リリカルなのはVS夜都賀波岐   作:天狗道の射干

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タグに恋愛とDies iraeを追加。今回はなのは回です。
後半、糖度が高過ぎてネタに走ったが、僕は悪くない。

副題 クールに決めるクロノ。
   男の意地。女の意地。
   やっぱりKYはKYだった。

※2017/01/05 改訂完了。



第二十五話 君がいるから

1.

 平日の昼下がり、相次ぐ災害の影響で閑古鳥が鳴く翠屋の店内に、久方振りの賑やかさが舞い戻っていた。

 否、多くの人で賑わっているのではなく、たった二人の少年が張り合って騒いでいるのだから、これは騒がしいと言うべきであろうか。

 

 がつがつむしゃむしゃと食事を搔き込む音が響き、目の前に空いた皿が積み重ねられていく。

 翠屋の給仕服に身を包んだ高町なのはは、眼前の光景に唯々目を白黒とさせている。

 

 そんな彼女に、食事を続ける二人から告げられる言葉は唯一つ。

 

 

『御代わり!』

 

「にゃ! また!?」

 

 

 ほぼ同時に二人の少年から空き皿が差し出され、なのはは驚愕を口にした。

 そんな様子の彼女を無視して、食べ滓を口に付けた少年達はぎろりと睨み合う。

 

 この勝負、僕が貰った。いいや、勝つのは僕さ。抜かせよ、今にも吐きそうな面をしているじゃないか。お前こそ、消化用の補助機関が煙を上げているように見えるぞ。などとアイコンタクトで遣り取りをする二人。

 

 必ず勝つという意思の元に争い合う両者は、故に背後に迫っている脅威に気付けない。

 

 

「……ふふふ。翠屋は、大食いする為の場所じゃないわよ?」

 

『あ』

 

 

 笑っているのに笑っていない。そんな事が声音だけで分かる程に、高町桃子は怒っている。

 その事に気付いた少年達は、ぎぎぎと錆びた機械のようにゆっくりと振り返って、そこに一人の修羅を見た。

 

 

「少し、頭冷やそうか?」

 

『あーーーーーーっ!?』

 

 

 少年達の悲鳴が店内に木霊する。

 ユーノとクロノの勝負は、乱入者である高町桃子の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 ミッドチルダにて準備を整えた少年達は、この翠屋にやって来ていた。

 

 この地に存るは大天魔。人の手には過ぎたる大災厄。

 どれ程の準備も、どれだけの策も、全て無為と化すであろう絶対者。

 

 それと真っ向から向き合わねばならぬであろう彼らには、意外にも悲壮感などはなかった。

 信じているのか、諦めているのか、彼らは余りにも平静な様子で、こうしてじゃれ合いを続けている。

 

 そんな姿に、高町なのはは胸に何か燻ぶる物を感じていた。

 

 

(……クロノ君。元気になったんだ)

 

 

 天魔・悪路が過ぎ去った時の、クロノ・ハラオウンの狂態を見ている。その荒れ具合を知っている。

 だが、今の彼にはそれが欠片も残っていなかった。むしろ、以前に比べて、活力と言う物に満ちているのではないかとも思えて来る。

 

 

(あんなに辛い目にあったのに、それでもまた立ち上がれる。……それはきっと、ユーノ君が何かをしたから)

 

 

 クロノがまた立ち上がれたのは、間違いなくユーノ・スクライアの功績だ。

 彼を支えて、立ち直らせたのはきっとこの少年で、ああ、ならばこの気安さも理解が出来よう。

 

 二人の少年は、確実に距離を縮めていた。二人の少年は、確実に前へ進んでいた。そんな事実を、羨ましくも、妬ましくも思ってしまう。

 

 

(仲良くなって、一緒に前に進んで――何でだろう。それは間違いなく良い事なのに)

 

 

 共に頭を抱えている二人の子供は、確かに前に進んでいた。

 そんな二人と比べた時に、自分は果たして自信を持って胸を張れるであろうか。

 

 きっと出来ない。だって何もしていない。

 

