メヌエラ達が再びゴア・マガラの討伐に失敗した。それどころか驚くべき生態の報告も合わせて偵察していたスカルボの口から告げられ、アクラディ・アウス・レグヌムの都、そのギルドホールでは再び意気消沈したハンターと調査隊の人間であふれかえっていた。
「途中で合流したスカルボの報告によれば、まるで生き物の範疇を超えた存在感であったとメヌエラは言うが……」
大広間の玉座の前では、アクラディ・アウス・レグヌムのハンターであるフウガとトカ、そしてスカルボとセルゲイが輪になってこれからの動向を再び検討していた。
「事は一刻を争う事態になってきたという訳ですな。黒狼鳥イャンガルルガ、きゃつは無類の戦闘マニアであり、体は常に生傷の絶えないイカれた野郎、とよく言われていますが……」
「狂竜ウイルスを食らう前から狂ってるようなあれがねぇ」
スカルボからの報告を受けて、都周辺の警備を任されていたフウガとトカも腕を組んだまま険しい顔を崩さない。
「メヌエラは何と言っていた?」
「別の種として生まれ変わったような……ただの狂竜化よりももっと異質なものを感じた、と」
ギルドマスターもまた顔を真っ青にしていた。これまでメヌエラが敗北することは一度もなかっただけに、その異常性に驚いているのだろう。
「現状分かっているのは、あの勝気なメヌエラ達が即撤退を判断するほどの相手ってことだろうね」
静かなギルドホールに空気の読めない鶴の一声。リゴドーンが間抜けな声で痛々しい事実を突きつける。
「まんまと逃げおおせた逆賊が何を申すか。下賤なリゴドーンめ!」
「貴方が私たちを捨て去ったこと、決して忘れてはいませんわ。集団の和を乱そうとして何が狙いなの!?」
別に、とそっけなくリゴドーンは答える。
「だけど、これは紛れもない事実さ。調査隊のみんなは知らないだろうから言っておくとね、彼らの実力は折り紙つきだったんだよ。御覧の通りギルドの十分なサポートがない中で、リュードは古龍討伐の経験だってある。それこそ君たちシュレイドのGクラスハンターなんて目じゃないほどの実力者でね」
古龍討伐という言葉を聞いて、何人かのベテランハンターがざわついた。それほどの強者であったはずのハンターがおめおめと逃げ帰ってくる黒狼鳥とは一体どれほどの恐ろしさなのか、彼らには見当がつかなかった。
「つまり古龍級生物か、それ以上の存在という訳だな。……いったい何が起こっている?」
顔をしかめるセルゲイ。
「事態はシンプルな話でしょう」
人ごみをかき分けて前に出てきたのはミカミとスカルボであった。その後ろからパオに肩を支えられてメヌエラがゆっくりと出てきた。狂竜症がいまだ続いているのか力なくぐったりしているが、その目の輝きは失われてはいない。
「調査隊の持ち帰った狂竜モンスターのサンプルと、メヌエラ氏の証言、それからこのスカルボという少女が偵察してきた情報によって、一つの仮説が成り立つかと……もう一度基本に立ち返って考えてみてください。狂竜ウイルスに侵されたモンスターはどういった行動をとっていたか?」
「スカルボ、アレを一人で見に行ったのか……? 正気の沙汰じゃない。あれはもはや生物とは呼べまい……!!」
声を震わせメヌエラは弱々しく言葉を発する。心配そうにメヌエラを見るスカルボの代わりにミカミが答える。
「あるいは我々が、『生命』というものの定義を正しく認識していないだけなのかもしれない……」
「なんだと……?」
「メヌエラと言いましたか、我々があなたたちの世界を正しく理解していないことをあなたはよく思っていないのでしょうが、それはお互い様だ。我々はあなた達の知らないことを知っている。優劣などない。いい加減それを覚えていただかねば、共に破滅の道を歩むことになる。今我々に必要なのは人種、職業を問わない総力戦だと思いますが」
破滅という響きだけが異様に集団の中で残った。メヌエラや他のアクラのハンターを黙らせると、なおもミカミは報告を続ける。彼女は決して言葉を婉曲しない。十中八九それは患者のためにならないということを医師の観点から、十中八九それはハンターや他の自然にかかわる仕事の人間のためにならないということを科学者の観点から経験的に理解していたからだ。たとえ学術院やギルドで自身に昇進の気が現れずとも、自分の信念を曲げないことにかけてはそのストイックさは大いに役に立つ。
今や『総力戦』という言葉に驚く調査隊の人間などいなかった。今こそ覚悟を決めるしかない。自分よりこれほど小さく非力な人間であるミカミの提案に物怖じする気はないと、ギルドホールにいた人間が静かに彼女の発言に耳を傾ける。誰もが生き残るための命綱を頼り、自身もその一端になろうとしていた。
「さて、例のイャンガルルガについてですが、私なりの仮説をここで説明させてほしい。シロッコ、あなた風邪ってひいたことあります?」
「風邪? ええ、身体が弱いので何度か」
「その時どんな症状が出ましたか?」
「普通のブランゴ風邪ですよ。ホラ、顔がものすごい赤くなるやつ。熱が出たり、その……嘔吐したり、お腹を下したりでしょうか」
恥ずかしそうにシロッコが答えた。
