ミナガルデの街から百数キロ、熱帯林からさらに奥深くを突き進んだ場所で超古代文明のものと思われる遺跡の一部が発見された。
発見者であるハンターの案内の元、王立書士隊が調査を開始すると、遺跡はなんと本物で、しかもこれまでに発見されたなかでも一番古いものではという情報が判明した。
「ハンター諸君のなかでも超古代文明については、火山などで時折発掘される『錆びた塊』『太古の塊』などでその存在について理解していることかと思われるが......なんと! 超古代文明! ロマンの響きが致しますわ〜!!」
ヴェロニカ・ガヴェッタはアンティークマニアである。狩場へ赴く度に、何やらそういうアンティークっぽい何かや、オーパーツ的な何かを探している。初めて堀当てた太古の塊は実は、大地の結晶が足りないせいで研磨しきれず装備ボックスの肥やしになっているが、それでも彼女は自他共に認めるアンティークマニアだ。
今週の『週刊 狩りに生きる』は彼女にとってもはや永久保存版となるのだろう。ミナガルデ周辺の様々な遺跡スポットの特集、新しい狩場の開拓、調査を行う王立書士隊の独占インタビュー。いい買い物をした! まさにそんな気持ちが彼女の心をしばらくの間満たした。だがもっと彼女を喜ばせることになるその小さな枠に囲まれた募集要項にうっかり屋な彼女は気づくことができなかった。先にその募集要項を発見したのはロロアであった。
「というわけで、応募してきた」
「はあ〜流石ですわロロア、ロマンが私を待っていますのよ!」
「えーとなになに......新大陸の最北端、アクラ地方の樹海の調査に同行するGクラスハンターを募集と......うそ、未開拓地の調査でござるか!?」
いつもの酒場に集まった三人。ロロアが話があると言ってマイルームの電話で二人を呼びつけたのである。『週刊 狩りに生きる』に小さく書かれた調査隊同行ハンターの募集を、ロロアは目ざとく捉えていた。このあたりの観察力はさすがガンナーと言うべきか、ムラマサは改めて彼女に感心した。
「その特集に書かれているとおり、ギルドのお偉方は新天地の開拓にご執心らしい。この間の探索が成功して味をしめたんだな。どうよ?面白そうだろ? 冒険譚の主人公みたいな世界を私たちでも体験出来るというわけだ」
「しかし、未知の樹海でござるよ? 何が起こるかわからない危険なクエストになるのでは?」
「王立書士隊や、商業ギルドの精鋭のサポートもあるからな。補給にはそれほど困らないと思うぞ」
「じゃ、じゃあ新種のモンスターとかでるかも......」
「それはそれで、面白い!」
「めちゃくちゃ強かったら!?」
「生きているモンスターならいつか死ぬ!」
(こ、この鉄砲玉軍師......)
この女の自信が一体どこから来るのか、ムラマサには未だに分からずにいる。いや、恐らく永久にわからないのだろう。
「それに、私にはアンタたちがついてて、アンタたちには私がついてる。心配いらないよ」
どんと自分の胸を叩いてロロアは断言した。どこにも根拠なんてないのに、ついつい信じてしまう。それはこれまでのロロアに対する二人の評価であった。
「......本当に大したやつじゃ、軍師殿は」
「信じていますわ、ロロア」
「決まりだな。それじゃ出発までに作戦会議とするか。私も新しいボウガンを手に入れたからもっと戦術の幅も広がると思うぞ」
「それなんだがのう、軍師殿。実は提案があるでござるよ」
突然ムラマサがかしこまってロロアに提案する。そして二人に彼の意向を告げると彼女らは驚きこそしたものの、それぞれ頷いて承諾した。
「お前にそんな趣味があったとはなあ......でも面白そうだし、ありだな」
「よくわかりませんが、ムラマサにお任せします!」
「......ロロア殿はともかく、ヴェロニカ殿は本当にわかっているのでござるか?」
「ま、また私を馬鹿にしましたわね! この煩悩ザムライ!」
(ぼ、煩悩ザムライ?)
