狩人達の軌跡   作:SHIPS

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2-8 混戦の果てに

調査隊一行が森で肉食竜の群れと交戦を開始してから5分が経過していた。パスカルの観察眼により、第10チームのロロア達はこれまで竜車にひとつの傷もつけることなく立ち回っている。しかしイーオスの群れを処理している間に、ヴェロニカのいる北側に現れたギアノスの群れが合流し、混戦を極めることとなった。倒しても倒しても湧いて出てくる肉食竜たちを前に左右二人の疲労は溜まっていく。

 

ロロアもまた、パスカルから言い渡されるターゲットの通りに右に左にボウガンを構えては通常弾レベル2を撃っていく。リロードの動作に入ると、パスカルは地図から目を離さずにさらに指示をだすが、やがてどうにも様子がおかしいと勘ぐったパスカルが数十秒黙り込むと答えを得たのかハッとして叫んだ。

 

「この公道、ものすごく手抜きに作られてるんだロロア姉さん!」

「え? 急にどうしたパスカル?」

 

地図に書かれた港へ続く公道の北部と南部とペンで楕円形に囲みながらパスカルは説明を続ける。

 

「多分モンスターの縄張りにぶち当たらないように公道を敷いたんだろうけど、ここ最近の土地の温暖化で南部のイーオス共が北上しています。縄張りと縄張りに挟まれたところに道を敷くなんて、なんて挟撃のイャンクック......ここはまさに北部のギアノスと南部のイーオス、二つの種族が激突する主戦場なんです! ギアノス1!」

 

「その無理やりなな喩えはともかく、そんな場所にわざわざ自分たちから入ってきてしまったのかわたし達は? ギアノス1......」

 

銃口を竜車の右側にせり出して彼女がタンクソーサラーの引き金を引くと、竜車に一番近い位置にいたギアノスの頭に風穴が開いた。スポッターであるパスカルの観測によってロロアの狙撃は撃つ度に精度が高められていく。ギアノスはさらに二頭こちらに向かってきているが、それらをヴェロニカは手にしたパルセイト・コアの隙の少ない横殴りで処理していく。

 

「繁殖期な上に、この森の広さから考えるとかなり大規模な群れの抗争になってるんじゃないでしょうか......ムラマサ兄さんが武器研ぎます。援護して!イーオス2!」

 

「イーオスを二匹......あいつらもうあんなとこまで! それで、この主戦場はいつ抜けられる? ああリロード頼む!」

 

通常弾の弾倉が切れると、タンクソーサラーをパスカルに一旦引き渡し、ロロアは彼から弾の込められた妃竜砲【神撃】を受け取って、次の指示を待った。だがパスカルはしばらく考えたあと、嫌なことに気がついたのか地図を見つめたまま青ざめてしまった。

 

「抜けられない。それどころか、このまま両軍勢が僕の読み通り進軍したら親玉と鉢合わせちゃう! 後方にイーオス4!」

 

「ウソ! まだ増えるの? イーオス4......あ、アイツら竜車を!」

 

第10チームの護衛する竜車には数名の医療班員が乗っている。今ここで襲われればハンターたちの治療を行う専門家を失ってしまう。

 

「くそっ......間に合えええ!」

 

だが、ロロアが狙いを定める前に後方からセルゲイが現れた。煌剣リオレウスを横に凪払いすると豪快な音を立てて、竜車を襲うイーオス共を数メール吹き飛ばした。その立ち振る舞いはまさに武神。強烈なオーラを放つその姿にロロアは思わず開いた口がふさがらない。

 

(か、仮にも自分の体重より思い奴らを四頭吹き飛ばしやがった! バケモノかよ!)

 

「カドワキによれば、このまま行くと数分後に第2チームが大規模な群れに囲まれるらしい。一度進軍を止めて竜車を縦に繋げろ。守りを固めるよう俺が前線に指示してくる!」

「それはこちらも把握しているが......この混戦の中100メートル以上走る気か? 」

「信号弾も撃つが、ネロ・アンドレのことだ。口で言わなきゃわからん奴かもしれん。お前も気を抜くなよ! あいつらがやられることはまずないと思うが、うちの連中がしくじったら盲撃ちで構わんからサポートしてくれ」

「無茶言うぜオッサン、こっちだって手一杯だ......!」

そう言ってセルゲイは上空に黒の信号弾を打ち上げると、道中にはびこる肉食竜を蹴散らしながら走り去った。

 