「医学的に言えば、これらは身体が悪性物質を取り除こうとするための生理現象と考えられます。体温を上げることで身体の免疫を上げたり、体内に入ったウイルスを死滅させようとする。または強制的にそれを体外へ排出する……身体はウイルスに対抗するために様々な症状を体に引き起こさせる」
ここまで話して一息ついて、ミカミは振り返って調査隊やアクラのハンターの目を眺めながらさらにこう問いかけた。
「では狂竜ウイルスが体内に入ったらどのようなことが起きたか?」
「……モンスターが暴れだした。あ、そうか!」
シロッコも合点がいたようで納得したように手を解いた。
「その通り。モンスターが暴れていたのは、周囲への攻撃行動を繰り返すことでウイルスを克服しようとしていたから。そして今、ウイルスの病魔にも負けない強靭な個体がそれを克服しつつある。まるで狂竜症を克服したハンターのようにね」
「……えっ、アタイか?」
ミカミの示す先にカスチェイ・デ・キリコが立っていた。
「気づいていないでしょうけど、カスチェイ・デ・キリコは我々調査隊の中で狂竜症を克服した最初の人間でした。私が放っておくとでも思ったのですか?」
「い、いつの間に……?」
「食事中に髪の毛に付着した鱗粉を少しいただいただけですよ。それ以上の事はしておりませんのでご安心を……話がそれましたが、その狂竜ウイルスすらも克服した個体となると非常に厄介なことになるでしょう……」
「……一般的に生き物と言うものが、種の存亡を図るために進化し外敵から身を守る手段を得るのに対して、あやつの進化は真逆だ。個体のひとつひとつが生き残るためにモンスターに戦いを挑み、その技を自分のものにしていく。種としての進化でなく、個体としての進化だ。故に行動や実力にも大きく個体差が現れる種族……もしイャンガルルガがウイルスにすら打ち克ったとなると……」
息も絶え絶えにしながらメヌエラは語る。
「当然、ゴア・マガラの狂竜ウイルスでさえも己の者にすることでしょう……」
ミカミの無慈悲な言葉が終わると同時に、ギルドホールでは一切の音が消えてしまった。誰もが自分たちの置かれている絶望的な状況を受け入れられず、何も言葉が出ずにいた。狂竜ウイルスとイャンガルルガ、最悪の組み合わせであることは言うまでもない。
「……ですが、悪いニュースばかりでもありません。現在パトリックや他の書士隊メンバーによって、狂竜症を鎮静化するワクチンの作成が進められている」
「ワクチンだと?」
セルゲイが聞き返すと、ミカミは白衣のポケットから小さな小瓶を取り出してさほど高くない背を伸ばし、背相応の長さの腕を周囲の人間に見えるように掲げた。小瓶の中では赤紫色に光る小さな液体が入っていて、禍々しい光を放っていた。
「今ここにあるのは血清から作られた試作品。狂竜化モンスターの狂竜症の進行を遅らせるだけに過ぎませんが、おそらくフォルラン氏の協力があれば必ずもっと効果の期待できるそれになるはず……」
一部のハンターたちから歓声が上がった。散々攻めあぐねていたり、苦労させられている狂竜化モンスターの対応策がこれほどの短時間でできつつあることに驚嘆の念をあらわにしている。
「フォルランは傷口から直にウイルスを食らっていて重傷だ……あいつが動けるのを待っていては遅い……!」
「そればかりは……フォルラン氏の早い回復を祈るしかありませんね。ひとまず我々はこれを実用段階にしました。注射器型になっていて、モンスターの肉体に直接打ち込んで使うものです」
「……あの暴れ狂ったモンスターに打ち込めというのか?」
これはセルゲイ。腕を組み顔を顰めた。
「本来なら武器に仕込むのが手っ取り早いのですが……まだ量が足りません。少量で効果的に使うにはこの方法しかない」
「万が一それがうまくいったとして、狂竜症そのものを鎮静化させることはできないというのか?」
「フォルラン氏が目覚めればあるいは……」
「現段階ではできないんだよね? それって根本的な解決になってないと思うなあ」
またしても口をはさんだのはリゴドーンであった。
「リゴドーン! てめぇなあ……!」
我慢ならないとドルコンがリゴドーンに掴みかかるが、彼は何食わぬ顔でドルコンを見向きもせず、またあの調子はずれな声を全員に聞こえるようあげた。
「ミカミさんの仮説が正しいとしたらさ、そのイャンガルルガはつまり『狂竜症を克服しつつある』ってことでしょ? ワクチンの意味って知ってる?」
「培養を通じて弱体化させた病原体を身体に打ち込むことで、体に抗体を作らせ『予防』するものですね」
ミカミはあくまで冷静に、事実を伝えた。
「ってことは、『既に狂竜症を発症させているモンスター』にはほとんど効果がないってことじゃない?」
「ですからワクチンと言ったのですよ、リゴドーン。もっともワクチンには発症後でも効果のあるものもありますけど……今の段階では確かにあなたの言うとおりだ。今の段階ではね」
リゴドーンの挑発とも言える言動にもミカミは決して動じていない。リゴドーンも顔にうすら寒い笑顔を張り付けていたが、彼女が誘いに乗らないことに気が付きだんだんとその笑みが消えていった。目が笑っていない。全く面白くないといった様子で二人のにらみ合いがしばらく続くが、セルゲイが続きを促すと、彼女はもう一度精一杯の蔑みの視線を彼に与えてから、説明を続けた。
