狩人達の軌跡   作:SHIPS

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2-11 これが私たちの戦い方です

水生獣達の猛攻が始まった。倒せば倒すほど彼らの怒りを買い攻撃は激しくなる。15名のハンターと数人の書士隊たちも必死の抵抗を続けるが、揺れる戦場での慣れない戦いに、時間とともに傷を負う者が増えた。

 

ルドロスは船首のそばの手すりに気を失っているパスカルの姿を捉えた。蛇のように体をくねりながら濡れた甲板の上を這っていき、牙を向いて飛び掛ろうとした。だが飛びかかりが来る前にロロアのタンクソーサラーの放った通常弾レベル2がルドロスの胸部に命中し怯んだ。

 

「この規模、おそらく縄張りは複数あるかもしれないな」

次々と迫るルドロスの突進を左右に横っ跳びで交わしながら分析結果を第10チームに伝えるオネゲル。その身のこなしは背中に目でもついているかと思うほどだ。

 

「とすれば、おそらく親玉も複数くる。備えておけ」

「わかった!」

 

リロードを行おうとするロロアだが、視界の端からもう一頭ルドロスが来るのに気づかなかった。なんとか素早い手つきで弾を込めるが、引き金を引くときには間に合わずその鋭い牙が彼女の左腕に噛み付いた。

 

「うわ!」

「ロロア!」

 

異変に気づいたヴェロニカが彼女の腕に噛み付いていたルドロスを横殴りで船の外に突き飛ばした。当たりどころが悪かったのかレイアSガードに小さな穴が空いてしまい、その噛み傷から血が流れた。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ、少し痛むくらいだ。ありがとう......それよりパスカルが危ない。ルドロスは頭がいい、こちらの頭数を確実に減らそうとして、小さくて弱い奴から優先して狙う性質があるみたいだ。そうだろオネゲル?」

「フッ......どうやら節穴というわけでもなさそうだな」

 

ロロアがオネゲルに確認すると、彼はにこりと笑って肯定した。まるで戦いを楽しんでいるかのように。

 

先ほど撃たれたルドロスが再び気絶しているパスカルに向かって飛びつくが、ヴェロニカのパルセイトコアによる横殴りがルドロスのこめかみを捉えた。鈍い音がしてルドロスの首が直角に折れた。

 

パスカルがその鈍い音にようやく反応し、目を覚ますと目の前の惨状に顔を青ざめた。甲板では何名かの水夫が倒れていたり、傷を負っているハンターたちもいた。そのハンターたちに止めを刺そうとさらに海賊たちがマストのそばまで追い詰める。

 

「ロロア! マストに掛けてるロープ、全部撃って!」

 

何かを思いついたのか、反射的にパスカルが叫ぶ。彼女はその言葉に1ミリほどの疑いもなく言われるままに、船のマストにくくりつけられたロープを全て撃った。ロープが弾丸で切られると、マストが支えていた船の帆が下に落ちてきて甲板に被さった。

メインマストまで引いていた負傷者たちが帆の下に隠され、標的を失ったルドロスたちが動揺しだした。その隙にネロやエドワードが彼らを切りつけ、その体を船の外に叩き出す。

 

「ボサッとしない!負傷者を船の中に運んで! 医療班が待機してます!」

 

続いてパオがあたりにいたハンターたちに指示を出すと、第7チームのハンターたちが負傷者を担いで船の中に入っていった。

 

パスカルが意識を取り戻し、2号船の体勢が立て直されたかに思えたその時、一層大きな水音がしたかと思うと、ルドロスたちよりもさらにひと回り大きい体躯をした黄色い体の海竜種が姿を表した。首周りが黄色のたてがみのようなスポンジ状の皮に覆われていて、四股を持ち、縄張りの仲間を失った怒りからか口からは荒い息が漏れていた。しかもそれが2頭。

 

「親玉のお出ましか......」

「ぱ、パオさん......海を泳いで、四股を持つ。あれも海竜種ってやつですか......?」

「どこからどう見てもさっきの水生獣の親玉でしょうが!......しかし、これは非常にマズイですよ! 引き連れていたルドロスの数からして、こいつらかなり強いんじゃ......」