「ロロア姉さん、僕たちもここで止まりましょう。御者さん、なるべく第9チームの竜車に近づいて。守備範囲を重ねれば少なくともお互いに四方のうち一方は安全を確保できる! ギアノス2!」

 

慌てて御者がさらに荷台の感覚を狭くし、第9チームに寄せた。動くことは出来なくなったが、これなら第9チームの後方と第10チームの前方を防ぐことができる。パスカルはリロード待機していたタンクソーサラーに通常弾を込めるという最後の仕事をしたあと、第9チームの竜車の上に飛び乗って叫んだ。

 

「第9チームの皆さん! 貴方達の書士隊メンバーはどこですか!?」

 

突然竜車の上に現れた書士隊の少年に第9チームのハンターはイライラしながらこう返す。背後に迫っていたギアノスに気づくと舌打ちして、「コロナ」で応戦した。

 

「はぁ? そんなこと聞いてどうする。怪我したくなけりゃ引っ込んで......」

「どこにいるんですか!?」

「......ちっ、その中でブルブル震えてるよ。ったく使えねー奴よこしやがって!」

「......!」

パスカルは鞄からナイフを取り出すと、突然天井の隅に穴を空けて中に侵入した。パスカルは中に飛び降りると中で隠れている非戦闘員の中に頭を抱えて震えている紫色のフード被った一人の人物に声をかけた。

 

「マリア! あなたの力が必要です、手を貸してください!」

パスカルがフードの人物の肩を掴むと、その体が激しく震えているのがわかった。フードを脱がすと、パスカルと同じく褐色肌で黒髪の少女が目に涙を浮かべているのが露になった。

 

「どうしようパスカル......ひぐっ、私、どうしたら......」

「マリアなら大丈夫です。きっと彼らの力になれます」

「で、でもあの人たち......私のこと、まるで相手にしてくれなくて......ぐすっ」

 

またハンターたちのつまらないプライドのせいで、とパスカルは内心舌打ちしたい気分だったが雰囲気をこれ以上悪くするのは得策ではないと判断した。

 

「大丈夫ですよマリア、あなたは第9チームのサポートをする必要はありません。生きるために戦えばいいのです」

「で、でも......どうやって?」

 

しばらくして二人は竜車の中から出てきた。パスカルがマリアを抱きかかえると、第10チームの竜車の上にいるロロアに向かって叫んだ。

 

「ロロア姉さん! マリアのこと、頼みます!」

「あ、アンタ! 第9の書士隊メンバーだったのか! 」

 

パスカルが抱えていた人物は以前にロロアがハンターに絡まれているところ助けた少女であった。

「知り合いなら話は早いです! 今後は彼女がスポッターをします。僕はこのまま他の書士隊メンバーを外に出してきます!」

「お、おいパスカル! ってうわあ危ない!」

 

そう言って、パスカルは抱きかかえていたマリアをロロアのいる第10チームの竜車に向かって投げた。ロロアがしっかりとキャッチしたのを確認すると、パスカルは縦に繋がった竜車の上を軽々と飛び跳ねていった。「バカ野郎! 女の子は丁重に扱え」と悪態をついた後、マリアを下ろすと、ロロアはいつもの不敵な笑みを浮かべながらやれやれと言った感じで早口でこう言った。

 

「さてマリアと言ったか? ご覧の通りわたし達も正直かなりヤバイ。おまけにパスカル坊やもどこかへ行き、私はスポッターがいないと敵を捌けん。私たち第10チームにはそりゃあ賢い賢い王立書士隊のブレイン様が必要なんだ......やってくれるよな?」

 

マリアは泣きはらした顔でしばらくうつむいていたが、やがて覚悟を決めたのか「九時、イーオスを2頭、お願いします......!」と呟いた。

 

「サンキュー......!!」

言われた方角に片手で銃口を向け、ロロアはノールックで引き金を二回引いた。ムラマサに対して背後から攻撃を仕掛けようとしていたイーオス二頭が、肺に弾丸を受けて苦しそうにその場で倒れもがき出した。

 

「反撃開始といこうか! スポッター!」

 

続いてロロアは竜車の荷台からそいつを取り出した。麻布に包まれてはいるがその形状と布に縫われた刺繍にマリアは見覚えがあった。

 

「そ、それギルドナイツの? どうしてそんなものがここに......?」

 