「アクラに住む住民と王立書士隊を総動員して、現在薬を完成させるためにひつような材料をかき集めている。その間どうにかしてハンターの皆さんに時間を稼いでいただきたいのです。素材を集めるために、狂竜化モンスターを一部排除する必要もある……」
ミカミの声が次第に小さくなっていった。それもそのはず。やっとのことでここまで生き残ってきたメンバーに、今しがた説明を受けた恐ろしい存在のひしめく樹海にわずかな可能性にかけて再び出撃しろと言うのだ。覚悟を決めたとはいえ、恐ろしくて手が上がらないのも無理はない。
案の定、すぐに名乗り出るハンターはセルゲイの他にいなかった。しばらく沈黙が続いていると再びギルドホールに響く一人の女の声。
「あのイャンガルルガを食い止める人間も必要ってことだな」
全員が声のしたを振り向くと、ロロアが立っていた。
「ロロア・ロレンス……お前どこへ行っていた?」
「ちょっと調べ物をな……それより、私はやるぜ。みんなが必死につないでくれる命のバトンだ。ここで私たちが落としてどうする?」
「軍師殿がやるというのであれば、拙者もお供せざるをえないようだ。のうヴェロニカ?」
「もちろん、私は最初からそのつもりですわ!」
ロロアの元にムラマサとヴェロニカが駆け寄る。これで3人。
「君たちだけに、いい恰好はさせないよ?」
「じゃあなんですぐに名乗らなかったのかしらね、エド?」
「そりゃあロロアを待っていたからさ。僕はあくまで便乗ってことで」
「……」
3人の元にエドワードとアリス、エンプティが駆け寄る。これで6人になる。
「その話、私にも一枚かませていただけないかしら?」
「ええっ、ちょっとファティマ?」
「怖いなら、お前はお留守番でもいいぜ、エリフ?」
「……ったく、分かったよ。はぁ……あんたに目をつけられたのが私の人生の落ち度だよ」
六人の元にファティマ、ドルコン、エリフが駆け寄る。9人。
「ふんっ……若造どもが、こりゃ当分隠居はできそうにないな」
セルゲイが駆け寄る。10人。
「なんかよく分かんねえけど、アツくなってきたな!」
「ぼ、僕でよければ、力になります!」
ガロッキアとカスチェイが加わる。総勢12人。
「我も行くぞ……!」
突然メヌエラがパオの肩から自立すると、フラフラとしながらもロロアのもとへ歩いてきた。
「メヌエラ、でもアンタは……」
「アクラディ・アウス・レグヌムは我らのたった一つの故郷……この手で守りたい! 頼む……!」
メヌエラが身体を震わせながらロロアに懇願する。あれほどの脅威を目にしたとはいえ、逃げ帰ってきてしまったことへの罪悪感を振り払うことと、一世一代のこの防衛線に何が何でも尽力したいという強い意志がそこにはあった。
「……ミカミさん。ワクチンを完成させる前に、まずはメヌエラ達の狂竜症をできる限り早く治療してくれ。私たちにワクチンを支給するのはその後でいいから……」
「それだと、あなた方に対狂竜化モンスターの兵器を提供できるのは早くとも数日かかることになりますが」
「……できる限り早くでいい」
メヌエラが膝をついた。体力を使い切ったのか床に倒れかかるが横からパオが支えに戻り、彼は再び医療室へ運ばれていった。
「ゴア・マガラと例のイャンガルルガ――そうですね、では生命の極みに限りなく近づいた、『極限状態』とでも名付けましょうか――の狩猟。最優先事項はこの二つ。狂竜症の症状から言って、あのイャンガルルガが樹海の生態を破壊し尽くし、このアクラディ・アウス・レグヌムに現れるのも時間の問題でしょう。早急に作戦を立てて、これを実行する必要があります。セルゲイ、指揮をお願いします」
「まず、イャンガルルガの狩猟には俺たちが向かうことにしよう。チームを交代しながら戦って時間を稼ぐ。メヌエラ達が復帰しだい、彼らをゴア・マガラの討伐に向かわせる。スカルボは両チームの伝令だ。残りは周囲の狂竜化モンスターへの対応を任せる……お前たち、やってくれるな?」
セルゲイが珍しく他人を脅すような睨みをきかせたので、オドオドとしていた残りの調査隊のハンターたちもしぶしぶ首を縦に振った。
「私たちはいかようにするか、セルゲイ殿?」
セルゲイに問いかけたのはアクラディ・アウス・レグヌムのハンター。トカとフウガであった。
「お前たちにはリゴドーンとともにここの警備を任せたい。アクラのハンターの実力、信じているぞ」
「うむ、任された」
「そうそう、私たち守ることにかけては天才だからね!」
「えぇ、僕も?」
「リゴドーン、お前もだ。この調査隊に志願してきた以上一蓮托生、お前が何を企んでいるのかはミナガルデに帰った後でこってり絞ってやるから覚悟しておけ」
「……へぇーい」
「アクラディ・アウス・レグヌムの第二次防衛作戦を始める。スカルボの偵察が完了次第、すぐにハンターたちを向かわせるぞ! いいな?」
人種を超えて、職業も地位も超えた多色の声がギルドホールに響き渡った。人間とモンスターの戦いが再び始まる。
***
「僕に何か用かい?」
「……」
一度それぞれが持ち場に着くための準備を始めたころ、ギルドホールの隅っこで一人佇んでいたリゴドーンのところへエンプティが歩いてきた。
『お前は俺の正体を知っているはずだ。なのにここまで頑なに教えようとしないのは一体なぜだ?』