 あの悪路が起こした事件により外出を止められ、こうして家に引き籠っている。

 時折、常連客くらいしか来なくなった翠屋を手伝い、時間を潰していただけだった。

 

 何も出来ていない。どこへも進めていないのだ。

 そんな自分だけが取り残されているような感情に、心を曇らせながらになのはは思う。

 

 

(嫌だな。何か、嫌だ)

 

 

 自分の心すら分からぬ子供は、何とはなしに、そんな事を思っていた。

 

 

 

 

 

 プスプスと頭に出来たタンコブから煙を漂わせて、テーブルに突っ伏した少年達。

 そんな彼らを後目に、桃子は彼らが食べ散らかした食器の後片付けを進めていく。

 

 

「……何と言うか、男の子をしているな」

 

 

 そんな光景を眺めながら、高町士郎は苦笑を漏らした。

 二人の対立は男らしい負けん気が籠っているが、他人に迷惑を掛けてしまうのは未熟の証左。

 少年達は己が責任を取れる漢ではなく、まだまだ男の“子”と言えるレベルでしかない。

 

 

「全く、元気なのは良いのだけれど」

 

 

 そう呆れた声を漏らすのは桃子だ。

 他に客が居なかったのがせめてもの幸いだろう。周囲に迷惑は掛からなかったのだから。

 それでも悪さをした子供は叱らなければ、と自己肯定しながら、頭を抱える少年達に冷やしたタオルを与える。

 

 高町なのはは少年達を見詰めたまま、無言で何か考え込んでいる。

 そんな娘の様子を気にしながらも、士郎はどちらが早く立ち上がれるのかと競い始めた少年達に問いかけた。

 

 

「……それで、君達はこれからどう動く気だい?」

 

 

 そう疑問を口にしたのも当然だろう。

 

 この海鳴の地には今、恐るべき怪物が存在している。

 日常と言う平穏の全てを、唯其処に居るだけで壊してしまう災厄が居るのだ。

 

 知っている。その大天魔が為した行いは、確かに愛娘より伝えられている。

 八柱の大天魔が持つ恐ろしさ。それは士郎の予想を遥かに超えるものであった。

 確かに、人の及ぶ所にはない怪物なのだと、そんなことはあの夜の感覚から理解していた。だが、これほどまでとは思っていなかったのだ。

 

 あの事件現場を見に行った士郎は、叫喚地獄の残り香を見た。

 そして戦慄する。力を行使した訳でもなく、悪意を示した訳でもなく、唯そこにいるだけであれ程の地獄を作り上げた大天魔という存在に唯々恐怖した。

 

 あれらがその気になれば、世界など滅ぶ。

 そんな言葉を、実感を伴って理解した瞬間であった。

 

 そしてそれに挑むであろう少年達。

 士郎はこの日常こそをかけがえのないものと知るが故に、こうして彼らに問い質す。

 

 知らねばならないのだ。知らずにはいられない。

 少年達が動くとは、大天魔が動く事と同意。彼らが動けば、その瞬間にもこの日常は失われるのだろうから。

 

 

「大天魔を、君は如何に打倒する?」

 

 

 そんな士郎の当たり前の問いに、クロノは――

 

 

「戦いませんよ。無視します」

 

『はっ?』

 

 

 あっけらかんと、誰もが予想していなかった答えを返した。

 

 

「はぁっ!? 何だよ、それ!! あいつらを倒す為に切り札を用意したんじゃないのかよ!?」

 

 

 そんなあんまりと言えばあんまりな言葉に、反発したのはユーノ・スクライアだ。

 行動を共にした彼とて、クロノが用意した物の全てを知っている訳ではない。

 スカリエッティを始めとする人物に渡りを取っていた事は知っているし、切り札を取りに行った事も知っている。

 

 だが、四六時中一緒だった訳でもない。ある程度の間は別行動を取っていたのだ。

 それはザフィーラ達との戦闘から、以前関連する資料を見つけた事のあるユーノが、再び無間書庫で闇の書関係の書類検索を行っていたからでもあるし、クロノの会う人物が一般人の入れない場所に居たことも理由である。

