狩人達の軌跡   作:SHIPS

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2-2 ロロア・ロレンス立つ

 

 ミナガルデの街は大陸の中でも一際変わった都市国家の一つに数えられるだろう。多くの人間、もとい命知らずたちが夢を掴むためにやってくる。ある者はハンターズギルドに所属して狩人に、あるものは商業ギルドに所属して商人に、またあるものは汚れ仕事を受けて闇の住人として生きる。それだけ光を浴びる大きな街には必ずどこかに影もあって、その中には夢やぶれて物乞いや娼婦に堕ちた者も少なくない。むしろ、この街がより立体的で本物の世界に見えるのはそうした影たちのおかげなのかもしれない。

 

 ミナガルデ・ハンターズギルドは旧大陸の中でも三本指に入るほどの規模を占めている。この街も彼らハンターズギルドの存在を中心に出来上がったもので、その力の強さは街の広さを見れば一目瞭然。似たような過程で作られた中にドントルマと呼ばれる街が存在するが、あちらは土地の環境上ミナガルデほど大きくすることはできない代わりに自治が行き届いている。

 

 ハンターズギルドでは依頼者とハンターたちの仲介を行う。モンスターの狩猟や討伐、危険な土地での植物や魚、鉱石の採取を要請する人々をギルドがクエストとして受諾し、難易度に見合った力量のハンターを探して受注させる。ギルドは仲介料としてハンターから契約金をもらい、クエストが達成されたあかつきには依頼者からの報酬と共に二倍で返還される。

 

 その代わり、ハンターたちにはモンスターの素材を剥ぎ取る際に制限がかかる。剥ぎ取ることのできる素材の数はモンスターごとに決まっていて、モンスターを狩猟した敬意を評して最初に剥ぎ取りはさせるものの、残りの死骸は全てギルドに回収させられるのだ。回収された素材は一部が部位破壊報酬やサブターゲット報酬に回されるが、大部分は商業ギルドに買い取らせることになる。

 

 また商業ギルドも支給品の供給や、ハンターの居住地の提供を行うことで報酬を得ている。二つのギルドは互いに利益の生む相手として互いを見ているからこそ、この街はうまくお金が循環しているのだ。

 

 ヴェロニカもムラマサもこの街へはそんな勢いの良い歯車に一枚噛むためここへ来た。はじめは生きるために始めたハンター稼業が、今じゃすっかり身についてしまい、とうとうGクラスハンターにまでなってしまったというわけだ。

 

「Gクラスを目指そうと思ったのは、あなたのせいでもあるんですよ?」

 新しい枝を火の中に放り込みながら、ヴェロニカは呟いた。ゲリョスを討伐した後、三人は街へ帰る途中で野宿をしている最中であった。日はすっかり暮れてしまい、街灯などもちろんないので、今夜このまま竜車を走らせるのは危険だと御者が判断したのだ。明かりにこそならないが、空には無数の星が瞬いていて、鉱石のように様々な色をしていた。

「ヴェロニカ殿の言う通りにござる、責任とってくれよー......なんつって」

「せ、責任でちゅって!?」

「そ、そういう意味じゃないでござるよ! ってか、でちゅっては流石の拙者もNG!」

「か、噛んだだけですの! うう、恥ずかしいから言わないで」

 

 色白なヴェロニカの顔は赤くなると一層分かり易い。焚き火といい勝負だ。

 

「それで、どうして私のせいなんだ?」

 

 ムラマサがあまりにヴェロニカをからかうので、助け舟を出そうとしてロロアは話を戻した。

 

「そりゃもちろん、拙者がロロア殿から何やらやんごとなき何かを感じたからでござるよ」

「あ、そうそう! 私も何かこう...ビビってくるものが」

「ビビッと......ねえ?」

 

 私は私が初めてヴェロニカに出会った時のことを思い出した。私が数少ない休みをとって、ミナガルデをぶらぶらしていた時のことだ。ハードクラスに上がりたてだった頃の私はいよいよ一人での限界を感じ始めていて、一緒に狩りに行く仲間を探していたのだ。

 

***

 

(まず欲しいのは前衛かな......)

 ミートアップと呼ばれるギルドの施設に私は来ていた。ここでお互いの条件にあった仲間を仲介してくれるのだ。気に入った仲間がいれば、ここから初心者用のクエストに出て相性を確かめることもできる。

 一通り掲示板を見たものの、なかなか性格に難のありそうな人間が多くて選別に困る。

 

(そりゃ難ありだからこんな所へ来てるんだけどさ......お、このホセって奴、確か訓練所時代にクラウスと同じ班にいたやつか?......なになに?弱い奴には興味ない......って何コイツゥ! 面白っ!)