「んー? ごめん、俺手話ほとんど分からないんだ」
分かっているくせに――エンプティはイライラしながらも彼なりに精一杯分かり易いスピードで声をだしてみた。だが、やはり彼の理解に及ぶ言葉を発することはできなかった。
「……ホントに知りたい?」
リゴドーンの言葉に首を縦に振るエンプティ。少し考えた挙句、リゴドーンはポケットから紙切れを出してエンプティに差し出した。アクラディ・アウス・レグヌムのギルドホール、つまりはこの場所の簡単なマップが書かれていて、その隅に星印でしるされている場所があった。
「そこは君の、かつてのクープランが通っていた場所さ。行って、その目で確かめてくるといいよ。君の数奇な運命をね……ああでも、この戦いが終わってからの方がいいかな? これを見てしまった後でも、君の中のもう一人のクープランが正常でいられるかどうか僕には自信が無いからねぇ」
またしてもリゴドーンは不穏な言葉を残すのみであった。――やはり食えない。危険な奴だ――あらかじめマップまで用意して、このタイミングで渡すか。ここで渡されてしまっては今確認するしかチャンスはない。最初からこのタイミングでこの男は自分に元の記憶を与えるつもりだったのだろう。エンプティはこれまでのリゴドーンの態度からそのすべてを疑ってかかっていた。
そもそもこの男の狙いは何なのだろうか? 秘境の存在を知っていたにも関わらず、調査隊では何も知らないという風を装い、正体が明かされたとたん豹変しこんなに周囲の和を乱そうとして何が面白いのだろう? 自身の命でさえ危険にさらすことになることをこの男が理解していないはずはない。仮にここで全滅という結末を迎えたとしてなおも、この男には奥の手があるとでもいうのだろうか?
「あんまり疑う前にさ、まずは踏み込んでみないと分からないこともあると思うよ。『本などという狭い世界に生き続けるつもりか、君は?』」
アクラディ・アウス・レグヌムの街並みを見ても、旧知であるメヌエラや他の人間の顔を見ても、それまで全く思い出す気配のなかった空っぽの男の中で、突然その言葉は落雷のように衝撃を走らせた。水が蒸発したかのように、彼のわずかな数年間の記憶が突然何十年、何百年と言う膨大な要領に膨れ上がり、その氾濫に思わずエンプティは立ちくらみを起こして、その場に尻もちをついた。
その言葉はかつてクープランの発した言葉に間違いなかった。記憶の中で彼は一人の少年に向かってそう語りかけた記憶があった。確かにその記憶は映像のように彼の頭に残っている。
同時にクープランの中でまた一つ別の疑念が浮かび上がった。このような他愛もないと思われる言葉によってなぜ自分は記憶を取り戻しつつある? この言葉が自分にとって一体どのような意味がある?
彼が立ちくらみでしばらく動けないでいると、リゴドーンはまた一人でどこかへ向かって去って行ってしまった。去り際に「残りのピースはその場所にある」とつぶやいた。
「戦術弩の調子はいかがかな、軍師殿?」
「ああ、異常はなさそうだ。それにしても、面白い武器だなこれは? ライトでもヘビィでもない、第三のボウガンか」
大理石の床いっぱいに広げられた真っ黒な部品の数々。ロロアはその部品の一つ一つを丁寧に磨いていた。周りの人間にはこれが武器だとは見えないだろうが、これこそがムラマサの考案した新しい武器種『戦術弩』である。
「パーツを分解、組み立てることで様々な状況に適応した戦闘に特化できるボウガン。これが戦術弩のコンセプトでござる。基本的にボウガンというのは武器によって得意な弾丸が決まっている。これはその工程を自分で改造することで好きにカスタマイズできる。遠くの敵には貫通弾、群れを相手にするには散弾、機動力が欲しい時はライトボウガン、破壊力が欲しい時はヘビィボウガン……状況判断に優れたロロア殿にはうってつけのボウガンであるな」
「武器の加工過程をハンターにも操れるほど簡単にして、戦闘中に好きに弄れるようにしたのはまさしくあんたの技術の賜物だ。『ハンターが武器を加工する』なんて私には考えてもみなかったぜ」
そういいながらロロアがパーツの一つを手に取った。ブロック式になっていて、ボタンを押しながら引っ張ると、ジョイントが出たり引っ込んだりする。全てワンタッチで操作できるようになっている。
「で、でもものすごいパーツの数ですわね……これを組み立てる手順はどのようにして?」
「それはその……今の所覚えるしかないのでござる。オートマティックに動かすにはまだ拙者の技術力は足りないのでござる」
ヴェロニカが横槍を入れると、ムラマサは痛いところをつかれたと顔を顰めた。だが、この発言によりますますヴェロニカは目を見開き、驚いてロロアを見た。
「も、もしかして、組み立て方をもう覚えたんですの?」
「いや全く、軍師殿は生まれながらの天才でござるよ。ぜひとも拙者の新武器テスターとしてこれからも……」
ムラマサの発言は最後まで聞こえず、ギルドホールにはヴェロニカの驚嘆の声が響いた。
「だ、だって、見たところパーツは100種類近くあるじゃない! 似たようなのも多いし! 100種類のパーツを組み立てるとなると……えーと」
