ヴェロニカ・ガヴェッタはその日、大地の結晶や太古の塊を採掘するために火山へ向かい、仲間と別れを告げて、そのまままっすぐマイルームへ帰ろうとしていた。
クーラードリンクが暑さを和らげてくれるとはいえ、上下左右から充てられる熱気に今日も大量の汗をかき、彼女は一刻も早くシャワーを浴びようと、くたびれた両足に鞭打つように、歩みを早めようとして、やっぱり目に止まってしまったギルドストアの、『週刊・狩りに生きる』の見出しに目を奪われて、溜まったカブレライト鉱石の売却金の中から捻出して、今日も一冊購入してしまった。
無駄遣いはしたくないと思いつつも、やはり買ってしまう。この雑誌はハンターズギルドが編集しており、ハンターにとっても役立つ情報が大量につめ込まれていて、魅力的な雑誌であることは誰もが認めていた。中でも彼女のお気に入りの特集が長い沈黙破って久しぶりに登場していたようで、表紙に大きく書かれたその煽り文句は彼女の購買意欲を一気に焚きつけた。
「銀の村の恐るべき真実……?」
表紙をかざるギュスターヴ・ロンの写真、そこに覆いかぶさるように書かれた銀色のロゴが陽の光を受けてきらびやかに輝く。
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~ 第10回 銀の村の恐るべき真実! ハリー特派員レポート ~
今回で10回目となる古代文明特集。王立学術院の上級書記官ハリー・ルブラン氏の手掛ける本コラムでは、毎回古代文明の存在を様々な遺跡やアーティファクトから紹介している。中でも今回ルブラン氏が発見したそれは、未だかつてない謎の芸術作品についてである。過酷な凍土にひっそりとたたずむ銀の村の存在、そしてその恐るべき真相について語るとしよう。
※ハリー・ルブラン上級書記官(ハリ)
王立学術院に勤めながら、トレジャーハンターとしての一面も持ち合わせる行動派の上級書記官。度々フィールドワークに赴いては、我々に夢と浪漫のつまった古代遺跡の美しさについて語ってくれる。今回は新大陸の北方まで脚を運んでいた模様。
※ニムロデ・ハイム(ニム)
『週刊 仮に生きる』特派員。本コラムの司会進行を詰める。アーティファクトや古代文明には目がない。
○凍土の奥深くで不気味に佇む銀色の村!?
ニム:さっそくですが、ハリー特派員。前回の特集からかなり期間が空いてしまいましたが、今回は新大陸まで脚を運んでいたそうですね?
ハリ:その通りです。今回も、そんな古代文明を愛してやまない読者の皆さんにも納得していただけるような極上のミステリーを発見いたしました。
ニム:ミステリーですか! これは期待ですね!
ハリ:ええ、本当にミステリーでした。恐ろしくも美しい狂気の芸術……とでも言いましょうか、それに気がついた時は本当に鳥肌がとまらなくて、ホットドリンクの効果が急に覚めたかのような気分でした。そして慌てて逃げ帰ったのです(笑)
ニム:あ、慌てて逃げ帰った? 今回は何やら恐ろしい予感がしますね。それではまず、用意していただいた写真を見せていただきましょう。はい、こちらですね……えっ!?(写真を見てニムロッド特派員、反応に困り空いた口がふさがらない)
ハリ:(笑)やっぱり期待通りの反応をしてくれましたね。この写真、決してジオラマではありませんよ。原寸大の村落の遺跡なんです。
ニム:ひとつ質問してもいいですか?
ハリ:どうぞ。
ニム:どうして写真全体が銀色なんでしょうか? 光量の関係ですか?
ハリ:これはありのままの写真です(笑)この村落は一面が銀で塗られていたのです。
ニム:そ、それはすごい! もう一度聞きますけど原寸大なんですね?
