狩人達の軌跡   作:SHIPS

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2015/09/08
3-7について、ストーリーの一部練り直しを決意し、描写について若干の修正を加えました。

・トロイトチームの編成ですが、変更後はエドワード・アリスの二人に第5チームから新たに2名が加わります。リゴドーンはセルゲイ達に加わります。よって正しい編成は

①ゴールウェイチーム
…セルゲイ、旧第1チームの2名(未登場)、リゴドーン、パスカル

②トロイトチーム
…エドワード、アリス、旧第5チームの2名(未登場)(第5チームのリーダーは2-5にて死亡していることが判明)、パオ

③モーセフザイチーム
…ファティマ、ドルコン、エリフ、他のチームから1名(未登場)、アイリーン

④ロレンスチーム
…ロロア、ムラマサ、ヴェロニカ、エンプティ、オネゲル

以上4チームと20名という編成になっています。ここらへん文章で全部説明すると長すぎて結局ごっちゃになったので、分からんという人はこれを頭の整理に役立ててください。

・ハンターたちが全員キャンプ地を出発したような描写になっていますが、実際には数名のハンター達は非戦闘員の保護のために残っています。まだ名前の出ていないチームのハンターたちが大抵留守を守っていると考えていただいて構いません。

以下二点を変更させていただきます。申し訳ございません。


3-8 無双の狩人

 アクラ地方へ来てから、その日初めて樹海の天候が崩れた。朝方、若干の雲を残しつつも晴れていた青空は彼らが樹海の北を目指すにつれて徐々に灰色へ移り変わる。それと同時に、彼らを待ち受ける生態系も変化を感じさせた。

 

 セルゲイチームとパスカルはミカミの解析した植物のデータと生息範囲を元に順当に調査を進めていた。途中何度か肉食竜の群れに遭遇したりイャンクック亜種と鉢合わせることがあったが、セルゲイの圧倒的なパワーと統率力に敵はない。パスカルの分析も相まって地の利も味方し、ほぼ無傷でここまで来た。

 

 2時間ほど歩いたところで、川の畔でセルゲイチームの面々は休息を取ることにした。休憩地点では消息を他のチームに知らせるために目印を残すことが取り決められている。パスカルが畔の脇にある大きな岩に小石で文字を書いた。

 

 セルゲイの名前を書き記しながら、パスカルはロロア達のことを考えていた。カドワキの死後以降、彼女の事はオネゲルに任せっきりだったがパスカルはそれでもしきりに第10チームのことが気になって仕方が無い。オネゲルの話ではうまくやっている(オネゲルなりに彼女の事を信用している)ようだが、この目で見ないことには安心できない。

 

 パスカルはふと、フェニスクスの港でロロアが自分に言った言葉を思い出した。あの時確かに彼女は『ハンターを引退したらみんなで暮らそう』と言った。

 

(それってつまり家族になるって事だろうか……ロロアがお姉さんかあ。いやお母さんになるのか? だとしたらお父さんって……)

 

「……」

「何ぼーっとしてるんだパスカル、目印はつけたか?」

 

 パスカルは背後から近づく大男の気配に気が付かなかった。突然声をかけられてわれに帰ると、彼は慌てて残りの文字を岩に書き記した。

 

「……ハッ! す、すみませんセルゲイ」

「このところずっと上の空だな……ロロアが気になるか?」

「ええ、とても。今でもオネゲルと変わって欲しいくらいに。情けないですね、こんなに人に依存しちゃうなんて」

「依存は恥ずべきことではない。あいつも、誰かに必要とされていることを快く思っているはずだ」

 

 セルゲイの大きな腕がパスカルの頭をくしゃくしゃと鷲づかみにする。筋肉質な腕のはずが、不思議と心地よい。セルゲイにこんな繊細な一面があったなんて、パスカルは改めてこの男の器の大きさ、包容力を垣間見る。

 

(この人がリーダーだったからこそ、これだけの犠牲で済んだんだよなあ)

 

 山あり谷ありだったが、今ではハンターもそうでない人間も一つになろうとしている。ミナガルデを代表する生ける伝説のもと、歴史に名を刻もうと前進しだした調査隊。

 

 不意にパスカルの脳裏にある記憶が蘇る。かつて家族を失った時の記憶。霧に囲まれ、ギルドを持たない彼の故郷は新種の黒いモンスターに襲われて壊滅した。倒壊した家屋の下から彼だけが助けられ、生き残った。