組み立て方にどれほどの数が存在するのだろうか、計算しようとしてヴェロニカは途中でやめてしまった。概算でも天文学的数字になることは間違いないことは十分にわかる。
「似てるけど、みんな違うぞ。見た目でなんとなくこれがここに来るとかも分かり易いしな。たとえばこれは貫通弾の弾倉を拡張するためのパーツで、こっちは散弾用。ほら、散弾は炸裂した鉄片がうまく広がるように銃口に続くにつれて細かい溝が……なあ、どうせならバレルや弾倉パーツごとに色分けしたら分かり易いんじゃないか?」
「納刀時はファンシーな見た目になりそうだが、……うむ、採用」
「それを、戦闘中に……?」
信じられないといった顔でヴェロニカはロロアの顔を見た。もしムラマサが自分に組み立て式のハンマーなど渡そうものなら、三日もたたず装備品ボックスの肥やしになっていることだろう。
「今この武器を扱えるのは、間違いなくただ一人でござろうな。軍師にはぴったりのボウガンであるよ」
「いやーこれでも出発三日前、ミナガルデで渡されてビックリしたよ。さぞイカしたデザインのボウガンがくるかと思ったのに、黒い箱と分厚いマニュアルを渡されて何が何だかって感じだった!」
豪快に笑うロロア。それに便乗しようとしたムラマサとロロアも、彼女の才能に半ば苦笑い気味で応答する。この女はどこまで進んでいくのだろう。そもそもこれほどの困難な武器を提案したのはムラマサであったが、実践で早くも使いこなしている様を目撃しただけに一般的な武器種というものを誤解してしまいそうなほどに。
ギルドナイツ技術班の顔を持つムラマサ、彼の考案した二人のための新たな力のもう一つ。それがこの戦術弩と呼ばれる「第三のボウガン」である。立体パズルのような見た目のそれを戦闘中に改造、分解していくことで扱う弾丸、威力と重量、戦闘スタイルをこれ一丁で変化させながら戦う。まさに臨機応変に戦術を考えるガンナーにとってうってつけの武器である。難点と言えば、パーツを組み立てるのはハンター自身であり、その組み合わせを覚えなければならないということか。
「以前、軍師殿はこれこそが、あのイャンガルルガに対抗するための秘策と申していたな?」
「ああ。そもそもアクラ地方のハンター達というのは無暗に殺生を行う連中じゃないんだ。生態系の管理と領土の防衛のために、最低限の殺生しか行わない。それをモンスターも理解していて、彼らひとつひとつの個体が幾度となく人間と戦っている。あのジンオウガとの戦闘で理解した。野生のモンスターが人間の太刀筋を見切るなんていくらなんでもありえない話だろう? おそらくあのジンオウガも、イャンガルルガも人間と戦い慣れているんだよ。人間と戦うことで、彼らを効率的に追い詰める技を手に入れ進化していったんだ。残弾数を覚えるようになったのも、メヌエラとの戦闘が過去にあってこそというわけさ」
パーツを磨き上げると、またさらに別のパーツを手に取るロロア。説明を続けながらも、それらを我が子のように愛するまなざしで手入れを行う。
「美しい関係だよな。彼らこそ真のモンスターハンターと思わないか? ああいう存在に私はずっと憧れていた……」
「美しい……ですか。私はもともと、お金稼ぎのためにハンターを志した身。そのあたりの感覚がいまだによく分かりませんが」
「拙者は武器職人として、モンスターと人の織り成す芸術というものを何度も目にしている。それはいわばモンスターと人間の信頼関係のようなものだと拙者は感じている」
「信頼関係? モンスターと?」
驚いてロロアはムラマサの方を見た。
「もちろんモンスターなどそんなこと分かっているはずはござらん。だが、結果的にこうしてアクラディ・アウス・レグヌムの地はこれほどの強敵がひしめく樹海で、長年その歴史と領土を守り続けてきている。それはひとえに、お互いに干渉しすぎない絶妙なバランスで、共に生態系の維持に尽力しているからなのではないだろうか?」
「ここでは『モンスターもまた、モンスターハンター』ってことね……この都はまさに自然と共に生きるを体現した場所という訳か」
それ以上三人は何も言わず、このギルドホールに流れる時間を眺めた。これまで多くのハンターたちのドラマが、ここでもあったに違いない。多くのモンスターとの因縁が生まれていたに違いない。人間同士の争いさえもあったかもしれない。唯一ミナガルデのそれと異なるのは、ここがミナガルデよりもより単純な意味合いでできているということぐらいだろうか。すなわち狩るか、狩られるか。ギルドナイツもない、書士隊も学術院も、まどろっこしいものは一切取り除かれたこの地。あるのは己の力と知恵のみ、弱肉強食の色濃いシンプルな大地。取り戻したいと彼らは思った。
「パスカルにも提案したが、『今回の調査において、目ぼしいものは見つからなかった』と国王に報告するつもりだ」
「……賛成ですわ」
「ここは、誰の力も届かない聖域でござる。野暮なことはできまいて」
アクラディ・アウス・レグヌムの一日がまた、終わろうとしていた。
***
「古き良き伝統、それも良いことでしょう。現に、私の知らないものもここにはたくさんある。だが、時代と言うものは不可逆だ。いつまでも風習にとらわれた帰納的な手法ではなく、理論を先に論ずることもまた学んでいただきたい。竜人というのはもう少し地に足着いた考えをするものだと思っていたのに……」
