狩人達の軌跡   作:SHIPS

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3-7 結束

 発見当初は重傷であったはずのマリアがこの三日間で驚異の回復力を見せたことは、パトリックを驚かせた。が、その秘密が包帯にあることを彼の助手が突き詰めていた。

 

「この地方の植物の繊維をおり混ぜた包帯です。こんな効能があったとは……侮れませんね、この地に潜む文明の人間は。我々と有効な関係を結ぶことができれば、あるいはこの樹海探索を死者もなく、もっとスムーズに進められたのかもしれません」

 

 医療班所属、バークレー・ミカミはその背の低さをものともせず、誰にも対しても物怖じしない。目まで隠れるほどのオリーブの長髪を掻き分けると、クマのひどいぎょろっとした大きな目が見えた。常に真実を客観的に語ることにかけて、本人も自覚が無いものの、長けてはいる。患者の余命宣告から上層部への不満まで、決して自分の気持ちを曲げない。どんな者もその説得力のある視線に文句を言い返すことが出来ない。こうした人間はしばしば嫌われるのが世の常だが、真実しか語らない人間は時に必要悪として組織にとって大きな利益をもたらす。事実彼女は医者や化学者としてのスキルも一流であった。

 

「書士隊メンバーにこの植物のデータを照合させなさい。各ハンターチームの中でこの植物の生息範囲を虱潰しに辿れば、彼らの集落を発見できるかと」

「ご苦労さまです、ドクターミカミ」

 

 ミカミの説明を最後まで聞き終えると、シロッコは早速このことを書士隊に伝えるべくテントを出ようとした。しかし今の説明では全く訳が分からないと、パトリックは彼に説明を求めた。

 

「植物の生息範囲でどうやってそこまで分かるんだ?」

「この植物は綿毛や胞子を飛ばさない。かと言って鳥がついばむこともあまり無い、種子が重たいからです。この植物は自分の近辺にしか種子を落とせないんですよ。だから筆で色を塗るようにある方向から伸びるように生えていく」

 ミカミは簡易机の上から用済みの書類を1枚引っ張ってくると、その余白に簡単なアクラの樹海を描き、楕円を付け足した。

 

「風向きや地形から種の落ちる方角はある程度決まる。だから絨毯を引くように生息範囲も帯状に広がるそれをたどるというわけです。この辺は風向きもほとんど変わることのない北の土地。だからこのように植物の出どころを探れるんです。植物が包帯に加工されているということはどこがで誰かがこの植物を組織的に栽培している可能性が高いわけですから」

「……つまり、ここに住む集落の人間が栽培している畑を目指すということか。全く恐ろしいな、お前に命を狙われたら俺は逃げられる気がしないよ」

「それはどうも……んじゃ、あとはハンターと書士隊の仕事だから、頑張って。セルゲイさん?」

「……ん? ああ、悪い」

「決断の時ですよ。引くならこれが最後のチャンス、生息範囲からたどる方法は正直かなりの根気がいりますが、それでも見当違いな場所を確実に消していますから、彼らと出会うのは時間の問題です。わかっていますね? 彼らに会うということはいよいよ、この調査隊の今後を左右することになりかねないとあなたは仰った。あなたにはその覚悟があるのですか?」

 

 垂れた前髪から濁った視線がが射殺すようにセルゲイに突き刺さる。自分の2倍ほどの大きさを持つ大男に対しても、彼女は己の思うままに口を開いた。最後のチャンス、ここで撤退すれば、これ以上犠牲を出さずに住むのかもしれない。しかし、彼らの協力を得られるのならば、事態は急激に変化する可能性がある。

 

 セルゲイはそれでも、後ろに引かなかった。大きく息を吐き、目の前の小さな医者の目を見つめ返し、口を開いた。

 

「ここで引くのも一つの手だ。俺たちはよくやったと思う……だがなこれだけは覚えていて欲しい」

 

拳を握るセルゲイの手からは血が滴っていた。

 

「この調査隊に志願した時から、皆はそれなりの覚悟を持って出発日、あの場に集まったはずだ。逃げようと思えば逃げられたはずだ。だから俺は、最後までお前たちを信じる。この命に代えてでも目的を達成して、この包囲網を突破し街へと連れ帰る……それに」

 

 彼の決断を後押ししたのは脳裏に浮かぶ一人の女ハンターの闘志に燃えた瞳であった。あいつなら、ひょっとしたらなんとかしてしまうのではないか。根拠のない自信にここまで揺らいでしまう自分を情けなく思った。

 

 それでもあの新しい希望に、片目を失ってなお生き生きと輝く新しい時代の希望に託したい。セルゲイの言葉は次第に熱がこもる。

 