 

 彼のようにモンスターに家族を殺されることなど、この時代ではなんら珍しいことではなかった。未だハンターズギルドの保護下にない集落は多い。彼が折り合いをつけられずに苦しんでいるのは、自分の家族を助けようとしなかったある集団への憤りである。

 

 ギルドナイツ。彼の家族を見殺しにしたのはハンターズギルドの執行部の人間であった。新種のモンスターと戦おうともせず、自分の家族を置いて逃げ出した。彼はどうしてもそれが許せなかった。

 

 トラウマが克明に当時のパスカルに焼き付けられた。記憶を映像のように記憶する能力が彼に生まれた。書士隊に入る際、自らの記憶をコントロールする術を学んだことで悪夢を見ることはなくなった。

 

 彼は王立書士隊に入り、決意した。世界の全てを知り、あらゆる種に知識で対抗してやろうと。あらゆる種に対抗できるハンターを後押ししようと。自分のような人間をこれ以上出さないためにも。

 

「そろそろ行くぞ、例の植物……霞ヶ草と言ったか? 俺たちの向かっている生息範囲は今のところ一番の有力候補だからな、早いところ目的を達成して少しでも敵に遭遇する危険を減らすべきだ」

 

 セルゲイの指示にしたがって、チームの面々は再び歩き出した。パスカルもこのままではいけないと必死に首を降り、目の前の事態に集中する努力を続けた。

 

「雨が降りそうだな、嫌な予感がする……」

 

***

 

 ロロア率いるロレンスチームはキャンプ地を出て巨木の方へ向かうルートを進み、霞ヶ草の生息範囲をたどっていく。イャンガルルガや、例の新種モンスターが発見されている地域のためか生き物の姿は少ない。途中大型モンスターの死骸さえ目撃した。どのモンスターもやはり刃物のようなもので切り裂かれているが、どれもハンターの武器によるものでないことがオネゲルの分析により判明される。

 

「その新種のモンスターは刃物でも持ち歩いてるのかねえ。見事な太刀筋だ……人の体も真っ二つになるわけだ」

「しかし、肝心の新種が現れないな。もしかしてもうこの辺りにはいないのか?」

 

 探索を進めて結構な時間が経過していたが、話に聞いていた新種が現れる気配はこれまで一向にない。ギルドナイツを見破る程気配に鋭敏なロロアでさえ、それらしい殺気は全く感じない。

 

「縄張りを移動している可能性はありうるな。しかし、それそれで好都合だ。霞ヶ草の後を追うぞ」

 

 オネゲルに諭されて、4人はさらに前進した。しばらく歩いていると、ロロアは何かを感じ取ったようでその場に立ち止まった。

 

「何か来る……!」

「新種か? イャンガルルガか?」

「重い足取りだな……数頭、こっちに来るぞ……あの茂みだ!」

 

 ロロアが指さした方へ4人が振り向くと、確かに奥の茂みが揺れているのが確認出来た。いっせいに全員が武器に手をかける。

 

 緊張の一瞬。茂みの揺れは一層大きくなり、ついにそれらは姿を現した。

 

「……あれ、また?」

 

 茂みから現れたのは、ロロアがこの樹海に来て最初に相手をしたあの青い牙獣種のモンスターであった。それも4頭。

 

「なんでこいつらこんな所に……」

「ボサっとするなロロア。あいつらは何か恐ろしいものから逃げているだけだ、じきに本命のお出ましだぞ……」

 

 オネゲルの言う通りであった。アオアシラの群れはロロア達のことなど見向きもせず、逃げるように走り去っていったのだ。その直後、ロロアもその強大な気配に気がつく。

 

 茂みからゆっくりと気配の主が姿を現した。翼は持たず、大木のような太い腕と強烈な爪を持った碧色の獣が王者の如く余裕のある風格を見せて練り歩いている。黄色い角はより鋭く発達していて背中にかけてそれが甲殻のように連なって発達していた。その周りを光る虫が飛び交っていて、さながら光をたたえる王者のような姿に5人は目を奪われた。雲が太陽を隠し切りると、その輝きは一層増して見える。

 