「相変わらず言葉に毒があるなあミカミ殿は……しかし、たまげたよ。毒を持って毒を制すとはまさにこのこと」
「うまいこと言っている余裕があるなら、もうベッドから引きずりおろして大丈夫なようですね。この地の植物の効能と生息地について詳しくお尋ねしたい。それから今から並べるのは狂竜ウイルスから分離して新たに発見された未知の物質の数々、分かるものだけでいいのでご教授願いたい」
「今しがたウイルスの危機を脱した我にその元凶を再び見せつけるとは……いやはや恐るべしシュレイド」
「なんだかんだ言って、お前たち結構仲がいいじゃないか……」
フォルランの狂竜症が夜になって危機を脱していた。小康状態を保っているが、まだ体を動かすに十分な体力はない。病室ではフォルランがベッドに横たわっていて、その脇にパトリックとミカミが立っていた。彼女が目を覚ますや否やミカミは飛ぶように病室へ現れて、矢継ぎ早に研究の協力を申し出ていた。
「もう少しこいつを休ませてやれんのかミカミさんよう?」
「ことは一刻を争う事態です。こうしている間にもあの極限状態イャンガルルガは攻撃行動を繰り返して狂竜症を我が物にしつつある。あなたもこの地を守りたいと思うのなら、ドクターストップなど気にしている場合ではないはず」
「ふむ、ミカミ殿の言うことは一理ある。あやつが樹海の生態系を破壊尽くした後、ここに現れるのも時間の問題であるよ。ならば我も戦って果てる道を選ぶしかあるまい」
「え、縁起でもないことを言うな! 俺だって死にたくねえよ……」
「私も、学術院でやり残した研究があります。ウチケシの実の20の効能が、この調査で21になった」
パトリックとミカミは互いに見つめ合い、やがて右手でハイタッチする。
「研究の事になると、周りの事が構っていられない。これこそ研究者だな」
「あなたは医学専門ですがね。まあ人間を機械に見立て、部品を弄っていくと考えれば医学もまた科学と言えるでしょうか」
「患者の前で言っていいセリフでないことは、いくらなんでも我にも分かるぞ!」
ため息をつきながらも、フォルランはさっそくベッドから上体のみ起こし、ミカミの提出した小瓶の数々に目を通した。鱗粉は非常に細かいのでそれらは液体に溶かしてあったり、着色されていたりと色もさまざまである。続いてマスクを受け取ってその小瓶の中身を慎重に取り出して顕微鏡でのぞき始める。
「抗竜石と言ったか? なぜ数日かかると?」
フォルランが無心になって顕微鏡をのぞいている間、パトリックは小声ででミカミに耳打ちした。
「フォルラン氏の回復は予測より格段に早かった。竜人の体力というものはすさまじいですね。わずか7人のハンターでこれほど広大な土地を守護していたのも納得です。おかげで数日と言わず、明日には完成できるかもしれない。思わぬ協力者もいたことだし」
「思わぬ協力者?」
「リゴドーンですよ」
ミカミの口からその人物の名が出たとき、パトリックもフォルランも動きを止めてミカミの方を見た。
「なるほど……未知の物質と言っておきながら、ここまで細かく試薬で分離されていたのはあやつの入れ知恵か」
納得したといった様子でフォルランは呟いた。
「聞けばリゴドーンもここでは研究者の顔もあったと。彼の手さばきと考察は称賛に値する。なぜアクラディ・アウス・レグヌムを去ったのでしょうか?」
ミカミの問いかけにフォルランは何も答えなかった。
「まあ、お前たちに何があったかはこの際どうでもいいけどよ。お前たちの仲間はあれを『逆賊』と言っていたじゃねぇか。きっととてつもない何かがあったってことだろう?」
「うむ、まあそんなところだ……とにかくあいつは今のところ我らに危害を与えるつもりもないようだし……状況を楽しんでいるという点以外は」
「どうしても言いたくねえならそれで構わない。俺は藪をつつかない主義なんでな。命知らずの妹と違って」
「あんなに溺愛しているのに?」
ミカミは知っていた。彼がこの調査隊に志願した理由が妹を守るためだと。
「そりゃあな」
何の恥ずかしげもなくパトリックは即答した。
「その割にはベタベタしないのだな?」
不思議そうにフォルランが尋ねると
「…なんていうかよう。この調査が始まってからアリスがますます遠くへ行ってしまったような気がするんだ。お兄ちゃんはそれが悲しくてなあ、いい加減妹離れをせにゃならんのかと思い始めてきたってわけよ?」
と、パトリックは遠い目をして答える。
「この際エドワード・トロイトに譲ってしまえばよいのでは?」と、これはミカミ。
「いや、あいつだけはだめだ」
と、彼は即答した。
「んん? どういうことだ……あまり聞いてほしくないなら追及しないが?」
「そうだな。そうしてもらえると助かる。ああ、思い出しただけでムカムカしてきたぜ。俺は先に行ってるぜ」
パトリックにしては珍しく感情的な態度だと、ミカミは感じ取る。
(家族の話題はNGだったのか……今後の友好関係のために覚えておこう)
彼女もまた、この環境の中で人を信頼することを気にし始めていた。
「……うむ。これらの物質は全て我には分かるぞ。どれも複雑な構造だが、概ね自然界に存在するものばかりだ。こっちの赤いのが……」