「新しい時代に賭けてみないか。狩人たちの新しい時代に」

「……あなたがそこまで言うのなら、私に反論はできません」

「やりましょう、セルゲイさん。みんなで生きて、目標以上の成果と一緒に凱旋してやりましょう!」

 

 セルゲイを取り囲む医者、書士隊、数人のハンター。商業ギルドの補給員。彼らの意志はついに一つになろうとしている。

 

「ハンター達のチームを再編する。これから樹海をさらに突き進み、この地の人間との接触を図る。彼らの協力を得て、樹海の徹底解明及び脱出を試みる。今一度、俺にチャンスをくれ。お前たちの命を俺にあずけてくれ。人間の知恵と力を集結させて、俺たちの名前を歴史に刻む! かの冒険譚のように、語り継がれる神話に足を踏み入れてやろうぜ、なあお前たち!」

「ずいぶんと言い切ったじゃねえか、その粋だ武神セルゲイ!」

「もうここまできたら一蓮托生でござる、とことん付き合ってやるでござる!」

「ちょっと怖いけど、みんなで頑張れば大丈夫ですよね!」

「ただしお前ら、命は無駄にするなよ。死にさえしなければ俺たちが助けてやる!」

 

「今ここに我らの団結を改めて示し、尊い犠牲者のため、己の誇りのため、ただでは転ばぬところを見せてやろうぞ!」

 

 キャンプ地に広がる大きな歓声。その歓声の裏でロロアはとある人物との今後についての重要な話し合いをしていた。

 

「エンプティ。私に力を貸してくれ。エドワードから聞いたぜ? あのイャンガルルガに因縁があるみたいだし、うってつけの仕事だ。頼んだぜ」

『任せろ。やれるだけのことはやるつもりだ』

 

 ロロアの企みに、エンプティは手を複雑に動かして答えた。こちらでも着実に、事は動き出しているのだ。

 

 こうして希望を託された新たな時代の狩人達は、はわずかでも生き残る可能性を求めて、再び歩き始めた。

 

***

 

 翌日、セルゲイの元でチームが再編された。三人一組が主体であったチームが四人の7チームとになり、そこに書士隊が加わる形となった。第10チームはロロア、ヴェロニカ、ムラマサの他にエンプティが加わり、エドワードとアリスにはリーダーを失った残った第5のメンバーが加わった。ロロアがエンプティを欲したのは、彼女の作戦に屈指の防御力を誇る彼の盾が必要だったのだ。

 

 探索再開の日。太陽も完全に登らないうちからロロアは起きて、体を入念にチェックしていた。リハビリもすっかり順調だったとはいえ、体は鈍るもの。少しでも動かせるように彼女は体を早く起こし、来るべき戦いのために備えた。彼女たちロレンスチームの主な目的は、植物の生息範囲の追跡と新種の対処である。生息範囲の一部が例の第5チームを襲った新種の縄張と思われる範囲に含まれていたためだ。

 

「新種に出くわした場合、まずは周囲への連絡を怠るな。お前たちを信用していないわけではないが、相手は手馴れのGクラスハンターを真っ二つに切り捨てるこの樹海の中でも実力者だ。気をつけろよ」

 

セルゲイの言葉を思い出し、頭の中で何度も咀嚼する。

 

「新種……いったいどんなやつなんだろうな……私のアレは出番がくるのかな。とにかく楽しみだ!」

「今日は早いですわねロロア」

 

 ストレッチを続けるロロアの元にヴェロニカも現れた。既に防具を着込んでおり、その意志の強さを感じられる。待ちきれないと言った様子だ。

 

「ヴェロニカ!アンタも早いね」

「久しぶりのロロアとの狩りですからね。じっとしていられないわ!」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。私も燃えてきたよ」

「全く……呆れるほどの鉄砲玉でござるな我らが軍師殿は」

 続いて現れたのはムラマサとエンプティ。彼らも今日という日を待ちわびていたかのように、夜明け前から起きていたのだ。

 

「エンプティと言いましたか? よろしくお願いします。ヴェロニカと申します。お噂はかねがね……」

「……」

 

ヴェロニカが丁寧に挨拶をするとエンプティは手でサインを作って会釈した。

 

「しかし、こうしてまたロロア殿と一緒に戦えるとは嬉しい限りでござる。エンプティ殿を迎えて、拙者たちももっと強くなれる気がするでござるよ」

「当たり前だ。例え左目を失ったとしても私は諦めちゃいない。エンプティだって耳が聞こえない中ここまで来た。片目を失ったくらいで諦めるのはお前に失礼だしな。何より私自身に失礼だ」

 

 朝の涼しい空気の中で深呼吸をする。眼帯をはめた左目をさすりながらロロアは決意を新たにする。体のある限り、命の続く限り、戦いぬく。それこそモンスターハンターのあるべき姿である。

 

「よし、オネゲルをたたき起こしに行く」

「え、ええ!? 流石にかわいそうよ。子どもなのに」

「子ども扱いするな!」

 