 美しい、それと同時にこいつは危険だという気持ちが全員に湧き出た。しかし、向こうもこちらの様子を見て威嚇をしようとしているのが見て取れる。狩人の目をした碧色の獣が、行く手を阻むこちらを的と認識首を回して低く唸り声をあげた。

 

「こいつは珍しい……雷狼竜、ジンオウガか! 周りの雷光虫で帯電されると厄介だぞ。新大陸の中でも限られた地域にのみ生息すると聞いていたが……」

 

 オネゲルは目を見開いて興奮したような口調で叫んだ。王立書士隊といえども、これほどの相手を目撃することはそうそう多くはないらしい。

 

「オネゲルは下がってろ、エンプティとムラマサは前衛!」

「うむ」

「久しぶりに腕がなります!」

「……」

 

 先に動いたのはジンオウガの方であった。丸太ほどの巨大な前脚で地面を抉ると、勢いをつけて突進しだした。その巨体からは考えられないほどの俊敏さで、第10チームめがけて牙を剥いて噛み付こうとする。

 

「は、速い!」

「……!」

 

 左右に散開してジンオウガの突進から身をかわそうとする各員だったが、その威圧感に身動きが取れなくなったのかオネゲルの足が遅れる。異変にいち早く気づいたエンプティは龍騎槍ゲイボルグの盾を構えて、オネゲルを守ろうとする。しかし、その見かけに違わぬ強烈なタックルは盾ごとふたりを後方に大きく交代させる。

 

「ぐっ……!」

 

 声にならない雄叫びをエンプティが上げると盾を持つ手に力がこもる。巨体が2人から離れる瞬間に押し返すと、ジンオウガがバランスを崩して2人からコースを外した。

 

 ジンオウガの脇からムラマサが飛び出した。勢いを殺されたジンオウガの脇腹に大鎌威太刀の刃が迫るが鎌の刃先が僅かに突き刺さる程度。これでは満足に大鎌威太刀の猛毒を注入することも出来ない。しかし戦法としてはロロアの予測通り上手くいっていた。

 

 エンプティが攻撃を受け、ムラマサとヴェロニカが攻撃、ロロアがサポート。第8チームの戦術をそのまま使ったものだが、それぞれの実力が強ければ強いほどこうした堅実な作戦は強固で崩しにくくなるとロロアは踏んだ。

 

「鱗でこれほどの防御力とは……」

「オネゲル、ボサっとするな!」

「くっ……俺としたことが」

 

 ロロアに叱咤されてオネゲルは気を取り直して、身構えた。目を凝らして、目の前の雷狼竜を観察し始める。

 

(本で読んだサイズよりかなり大きいな。『高難度個体』か。厄介な……)

 

 オネゲルの視界の端で今度はヴェロニカが走っていた。レグヌム=バスターレの鉄球でジンオウガの脇腹を殴るがほとんど手応えがないようだ。そればかりかジンオウガは尻尾を体に巻き付けるとその場で宙返りをしながらヴェロニカに叩きつけてきた。

 

 様子見のためにあまり踏み込まない攻撃をしたつもりのヴェロニカだったが、その尻尾の叩きつけを見るや否や額から汗を流した。土煙と共に、先程まで彼女が立っていてとっさに身をかわして離れたその場所は地面が深く陥没していた。

 

「なんて綺麗な身のこなしなの……!」

「ああ、自分の技に自信がある奴の構えだな」

 

 ロロアも動き出した。さらにヴェロニカに追撃をかけようとするジンオウガの気を引くために、頭部めがけて「タンクソーサラー」の引き金を引いた。弾丸はジンオウガの角に命中するがビクともしていない。そのままヴェロニカに迫ると、彼女を押しつぶさんと前脚を振り上げた。

 

「くそっ!」

「後ろ足を狙えロロア!」

 オネゲルの声がロロアに届いた。言われたとおりに即座に狙いを頭部から後ろ足にして引き金を引くと、頭部より出血は少ないものの、ジンオウガがバランスを少し崩したようで、踏ん張ろうとした先のスタンプは大きく脇にそれた。

 

「お前は前後の脚のバランスを崩すことに集中しろ。頭部はヴェロニカに任せるんだ」

「あ、ああ……わかった!」

 

 バランスを崩したジンオウガに今度はヴェロニカが反撃に出た。柄のレバーを引いて鉄球を射出するとジンオウガの頭部に直撃し、角の一部分が僅かに欠けた。ジンオウガも流石に応えたのか、うめき声を上げて身をひるませた。

