この日、現在探索に出ているのは3,6,8,9の4チームである。彼らが留守のあいだ、残りのチームは調査隊のキャンプ地の守りを任されている。状況は彼らにとって良いものとは言えなかった。度重なる強敵との戦いでハンター達はゆっくりと消耗していた。
セルゲイはテントの群れを縫うように歩き回り、異常がないかを確認して回っていた。ハンター、王立書士隊、医療班、商人、あらゆる人間の顔から疲労と不安が見て取れた。それもそのはず、この樹海へ来てからというものの彼らにはこれと言って勝利と呼べる戦果をいまだ出せずにいたのだから。
状況は彼らにとって悪い方向に進んでいる。数日前についにネロを除いてハンターの犠牲者が現れた。第5チームが運悪く新種のモンスターに遭遇したのだ。治療の余地もなく、彼の体はまっぷたつに切り裂かれた。一瞬だった。
手馴れのGクラスハンターの訃報は、非戦闘員たちにも大きな衝撃を与えた。彼らの中でもついに撤退を望む者が現れ始めた。ロロア達が出くわしたイャンガルルガの一件も加わって、この樹海の危険性を前線とは遠い彼らにもよく分かってしまったのだ。
「しかし……どうしたものか」
実際のところ、調査隊は目的の半分も達成できていなかった。アクラ地方を新大陸側管轄のもと新たな狩猟地として開拓し、調査を進めることを主な目的としていたが、地図の作成が終わりつつあるだけで芳しい進展、これと言った成果はまだ少ない。幾ばくかの犠牲に釣り合わないほどの痛手を追っていることはセルゲイにも容易に理解できた。力仕事はこなせても集団の統率は彼には向いてないらしい。
(今回は地図の作成のみに留めて、撤退させるべきだな。この地は我々の予想を遥かに上回る危険な場所であったということにして……街に帰ったら俺も責任をとってもう身を引くか)
ため息を吐いたのは久しぶりであった。無二の親友をなくした時でさえ出なかったのに。友人の死とは異なる虚無感が彼の足取りをずんと重くした。
なぜ、我々はひとつになれないのだろうか。同じ目標を持って、同じ志を持ってこの探索に志願した者がほとんどであるはずの調査隊にも少なからずそれを乱す因子が存在する。避けられない宿命と思いつつも、セルゲイは常に理想を追い求め、時折現実に直面することを憂う。そんな彼のことをカドワキは時折からかっていた。年齢にして40を越える男が理想について真面目に語ることをカドワキは笑いつつ、眩しそうに見上げていた。
「セルゲイ」
ふとセルゲイに声をかける人物がいた。振り返ると、パトリックが立っていた。白衣の裾は破れていて、その切れ端にはまだ新しいのか赤いシミが転々と鮮やかについていた。
「また怪我人が出た。第9の書士隊メンバーだ」
「……マリアか! リゴドーンの奴……彼女に無茶をさせたな。すぐに行く」
2人が医療班のテントに向かうと、その奥でマリアは体の至る所に包帯を巻かれてベッドに横たわっていた。彼女の姿を捉えて、目の前の現実から目を背けたくなるのをぐっとこらえながら、セルゲイはすまない、と呟いた。
「例の新種にまた襲われたらしい……体は繋がってるのが不幸中の幸いか。なんにせよ、応急処置が丁寧だ。第9のハンターには医術の心得がある奴もいるんだな」
「……? あ、ああ……あいつにそんな特技があったのは初耳だったな。それでリゴドーンは?」
「私はここです、セルゲイ……」
医療班のテントにさらにもう一人現れる。第9チームのリーダー、リゴドーンと呼ばれた男は顔中に汗を垂らしながら恐る恐るセルゲイの前に立った。
「お前は無事だったか?」
「……も、申し訳ございません!!」
セルゲイが無事を尋ねるやいなや、リゴドーンは急にその場で頭を下げた。目に溢れんばかりの涙を溜めて、彼は声を震わせて謝罪の言葉を連ねた。
「いったい何があった?」
「怪我をしたこの少女を、樹海の真っ只中に置いて逃げ帰って来たらしい」
パトリックが重たい口を開いた。
「……あんまり驚かないんだな?」
「遅かれ早かれこのような事態が来ることは予想できた……だというのに。とうとう起こってしまったか」
