狩人達の軌跡   作:SHIPS

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2-7 知は力なり

そういえばと、ロロアは思い出した。先日行われた調査隊のハンターチームのリーダーの会合で、セルゲイは言った。

 

「王立書士隊メンバーを加えてのパーティの立ち回りになれてもらうために、来週から狩りの時は試験的に彼らを混ぜて戦ってもらう」

 

途端に各チームのリーダーたちはざわつき始めた。誰も本気で信じていなかったのだ。ハンターの中にひとり、素人を入れるなんて。ロロアとて、彼らがハンターたちの動きについてこれるのか不安に感じていた。何故ならハンターは一般人よりも圧倒的に高い身体能力を持っていることが条件で、そのために訓練所などで特別なトレーニングを受けている人間がほとんどだからだ。

 

「文句のあるやつは名乗り出ろ」

ざわめき始めるリーダーたちに対してセルゲイが一喝すると辺りは一旦静かになるが、やがて一人の人間が席を立って名乗った。

 

「第10チームのリーダー、ロロア・ロレンスだ。身体能力で劣る彼らと一緒に行動するのはリスクが高い、足を引っ張ってしまってはお互いのためにならないと思うのだが」

彼女の主張にそうだそうだと賛同の声が上がる。野次を一旦制するとセルゲイは答えた。

 

「ハンターと共に行動することで、彼らの調査はより詳細に行われる。彼らは優秀だよ。以前同行したときは、土の臭いを嗅いだだけで未開のフィールドの生態系を半分以上把握した。彼らは役に立つ。役に立たせるかはお前たち次第だがな」

 

「それじゃ、あいつらがトロくて死んじまっても誰も文句は言わないんだろな?」

 

そう言ってロロアと反対側に座る男が立ち上がった。

 

「意見をいうときは名を名乗れよ」

「第2チームリーダー、ネロ・アンドレ。 そいつらが俺たちに混ざるっていうんなら、それなりの覚悟は出来てんだろうなって言ってるわけよ」

 

そう言って噛み付くようにセルゲイに尋ねた。白髪でやせ細ったキザったらしい男だとロロアは思っているが、彼もまたこのハンターチームの中のエースのひとりであることは間違いない。先のダイミョウザザミ掃討戦で彼の指揮する第2チームはセルゲイ達第1チームを上回る狩猟数を記録したからだ。第1がパワーで戦うタイプなら第2は速さで翻弄するチームだと、各チームの情報に詳しいムラマサは言った。

 

しかし、この男の周りには常に悪い評判も飛び交っていた。調査隊の旅が始まってしばらくしたころ、彼や彼のとりまきを中心として非戦闘員のメンバーに対する差別が始まり、これにはセルゲイも手を焼いている。

 

「言い方はともかく、そいつの言う通りだ。クエストならまだしも、このような何が起こるか分からない土地で責任を持つことはできない」

 

「ふむ......つまりお前たちは責任の所在を確かめたいということだな」

 

そこまでセルゲイが言うと、テントの外から紫の外套を纏った一人の男が入ってきた。歳は四十ぐらいの外見で、耳が尖っている。竜人だ。

 

「王立書士隊代表のカドワキです。我々はそれなりの覚悟を持って今回の作戦を受け容れることにしました。あなた方につく十名のメンバーも既に、あなた方と運命を共にすると約束してくださいました。どうか、彼らのことをよろしくお願いします」

 

カドワキと呼ばれたその男は深々と頭を下げた。恐らく見た目よりも何十年も生きているであろう年長者が若輩のハンターたちに嘆願する様を見て、ロロアはそれ以上追及する事をやめた。続いてセルゲイがフォローする。

 

「責任についてはこれで納得しただろう。カドワキは生態調査や危険察知のプロフェッショナル十名をお前たちにつけて下さる。彼のメンツに免じて、決して見殺しにすることは許さん! 囮など言語道断。彼らの知識はハンターにとっての剣であり盾となる。それを忘れるな、解散!」

 

そう叫ぶと、ハンターたちは未だ納得できないとざわつきながらもそれぞれのテントへ戻っていった。ネロと名乗った男もまだセルゲイに対して何か言いたげであったが、彼に睨み付けられると「どうなっても知らねえ」と捨て台詞をはいていなくなった。

 

こうして王立書士隊のメンバーとの初会合が今日に決まった。

 