 

 依然として、無双の狩人はそこに鎮座した。何かを伝えようと複雑な鳴き声を上げると、周囲に雷光虫が群がり、ジンオウガの背中に青白い電が走り出す。

 

「自分の技に自信のある構えとはどういうことだロロア……?」

 オネゲルがロロアに尋ねると、彼女は答えた。

 

「あの洗練された動き、立ち振る舞い、全てが美しいんだよ」

「美しいだと? どういうことだ?」

 

 しかしこれ以上は答えない。ロロアはタンクソーサラーに弾丸を込め直すと、帯電を始めて無防備になっているジンオウガめがけて何回も引き金を引いた。

 

 近くにいたムラマサとヴェロニカも、これを好機とばかりにジンオウガに近づく。ムラマサが再びジンオウガの胸部に大鎌威太刀を振るう。地面に踏みしめ力一杯に振りぬくと、鎌は見事厚い鱗を裂いた。その切り傷に猛毒が注入されていく。ヴェロニカもレグヌム=バスターレの鉄球を収めてハンマーの状態に戻すと帯電行動で下がっていたジンオウガの頭部を殴りつけた。頭部に打撲痕のついたジンオウガ。しかし、その眼は今しがた自分を殴った狩人から離れることなく、射殺すような視線を外さない。さらに追撃をかけようとする2人だったが、オネゲルが「離れろ!」と叫ぶ。

 

 2人が離れたのは正解だった。その直後でジンオウガに異変が起こったからだ。角から尻尾にかけて並ぶ黄色い甲殻が一斉に逆だったかと思うと、その身体を包み込むかのように激しい青い電が周囲に解き放たれた。バチバチと派手な音を立てながら天に向かって咆哮を上げるその姿は、この生態系の頂点に君臨するにふさわしい王者の風格そのもの。

 

 人より遥かに大きいそいつは、一つ一つが相手にプレッシャーを与えるような仕草で狩人達を悠々とじっと眺めた。オネゲルはその姿に本能から恐怖というものを覚えた気がした。久しく忘れていた未知というものの恐怖、自然という途方もなく巨大な恐怖に。

 

「飲み込まれるなよオネゲル」

 

 震える彼の肩をロロアが優しくだき抱えた。すると次第に体の震えが少し抑えられていくのを彼は感じた。

 

「あいつの動き、洗練されているよな。目の前の敵を屠るのに己の技を磨いて、全力で戦おうとしてるんだ。あいつも私たちと同じ一端の狩人。それならこちらも全力で挑まなけりゃ、相手に失礼というものだ!」

 

 オネゲルはロロアの顔を見て顔を苦笑いに顔をゆがませた。こんな状況でも彼女の右目はジンオウガの放つ光に負けないくらい輝いていた。

 

 なんとかなるかも――そんな一抹の希望がオネゲルの体の震えを支えていく。

 

「じゃあ気を取り直していくぞ」

「……」

 

 オネゲルが背中にくくりつけていたサーベルを取り出した。ゆっくりと鞘から抜くと、息を大きく吐き出してぐっと握りしめた。

 

「相手に全力で挑むんだろ。自分の身ぐらい自分の身で守る。お前たちはあいつに専念しろ」

「……」

 

 オネゲルの顔に映る決意を見たのか、エンプティは彼から離れていき、本腰を入れて龍騎槍ゲイボルグを構え直した。それまで彼の周りを漂っていた空気が急激に引き締まり、緊張が走った。別人になったかのように目つきも変わった。

 

(あれがエドの言っていた『もう1人のエンプティ』か……)

 

 ロロアは様子の変わったエンプティを見て、人目でそれがエンプティのもう一つの姿であることに気がついた。というのもエドワードからエンプティを第10に引き入れる際に彼からエンプティの『闘争本能』について話を聞いていたからだ。

 

『くれぐれもアレを暴走させるな、気をつけて』

 

 エドワードの言葉がロロアの頭に過ぎる。ヴェロニカとムラマサも彼の周りで雰囲気が変わったことを悟ると、気を引き締め直してジンオウガと対峙した。

 

 青白い光を放ち、体を伝う電撃を馴染ませようと伸びを始めたジンオウガ。先ほどよりさらに増した威圧感をまとって迫り来る。

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