 

 そうでなくとも彼の頭の中まで分かる訳ではないのだから、口にしなかった策までもを知っている訳がないのだ。

 

 

 

 そんな少年に口にしなくても察しろよと白けた目線を向けながら、クロノ・ハラオウンは当然の現実を口にする。

 

 

「デュランダルはあくまで保険だ。それにユーノ。奴らに勝つなど、現状では不可能だぞ。現実見ろよ、フェレット擬き」

 

「お前が言うな!?」

 

 

 先日まで現実を見ずに無様を晒していた少年の盛大なブーメラン発言に、ユーノは憤慨して言葉を返す。

 そんな少年達のじゃれ合いを止めながら、頭を抱えながら士郎は口にした。

 

 

「ああ、と。詳しく説明してくれないか? そんな結論だけを語られても、何が何やら」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 

 こほん、と咳払いを一つして、クロノは持論を主張するのであった。

 

 

「まず大前提として、大天魔が強大であることは周知の通りだと思います。その力は絶大。単体で一惑星はおろか、次元世界一つ滅ぼせるであろう怪物。その一挙手一投足が災厄級のロストロギアと同等以上。管理局が全戦力を投入しても一柱すら倒せない存在です」

 

「ああ、それは分かる。聞いた話と、戦場跡を見ただけだが、あれの異常さは理解出来ているつもりだ」

 

「ええ、そんな一柱でも手に余る存在。それを同時に敵に回すかもしれない状況で戦うという選択こそ間違っているんです」

 

 

 クロノの語るは当たり前の道理。考えてみれば当然の事実。

 大結界の存在するミッドチルダ以外の地で大天魔と戦うという事は、例え追い詰めたとしても他の大天魔に引っくり返される余地を残す。

 大天魔が一柱しか行動出来ないのはミッドチルダの大地だけであり、それ以外の場所で善戦などしてしまえば、続く大天魔が参戦してくるのは当然なのだ。

 

 故に結界の外で戦うなどという選択は、あからさまな愚行である。

 絶対に勝利する要因を揃えた上で、ミッドチルダで迎え撃つ事こそが最上なのだ。

 

 

「彼らは魔力さえあれば何処にでも出現する。その性質上、下手に追い詰めてしまえば第二・第三の天魔を呼び出す結果に繋がるんです」

 

「……だから、戦わない、か。だが、それでは」

 

「ええ、それでは奴らの思惑通りとなる。その目的を掣肘することが出来ない。故に」

 

 

 クロノの目的は唯一つ――

 

 

「ユーノの調べた限り、闇の書。否、夜天の書は完成までに大量の魔力を必要とします。故に必ず、現状で行動可能な守護騎士達が蒐集を行っている。……彼女らを罠に嵌めて、闇の書を回収するんです。そして、僕の歪み。万象掌握を使って即座に安全圏であるミッドチルダへと撤退する。……そうすれば大天魔がどう動こうと闇の書は完成しない。彼らが来る前に、チェックを掛けてしまうのが僕の目的です」

 

 

 大天魔を相手にせずに、夜天の書だけを攻略する。それが少年の出した結論だった。

 

 そんなクロノの言葉に、誰もが絶句する。

 だが考えてみれば当然だと、誰もが確かに納得した。

 

 クロノの手にしたデュランダルは、相手こそ選ぶが確かに大天魔すら封じる規格外品である。

 通じる武器があるのなら、通用する状況を作れば対処は出来る。それは管理外世界ではなく、第一管理世界ミッドチルダであるべきだ。

 

 相性の悪い相手には全軍をぶつけ、デュランダルが通じる相手は封じてしまう。

 ミッドチルダにて一対管理局全体で勝負を挑めば、勝利を揺るがぬ物と出来る。書を奪って引き籠れば、それだけで手筋を限定出来るのだ。

 

 

(無論、下手に事を運べば、土竜叩きに専念される危険もあるが――現状では一番の対策だと言えるだろうな)

 

 