酒場で二人と別れて、マイルームに帰ったあと、ムラマサは電話を手に取った。先ほどロロアとヴェロニカに提案した申し出を実行するために一人の頼るべき先輩と連絡を取るべくダイヤルを回した。
『何のようだムラマサ?』
「実は先輩に頼みがありまして......これからしばらく技術課の設備を貸して頂けないでござるか?」
『......いいだろう、すぐに話を付ける。何を考えてるのかは聞かないが、守秘義務は絶対だ。いいな』
「いつもかたじけない。こうやって拙者のために回線を残しておいてくれたり、ホセ殿は本当に世話焼きなのでござるな」
『切るぞ』
「それは、電話を?」
『さあ、どうだろうな? 任を解かれた貴様を監視するのが俺様の役目でもある。本来なら口封じのところ、貴様はそれでもギルドに重宝される人材だからな。さっきの言葉が本当に電話だけで済むことを期待する』
「へえへえ、本当に素直じゃないでご......」
ムラマサが最後まで言い切る前に受話器の向こうでガチャンと大きな音が鳴り、以降音は聞こえなくなった。おっかないなあとぼやきつつ、ムラマサの表情は和らいでいた。受話器を戻すと彼はベッドの下からメランジェの錠で頑丈にロックされたケースを取り出し、マイルームを後にした。ミナガルデの街の郊外に向かって歩き出しながら、ムラマサは今回の樹海探索について彼なりの考えをまとめようとしていた。
今回行われる樹海探索の概要はこうだ。大陸の西側に存在するこのミナガルデを出発して、まずはさらに西を目指す。やがて今度は海を超えシキ国に上陸し、さらにその北部にあると言われるアクラ地方の樹海を目指しながら周辺の調査を行う。調査隊の規模は八十人。その内ハンターが30人、調査を行う王立書士隊が20人、残りの20人は商業ギルドのメンバーや医療班がサポートとして加わる。ちなみに王立書士隊は未知の土地を探索するその仕事柄、危険を察知する能力や生態系の知識もあり、ある程度の小型モンスターなら対処できる者も数人いると言われる。
(ギルドナイツはミナガルデの治安維持と、これから行われるの火の国との資源確保についての交渉の準備に務めなければならない。だが、サポートがないということは監視がないとも言える。つまりこれまでの狩りのルールに縛られない柔軟な対応がハンターには要求される)
この柔軟な対応という言葉はまさしくムラマサのギルドナイツとしての血を沸き立たせた。ルール無用の戦いは彼らの十八番。人間相手の話だが。
そしてムラマサは同時に、この探索でなんとしてもロロアやヴェロニカとともに生きて帰ってくることも信じていた。過去の記憶に縛られたままでいることを拒み、大切な人をこの身に替えても守りたいと静かに決心した。
(もうあんなことはゴメンじゃ)
これまでとは比べ物にならない過酷な戦いの中で、彼女らの力になりたいと強く願った一人の元ギルドナイツの技術員は、目の前の固く閉ざされた街外れの教会の黒い門を六回ノックした。
***
数日後、ロロア達の元に正式に三人の応募を受諾し樹海の調査隊メンバーとして認める知らせが届いた。最年少Gクラスハンターとしてのセンスを認められたのか、あるいはただ単に応募人数が少なかったのかはともかく、晴れて三人の計画は実現した。
「それでは今回の調査では、ハンター三人と王立書士隊のメンバーひとりの四名がチームになって行動するのですね」
「ああそうだ。基本的に王立書士隊はバックにつくから、モンスターが出たときは私達三人で対処する」
いつもの酒場に集まって、三人はロロアの元に届いた調査の詳細に目を通していた。
「しかしそれだと、全ての書士隊メンバーがハンターにつくわけではないのですね?」
「ハンターが30人で3人一組に1人だから、10人だな。彼らは10人でひと組だ」
「しかし、彼らは狩りに関しては素人なのでは......大丈夫でござるか?」
「正直なところ私も不安だ。彼らの知識とやらには期待してるけど」
肩を落としてため息を吐くムラマサの気を反らそうとしてロロアは別の話題をふることにした。周りの客に聞こえないように小声で、
「例のブツの調子はどうなの?」 と、尋ねる。
「おお、そうじゃった! ギルドナイツの目があるので街ではお披露目できないが、探索の途中で試す機会はいくらでもござろう。もちろん、ヴェロニカ殿の希望にそった武器も」
「わ、私が、なんですって? 二人だけで何を話してるんですの?」
「そいつは助かるぜ。探索じゃ何が起こるかわからない。備えあれば憂いなしって事で、早速フォーメーションに組み込んでみるか。それ使ってさっそくクエスト行くか」
「い、いきなり実戦投入する気でござるか?」
「誰だって最初の実戦というものはある。アンタのハンマーもだよ、ヴェロニカ」
「えっ? わ、私も!?」
自分に話を振られて驚きつつも、ムラマサが自分のためにも新しい武器を用意してくれていたことを悟り、ヴェロニカは酒場中の視線を浴びるほどに歓喜の声をあげた。
――探索出発まで、あと2週間。