狩人達の軌跡   作:SHIPS

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第一章
1-1 冒険譚に憧れたあるハンターの話


 いつの時代にも、人々を楽しませる物語は存在した。どこの国にも、人々を興奮させ感動させる神話が語り継がれた。あらゆる世界、あらゆる時代が共通して神話を持つのは、それが実在している証拠となりうるのだろうか。

 

 クラウス・クローゼは幼い頃から物語を愛してやまなかった。ハンターであった両親からの影響というよりは、幼少期に読んだ様々な小説や伝説の中の世界が彼の心を未知の世界へと駆り立てた。

 

 肉食獣が明日への糧のため日夜狩りを繰り広げるサバンナ。紅い鱗をまとった火の竜が巣食う不気味な洞穴。未知なる自然の恐怖に立ち向かう勇ましき戦士。

いつか僕もかの冒険譚の主人公となって、広大な新天地を踏みしめたい―幼いながらも持てるだけの想像力を発揮した。

 

 家を普段留守にする両親の代わりに彼を育てている祖父アマデウスの家で、彼が本棚に目もくれなかった日は一度たりともない。土地柄モンスターに遭遇することも多く、祖父は外出をほとんど許してくれない。そんな彼にとってこの本に書かれた古今東西の冒険譚こそが彼の世界になりつつあった。

 

 彼の両親が行方不明となったその日でさえ、クラウスは本を読むことに没頭した。ほとんど家に帰ってこない両親は、幼き彼にとってはその存在感が希薄していた。それから数日がたち、彼は祖父の家にあった何百もの本を全て読み終えた。祖父は家を売ることにした。孫を連れて知り合いの伝で辺境の村に小さな一軒家を買い、そこで農業をしながら余生を楽しんだ。

 

 クラウスが十五歳の時、アマデウスは息を引き取った。祖父の僅かな遺産を引き継いだ時、独りになったこれからどうしようかと考えていた彼の頭の中で幼少期の自分が囁いた。

―ハンターになりたい、と。

 

 アマデウスの友人であったこの村の村長は孫同然に可愛がっていた青年の意思を受け止めると、快く彼を候補生としてハンター訓練所に推薦した。ハンターになるなら誰しもが通る道、訓練所。教官の指導の下、候補生たちは武器や防具の重さに耐える体力を付け、扱う術を学んだ。訓練は壮絶なものであり、何度もくじけそうになったが、友と励まし合いながらそれらに耐え、いよいよその日が来た。懐かしい第二の故郷。三年に渡る厳しい訓練の末、クラウスはつい に新米狩人としての資格を与えられる。共に頑張ってきた同室のメンバーと一旦の別れを告げて、彼はココット村に帰ってきた。

 

 大陸の遥か東、温暖で生命豊かな森丘に囲まれていて、四季の移ろいがわかるこの平穏な村は住人こそ少ないものの、活気に溢れていた。 この村の原動力はハンターそのもの。ハンターは素材やお金を落とし、住人が狩りをサポートするという至極単純さ。あるのは数件の家と工房、それから酒場。名所と呼べるものは何一つない。強いていうなら村の至る所で桜の木々がその花びらを舞わせていると言ったところか。

 

 そのような平和な光景を再び目にすることができ、クラウスは目頭を熱くした。変わらない村、変わらない住人たち。すべてが懐かしく思えたが、ハンターとして帰ってきたクラウスにとってこの村は彼に新しい意味を与えることになる。祖父の旧友であり、彼の死後クラウスを育てた恩人。白髪の老人はこの村で一番大きい桜の木の根に座っていて、青年の帰りを今か今かと待っていたようだ。

 

「お帰りクラウス、随分と成長しおったのう…フォッフォッ」

 

 三年の月日が経ってもココット村の村長はほとんど変わらない。竜人と呼ばれるこの種族は人間よりも遥かに長い時を生きる。見た目は人間で言えば六十歳ほどだが、その実年齢は実際のところクラウスにも分からなかった。

 

「お久しぶりです、村長。そしてこれから、またよろしくお願いします」

 

 クラウスは恩人である村長に深々と頭を下げた。その下げた頭の位置がようやく村長の頭の位置になることに気づいた老人は、この三年の月日が竜人にとってはほんの一瞬であっても、人間にとっては大きな変化をもたらすに充分な長さだと言う事を悟った。

 

 健康的に日焼け背も伸び、短く切られた黒い髪の毛。まだまだ身体は細く見えるが、その姿にかつての本の虫を思わせる影はない。

「これからオヌシはこの歴史あるココット村の専属ハンターとなるのだ。この意味は分かるな?」

「はい、村長」

 クラウスの瞳をしばらく見つめた後、その覚悟をしっかりと見極めることができたのか、村長は目を細めて豪快に笑った後再び語りかけた。

 

「お主はこれからこの村を背負って立つのだ。このココットの英雄と呼ばれたワシの後に続いてみせろ」

 

 ハンターになったクラウスにココット村が与える新しい意味。彼はこの村の専属ハンターとして帰ってきた。彼のこの村での存在は彼の姿同様大きくなった。本の中の世界にいた少年は月日を経て本の外へと飛び出していく。ここにまたひとつの冒険譚が誕生しようとしていた。

 

 後の世の人々はその数世紀を懐かしみ、こう振り返る。世の中は今よりも単純明快にできていた――すなわち狩るか、狩られるか。

 

 明日への糧を得るために、あるいは己の威信を示すために、自然を愛し自然とともに生き、時には命を与え奪うもの。強大な力を持つモンスターたちに立ち向かう者達がいた。

 

 彼らの名はモンスターハンター。




2015/9/8 誤字脱字、字下げ修正しました。
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