 書を奪い取って引き籠った場合、クロノが考える大天魔の行動は大きく二つ。

 ミッドチルダ大結界が止まる日にこれまで以上の攻勢を仕掛けてくるか、或いは結界周囲に陣取られて外に出る船を土竜叩きの要領で潰されるかだ。

 

 前者の場合はデュランダルと全軍を上手く使って追い詰める。

 後者の場合は亀の如くに引き籠って、後手に回りながら少しずつ削っていく他術はない。

 どちらも後に控える危険の量が大きいが、それでも地球で相対するよりは遥かに上策だろう。

 

 だからこそ、クロノはこの選択を選んだ。

 燃え滾る様な復讐心を飲み干して、最も可能性が高い道に賭けたのだ。

 

 

 

 これは彼らの誰も知らないことだが、ミッドチルダで永久凍結を受けるという事は大天魔にとっては死を意味している。

 

 彼らが彼の地に長居出来ないのは、そこが黄金の領地であるが故に。

 嘗て膝を屈した大天魔達は、未だ黄金の戦奴である。獣の顎からは逃れられてはいないのだ。

 

 そんな彼らがこうして動けるのは、主柱たる永遠の刹那の加護に守られている為。

 だがミッドチルダにおいては、刹那の法よりも、黄昏の法の残滓よりも、黄金の残滓こそが勝っている。

 この地で死んだ者達が、ミッドチルダに長く縛られ魂が消滅するまで輪廻転生出来ぬように、彼の地は黄金の法こそが絶対だ。

 

 例え刹那の加護があるとは言え、それも不完全な今、嘗ての黄金の奴隷達はその法に抗えない。

 彼の地で凍結などさせられてしまえば、相手が残滓に過ぎぬ黄金とは言え、既に食われていたという事実を晒す結果となる。

 

 それが絶対の法なのだから、それに合わぬ現実は塗り替えられる。

 既に死して動けぬ黄金に食われるという形で、大天魔達は終わりを迎えるのだ。

 

 抗えるのは夜都賀波岐八柱の内、僅か三柱。

 嘗て一度たりとも黄金に屈することのなかった主柱とその悪友。

 そして戦奴でありながらも、黄金に立ち向かえるだけの力を有していた者。現代に残る最強の大天魔だけであろう。

 

 偶然が幾度も重なり、何度となく奇跡を起こす必要はあるだろうが、確かに勝機は存在している。

 那由他の果てに掴み取れるかどうかと言う極小の可能性であっても、其れこそが最上と言える解なのだ。

 

 

「君は、それで良いのか」

 

 

 だが、それは眼前の天魔を前に尻尾を巻いて逃げ帰るのと同意。

 誰よりも天魔を憎んでいるであろう少年に、本当にそれで良いのかと士郎は問い掛ける。

 

 もしも彼が憎しみを抑えられずに、この言葉が口先だけで言われた物ならば――それはきっと最悪の展開を生む。

 単一存在だけでも惑星系を滅ぼすには十分過ぎると言うのに、それが二柱三柱と地球に集えば正しく地獄が顕現しよう。

 

 下手に倒せる武器をクロノが持ってしまっているからこそ、そんな感情には負けないと言う保証が欲しいと男は思っていたのだ。

 

 

「……大天魔に思う所はあっても、ここで挑むのは正答ではない。迷い彷徨って、殴られて、漸く気付けた僕の答えです」

 

 

 そんな士郎に向き合って、クロノは想いの全てを語る。

 クロノ・ハラオウンは過去よりも(嘆きではなく)現在よりも(怒りでもなく)未来(希望)こそを選んだのだ。

 

 心の底から溢れる真摯な想いが、紡いだ言葉に力を与える。

 揺るがぬ瞳の色は確かに、信頼に足る物だと高町士郎に感じさせていた。

 

 

「確かに、それなら海鳴が危機に陥ることもない、のか」

 

「闇の書の蒐集を行うには、地球は適していませんから。大天魔の八つ当たりさえなければ安全かと」

 

 

 安堵を漏らす士郎に、クロノは恐らくと同意する。

 言いながらも、クロノは己の推測は確たる物であると思考していた。

 