4人が振り返るとオネゲルが立っていた。正装に着替えてはいたものの寝癖まで治す時間はなかったようだ。ボサボサの髪の毛を整えようと両手を頭に当てながらこちらに近づいてくる。

 

「揃いも揃って眠れなかったのか、お前たちも子どもだな、フッ」

 

 そう言って鼻で笑うオネゲルの目の下にはクマができていた。

 

(やっぱり子どもだ……)

(子どもでござるな)

(興奮で寝れなかったのですね)

(やっぱり子どもじゃないか…)

 

「なんだ? 何か文句でもあるのか?」

「オネゲル、あとでコーヒーを入れて差し上げます。必ず飲んでおきなさい」

「? 気がきくなお前。どうした?」

 

カフェインが眠気ざましに効くことをオネゲルは知らないらしい。

 

「はっきり言って俺たちの今日の任務は、原住民との接触よりも、帰路の確保が第一になる。例の新種やひょっとしたらイャンガルルガとの接触もありうる。俺たちはそのために編成された。分かるな?」

「言われるまでもないよ、オネゲル坊や」

「坊やって言うな! それで、お前の策も既に頭に入れてある。あとは俺の指示通りに動けば、おのずと道はひらけるはずだ。俺の駒になってもらうぞ……」

 

 オネゲルはこれまでで1番生き生きとした悪人顔を4人に見せた。それに負けじとロロアも挑戦的にオネゲルを一瞥する。

 

「上等だ。 バックアップ頼んだぞ!」

 

 5人の手のひらが合わさる。木々の隙間からオレンジの陽光が差し込んでくる。

 

「セルゲイが私たちに託してくれた思い、覚悟、希望を無駄にするなよ」

「それだと、セルゲイ死んだみたいでござるよ?」

「ムラマサ! 縁起でもないこと言わないで!」

「せ、拙者は悪くないでござる!」

(締まらないなあこの人たち……)

「諦めろエンプティ。こいつらはこういう奴なんだ」

「お? あんたも分かるようになって来たかオネゲル?」

「全く気に食わないがな……でも、嫌いじゃない。今のお前たちは生きることに貪欲な生き物らしい姿をしているからな」

「へへっそれじゃ貪欲に、生きに行きますか!」

 

 新しい時代の朝が来る。

 

***

 

 セルゲイ・ゴールウェイ、ロロア・ロレンス、ヴェロニカ・ガヴェッタ、ザトー・ムラマサ、エドワード・トロイト、アリス・オット、エンプティ、ファティマ・モーセフザイ、ドルコン・デネザ、エリフ・キュージ、リゴドーン・ゴードン、パスカル、パオ、オネゲル、シロッコ、アイリーン、その他のハンターと書士隊の主要メンバーが一同に会した。それぞれのチームが数々の戦いをくぐり抜けてきた。ちなみに数名のハンターをキャンプ地に残し、緊急時の警護に当たらせている。ミナガルデを旅立ったあの時よりも傷は増え、装備は傷み、しかし風格のようなものが漂い、彼らの姿は以前よりなお頼もしく見える。

 

 彼らは出発した。生き残るために。そして、さらに激しい命の削り合いへと身を投じていく。朝日に背を向け、アクラ地方の更なる闇に向かって彼らは進んでいく。




3-6にて、アイリーンの一人称が「私」になっていますが正しくは「オレ」です。後日訂正します、失礼しました。3章がもうじき終わるので仕上げたら一旦更新止めて誤字脱字チェックとかしようかな…

2015/09/08
ストーリーの一部練り直しを決意し、描写について若干の修正を加えました。

・トロイトチームの編成ですが、変更後はエドワード・アリスの二人に第5チームから新たに2名が加わります。リゴドーンはセルゲイ達に加わります。よって正しい編成は

①ゴールウェイチーム
…セルゲイ、旧第1チームの2名(未登場)、リゴドーン、パスカル

②トロイトチーム
…エドワード、アリス、旧第5チームの2名(未登場)(第5チームのリーダーは2-5にて死亡していることが判明)、パオ

③モーセフザイチーム
…ファティマ、ドルコン、エリフ、他のチームから1名(未登場)、アイリーン

④ロレンスチーム
…ロロア、ムラマサ、ヴェロニカ、エンプティ、オネゲル

以上4チームと20名という編成になっています。ここらへん文章で全部説明すると長すぎて結局ごっちゃになったので分からんという人はこれを頭の整理に役立ててください。

・ハンターたちが全員キャンプ地を出発したような描写になっていますが、実際には数名のハンター達は非戦闘員の保護のために残っています。まだ名前の出ていないチームのハンターたちが大抵留守を守っていると考えていただいて構いません。

以下二点を変更させていただきます。申し訳ございません。
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