リゴドーンはその場で跪くと、泣きわめきながら頭を地面にこすりつけ始めた。ハンターが非戦闘員の書士隊を置き去りにして敵前逃亡をしてしまった。この過酷な土地で一人取り残される絶望感は、この先マリアにとって大きなトラウマとなり、ハンター達への決定的な不信を生むことになるのだろう。
人は弱い。ひとつの不安はすぐに大きな不幸を呼び寄せ、不信は感染していく。パトリックの話では既に何人かの人間が今回のリゴドーンの行いを知っているという。そうなれば調査隊の仲間割れは決定的となり、探索どころではなくなる。
(俺はなんと非力な人間なのだろうか……くそっ! 武神が聞いて呆れるな)
それでもセルゲイはここで腑抜けるわけにはいかなかった。この調査隊の指導者である立場の人間がここでやすやすと頭を下げることはこの場を余計に混乱させることを彼はよく理解していた。
リゴドーンをひとまず自身のテントに返したあとも、セルゲイはしばらくベッドに横たわって静かな寝息を立てているマリアの顔をのぞき込んだ。それからひとつの疑問が浮かび上がった。
「なあパトリック。マリアが一命を取り留めたのは応急処置が良かったからだと言ったな? 彼女が発見されたとき、リゴドーンや第9のハンター達はどうしていたんだ?」
「彼らならここにいた。救援を求めたのは奴らだからな」
「なんだと?」
驚いた様子でセルゲイは情けない声をあげた。椅子から立ち上がって、パトリックにさらに問いかけた。
「他に誰かいたか?」
「彼女一人しかいなかったよ。不幸なことに応援に駆けつけようとした第6チームは番のヒプノックと鉢合わせて到着が遅れた。怪我人をこんな危険な土地に放っておくなんて、餌にしてくださいと言ってるようなものだな」
「それなら……この傷は誰が応急処置したんだ?」
「えっ?」
2人はマリアの傷が塞がれていた包帯を凝視した。そしてセルゲイは同時にこれまでの調査結果とハンター達から聞いたアクラ地方にまつわるひとつの噂合わせて、ひとつの推測が生まれた。
「このアクラ地方に我々の知らない原住民がいるのかもしれないな」
「しかし、そんなことがありえるのか?」
信じられないと言った顔をしてパトリックはすぐに反論した。
「お前も一緒に見てきただろ。こんな危険な土地に住める人間なんて竜人の血が流れていたって無理だ。ここはあらゆる生命体がすし詰めになって縄張り争いを繰り広げるようなところなんだぞ?」
「お前『クープランの冒険』って読んだことあるか?」
「はあ? 急になんだよ?」
セルゲイが突然本の話を始めたので、パトリックの苛立ちはさらにエスカレートしていく。ところが大真面目な顔をしているセルゲイの顔を見て、堪えてひとまず話を聞くことにした。
「本は医術か歴史書しか読んだことは無いよ」
「『クープランの冒険』というのは20年ほど前に何処からともなく突如として世界に広まり始めた物語だ。遥か昔、ハンターという存在が現れる前のこと、5人の仲間が世界中を旅したという記録を本にしたという設定なんだが……この本の特徴はまるで実在したかのようにこの現実の世界に忠実な世界観の元で書かれているんだ」
「それがどういうことになるんだ?」
「最終章は、突然話の流れをぶった切ったかのように、ある伝説について書かれているんだ」
「伝説?」
「『超太古にまつわる神話』の章と題したもので、この章に登場し、世界の最果てにこの世のものとは思えない美しい秘境が存在すると書かれている。その秘境に人が住んでいて、この樹海の生態を管理しているとしたらどうだ?」
そこまでセルゲイが言うと、パトリックも彼の言わんとしていることをほとんど理解したようだった。
「その秘境ってのが、このアクラ地方のことをさしていると、お前は考えたんだな?」
「だとすれば、国王がこのところ躍起になって未開拓地の探索を急いでいた理由にもなる」
「なぜ国王はそこまでして、その秘境とやらの存在を知ろうとする?」
「そんなの、王国にとってなにかのマズイ存在を秘密裏に消したいから、に決まってるだろ?」