 大天魔がこの地球を攻撃するとは思えない。それだけの旨味がない。

 ミッドチルダへの攻勢は激しさを増すだろうが、地球がそれに晒される心配はないのだ。

 

 

「幸い、刀自殿の協力も得られましたし、スカリエッティも乗り気です。闇の書をミッドで保管することは可能でしょう」

 

「出来ないこともない。どころか十分に芽がある作戦だな」

 

 

 御門顕明。ジェイル・スカリエッティ。

 二人の協力を取り付けた今、闇の書を回収出来ればその策は必ず成就する。彼の描いた現実味に、士郎も頷きを返していた。

 

 

 

 そんな男達の会話を聞きながら、蚊帳の外に置かれていた少女は一人決意する。

 

 

「私も」

 

 

 守護騎士とは話したいことがある。聞きたいことが山ほどある。

 どうしてあんなに真剣だったのか。どうして八神はやてと共に居たのか。聞かねばならぬと思っている。

 

 だから――

 

 

「私も、一緒に行きたい!」

 

『なのは!?』

 

「……君が、か」

 

 

 高町なのはの発言に高町夫妻とユーノ・スクライアは驚愕の声を上げる。

 そんな彼らとは反対に、冷静な思考で見定めるかのように、クロノはなのはを見詰めた。

 

 

「私だって、力になれるから」

 

 

 何もしていないなんて出来ない。聞きたいことも話したいことも山ほどある。

 大天魔は怖いけど、彼らが来ないと言うならば、きっと自分は動けるから、と。

 

 そんななのはの内心を見切って、クロノはそれを甘いと断じた。

 

 

「君は、大天魔が来ないとでも思っているのか?」

 

「え?」

 

 

 大天魔とは戦わない。そう言った少年が、しかし自らそれを否定する。

 

 彼が何を考えているのか理解できずに、啞然とするなのは。

 そんな思考が追いついていない少女に向かって、少年は己が脳裏に浮かべた推測を確信と共に説明した。

 

 

「来るぞ。間違いなく。それが直接か、間接か。分からないが妨害は必ずある」

 

 

 間違いなく、大天魔は現れる。そうクロノは確信している。

 それが如何なる形になるかは分からずとも、完全に出し抜けるなどと油断はしていない。

 

 騎士達を無力化して直ぐに、ミッドチルダまで逃げられると言う道理はない。

 間違いなく撤退する前に彼らは大攻勢を掛けて来る。妨害を仕掛けて来るはずなのだ。

 

 これだけの仕込みを、台無しになどさせない為に。

 

 

「僕は一目散に逃げる気だが、それでも一撃は受けるだろう。万象掌握ならば逃げ出せるだろうが、その一撃でどれ程の被害を受けるか。……高町なのは、君に奴らと対峙する覚悟はあるのか?」

 

「……私、は」

 

 

 問われて、なのはは押し黙った。

 

 怖いのだ。恐怖を抱いているのだ。あの大天魔に。あの恐ろしい大天魔達に。

 それが必ず来ると言われて、それでも挑める強さを、なのははまだ持っていない。

 

 

「僕の万象掌握は転移対象が増えれば増える程、転移に掛かる時間も増える。真っ向から挑むならば兎も角、逃げに徹するなら戦力などいらない。……高町なのは。君は余計な荷物でしかないんだ」

 

「っ!?」

 

「クロノ、お前、言い過ぎだ!!」

 

「言い過ぎ、か。……オブラートに包んだ所で、意志が伴わなければ役立たずと変わらないんだがな」

 

 

 クロノのきつい物言いに、もっと言い方があるだろうとユーノが反発する。

 そんなユーノの態度に苦笑しながらも、それでもクロノは前言を翻さない。それは不器用な少年なりの、最低限の優しさであった。

 

 性能面だけで考えれば、強力な歪みを有する高町なのはは優秀だ。

 それこそ管理局上層部が絶対に回収する様にと、クロノに機密指令を出す程には希少であるのだ。

 