驚くマリアをよそにロロアは麻布に巻かれていたハンマーを取り出した。 取手に鎖が巻かれていて、さらにその先はトゲのついた鉄球がくくりつけられている。

 

「ヴェロニカ! もう悠長な事を行ってる場合じゃないみたいだ、コレを使え!」

ヴェロニカは彼女の方を向くと、その手にしている鉄球のハンマーを見てその意図をすぐに察した。近くにまで来ていたギアノスを回転殴りで吹き飛ばすと、パルセイト・コアを一旦腰に戻して、それを受け取った。その姿は古代の騎士を思わせる。

 

「ムラマサ、この『レグヌム=バスターレ』大事に使わせていただきます!」

 

ヴェロニカは鉄球のハンマーを近くのギアノス相手に振るうが、距離を見誤ったのかハンマーは空を切った。

「ちょ、ちょっと! 威勢のいいこと言っておいて外してるじゃないですか!」

 

竜車の上から見ていたマリアが悔しそうに叫ぶが、ロロアは 「と、思うじゃん?」と意地悪そうにマリアに微笑んだ。

 

「......え?」

 

「はあああ!!」

 

空を切ったかと思われるレグヌム=バスターレ。しかし、次の瞬間ヴェロニカが取手についたもうひとつのレバーを引くと、固定されていたはずの鉄球がハンマーから飛び出した。ヴェロニカが吼えながらもう一度それを振るうと、鎖で繋がれた鉄球が勢い良く辺りの敵を残らず殴り飛ばした。彼女は「絵本の世界のお姫様」からさしずめ「物語の中の女騎士」へと成長した。

 

ムラマサは今回の探索に当たって、ヴェロニカの持つハンマーの設計について考察していた。ハンマーは破壊力に優れているがリーチが短い。すると懸念されるのは飛行する敵やフィールドの限られる海上での戦い。そこで自在にリーチを伸ばすことのできる打撃武器をムラマサは考案した。そして、モーニングスターと呼ばれる太古の武器の一種に行き着いた。ギルドナイツの技術課で暗殺道具を作っていたムラマサにとって前時代的な武器を一つ作ることは造作もないことだった。

 

こうして完成したレグヌム=バスターレはヴェロニカの新たな力となった。涙を流して感謝するヴェロニカに彼はただ一言「大事に使ってくれ」と告げた。

 

「どうして最初から使わなかったんだ!って言いたげだなマリア?」

思考を先に読んだかのようにロロアは言った。後方の第1チームが数で圧倒されているのをたまたま目撃し、セルゲイとの約束を思い出した彼女は慌ててギアノスの群れ目掛けて数発引き金を引いた。

 

「実は意外と燃費が悪いのでござるよ......鎖を硬化させる度にビンにセットした硬化薬グレートを少しずつ消費するからのう......ああ、武器を研ぎたいので援護を頼む」

「つ、次の二頭で最後です!」

「......ではこのまま向かうとしよう!」

 

攻撃がだんだん薄くなってきたのか、ムラマサにもだんだんとしゃべる余裕が出てきていた。最後に二頭のイーオスを居合い切りで切り捨てると、完全に左舷はクリアーされた。右舷の方もヴェロニカが鉄球を振り回しているだけで、戦意を失ったのか森の中へと逃げ帰っていった。自分達の周りに敵が居なくなることを確認するとさらにロロアは第1チームの竜車に飛び乗って、カドワキたちの援護射撃を始めるが、やがて第1チームの竜車を襲うモンスターの影もなくなった。

 

辺りは静かになった。気がつくと、他のチームのハンターたちも他に交戦しているところはいなかった。続いて竜車の先頭の方で上空に緑の信号弾が上がった。緑の信号弾はクリアーを意味する。どうやら完全に、二つの群れを撃退することに成功したらしい。

 

「さて、被害状況でも確認しようか......司令官殿?」

マリアは体を震えさせながらロロアに告げた。

「敵全員沈黙、第10チーム死亡者無し......私たちの勝利です」

 




独自設定のひとつとしてちょっとした新武器を出しました。こしゃくな。文中言及されているようにハンマー以外にモーニングスターとして機能します。考えといて割とn番煎じな気がして怖い…名前はほとんど捻りがないのでググってはいけない(戒め)

シリアスタグの扱いに困ってるんですけど、あんまり緊迫感伝わってこなかったらどうぞ遠慮なく言ってください。タグ外すか、もっと書くの頑張りますので!
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