で直立するとトサカと嘴を打ち付ける仕草を見せる。このような方法でゲリョスはトサカの器官をつかって発電し、閃光を放つことで敵の目をくらませようとする。しかしながらこれまで何度もゲリョスを相手にしたことのあるロロアにとってみれば、この行動は単なる隙にしか見えず、そんなロロアの様子を感じ取ったのか、二人もまた臆することなくゲリョスに向かって走り出した。

 

「一回、二回、......今だ!」

 三回目にゲリョスがトサカを打ち付けた後、ロロアは妃竜砲【姫撃】の引き金を引いた。火炎弾は閃光を発するギリギリのところでゲリョスのトサカに直撃し、電気を溜めていた発電器官は小さな爆発を起こした。スコープでもゲリョスの発電器官が使い物にならなくなったことを確認するとロロアは二人にも聞こえる大声をだした。

 

「テンジョウテンゲー!」

「ああ! それは拙者のセリフでござる!」

 ムラマサが手にしていた斬破刀は赤く鈍く光りだし、彼がその場で円を描くように刀をかざすとその光は脈打つように瞬いた。太刀使いの放つ練気と呼ばれるエネルギーがムラマサの周りを取り巻き、周囲に放つその殺気は普段のムラマサからは信じられないほどだ。

 ゲリョス一頭に狙いをしっかり見定めた後、目にも止まらぬ早さでムラマサは斬破刀を振り抜いた。その目にも止まらぬ早さは周りの時間から切り離されたような錯覚を与えた。ムラマサが振り抜いた太刀を鞘に戻した瞬間、ゲリョスの首から胸部にかけてスパっと長い切り傷ができ、大量の血液を吹き出しながらゲリョスがその場に力なく倒れた。

 

 ゲリョスの死骸を遠くから観察して、絶命を確認しようとするムラマサが、独り言で「死んだふりではなかろうな、ええ、おい?」と言うのを眺めながら、ヴェロニカとロロアは改めて、(やっぱりこの人一番怒らせちゃいけない人だ!)と、青ざめた顔で決意を新たにするのであった。

 

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