目の前に存在するのは幻影だろうか。人は常識外の光景を見ると言葉を失うと言うが、どうやらそれは本当だったようだ。
それは教室と呼ぶには汚すぎた。
まずドア。木製で所々にしみが見受けられ、その部分を触ると微妙に湿っている。次に教室の中。ちゃぶ台に座布団、そして所々ヒビが入った窓。畳なのは日本男児としては構わないのだが汚れが目立ちすぎるのは問題だ。
「うわー!!これってアレかな!!田舎の学校って感じだよね!!」
「……お前それは色々と、多方面に失礼だぞ。」
「?」
とにかく入ろうという進の声に仕方なく応じ、教室の中に入る。やはりこんなに早く登校してくるのは俺達くらいのものか。さて。
「……席順とかは好きでいいって鉄人が言ってたからな。適当に選ぼう。」
取り敢えず、(比較的)ちゃぶ台が綺麗な一番後ろ、窓際の席に座る。
「にひっ!!」
その隣に進が座る。分かってはいたけど授業中に寝たらハリセンで起こすつもりだなコイツ。だが寝る。
取り敢えず人が来るまでは寝る。起こすな、と進に告げ、何とか承諾を得られたので睡眠をとる事にする。後ろにごろりと寝そべると、カビ臭い感覚に陥りながらも、少しずつ眠りについた。
20分程経っただろうか。ふいに体がユサユサとゆすられるような感覚を感じ、ゆっくりと目を開ける。そこには茶色いショートカットの少女……いや、少年が立っていた。
「……よぉ。」
「相変わらず眠りこけておるのう。」
「10分くらいまえに来たんだけど、起こしちゃ駄目って言われたから放っておいた。でも他にも人ぼちぼち来始めたしね~。」
少年の名前は木下秀吉。どこぞの戦国大名の生まれ変わりのような名前だが、別に関係は無い。口調も侍調だが、関係は無いのである。肩にかかるくらいの長さの茶髪、柔らかそうな肉体、可愛らしい顔。ここまで聞けば誰もが女子と間違えるが、秀吉は立派な少年である。
「よう虚井。」
そんな秀吉の背後からこちらを見下ろす赤髪長身の男。
「……クソ。やっぱいんのかよ……。」
「そりゃこっちの台詞だぜ虚井。お前はてっきりAクラスだと思ってたが。」
「……俺も出来ればその方が良かったよ。」
「ま、このクラスに来た以上、俺の手駒として働いてもらうぜ。」
「ゆーじくん!!おっはよ!!」
「お、おう道前、お早う。お前もう少し空気読もうな?」
声の主は坂本雄二。俺の悪友である。手駒として、てことはコイツがこのクラスの代表なの「だろうか。こんな奴が代表とは世も末である。」
「途中から声出てたぞ」
「出してんのよ」
「確信犯程質が悪いものもねえよな。」
バチリッと二人の間で火花が散る。コイツとは昔からそりが合わない。
それから数分もすると、続々と教室に生徒達が現れ始める。知った顔もいくつかあったが、こちらに気付かなかったようで挨拶はしなかった。