狩人達の軌跡   作:SHIPS

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2-3 タンクソーサラー

 

 私がヴェロニカと行動を共にするようになったのはいいけど、その頃の彼女はとにかく体力がなくて、毎日一緒に狩りに行くというのはなかなか難しかった。確かに、今のフォーメーションだとダメージソースは半分以上がヴェロニカだから、彼女の疲労はよくわかる。そこで私はもう一人前衛とサポートの両方を行える遊撃手を探すことにした。

 ミートアップで探すのもいいけど、正直街を出歩いてヘッドハンティングする方が私の性にあっている気がしたのだ。

 

(っていうか私、本当に『狩りに生きる』で取り上げられたんだろうか? 誰ひとり声かけて来ないなんておかしいだろ......)

 

 ひとり愚痴をこぼしながら歩き、まずはハードクラスのクエストカウンターを見て回ることにした。すると、カウンターの脇に立っていた一人の男に見覚えがあった。

 

「あれ? ホセじゃないか。友達できたのか、よかったな〜」

「う、うるさい! 貴様はどうなんだ?」 黒髪をくしゃくしゃされ、鬱陶しそうにホセが答えた。

 

「そりゃもうとびきり可愛い子がね......ところでアンタ、ソロハンターで強い奴知らない? 双剣とかで」

「貴様に教える義理はない。じゃあな」

「ああーちょっと待って!」

 

 逃げようとするホセの首を掴んでこちらに引き寄せると師匠から教えてもらった体術で締めあげる。

 

「アンタさあ......私先輩だよ? 分かってんの?」

「ぐっ......や、やめろ! 死ぬっ、やめて、やめてくださいぃ......」

 

 もともと血色の悪い顔がさらに青くなったので、私は首を離してやることにした。

 

「とは言ったものの......俺様もそんなに多くを知っているわけではない」

「この前まで私と同じくぼっちだったからね」

「ほっとけ! ......そうだな、最近聞いた名前ではヘルブラザーズとかいう連中が......」

「そいつら、偽物だよ。本物の片割れがココット村にいるから」

「な、何ぃ?」

「他には?」

「では......隻眼のバーサーカーと呼ばれる双剣使いはどうだ? 奴は本物だ」

「こええよ......一緒に狩りしてて楽しい奴がいいんだよ私は」

「それじゃあなんだ? 強いけどお前とそりの合うお気楽な仲間でも欲しいのか貴様は......」

「そんな奴がいたらサイコーだよな......どうだ? 思いつかないか?」

 

 その時、ふとホセが指を顎に当てて何かを思い出したかのように目を見開いた。

 

「その顔は......何か心当たりがあるんだな?」

「ああ……これといって危険そうでもなく、妙といえば妙で、強い……かもしれない」

「なら、決まりだ」

 

 ホセの肩を掴んで私は今できる最高の笑みを向けた。

 

「連れてけ♪」

「貴様が一番怖いわ……」

 

 ミナガルデでハンター登録を行った者はこの街の居住区で部屋を一つ与えられる。ハンターのランクによって部屋の質が変わる。ホセが私を連れてきたのはそんな居住区の中の一室だった。

「ここもハンターの個室だったのかよ……でもネームプレートも何も書いてないな?」

「当たり前だ、姿を隠していなければならないからな」

「恥ずかしがり屋さんなのか? お茶目だな」

「ま、そう思っていた方が貴様は幸せかもしれないな……」

 

 そう言って、ホセはひとり不敵な笑みを浮かべる。

 

「はあ? 何言って……」

 

 そう言いかけて、私は気づいてしまった。だが、止める前にホセはさっさと部屋のベルを鳴らしてしまった。

 

(くそっハメられた! この野郎……とんでもないやつを押し付けたな!)

 

 

 ところが、私の予想に反して出てきたのは無精髭をはやした黒髪を後ろで束ねた男であった。服はかなり独特の物を着ていて、それが東方の国の装束であることは辛うじて私にもわかった。

 

「ええと……何か用ですか先輩? 昨日も遅くて、昼まで寝ていたいのでござるよ」

「この者がお前に用があるってよ」

「おい! 言っただろ? 私は楽しいやつと組みたいんだって......」

「えっと......拙者に何かようでござるか?」

「......ござる?」

 

***

 

「それにしても、元キルドナイツを紹介してくるとはアイツも大胆な事をしやがる」

「ギ、ギギ……ギルドナイツですってええ!?」

 こういうリアクションをとってくれるところもロロアがヴェロニカを気に入ってるところのひとつである。

「す、すまない……ただ、万が一の事を考えて、ヴェロニカ殿に危害が及ばないようにという拙者とロロア殿の約束だったのでござる」

 

 慌てて弁解するムラマサだったが、あまりの衝撃にヴェロニカはすっかり狼狽していて、説得どころではなかった。

 

「まあ蓋をあけてみたら、案外いい奴だったんだよな! 元ギルドナイツとか面白いし!」

 

「ま、全く肝の据わったお人にござる。」

「で、でも! それじゃあ正体を知ってしまった私は命を狙われるのでは!?」

「その心配はないみたいだぞ、そうだろ? ギルドナイツさん?」

「……えっ? 拙者?」

「……アンタも気づいてなかったのか」

 

 あきれ顔でロロアは隣で寝ていた思われる竜車の御者を指でつついた。観念したかのように御者は起き上がり、ため息を吐いて尋ねた。

 

「なぜムラマサでなく、貴様に分かった」

「お前は気配を消しすぎだ。プロフェッショナルがあだとなったみたいだな」

「……今後は気をつけよう」

 