 

甲板の様子を見渡すと一層の冷や汗を流してパオは呟いた。甲板の上にいたのは疲弊した数名のハンターとパスカル、パオ、オネゲルのみ。水夫や、他の書士隊は負傷者の運搬でほとんどの人員を割かれてしまっていた。狭い船の甲板でこの2頭の親玉、ロアルドロスの威圧感はさらに増していた。

 

「お、おい......一体どうなってやがる......まだいやがったのかこいつら......」

 

先程まで余裕の表情を浮かべていたネロや第9チームのリーダーも、有り得ないといった顔で呆然と立ち尽くしていた。だが、今更彼らの愚かな行為を責める余裕はない。

 

静かに威嚇をするロアルドロス達の前に3人のハンターが前に出た。

 

「私、前からこういう刺激が欲しいと思ってたんだよね......」

「ロロアは私の大事な仲間です。放ってはおけません」

「拙者も、おふたりのためならば例え火の中水の中......」

「ようーし、それじゃ私達で何とかするか! ああ、他の奴らもやばくなったらサポート頼むな!」

 

第10チームの3人がそんなふうに喋っていると後ろからさらにひとりの少年がついてくる。

 

「僕もサポートする!」

「パスカル、ヴェロニカのハンマーとって来い」

「わかった!」

 

「君たちだけに、かっこいい真似させないよ」

 

デッキの方からも新たに三人のハンターが甲板に乗り込んだ。エドワード率いる第8チームのハンター達だ。

 

「僕はエドワード・トロイト、こっちはアリス・オットにこちらがエンプティ。彼は口がきけないけど、よろしくね」

「よろしくエドワード。二手に別れよう、アンタたちはそっちを頼む!」

「任せてくれ。よし、僕たちも配置に......」

「ちょ、ちょっと待ったー!」

 

第8が位置につこうとしたその時、デッキからさらにもう一人パオが息を切らせて走ってきた。

 

「あなたたち、何を勝手に......私がサポートします。し、死んだら承知しませんからね!」

「大丈夫ですよ、僕たちこう見えて運だけはいいから......それじゃ、お互いの健闘を祈って!」

 

こうして2つのグループはそれぞれの相手に立ち向かっていった。2頭のロアルドロスは甲高い声をあげて咆哮すると、目の前の敵に向かって水弾を吐いた。しかしスピードは遅かったためにハンターたちはこれを簡単に交わすと、それぞれ反撃に出た。

 

まずムラマサが突っ込んだ。ロアルドロスの海綿体に刀を入れると、刀はいともたやすくそれを切り裂く。しかし切りつけてもあまり手応えはなく、水と血液の混じった薄い赤の液体が少しにじみ出ただけであった。しかも反撃とばかりにロアルドロスはムラマサに対して体を横向きにするとそのままタックルしてくる。慌てて鬼斬破を甲板の床に突き刺すと、柄を強く握って彼は宙を高く飛び、これをかわした。

 

タックルの先にはヴェロニカがハンマーを振りかざしていた。「気」を溜めてハンマーが白く光るとロアルドロスの頭を狙うが、甲板で暴れてなかなか狙いが定まらない。ところがその時、ロアルドロスの頭部に火炎弾の小さな爆発が起こり、ロアルドロスがうめいて一瞬動きを止めた。ヴェロニカはそのタイミングを見失わなかった。一歩踏み出すと、ロアルドロスの頭部に回転殴りをお見舞いした。

 

第8チームの方でも戦闘が始まった。エンプティ、アリス、エドワードの3人が縦一列に並ぶと先頭のエンプティが盾を構えて突進し、その後ろにアリスがついた。ロアルドロスの吐き出す水弾をものともせずに2人は近づき、目の前まで迫るとエンプティは背中の龍騎槍ゲイボルグを取り出してロアルドロスの首周りの海綿質を突き刺した。反撃とばかりにロアルドロスも前足の爪で応戦するが、爪はエンプティの持った巨大な盾に阻まれる。後ろにいたアリスはエンプティの肩に飛び乗ると大きくジャンプし、そのまま標的の頭上からクロームレイザーの重い一撃を与えた。痛みのあまりロアルドロスが頭を振り回すと、その頭に運悪く直撃し、アリスは再びエドワードの元まで吹き飛ばされたが、黄色い海綿質の皮膚から血がドクドクと流れるのを見て捉えた。