「まさか、こんなガキンチョが王立書士隊のプロフェッショナルとはねえ......私はロロアだ、よろしくなパスカル」

「よく驚かれます。僕は14歳で書士隊最年少ですから」

「おっいいなそれ! 私とアンタで最年少コンビだな」

「えへへ、よろしくおねがいします。ヴェロニカお姉さん、ムラマサお兄さんもどうぞよろしくお願いします!」

「まあ! お姉さんですってロロア~! ムラマサ......ムラマサ、どうしました?」

 

ムラマサは表情が固まったままパスカルをずっと見つめていた。

 

「僕の顔に何かついてますか?」

 

パスカルにそう尋ねられて、ようやく我に帰ったのかムラマサは慌てて

 

「いや......ごめんな~なんだか昔の知り合いに似ててさ」と答えた。

「? そうでしたか。ずっとイャンクックが音爆弾食らったような顔をしていたので気になりました。」

「うーんその例えはギリギリわかるぞ!」

 

無邪気に笑う三人をよそに、胸のつっかえが取れずにいるムラマサであった。

 

***

 

二日後、一行はフェニスクスのすぐ鼻先にまで来ていた。

フェニスクスの港町は西側を海、東側を広大な針葉樹林に囲まれている。調査隊がフェニスクスに到達するにはこの針葉樹林を最後に突破する必要がある。地元の人間によって作られた道があるものの、いつ森からモンスターが飛び出てもおかしくない。王立書士隊メンバーを加えての初めての実戦が来るかもしれない。

 

ハンター+書士隊チームは森を進行中、商業ギルドの荷車を分担して防衛することを任された。残りの書士隊メンバーは隊列を組んで非戦闘員の最終防衛ラインを築く。そしてネロ率いる足の速い第2チームから少しずつ、調査隊は森へと侵入した。そしていよいよ第10チームも森へ入ることとなった。第10チームの後ろはセルゲイ率いる第1チームがつく。

 

(自分たちなら後ろから狙われても大丈夫ってことか......さすがはベテランハンター)

「いよいよですねロロア、僕に任せてください。こう見えて体鍛えてます!」

 

力強く胸を叩いてパスカルは偉そうに言った。

 

「気持ちはありがたいけど、今回のお前の役目はレーダーだ。この森はギアノスやイーオスっていう肉食竜の縄張りになっているらしい。そこでお前の知識と観察が頼りになる」

 

そう言ってロロアは針葉樹林のマップをパスカルに差し出した。

 

「私達の目になれ、頭脳になれ。敵の動きを読んで、次にどっちから攻めてくるか。兵力はどのくらいか。分かるだけでいい、やってみろ」

「......ロロアさんは不思議な人ですね。でもとても分かっています。僕たちの頭脳を有効活用してます!」

 

そのように言うパスカルの目は輝いていた。憧れのような視線を彼女に向けている。

 

「嬉しいなら、存分に働いてくれよな~......よし、ヴェロニカ! ムラマサ!」

「こちらも準備OKですわ!」

「問題ないでござる!」

 

パスカルが第10チームに入ってから、ロロアは森を無傷で抜けるための作戦を考えた。この二日間彼と会話をし、様々な情報を得た。パスカルは非戦闘員だが、生態系や地理、果てはハンターと彼らの扱う武器に関してまで莫大な知識を持っていた。以前ムラマサは「自分の身を守れない書士隊メンバーを我々ハンターに押し付けるのでは」と懸念していたが、それを補って驚くほどの知識を有していて、セルゲイの言う通り正しくハンター達の剣であり盾に等しかった。

 

ロロアは彼をブレイン役にし、自身は攻撃に徹することにした。他のチームのハンター達は好奇の視線を彼女たちに向けた。実戦経験もほとんどないと思われる若干14歳の少年に、チームの要とも言える司令塔を任せるなんて。彼らの思考の根底には、非戦闘員のくせに前にしゃしゃり出るなというような蔑みの念がこもっていたが、ロロアや数人のチームリーダーは違った。結果として彼らを陣形の中に配置したチームは第1、第4、第8、第10のみで、ほかのチームリーダーは書士隊メンバーをパーティに組み込もうとはしなかった。

第10チームの四人の配置は十字の形をとっている。まず車の右舷にヴェロニカ、左舷にムラマサ。そして中央の竜車の上にロロア、そのすぐ後ろにパスカル。左右の二人は基本的に竜車を側面から襲う敵から守り、ロロアは正面か両側面の敵を狙撃して排除。パスカルは主に彼女のスポッターの役目をしながら相手の攻撃を予測する。