2人がサッと振り返って身構えると、意外な人物が立っていた。ロロアが、ムラマサに肩を借りながらマリアの病室に入ってきた。未だに体中は痛々しいシミを残した包帯で覆われているが、彼女の顔色は幾分良くなっているように思えた。
「まだリハビリも初歩の段階だ。無理はするなよロロア」
「それより、あの本の話をしていたんだろ? セルゲイも読んでいたとは驚きだな。私もこのアクラ地方が『超太古にまつわる神話』の章の舞台だと思っている。あの本に関しては私の後輩がかなり『研究』していたからな。国王とは別にアクラの樹海がここだと探り当てていた」
「薄々感じてはいた。お前の後輩は相当な本の虫だな」
「いや、ある程度土地感と知識を持った奴なら本に書かれている移動の手段と経過日数を計算したり、現実世界との描写の比較で簡単に分かっちまうもんだよ」
「ああ、俺も昔やったな……俺の故郷からミナガルデの街がだいたい計算通りにつけたのは驚いた」
「……それは充分本の虫と呼べるでござる」
「それで、その王国にとってマズイものってのはなんなんだ?」
事態が飛躍しすぎてついていく気力を失ったのかパトリックは連れなさそうに尋ねた。
「本にも詳しいことは書かれていないが、かつてこの世界の反映を陰から支えたとある一族の財宝が眠ると書かれているな」
「そして国王はその一族に何か弱みを握られていて、明るみに出る前にこちらから打って出ようと考えているわけでござる」
「うむ、話が見えてきたな……」
「だが、そうだと知って今更何になる?」
「恐るべきことだよ、パトリック。私たちが下手に藪をつついてそれを知ってしまったら……」
自分たちを送り出した国王に命を狙われることになる。そしてその命を狙うのは、命令を受けたムラマサということになる。
「何も知らせず、そんな陰謀に俺たちを巻き込もうとしていたのか国王は?」
パトリックの額から汗が流れた。目を見開いて、焦りから体をフラフラとさせる。
「ま、まあ拙者もそんなむやみやたらに人の命を奪ったりはいたしませぬ。隠せる物なら隠したい……」
ムラマサはチラとベッドに横たわるマリアを見た。彼にとって一番のダークホースが思い切った行動を出せずにいた。
(拙者の知らないところで彼女が送り込まれている理由は……監視であろうな。アンドレの暗殺を持ちかけるついでに自身の招待を教え、常にギルドナイツの目があることを知らせたかったのだろう。ギルドナイツってのはそういう存在でごさるからな。お互いを常に見張る必要があるほど、対人戦闘の能力が高い。それこそ一人二人寝返っただけでも危険な奴らの溜まり場……)
「どうしたムラマサ? ボーッとして」
「いや、なに。それにしてもよく一人で生き残ったものだとちょっと感心したでござる」
「手当をしたのはここの土地の人間だと思うか?」
「使われていた包帯は俺たちの使っていたものとは明らかに違う。はじめはこの嬢ちゃんの手持ちの包帯だと思っていたが……なるほど、この包帯も調べてみる必要があるな。ミカミに預けてくる」
パトリックはゴミ箱から血だらけの包帯を拾うと、ハンカチに包んでテントを出た。
「さて、話を整理するとしよう」
「私たちの今後の動向も決めないとな」
「まず、この調査隊は国王によって発足された。ことの発端は今から20年ほど前に出版された本『クープランの冒険』。その最終章で太古の王国とある一族の話、その後国を追われ彼らの移り住んだ秘境の地について書かれていて、国王はその秘境にある何かを探しているらしい」
「秘境にある何かが王国の根底を覆す何かであった場合、知りすぎた私達は何かの制裁を加えられるかもしれない。初めからこの探索は不毛だったんだ……!」
「不毛」という言葉を聞いてセルゲイの顔はさらに暗くなった。こんな事のためにカドワキやネロが命を落としたというのか、彼は目頭を熱くしたが涙は出さない。
「ちょ、ちょっと待った! 国王の目的はそれだけではなかったはず。事実ここを新たな狩猟地として整備、地図の作成としての目的もあったでござるからな」