 

「とりあえず、毒注入しといたよ」

「後はエンプティの体力を管理しつつ、僕たちも攻撃するだけだな」

 

クロームレイザーから放たれる鉱物系の毒素は非常に強力で、皮膚への影響こそないが、数ミリグラムでもヒトの血中に混ざると数分で息絶えるほどの猛毒だ。だがモンスターほどのタフネスともなるとほんの一撃掠らせただけではびくともしないようだ。

 

「......」

 

そんなロアルドロスもお構いなしに、エンプティは中段突きで黄色い皮膚に次々と刺し傷を増やしていく。時折する爪の反撃を盾で防ぎながら淡々と攻めていると、ロアルドロスの体に何発かの通常弾が撃ち込まれ、動きがにぶくなった。その隙に再びアリスがエンプティを盾にしながら走る。ところが同じ手を喰らうまいとロアルドロスはアリスの影を見ると体を捻った。直後体を戻すと、その遠心力で体を大きく一回転して張り付いていたエンプティを薙ぎ払う。さすがのパワーにエンプティも盾を構えたまま後ろにノックバックし、走りに来ていたアリスと衝突した。

 

「きゃっ!」

「グッ......!」

 

ロアルドロスが2人もつれて倒れているところへ這いずるように近づくが、頭部に再び弾丸が突き刺さる。次の瞬間突き刺さった弾丸が大きな爆発を起こして、ロアルドロスを後退させた。エドワードはその隙に2人を引っ張って体勢を立て直させる。その様子を見ていたパオがもどかしそうに叫ぶ。

 

「深追いする必要はありません。エドワード、睡眠弾を用意して!」

「......ああ、なるほど! いいアイデアです、さすがパオさん」

 

エドワードはアイテムポーチの底から睡眠弾レベル2を取り出して流弩ガノシュトロームに装填した。武器を一旦背中に戻すと、2人に何かを耳うちし、再び散開した。

 

2つのチームがそれぞれロアルドロスと交戦してしばらくするとパスカルがレグヌム=バスターレを持ってきた。彼が大声でヴェロニカの名前を呼ぶと、彼女は一目散にパスカルの元へ走り、パルセイトコアを床に置いてそれを受け取った。

 

「ふっふーん......本気でいきますわよ!」

 

ハンマーのハンドルを握ると、鉄球が飛び出し振り回しながらヴェロニカは突進した。狙いを定めると、もう一方のハンドルで鎖を硬化させて鉄球を振りおろした。鉄球はロアルドロスの後ろ足に直撃し、不意をつかれたロアルドロスは横向けにダウンした。続いて鉄球をハンマーに戻すと、再び頭部に重い一撃を加えた。鈍い音がしてロアルドロスが苦しそうに呻くが、そこにさらにムラマサとロロアも加わる。

 

バランスを取り戻そうとするロアルドロスの前足に火炎弾が何発も炸裂し、なかなか起き上がることができない。その隙にムラマサが刀を握り直して攻撃の形に入った。ゲリョスをスッパリと切り捨てた、あの構えと同じだ。彼の刀や体が赤いオーラに包まれ、やはりあの叫び声が甲板に響いた。

 

「ユイガドクソーン!」

 

次の瞬間、目にも止まらない早さでムラマサが刀を横に一閃すると、暴れていたロアルドロスの体が一瞬ピタと止まる。刀をゆっくりと鞘に戻した瞬間頭部から後ろ足にかけて長い切り傷が何処からともなく現れた。ロアルドロスは弱々しい声をあげながらわずかのあいだ抵抗したが、後ろ足の腱を断たれていてまともに動くことができない。

 

「こいつ、まだ生きてるのか?」

 

ロロアが銃口を向けようとするが、「もう良いだろう」とムラマサがそれを引き止めた。

 