 そう言って御者は布切れで顔をゴシゴシとこすり、髪の毛に手を掛けた。髪の毛はウィッグになっていて、それを外すと御者は黒髪の青年に若返った。

 

「先輩! うそ、全然気づかなかった!」

「すっかりカタギが板についてきたな貴様は……」

 

 ホセ・シャイロックは顔のメイクを丁寧に吹きながら残念そうにぼやいた。

「先輩って……じゃあこちらの方が……?」

「ホセ・シャイロックだ。後輩がヘマをしてギルドの情報を喋っていないか、たまたま監視の任務に当たっていたのだが……一般人に見破られるとは俺様もまだまだのようだ。今回のところは見逃してやる。それから我らの名誉のために言うが、ギルドナイツは正体を知られたところで無闇に人を殺す連中ではないぞ」

「ヒッ......失礼しました!」

 

 先ほどの自分の発言を思い出して、なんと命知らずなことをしゃべったとヴェロニカは顔を真っ青にした。ヴェロニカとは対照的にロロアはなに食わぬ顔でホセにこう語りかけた。

 

「味方同士で監視とは大変だねえ」

「詳しく言えんが、今は大事な時期だからな。とにかく、何も問題はなさそうだから俺様はこのまま変装を続ける。お前たちは俺様の正体に気づかなかった。それでいいな?」

 念を押すホセに対して、ロロアは短く、

 

「そりゃ嫌とは言えないよ……」と答えた。

 

***

 

「ところでロロア殿、Gクラスに昇格したら真っ先にゲリョスに行きたいとずっと言っていたでござるな?」

「まあね! ずっと作りたかった武器があってさ」

 

 ゲリョス討伐から帰ってきたロロア達はホセの奢り(もとい口止め料)で昼飯を食べていた。沼地とジャングルは湿気が特に強く食べ物が腐りやすいため、保存食も干からびたようなものばかり食べなくてはならない。そのため今の四人にとっては並の酒場のコース料理でも、三ツ星レストランのフルコースのように思えた。

 御者の格好をした人間が三人のハンターに飯を奢るという光景はなかなか奇妙なもので、周りのハンターからは好奇の視線が突き刺さるが、そんなこともお構いなしに四人はガツガツと料理を平らげた。

 

「ヴェロニカは覚えてるか? 私が妃竜砲【遠撃】を作る前まで使ってたやつ」

「ええ、名前は確かタンクメイジと言いましたか?」

「そうそれ、私がボウガンを始めるときに師匠からもらったんだけどね、どうやらGクラスの素材で強化できるらしいんだよ。最近どうも火力不足だなあと思ってて......素材も揃ってることだし、この後見に行こうぜ!」

「それは誠に楽しみですわね! ムラマサはどうなされるのですか?」

「楽しそうなところ申し訳ないでござるが、拙者はこの後野暮用にござる......」

「なんと? それは残念です」

「また御用の際はいつでもお呼びくだされ!」

 そう言ってムラマサはポポノタンの最後のひと切れを頑固パンで挟んで一口で平らげると、武器を背中に戻して手を振りながら酒場を出ていった。

 

「ムラマサって一人の時は何をしているんでしょうか?」

 

 酒場を出てホセとも別れたあと、ふとヴェロニカは呟く。言われてみればとロロアも考えを巡らせるが、確かに彼女たちはムラマサのプライベートについてほとんど知らなかった。最もそれは、ギルドナイツということもあってどこまで聞いても大丈夫なのかわからない、という意味合いの方が強かったが。

 

「......今度アイツの部屋に行ってみるか? アポなしで突撃したりとか」

「そうですわね、美女二人が押しかけてしまえばあの男も文句は言えません! お掃除お洗濯してやりましょう!」

「ヴェロニカの中では、あいつの部屋は汚いってことになってるんだな……」

 

 ロロアは冗談のつもりで言ったのだが、ヴェロニカはすっかり本気にしてしまったようだ。

(ほんっとこいつら結婚したらいいのに......)

「何かおっしゃいまして?」

「なーんにも!」

 

 数時間後、それは完成した。

 見た目に大きな変化はないが、フレーム、バレル、照準、銃口あらゆるものがGクラスの素材に置き換えられたそのへビィボウガンは渋い見た目ながらも泰然としてロロアの前に帰ってきた。新たな名を「タンクソーサラー」と呼んだ。

 

「タンクソーサラー……魔術師か」

「ねえちゃん、古シュレイド語が分かるのかい? 博識だねえ」

「昔ちょっとね。それより……ようやく追いついたぜ師匠……」

 

 タンクソーサラーはロロアの師匠でもあるルガ・バレットが愛用していたボウガンの一つであった。へビィボウガンの売りである破壊力を活かせる豊富な物理弾に対応していて、かつ状態異常弾や散弾などのサポートも行うことができる。魔術師の名前に恥じない一級品だ。これ一丁あれば誰とでも戦えると彼女はよく豪語していた。そのタンクソーサラーを今、弟子であるロロアも手にした。

「これでまた、戦術の幅が広がる……くーっ! 我慢できない! クエスト行ってくる!」

「ええ!? さっき帰ってきたばかりじゃないの!」

「普通新しい武器を手に入れたらすぐ試したくなるだろ? そういうわけで、今日もお疲れ様ヴェロニカ、またよろしくな!」

 そうして彼女はあっという間に工房から姿を消した。

「全くもう……本当に、大した人……」

 ひとり取り残されたヴェロニカは困ったように微笑み、自分の部屋に戻って休むことにした。

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