 管理局が求めているのは、大天魔に対する兵力としての歪み者。

 何も語らずに彼女の主張を受け入れて、戦闘に巻き込んでしまえばなし崩し的に回収も出来た。

 

 戦力として役に立たずとも、無限に魔力を生み出すと言う性質だけでも役に立つ。

 大天魔を討つだけを望むならば、彼女の自由意志になど拘らずに引き入れた方が確かに有利になるだろう。

 

 

「とは言え、監視役や肉壁としてなら多少の人手はあっても良い。転移時間の増減も数人ならば誤差だしな。……だから、そこのフェレット擬きは連れて行くが、高町なのは、お前にそう扱われるだけの覚悟と意思はあるか?」

 

 

 だがそれは、人を数字で見た時の論理だ。

 意志もない戦士に価値は見いだせない。戦う意志もなく、戦場に出ても不幸なだけだ。

 だからクロノは否定する。覚悟を見せないお前は要らないのだと、付いて来るならば心を決めろと。

 

 フォローなど出来ない。そんな事をしている余裕などない。

 命綱などなく、捨て駒として扱われても良いならば、付いて来ることは止められない。

 

 それでも付いて来ないならば、民間人として扱える。覚悟がないからと言う理由で、上層部の決定にも異を唱えよう。

 少女が当たり前に生きられる様に、一度間違えたからこそ民間人はもう巻き込まない。巻き込まずに済むなら、巻き込まずに終わらせる。

 

 それはクロノ・ハラオウンが見せる。不器用で冷たい優しさだった。

 

 

「…………」

 

 

 そんな彼の言葉に、高町なのはは何も返せない。

 何か言いたい想いを抱えていても、胸に占める恐怖が故に何も言えない。

 

 

「なのは」

 

 

 高町夫妻は少女を案ずるように声を掛ける。

 その項垂れる姿に思う所はあっても、愛娘が捨て駒とされることなど許容できるはずもないから、どこか安堵してさえいる。

 

 望みを叶えてあげたい想いはあっても、今回ばかりはそんな感情など挟めない程に危険なのだから。

 

 

「……私、は」

 

 

 諦めたくない。進みたい思いはある。

 だけど、待ち受けているだろう先は、想像するのも恐ろしくて――高町なのはは、答えを出せずに黙り込んだ。

 

 

「まあ、時間はまだある。奴らが罠に嵌るまで動けんからな。……決意が出来るまで、好きに悩めば良いさ」

 

 

 クロノはそう言うと、興味を失くしたとばかりに視線を切る。

 案ずるような表情でユーノが肩を支える中、役立たずの烙印を押された少女は黙ったまま何も言えずにいるのであった。

 

 

 

 

 

2.

――皆様こんばんはー。カスミラジオのお時間です!

 

 

 高町恭也の部屋の真ん中で、ユーノは大の字になって倒れたまま、ラジオから流れて来る音声を特に注意することなく聞いていた。

 

 部屋の主である青年はいない。大天魔の脅威を知ってから、彼は恋人の元へと身を寄せている。

 自身に守る力はなくとも、愛する人と共に居たいから。そんな言葉を口にしたという青年に、ユーノは素直に尊敬の気持ちを抱いていた。

 

 

――本日のゲストはこの人。今話題沸騰の人気お笑いトリオ。お茶の間のアイドルであるこの方。

 

――ご紹介に預かりました。六条・シュピ虫と申します。

 

――と、コメンテイターである私が共に、番組を取り仕切っていきたいと思います。

 

 

 日課となりつつある御神不破の鍛錬で、ユーノは汗だくとなっている。

 死地へと赴かんとする弟子に全てを授けようかと言わんばかりに、高町士郎の指導には熱が入っていた。

 桃子もまた暫くは料理稽古を免除してくれると言っていて、それ故にユーノは余計に体を苛め抜かれる形となった訳である。

 

 

――それにしても、何故この番組はカスミラジオと言うのですかねぇ。カスミなる人物はいないと言うのに。

 

――さあ、偉い人が決めた事ですから。……と、そんな突っ込んじゃいけない事に突っ込んじゃったシュピ虫さんは置いておいて、さっそく最初のコーナーへと行きましょう!

