「そういえば雄二君、次の対戦相手だけどさー」
「ん?試召戦争のか?」
「そうそう」
恐怖と混乱の昼を終え、皆で屋上で休憩をしている。秀吉と雄二を中心に殺菌成分が含まれているお茶で必死に身体を癒していると、お昼ご飯を食べれずむくれている進が唐突に口を開いた。
「どうして相手はBクラスなの?CクラスかAクラスが一番妥当じゃない?」
今日の休み中に雄二から、次の戦争の相手はBクラスだと聞いている。確かに、俺達の最終目標はAクラス。普通ならば一気にAクラスに攻撃を仕掛けるか、段階を踏んでCクラスを攻めるのが定石というもの。雄二にはどういう作戦があるのだろうか。
「まあ、確かにそうだな。まあぶっちゃけて言うと、どんな作戦を取ろうがうちの戦力じゃあAクラスには勝てない。そもそも格が違うからな」
雄二らしくない敗北宣言。
ただまあ無理もないだろう。Aクラスはこの文月学園でも異次元レベルの力を持っている。Aクラスには50人の生徒が在籍しているのだが、その内40人はまあ大したことは無い。せいぜいBクラスに毛が生えた程度だ。それでもFクラスからしてみれば化け物級だが。
だが、残りの10人がヤバイ。もうとにかくヤバイ。学年主席の霧島翔子を始め、秀吉の姉であり頭脳明晰な木下優子、学年次席の久保利光にと、名前を聞いただけでも眩暈がしそうな面子が揃っている。
「じゃあ、ウチらの最終目標はBクラスに変更って事?」
Aクラスほどでは無いにしろ、Bクラスの設備も十分豪華だ。だがな島田、俺はどうしてもリクライニングシートで昼寝がしたいんだ。
「いいや、そんなことは無い。Aクラスをやる」
「雄二、さっきと言ってることがひはふはい(違くない)?」
明久がお茶を口に含みながらモゴモゴと間に入ってくる。いや呑み込めよお前。
「クラス単位じゃあ勝てないって話だろ?雄二」
「ああ、お前の言う通りだ」
「?どういう事?」
「一騎打ちに持ち込む」
「一騎打ちに?どうやって」
「Bクラスを使う」
未だに分かっていなさそうな明久のマヌケ面。
「試召戦争で下位クラスが負けたらどうなるか知ってるな?」
「え?も、もちろん!」
知らねえなコイツ
と、そこで姫路がコソッと明久に耳打ちする。
「設備のランクを落とされるんだよ」
「……まあいい。つまり、BクラスならCクラスの設備に落とされるわけだ」
「そうだね。常識だね」
「では、上位クラスが負けた場合は?」
そこで少し考える明久
「悔しい」
「虚井はペンチ、ムッツリーニはハサミ」
「おうちょっと待ってろ」
「ややっ僕を爪切りいらずの身体にする動きがっ」
確かに悔しいだろうが今聞いてるのはそこじゃあねえだろ。
「相手クラスと設備を入れ替えられちゃうんですよ」
そこで姫路が慌てたようにフォローに入る。
「つまり、うちに負けたクラスは最低の設備と入れ替えられるわけだね」
「ああ、そうだ。そのシステムを利用して、Bクラスと交渉する」
「交渉、ですか?」
「Bクラスをやったら、設備を入れ替えない代わりにAクラスへ攻め込むよう交渉する。設備を入れ替えたらFクラスだが、Aクラスに負けるだけならCクラス設備で済む。まず上手くいくだろう」
「ふんふん。それで?」
「それをネタにAクラスと交渉する。『Bクラスとの勝負直後に攻め込むぞ』といった具合にな」
「なるほどねー」
学年二番手のクラスと戦った後にまた戦争、それは確かにキツいだろうな。
Fクラスも連戦にはなるが、こっちには圧倒的な戦意という武器がある。そもそも頭が悪くても体力は有り余っている奴らが多いクラスだしな。
だがAクラスはそうじゃない。試召戦争に勝っても何も得るものが無い上に、最底辺のFクラスとの戦いに時間を割かれるのも嫌がるだろう。当然戦意も上がらない。
「じゃが、それでも問題はあるじゃろ?体力としてはつらいし面倒じゃが、Aクラスとしては一騎打ちよりも正面からの戦争の方が確実じゃろうしな。それに――」
「それに?」
「仮に一騎打ちに持ちこめたとしても、それで勝てるのじゃろうか?こちらに虚井と姫路がいる事は既に割れているじゃろうし、下手をすれば姫路に霧島が、虚井に久保が、と言う風に対処もされかねんじゃろ」
今の学力的には、姫路と霧島は結構差があるし、久保と俺では久保に軍配が上がる。確かにそれぞれぶつけられたらキツいが……。
「その辺に関してはしっかり考えてある。心配するな」
出来れば今教えてほしいとこだが、それを聞いても無意味だろうな。コイツはそういうタイプだ。やけに自信満々なのが逆に不安だが……。
「とにかくBクラスをやるぞ。細かい事はその後に教えてやる」
「まあ勝算があるなら別にいいがな」
取り敢えずまだしばらくコイツに従っておいてやろう。
「で、明久」
「ん?」
「今日のテストが終わったら、Bクラスに行って宣戦布告して来い」
「嫌だ。雄二が行けばいいじゃないか」
ほう、少しは学習したみたいじゃないか明久。
「やれやれ、それならじゃんけんで決めようじゃないか」
「じゃんけん?」
む、じゃんけんだと?嫌に公正な事を提案するな。何を考えてる?