「その目的は表向きのものだったんだろう。話を戻すぞ。本によれば、このアクラ地方こそが秘境の存在する場所だということがわかる。この樹海のどこかに秘境が存在するというわけだ。秘境には国王にとって不利になるものがあるかもしれない。私達がそれを知った場合、今後は監視の目が厳しくなる可能性がある」
そこまで話終えると今度はこれからの動向の話へと3人は進んだ。
「そうと決まれば、もうここにいる理由はない。我々は撤退する。俺が責任を持つ、晒し者になろうと処刑されようと構わない。皆がこの先一生ギルドナイツに怯えて暮らすのを見るのは耐えかねん」
「私もおおかた賛成……と言いたいところだが、もう少し時間が欲しい。待ってくれないかセルゲイ?」
「この後に及んでまだ何か企んでいるのか?」
「全員の傷をしっかりここで癒してから動くべきだ。帰りも樹海を通って行くわけだし、巨木の近くで例のイャンガルルガに出くわす危険もある」
「イャンガルルガか……厄介な敵が残っていたな」
「あのイャンガルルガは私が引き受けよう」
「なんだと?」
「ろ、ロロア殿! 流石にそれは無茶でござる……今の自分の体を見てみるでござる」
ムラマサが指摘したように、ロロアの体はまだ誰かの支えがなければ歩くのも辛いほど弱っていた。パトリックの話でも完全回復には数日かかる上に、
「利き目でないにしろ、片目が使えないその体では以前より分が悪い。お前がそこまで言うのなら、俺が納得できるようにお前の勝算を話してみろ。俺はこれ以上……これ以上仲間が傷つくのを黙って見るわけにはいかない。お前の作戦に俺も混ぜてもらう。何かあったときは我が身を盾にしてでもお前たちを守るからな」
「……へっ、いいぜその言葉。後悔するなよ!私もGクラスハンターの端くれだ。転んでもただでは起きないのが、私のモットー。お前に見せたいものがある。ついてきてくれ……」
そう言ってロロアはセルゲイを連れて病室を後にした。
***
マリアが運ばれてくる少し前のことだ。ファティマ・モーセフザイ率いる第6チームはキャンプ地の少し南、古代の建築物の残骸の残る広場のような場所を進んでいた。アイリーンはここぞとばかりに広場を駆けずり回り、石碑から古代の文字をメモに書き記したり、建築物の年代を特定しようと細かな装飾にルーペを当てたりして調べてみた。だが彼女の知る限りでは、どの年代の様式にも当てはまらない柱の装飾や、寺院の建築様式に頭にクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。
「だーめだこりゃ、私たちの知る範囲の時代のものではないな。いよいよきな臭くなってきたねえ……古代シュレイド文字の形跡が微かにあるから、そのさらに前身の古代文字か……ロマンだねえ」
「文字は解読できますの?」
先行するアイリーンを追いかけてきたファティマが声をかけた。
「方法はいくつかある。この石碑には時折、古シュレイド語と全く同じ綴りの単語が存在している。だから古シュレイド語と共通する文字とそうでない文字を区別し、そうでない文字は単語の並び順から単語のパターンを何通りも考える。文脈的にしっくりくるものを選んで、文字を当てていく、違っていればやり直し……簡単だろ?」
「そ、それってかなり根気のいる作業だと思いませんこと?」
「なあに、私たちにかかれば一瞬だよ……早速一文字判明したぞ、芋づる式でどんどんわかっていくな。やはり文字の数は古シュレイド語と同じか、一つ二つ多いくらいか。」
「単語が今と昔で同じという保証もないのに?」
「そこはなんていうかセンスだよ。語感的におかしいなとか思うだろ?」
「……」
これほどの頭脳とは、人は見かけによらないものだ、とファティマは改めてこの女性に感心した。感の鋭い彼女にはそのような顔は決して見せられないが。
パスカルに説得されてアイリーンを戦闘の指揮においてからというもの、第6チームが傷を負うことは確実に少なくなった。この厳しい樹海の戦いの中でもこうして多少の余裕を持ちながら行動できるのも、ひとえに王立書士隊のおかげであることを彼女は百も承知していた。
(武器も持たない彼女らが、武器を持つ私たちよりも人の命を守ることに長けている、とは皮肉なものです。力とは全くわからないものですね……)