 

 結局、そのホセって奴とはそりが合わなくて一度クエストに行ったっきりさようなら。その後も何人かと一緒にパーティを組んだけど、どうも私にしっくりくる相手はいなくて、その日は収穫なしだった。

 

 こうなったらもう一人で頑張るか......と思い、ハードクラスカウンターへ行くと、私はその場面に出くわした。クエストから帰ってくる到着口のところで四人の男女が口論になっていたのだ。口論ってだけならさほど珍しいことではない。パーティで行う狩りの難しさっていうのは、私も嫌と言うほどこの前体験したし。

 

 その口論が目を引いたのは男が三人して女を責めていたことだった。しかもその女の子というのがとても可愛い。北方の民族を思わせる色白で整った顔立ちに、綺麗なブロンドのナチュラルヘアをした美女だった。まるで「絵本の中のお姫様」のような女性が今、三人の男に責められている。

 

「女の子相手に三人がかりでいじめだなんて恥ずかしくないの?」

 気がつけば私の体は勝手に飛び出していた。私が割り込むと、三人の男の視線は私に向けられた。

 

「なんだお前は? 関係ない奴は引っ込んでろ!」

「大方、クエストに失敗でもしてこの子を責めてたんでしょうけど。まあどうして男ってやつはケツの穴の小さいやつの多いこと!」

「なんだと!」

 男の一人が私に殴りかかってきたが、その動きはまるで止まって見えた。師匠から一通りの体術を教わっていたから、体格の差もお構いなしにあっという間に男を一人締め上げてやると物分りがいいらしく悪態をつきながら残りの二人が逃げ出したので、私もそいつを離してやった。

 

 聞けば当時のヴェロニカもなかなかパーティでの戦い方に馴染めず苦労していたらしい。その容姿故に声をかける人は多かったが、大抵味方をハンマーで吹き飛ばしてしまい、怒られてしまうのだという。前衛を探していた私は、ガンナーなら基本アンタの邪魔はしないと伝えると、早速二人でイャンクックのクエストに向かうことにした。

 

***

 

「乾杯〜! いやあアンタ見かけによらずパワフルなのね!」

「ロロアさんこそ、すごい状況判断でしたわ。本当にロロアさんの手のひらの上でイャンクックが動いて......」

「そんなことないわ。偉そうなこと言ったけど私、今までパーティ組んだことなんてなかったもん!」

「ええ!? あの、本当ですか?」

「マジで、実は昨日ミートアップで初めて......」

 

 ヴェロニカとのイャンクックの狩猟は最高に楽しかった。私が盲撃ちでモンスターの気を引き、彼女が頭を狙いやすい位置に置くだけで、気持ちのいいくらいのスタンプをお見舞いしてくれる。ほとんどが彼女の与えたダメージによる討伐で、私は他には回復弾を撃ったり散弾で周りの雑魚を掃除するだけであった。

 

「それにしても、どうしてそんなにすぐ連携が取れるの、ロロアさん?」

「私のことはロロアでいいよ......って私の名前知ってるの?」

「あなたのことは私達ソロハンターの間じゃ有名ですわ。ダークホース現るって......先月の週刊『狩りに生きる』をご覧になっていないのですか?」

「ここ最近ほとんどミナガルデにはいなかったからね......」

「なるほど......流石ですわね。しかし、そんなソロハンターのあなたが、実はパーティでの狩りにも精通していたとは知りもしませんでしたわ」

「ああ、あれは単なる思いつきだよ」

「思いつきですって?」

「まず、アンタの武器はハンマー。ハンマーの特徴は機動力と破壊力、頭をぶっ叩けばモンスターはダウン。でもリーチは致命的に短いから頭を狙うのは難しい。なら私が盲撃ちでモンスターを牽制して、アンタが頭を狙いやすいように誘導すればいい。アンタが頭をぶっ叩いたら、今度は私が数撃ってモンスターの気を引く。私はガンナーで防御力が弱いから、リロードや回復中はあなたが前衛になって戦う。これくらいのことはすぐに誰でも思いつくわよ。そして、アンタもそれを察してくれた。私のボウガンの通常弾の装填数を覚えて、リロードのタイミングになったら敵の気を引いてくれた。ボウガンは遠距離攻撃ができるけどリロードの瞬間は無防備だからね。お互いの長所を活かし短所を補う、私一人の力では無理だわ。だいたいアンタもそれだけ察しが良いのに、どうしてさっきの連中とうまくやれなかったわけ? まあ、きっとパーティのブレイン役が残念なおつむだったのね......って、おーい? 聞いてますか?」

 

 ヴェロニカは目を輝かせたままひたすら私を眺めているだけであった。

 

***

 

「あの時のロロアの丁寧な解説を聞いてるうちに、私は決めたのです。あなたについていこうと」

 

 ヴェロニカの口調はなかば告白めいたものだったので、悪いと思いつつちょっと鳥肌が立った。

「なるほど、軍師殿はヴェロニカ殿に出会った頃から軍師の才に溢れていたのだな......」

「ま、まあ、よく考えてみたら出会って数分のやつがそこまで考えてるってのはすごい......っていうかちょっとキモいな、私」

(本当に、何してるんだ私は)

「落ち込んでいるロロア殿は珍しいな」

「でも落ち込んでる顔もなかなか可愛いですわ!」

「さすがの私も女の子に可愛い言われるのはNGだ......」

 

「それじゃあ折角だし、私はロロアがムラマサを連れてきた時の話をついでに聞いてみたいですわ!」

「折角とか、ついでにとか、いちいち尺に触る副詞を入れないでほしいのう......」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、ムラマサは新しい木の枝を数本焚き火の中に放り込んだ。一日中アプトノスの健康を管理していた御者は既に焚き火のそばでこちらに背を向けて臥していた。

 

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