ハリ:原寸大です。ほら、その証拠に私の弟子がしかめっ面して村の入口に立っているでしょう?(笑)
ニム:ほ、ホントだ! ではこれは村落を模した銀細工の芸術品ということになるのでしょうか。それにしてもよく作りこまれていますねぇ……本物の村のように思えて非常に不気味です。
ハリ:新大陸の北方、氷に覆われた大地に広がっていた光景でした。これを発見した時は研究室のメンバー一同しばらく呆然としていましたね。また非常に好奇心がくすぐられるものでした。なぜこのようなものが造られたのか? 当初の我々にはまるで見当もつきませんでした。
ニム:しかしこれは生で見たら迫力も凄そうだなぁ。一面銀で造られた村落ですか。規模はどの程度だったのでしょうか?
ハリ:それが驚くことにとても広いんですよ。下手をすればドンドルマぐらいの敷地面積がありますよ、これ。
ニム:む、村というよりはほぼ街じゃないですか。その規模の村をすべて銀で作るとしたら……一体どれほどの銀を使うことになるのでしょうか……?
ハリ:莫大なコストがかかることは言うまでもありません。その後の調査で屋内など、細かい部分で銀が塗られていないことも明らかになりましたが、それにしてもこの規模を覆い尽くすほどの銀を使ったとなるとかなり強大な国家がかつてここに存在していたのでは? というのが我々の当初の仮説でした。
○調査を経て得られた手がかりとは……
ニム:当初……ということは、実はそうでもない可能性があったということですか?
ハリ:さきほども言ったように、芸術作品にしては銀の塗り残しが甘いんですよ。家屋の屋根や壁の外側はほぼきっちり銀で覆われているのに、その屋内には銀が塗られていない部分が多く発見されたんです。むしろ外装に塗られていた銀の塗装が剥げて屋内に流れてきたという方が自然かもしれません。
ニム:さすがに内装まで銀で飾る経済力がなかっただけなのでは?
ハリ:もちろんその可能性も考えました。しかしそれにしては辻褄の合わない点もあるんですよ。
ニム:辻褄が合わないというのは?
ハリ:内装に手を抜いているかと思えば、水道設備のような物が一軒一軒しっかり張り巡らされていることが明らかになったのです。それも地下水道ですよ。普通我々みたいに硬い銀を溶かしながら調査するなんて面倒なことでもしないかぎり、誰にもわからないような部分に力を入れてるなんて妙な話だとは思いませんか?
ニム:確かに、家屋の方を雑に塗っていながらわざわざ見えない水道まで地下に作っているというのはおかしな話です。
ハリ:さらにおかしな点が存在します。実は村中のいたるところで村人をかたどったと思われる銀の像が何百人と立っているのですが……
ニム:えっ! 村人まで銀で造られているんですか?
ハリ:本当に不気味でしょうこの遺跡? それもかなりリアルに作りこまれていましてね、服や肌のシワにいたるまで丁寧に作りこまれているんですよ……。
ニム:う、うわあ。恐ろしい技術力ですね。それでその村人像がどうしたのですか?
ハリ:かなりリアルだということは我々の中でも話題になったのですが、その中で助手が面白いことを言い出したんです。「全員が同じ方向を向いている」と。
ニム:同じ方向を?
ハリ:それから我々は今度は村中に立っている像ひとつひとつに焦点を当てて調べることにしてみました。像の視線、体の向き、表情を一体ずつ細かく……ね。
ニム:根気のいる作業だったでしょう。しかしその助手君の目の付け所も面白いですね。
ハリ:彼は期待の新人ですよ。そして恐ろしい仮説に行き届いたのです。
ニム:おっ……なんだかドキドキしてきましたねぇ。どのような結果が……?
ハリ:結論から言うと、長い年月の中で倒れてしまったり、一部例外はありましたが同じ方向を向いていました。そして表情もまた全員が驚きや恐怖と言った表情を浮かべているという結果に。
ニム:……ねぇ、ハリーさん。私ちょっと嫌な予感がしてきましたよ。
ハリ:さすがはこのコーナー担当のニムロデさん。もうだいたい冊子がついたという読者の方もいらっしゃるかもしれませんね。
○鏡地獄変と謎の古龍の存在?