 

攻撃の予測、それこそ彼の持つ一番の才能であった。

 

森へ入ってから30分ほど経ったところ、隊列の先頭の方から人の叫び声やボウガンの発射音が聞こえてきた。続いて空に赤い信号弾が打ち上がるのを確認し、第10チームの面々も武器を構え辺りを警戒する。赤い信号弾は交戦開始の合図だ。先頭から最後尾までここまで100メートル以上の差があるが、それまで荷台の上で地図と実際の地形とにらめっこしていたパスカルは反射のような勢いで鞄からペンを取り出して、襲撃地点と思われる場所にバツ印を書いた。続いて地図の高等線を指でなぞりながら何かをブツブツとつぶやき、矢印を書いていく。

 

「この森、意外と土地がデコボコしてるからどこから来るのか読みやすいですね」

「早速わかったのか?」

「恐らく、先にムラマサお兄さんの側からイーオスが数頭来ます。木と岩陰に隠れて見にくいですけど、すぐに目の前に迫ってくるでしょう。」

「了解だ。ムラマサ、岩陰から数頭!」

「なっ? もう来るのでござるか?」

 

約10秒の沈黙の後、パスカルの予測通り突然現れたかのように毒々しい紅い鱗の肉食竜が四頭ムラマサの目前まで迫ってきていた。どうやら竜車の左舷、森の南側は苔が生えているせいで窪地がわかりにくくなっている事にパスカルは気づいていた。

 

四頭のうち二頭のイーオスはムラマサが動く前に、ロロアのタンクソーサラーが放つ通常弾レベル2を胸に受けて仰け反り後退したが、残る二頭はこちらに怯むことなくムラマサ目掛けて鋭く細い牙で噛み付こうとする。だがパスカルの予測によって身構えていたムラマサはこれを横っ跳びでやすやすとかわすと、そのうちの一頭に一太刀浴びせ切り捨てた。ムラマサの振るった鬼斬破がイーオスの体に触れると青白い電撃が走り、痙攣したままその場に倒れた。絶命するのも時間の問題だ。

 

最初に弾丸を食らったイーオス達も再びこちらにその毒牙を向けようとするが、ロロアの放った弾丸により再び阻まれる、はずだったのだが、竜車の荷台が揺れるせいで狙いがずれ弾丸は脇にそれてしまった。

 

「ロロアお姉さん、もしかして狙撃初めて?」

「ギルドナイツじゃあるまいし、こんな特殊な作戦初めてだよ」

「高い位置から低い位置を狙うときは、スコープで見るより仰角を調整するといいですよ!」

「先に言ってよ!」

 

イーオスの毒牙がムラマサに迫るものの、彼はすんでのところで身を逸らし、鬼斬破の峰を口に加えさせた。刃から電撃が放たれる。粘膜からもろに電流を浴びたイーオスはフラフラとしながらそれでも立ち上がるが、次の瞬間ムラマサは目にも止まらぬ速さで刀を振り抜いた。イーオスの体の痙攣がピタリと止まるが、彼が刀を鞘に戻した瞬間まっぷたつに裂けた。

 

「此度の鬼斬破もよく斬れる......ふっふっふ」

(こ、この人だけは怒らせないようにしよう......)

(時々やっぱりコイツがギルドナイツだったんだなあって思い出すわ......)

 

大量の返り血を浴びたにも関わらず笑みを浮かべているムラマサを見て、幼いパスカルにも彼の危険性はよく理解できた。

 

それにしても、とロロアは彼の能力をに改めて関心していた。パスカルの持つ一番の武器、それはほとんど未来予知とも言えるレベルの「観察眼」であった。モンスターの生態を調査するというその仕事柄、彼の危険に対する察知力はハンターをも上回る。見て、聞いて、匂いをかぎ、触ったり、時には舐めたりもすることでその土地の生態系と環境を八割は把握出来るとパスカルは言った。そして残りの二割こそが、彼らの本来の目的である。人智を超えた生態の謎を解き明かすために危険をかえりみず彼らは実地へと足を運ぶ。この少年の覚悟は、そういう意味でロロア達ハンターのそれをはるかに上回る。未知という想像を絶するほどの恐怖の中に、彼らは生きているのだから。

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