「OK、乗った」
「よし、負けた方が行く、でいいな?」
おいおい明久、こいつの腹黒さを忘れたか?もう少し冷静に考えてからでも……。
「ただのじゃんけんでもつまらないし、心理戦ありで行こう」
そんな雄二の提案。
心理戦……何を出すのか言って、その裏をかくかどうかって奴か。コイツ本当に何を考えてるんだ?……さてはコイツ
「分かった。それなら僕はグーを出すよ」
「そうか、それなら俺は――」
「ま、待て明久、この勝負止めといた方が――」
「お前がグーを出さなかったらブチ殺す」
「!?」
「じゃーんけーん」
雄二 パー 明久 グー
「決まりだ。行って来い」
「絶対に嫌だ!!」
コイツ、なんて卑怯な奴だ……!!
「Dクラスの時みたいに殴られるのを心配しているのか?」
「それもある!」
「それなら今度こそ大丈夫だ。保証する」
む?何か策でもあるのか。
「なぜなら、Bクラスは美少年好きが多いらしい」
「そっか、それなら安心だね!!」
あ、駄目だコイツ。どっちも駄目だ。
「でも、お前不細工だしな……」
いや明久は割とイケメンだぞ。それを自分で言ってるのが色々残念だが。
「失礼な!365度、どこからどう見ても美少年じゃないか!」
「5度多いな」
「回り回って実質5度じゃな」
「あ、明久君は格好いいよー!!」
「うわあああん道前さんの優しさが色々と痛いよおおおお!!」
ガチ泣きを始める明久。
「とにかく、頼んだぞ!」
雄二の強引な言葉で、取り敢えず昼はお開きとなった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「言い訳を聞こうか」
午後のテストも終了した放課後。
教室に戻ってきた明久は、千切れかけた制服の袖を抑えながら雄二に詰め寄った。
「予想通りだ」
「くきぃー!!殺す、殺し切るー!!」
「落ち着け」
「ぐふぁうっ」
雄二のパンチが華麗に明久の鳩尾に突き刺さる。痛いんだよなアレ……。
「だだだ、大丈夫!?」
慌てて明久に駆け寄り背中をさすり始める進。……その対応は合ってるのか?
「先に帰ってるぞ。明日も午前中はテストなんだから、あんまり寝てるんじゃないぞ」
お前、その言い草は無いんじゃないか?雄二はそのまま教室を後にした。外道め。
「うう……あんまりだ……」
「お前は何回アイツに痛い目にあわされれば学習するんだ」
倒れ込んだ姿勢で『あんまりだーあんまりだー』と呟き続ける明久。ナンマイダー。
「……ん?」
そう言えば、明久が苦しんでいる時に姫路と島田は何故駆け寄ろうともしない?
そう思い教室を見渡すが、どうやら島田は既に帰ってしまったようだ。アイツも気持ちに素直になれない奴だな。明久に『一緒にかーえろ』くらい言えばいいのに。
すると、教室のはしで何やら周囲を警戒するようにキョロキョロと見渡す姫路の姿が。……何やってんだ?
「おい、姫――」
「だ、駄目だよ!!」
「モゴッ!?」
姫路に声をかけようとしたが、明久に慌てたように口を塞がれてしまう。何だってんだ一体。
進に背中をさすられながら、匍匐で教室を出ていく明久。俺も姫路を教室に残し、教室を後にした。