ハリ:ここまででだいぶ嫌な予感がしていたのですが、我々はいよいよもってこの像の成分をしっかり調べることにしたのです。一体から成分を拝借して。そして……失礼ですが体の一部を切断、採取して調べようとしました。
ニム:……それではやっぱり?
ハリ:ええ。恐ろしくて震えがしばらく止まりませんでしたよ。銀像の正体……それは液体金属で塗り固められた本物の人間でした。
ニム:やっぱり……恐ろしい。狂っている!
ハリ:全く悪趣味な芸術です。本物の人間を水銀で押し固めてしまえば、そりゃあリアルな像ができるわけです。ところで人間が水銀に包まれるとどうなるか知っていますか?
ニム:水銀って物によっては吸い込むと猛毒でしたよね。皮膚にも異常をきたすこともあるようですし……。
ハリ:もし生きた人間を水銀で固めようものなら耐えがたい猛毒と、水銀の密度に押し潰されることになるでしょう。村人の平均身長が新大陸人に比べてかなり小さいことも当初疑問に上がっていましたが、押し固められていたようです。
ニム:考えただけでも背筋が凍りそうです……!! そんな恐ろしい文明、滅んで正解ですよ!
ハリ:(笑)問題はなぜ村がまるまる一つ、このような状態で残っているかという点です。先程も述べたように水道設備が敷かれていたり、一部の屋内では氷漬けの食材や糞尿なども発見されていることから、この村が実際に生活の拠点として使われていたということは間違いないはずなんです。
ニム:その文明の指導者が村落を液体金属で粛清したとか?
ハリ:もっと現実的な原因を考えるとするならば、古龍のしわざではないかと考えています。
ニム:古龍? 古龍種が液体金属を?
ハリ:はい。実は採取した銀の中から古龍の血液に非常に似た成分を発見したのです。人物の視線が上空に集中していることからも、村が水銀で覆い尽くされる瞬間村人たちは空を見ていたということがわかります。つまり空にいた何かが村を水銀で覆い尽くしたという事になります。
ニム:お、恐ろしい。そんな古龍種がミナガルデに現れたらと思うと……。
○銀の村の真実
ハリ:すっかりしおらしくなりましたねニムロデさん(笑)
ニム:我々には想像もつかないような世界です。古龍種、恐るべし……。
ハリ:結論ですが、この村の正体は古龍によって一瞬で水銀に覆い尽くされた死の大地だった、という事になります。美しくも狂気を秘めたこの悲劇の産物を「銀の村の伝説」と名付けることにしました。また王立学術院では今後、この液体金属を扱う古龍種の存在についても各地の文献や資料などからアプローチしていくこととなりました。
ニム:美しい銀世界で見つけたのは、旧文明の悲劇の瞬間を何百何千年と残した産物だったというわけですね。いやぁよく無事に帰ってきましたハリー上級書記官。
ハリ:すぐに飛んで帰りましたよ(笑)まだその古龍種があのあたりを根城にしている可能性は大いにありましたからねぇ。遭遇しなかったのは不幸中の幸いです。彼の逆鱗に触れたらどうなっていたことか…。
ニム:この世界にはまだまだ信じられないような歴史が眠っているものですね。今回も素晴らしい発見をしてくださったハリー・ルブラン氏とその助手、および探検隊のメンバーに多大なる感謝を。ありがとうございました。
時系列的には、未開拓地調査隊へ赴く直前の話となっております。パソコンの調子が悪くなかなか更新できないので先に書き溜めていた外伝をひとつ投稿しておきます。やはり何かしら書いていないと腕が訛ってしまう。
「週刊 狩りに生きる」…これも最近では見ないゲームの一要素ですね。いわゆるハンターたちのための雑誌、その中の特集という体をとっています。台本書きじゃないよ!
これは序章。三部構成の予定です。
前半やたら句読点で繋げてる作風は、なんとなく最近読んで影響された元ネタ、江戸川乱歩の「鏡地獄」の真似事です。