「それは良かった。対策のしがいがあるというものです」
鉄面皮に思われた彼女の顔が自然とほころんでいることに、フォルランに指摘されてうつむくまで残り数分。
***
翌朝、バークレー・ミカミはフォルランの研究室のデスクで目を覚ます。壁にかけられた時計に目をやり、そろそろ起きるかと目をこすり、頭を掻いていると周囲の状況を目にして驚いた。慌てて立ち上がると、彼女の膝をいつの間にか枕にしていたフォルランの頭が床に打ち付けられて彼女も激痛と共に朝を迎えた。
「て、てて敵襲か!? うわっ痛い! なんだ、どこから……?」
フォルランも慌てて飛び起きるとデスクの実験器具を手に取って周囲を警戒しだす。
「素が出ていますよフォルラン」
「……あーうむ、ところでどうしてこんなに暗いのだ?」
ミカミに指摘されたところでフォルランも落ち着きを取り戻し、二人は研究室の様子を見て驚いた。夜盗があったわけでもなく、部屋を荒らされたわけでもなく、時分にしては部屋が暗い。
「この時期でもすでに朝日の登る時間帯だ。曇り空かもしれんな……」
「ただの曇りではなさそうですよ。あれを見てください」
研究室の窓を開けて、空を指さすミカミ。あたりを覆っていたのは黒い雲。
「あれが雷雲であったのならどれほどマシだったろうか……それでは、すぐそこまで来ているというわけか」
禍々しい瘴気を帯びた黒い雲がアクラディ・アウス・レグヌムの空に広がりつつある。
「急ぎましょう。私はギルドホールに赴いてハンター達の召集を」
「我はいつでも出撃できるよう、ワクチンの準備を進めておく」
数十分後、多くの人間がギルドホールに集まっていた。ハンターや書士隊の多くは既に出撃の準備が整っているらしく、不安に曇らせた顔や覚悟に満ちた顔などそれぞれ多様な姿を見せている。誰一人として、絶対に安全なものなどいない。だからこそ、みんなに等しく戦う価値があるのかもしれない。群衆の中心で、セルゲイとフォルラン、ミカミの三人が作戦の説明を伝えていく。
「最優先事項はゴア・マガラと極限状態イャンガルルガの狩猟。二頭の狩猟は同時に行う故、アクラディ・アウス・レグヌムのハンター達がゴア・マガラを、調査隊のハンターがイャンガルルガを相手にする。スカルボの報告によればゴア・マガラはイャンガルルガの猛攻を受けて手負いの状態とある。ゴア・マガラの討伐が完了次第、彼らにも援護に向かってもらいたい」
「王立書士隊と残りの調査隊ハンターで、抗竜石の素材集めを行ってもらいます。こちらも狂竜化モンスターを相手にすることでしょう。抗竜石の力があれば、イャンガルルガの狂竜症を鎮静化できるかもしれない」
「抗竜石の研究素材収集は我が指揮を執るが、ゴア・マガラの動向がつき次第後任をリゴドーンに任せる」
フォルランの発言の最後でざわめきが広がる。
「リゴドーンに任せるだと?」
「あんな何考えてるか分からん奴に任せるなんて……どういうつもりだ?」
ざわめきの中、リゴドーンはやはり調子はずれな声で「了解」と短く答えた。答えた後で、
「いいのかいフォルラン……?」と尋ねるが、
「我らが全滅して困るのはお前も同じだろうリゴドーン。ならば利用させてもらう。仮にもアクラのハンターの一人、その実力は我が保証する」と、フォルランは肯定した。
未だ、調査隊の中では彼を不審がる人間の声があったが、「まあ、そういうことなら引き受けてあげるか!」リゴドーンは了承する。
続いてセルゲイが前に立つと、ギルドマスターに紙を手渡す。しわがれた声でギルドマスターが声を張り上げる。
「これから作戦に出撃を志願したハンターの名前を読み上げる。もう一度考えよ。辞退しても構わん。引き止めるつもりはないし、臆病者だとも思わない。ワシらはこの読み上げられた勇気ある狩人達の名を永遠に誇りに思うことにしよう……」
名前はゆっくりと静かに読み上げられた。
「アリス・オット、ドルコン・デネザ、エドワード・トロイト、エリフ・キュージ、ファティマ・モーセフザイ、ガロッキア・バールストン、カスチェイ・デ・キリコ、セルゲイ・ゴールウェイ、ロロア・ロレンス、ヴェロニカ・ガヴェッタ、ザトー・ムラマサ……それから我がアクラの誇る友、リュード、フウガ、フォルラン、リゴドーン、メヌエラ、トカ、スカルボ、クープラン……」
「ちょっと待って、ギルドマスターさん。クープランじゃなくて、エンプティさ。こいつにはもうここでの記憶が……」
エドワードが反論しようとするが、それをエンプティが制した。
「……」
『クープランでもエンプティでも構わない。名前などただの飾り。本物の俺はここにいる』
ゆっくりと、手の動きでそう答えた。
「そう……? それじゃあ、まあいいか! ギルドマスターさん、なんでもないよ」
「ギルドマスターになんと無礼な……」
「まあまあメヌエラよ、おさえて……今度こそ決着をつけに行こう」
メヌエラとフォルラン、リュードもまた決意を新たにしていた。ギルドマスターが自分たちのことを「友」と呼ぶのは、決まって重大な案件の時であるから、自然と気が引き締まるものなのだ。
「さっそく私たちは抗竜石の準備を始めます。その前にセルゲイ、これを……」
「これがワクチンか」