「なんか言いたいことでもあるの?」
「……さすがはアイリーンですね。感が冴え渡っています。でも秘密です」
「……?」
瞬く間に真っ黒になるアイリーンの手帳。文字を書いていってはそれを現代の文字に照らし合わせ、石碑に書かれた単語を古シュレイド語に置き換えていく。
第6チームが背後からしばらくアイリーンの文字を解読する様子を眺めていると背後から突然鋭い笛の音が鳴り響いた。
「この音! 応援要請の笛だ!」
「私たちが近いですわね……」
「石碑のメモは取った。急ぐぞ!」
第6チームは一斉に笛の音がなった方向を見た。茂みが続いているが、笛の音からしてそれなりに遠いところではない。突っ切ってしまえばすぐだろう。
「よし、あそこを通って……」
「待て! ……向こうから何か来るぞ……」
第6チーム唯一の男性ハンターが双剣を構えて走ろうとするが、それをアイリーンが抑えた。彼女がよく目を凝らして見ていると、4人が通過しようとしていた茂みの木々がだんだん揺れを増していることに気がついた。
茂みの揺れがより一層激しくなり、さらには甲高い獣の鳴き声が続いて聞こえてきた。何かがこちらに近づいてきているのが他の3人にもわかった。次の瞬間、深緑の帳から派手な橙色の羽をまとった二頭の巨大なモンスターが飛び出した。
体躯はイャンクックと同じほどの大型にしてはやや小さい。鳥のような尖った嘴と細いながらも引き締まった強靭そうな両足を携えて、二頭のモンスターは何かを争うかのように互いを威嚇し合いながら正面に向かって走ってきていた。
身構えいた第6チームはすぐに脇にそれて二頭の巻き添えにならずに済んだ。しかし、周りの視界が変わったことに気づいて一時取っ組み合いをやめると、その視線は次に4人のハンターたちに向けられた。翼を広げ、前足を蹴り付けるかのように振り上げて威嚇をする。甲高い方向は鳥竜種に見られる特徴のひとつだ。
「鳥竜種のヒプノックだ!眠鳥の名の通り睡眠毒の液を吐きかけてくる。にしてはこいつら、笛を吹くほど強そうには見えないんだが……」
「ここはアクラ地方ですのよ、油断はなさらない方がいいと思います」
「それもそうだな……ようし、いっちょやろうぜ!」
ファティマは背中の留め具を外して棺桶から飛び出た異形の腕を柄にして構えた。
「主よ……どうかわたし達に勝利のお導きを……行く手を阻むものには死の制裁を……」
修道服の胸ポケットからロザリオを取り出すと何か独り言をブツブツとつぶやきだすファティマ。第6チームの普段の狩りの光景なのだ。そしてその後ろでアイリーンがため息をつくまでがお決まりのパターンだ。
「その趣味の悪いお祈り、省略とかできないの? シスターさん?」
「あらあら、いけませんねえ。異教だからと偏見を持つのは己の見聞を狭くするもったいない行為だとあれほど……」
口論を続けている所へうち一頭のヒプノックが嘴でファティマをつまもうと身を乗り出してきた。
「あらあら……ふふふ、がっついちゃって可愛い……」
涼しい顔をしたままファティマが両腕に持った黒い棺桶を振り回すと、ヒプノックの嘴は横にはじき飛ばされた。棺桶が頭部を強打する瞬間にヒプノックのものとは違う別のモンスターの叫び声があたりに響いた。まるで棺桶が生きているかのような断末魔をあげたかのように。不気味な音色はあたりにいた人間の耳に焼き付くように離れない。
「ったく、相変わらず趣味の悪いシスターさんだぜ」
「うふふ、私のお気に入りの棺桶の味はどうですか?」
目を細めて笑うファティマをよそに、アイリーンがローブの下からサーベルを取り出した。王立書士隊の基本装備のひとつだが、使うものはほとんどいない。なぜならほとんどの人間がまともに剣術など習ったことがないからだ。
「戦いはあんまり好きじゃないけど……2対1で応戦しよう」
かくして、もう一つの戦いが始まった。
三章半ばにしてようやくプロローグ回収だったりする。
新キャラ新チーム始動します。久しぶりの戦闘パートなんだけどちょっと不安……4人同時の戦いを書くのは意外と初めてだったりする。