「勝負はついた。直にやつは死ぬだろう」

「珍しいな、アンタがトドメを刺さないなんて」

「こやつは多くの仲間を傷つけた、その痛み死ぬ直前まで味あわせる」

 

ムラマサの目はいつになく厳しいものだった。『因果応報』というやつだろうか。ロロアはそんな言葉を思い出し、ムラマサと共にロアルドロスの絶命の瞬間を共に見届けた。

 

***

 

第10チームが戦いを終えた少し後、第8チームの戦いも終盤を迎えていた。エンプティが張り付き、彼を盾にしながらアリスが大剣で切りつけ、エドワードが2人のサポートを行う。この戦術に変わりないが、アリスのクロームレイザーから放たれる猛毒が確実にロアルドロスの体を蝕んでいた。

 

だが、ダメージを受けているのはエンプティも同じであった。立て続けに放たれるタックルや尾による薙ぎ払いで彼のスタミナは限界を迎えていた。ガードが破られるのも時間の問題だろう。エドワードも睡眠弾を撃ち込んではいるものの、反動の大きい睡眠弾を連続で撃つのは体への負担も大きいのだ。

 

「あと、少しだ! 耐えてくれエンプティ」

「ングゥ......! グォォォ!」

 

闘志の現れか、限界の悲鳴か、叫び声をあげるエンプティ。しかしその後ろにアリスもつき、彼の体を支える。ようやく最後の睡眠弾が放たれる瞬間がきた。彼らはロアルドロスの猛攻を耐え抜いたのだ。

 

「お、おい......ロアルドロスが眠ったけど、どうするんだこれ?」

「結局倒せてねえじゃねえか......」

「今です皆さん!」

 

パオの叫びとともに船の下層から非戦闘員のメンバーが大挙をして現れた。睡眠状態で動かなくなったロアルドロスを船の外に向かって押し始めたのだ。掛け声をあげながら彼らは少しずつその巨体を押しのけていく。毒で体力を奪われた上に、かなりの睡眠毒を注入したおかげでロアルドロスはちょっとやそっとの衝撃では起きないだろう。いつの間にか甲板にいたほとんどの人間がロアルドロスを船の外に押し出そうと集まっていた。ハンターも王立書士隊も、そのほかの人間も一緒になって。

 

「ま、まさかこれって......」

「この先の本流に乗れば、海竜種を引き離せます。倒す必要はない、船からたたき出してやればいいんです!」

 

メガネを光らせて、パオはしめたという顔でパスカルに言った。

「これが第8チームの戦い方ですよ、パスカル」

 

パオがそう言い放った直後、ついに眠っていたロアルドロスの体が船の外まで半分出た。支持すると、盾を構えたままエンプティとその後ろにいたアリスがロアルドロスの体に向かって最後のタックルを仕掛けた。アリスの怪力に押されたエンプティの龍騎槍ゲイボルグの盾が黄色い巨体をついに船の外に押し出し、ロアルドロスは眠ったままというなんとも間抜けな状態で海へ放り出された。

 

船上はしばらくの間歓喜に溢れたが、次第に落ち着いてきて船の惨状を確認すると静かになった。彼らはこの戦いで多くの負傷者も出した。また元はといえば仲間割れが原因で不意をつかれたことを思い出したからでもある。素直に喜ぶことは出来なかった。だが、やがて腕に包帯を巻いた1人の水夫が甲板に散らばったモンスターの死骸や、折れた甲板の木の板を片付ける姿にひとり、またひとりと倣った。

 

血みどろになった船の帆を貼り直し、海流に乗ってなんとかガランへとたどり着いた2隻の調査隊の船。しかし、ガランにたどり着いて真っ先に知らされたひとつの訃報が王立書士隊、そして一部のハンターたちに重いショックを与えた。

 

港の波止場でパスカルに深々と頭を下げるセルゲイ。その訃報を知らされた彼はしばらくの間呆然とするしかなかったのだ。

 

王立書士隊のリーダー、カドワキが死んだという訃報に。




次回で書きためが本当に無くなるので更新遅れます。
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