ミカミは持ってきた袋から細長い筒状の注射器を12本取り出してセルゲイに渡した。
「驚いたな。もう出来上がっていたとは……」
「刺突感によって服用者を判別するのでモンスター、人間どちらに対しても適切な分量を注入する機能があります。一人一回まで。現段階では狂竜ウイルスの発症を抑える薬はまだ作れません、これは進行スピードを遅らせるだけ。あくまで気休めということをお忘れなく」
「分かっている。俺たちはお前の抗竜石が出来上がるのを待つだけだ。頼んだぞ」
「必ずや、完成させて持っていきます……書士隊のみなさんはこちらへ!」
彼女が声を張り上げると、紫色のローブをまとった人間と残りの調査隊ハンター達が集まる。
「これからいう素材をできる限りかき集めてここへ持ってくるように。ただし狂竜化したモンスターに出くわしたら、すぐに逃げること。誇りを惜しんでいられるほど優しい相手ではないことはこれまでの犠牲者が語っている」
「怪我をしたら俺んとこへ来い。ウイルスだろうがなんだろうが助けてやる。生きてる限りはな」
パスカルをはじめ、書士隊の人間たちも大きくうなずき、それぞれ準備に取り掛かった。
「ようーしお前ら、準備はいいか? 動け!!」
戦いは最終局面を迎えようとしていた。
極限状態と狂竜ウイルスという設定を調べていた時から、こいつとイャンガルルガの組み合わせを考えていました。もうね、イャンガルルガが大好き。なぜイャンガルルガには極限状態がなかったんだろう。こいつらバンバン克服しそうな戦闘マニアなのにね。まあメタい話おそらく極限個体でもっともクソな感じになっただろうから、ゲームに出てこなかったのは逆に安心か。
極限状態については賛否両論あると思いますが、私は設定自体は面白いと思っています。ゲームは本当に色々残念だった。なので私なりに独自解釈で極限状態を表現するつもりです。こういうのも二次創作の良い点かな。
三章も残すところ三話の予定です。ようやく予定しているプロットの半分が終わることに…なんかもう疲れたorz クロスに夢中になる前にどんどん書き溜めねば。
~ 元ギルドナイツ技術班 ムラマサ手記より ~
コンセプトは『変幻自在のボウガン』ライトボウガン、ヘビィボウガンにはそれぞれ作製に使われる素材や構造によって得意とする戦い方が異なる。故に一挺で同時に多くのモンスターと対峙するのは容易ではない。
そこで加工、改造の段階からハンターに任せてしまい、戦況に応じたボウガンをその場でカスタマイズしてしまうのが『戦術弩』である。これにより一挺のボウガンで様々な戦闘スタイルを実現可能となる。従来のライトボウガン、ヘビィボウガンとしての携行はもちろん、拳銃サイズに分解したり、地面に設置して固定砲台としても利用できる。現在可能なのは通常弾型、貫通弾型、散弾型、伏兵型。
難点は数あるパーツを戦闘中に素早くカスタマイズしていく超人的な集中力が必要とされること。が、ボウガンの構造を理解している人間であれば、パーツの判別等は完成後のイメージを頼りに意外と簡単に改造を行うことができる。特許取得(予定)ザトー・ムラマサ。今後の課題として使用者の敷居を低くすべくオートマ化が求められる。
テスター、ロロア・ロレンス。ギルドの十分なサポートの無い樹海。複数のモンスターを連続で相手にする可能性を想定したこの樹海の調査で、彼女は戦術弩の他にもタンクメイジや妃竜砲を使い分けることで適応していた。しかし、先の狂竜化ナルガクルガ戦において伏兵型を使用。素早いモンスターを追うのではなく、照準に飛び込んだところを攻撃するという発想でみごと敵を追い詰める。ナルガクルガもまた冷静さに欠けており、今回の戦闘で『戦術弩』の力が十分に発揮されたとは言えず、さらなる観察が必要。なお拙者の趣味で武器全体と黒く染め上げたが、彼女の提案によりパーツを色分けすることを採用。
~ 医療班パトリック・オット 過去の研究データより ~
大陸北部において、フラヒヤ山脈などを中心に流行病のようなものが蔓延していた。発病すると文字通り顔が真っ赤になるなどの症状から、フラヒヤに生息する雪獅子ドドブランゴから名をとり「ブランゴ風邪」と現地では呼ばれていた。治療法は従来の風邪とほぼ同じ投薬であるが、患者によっては鎮静化後も顔の赤みが残るケースがあるようだ。
似たような命名の経緯をもつ流行病に「コンガ炎」と呼ばれる皮膚病がある。これらは密林で蔓延する可能性があり、文字通りババコンガのように額から鼻先に欠けて真っ赤に腫れ上がり、高熱にうなされる等の症状が確認される。こちらは投薬ではなく軟膏による治療が行われる。患者によっては鎮静化後も排泄物が異常に臭くなるなどのケースもあるようだ。できればかかりたくない。
両者はしばしばひとまとめとしてハンターや王立書士隊員の間でも話題に上がるが、その原因は大きく異なる。ブランゴ風邪がウイルスによるものにたいして、コンガ炎は極小さな虫そのものが体内に入ることでアレルギー反応を引き起こす。なぜこのような誤解が生まれたかといえば、ブランゴもコンガも同じ牙獣種に分類されており、旧大陸ではなじみのあるコンビとして見られているために、病名も一緒くたにまとめられてしまっているからと推測される。