 

――割と失礼ですね、貴女!?

 

 

 弄られ芸人がツッコミ芸を披露しているラジオ番組を聞き流しながら、ユーノは思う。考えるのは、なのはの事だ。

 

 クロノが去ってから暫くして、何時も通りのなのはに戻っていた。

 だが、それが空元気で振る舞っていただけなのか、それとも自分の答えを見つけたのか、そんな本心すらユーノには分からなかった。

 

 元気を出してくれれば良いんだけど、そんな風に彼が思考に耽っている中――トントンと軽い音がして、部屋の扉が叩かれた。

 

 

「あれ? 誰だろう?」

 

 

 疑問に思って立ち上がったユーノは、ゆっくりと扉へと歩いていき。

 

 

「にゃ、にゃはは。……来ちゃった」

 

「なのは!?」

 

 

 扉を開けた先に立っていた寝間着姿の少女に、思わず驚きの声を漏らすのであった。

 

 

 

「あ、えっと」

 

 

 部屋に上げた少女の前に正座で座って、ユーノは視線を右往左往させる。

 風呂上がりなのだろう。上気した肌から仄かに香るシャンプーの香りが、どうにも少年の精神を落ち着かせない。

 

 

「えっと、ユーノくん?」

 

「あ、うん。何だい、なのは?」

 

 

 挙動不審な様相を見せる少年の姿に、なのははおずおずと口を開く。

 

 

「あの、相談があるんだ」

 

 

 そんな思い詰めた表情を浮かべた少女の姿に、少年は意識を切り替えると話を聞くことにした。

 

 

「……」

 

 

 意識を切り替えたユーノを前に、なのはは僅か悩む様に口籠る。

 それでも呼吸を一つ二つと置いた後に、覚悟を決めると少女はその内心を此処に吐露した。

 

 

「あのね。……私、怖いんだ」

 

 

 高町なのはの胸の中には、そんな感情が渦巻いている。

 怖い。怖い。恐ろしい。その感情が影を差し、不屈の闘志は鈍っている。

 

 

「お話ししたい。理由を知りたい。どうして其処に居たのか、教えて欲しい。そう思ってるのに、……それよりずっと怖いんだ」

 

 

 話しを聞きたい。お話しがしたい。けれどもあの恐ろしい大天魔がやってくる。そう考えると足が震えて、体が竦む。

 守護騎士達の事など忘れて、このまま海鳴に居れば安全だと分かってしまったからこそ、ここから進むのが恐ろしい。

 

 大切な事だろうに。友達が其処に居るのだろうに。なのに恐怖で動けない。

 一歩を踏み出すのが酷く怖くて、暗闇に飛び込むのがとても怖くて、保証も何もないのが逃げ出したい程に恐ろしいのだ。

 

 

「大天魔が怖い。非殺傷なんてないのが怖い。怖い、怖いよ、ユーノくん」

 

「……なのは」

 

 

 ユーノは押し黙る。

 この恐怖に震える少女に、一体何が出来るのか、と。

 

 

 

 なのはが本心をユーノに吐露したのには理由がある。

 動きたいけど怖いのだ、と。言葉にして伝えるだけならば、相手は桃子でも士郎でも良かった。

 

 けれど違う。置いて行かれたくない。傍らにいたい。そんな少年に告げる理由はたった一つ。

 

 

「ねぇ、何でユーノくんは進めるの? 貴方は大天魔が怖くないの?」

 

 

 それはきっと、なのはの目から見て、ユーノは前に進んでいるように見えたから。

 恐れを知らぬように、立ち向かっていると見えたから。嫉妬を抱いてしまう程に、その背は輝いて見えたから。

 

 だから問うのだ。貴方は怖くないのか、と。

 

 

「……僕は、僕も、怖いさ」

 

 

 そんな少女の問い掛けに、ユーノは取り繕う事もせずに本心を明かした。

 恐怖を抱えて生きるのは、決して少女だけではない。否、誰よりも無力な少年が抱える怖さは、きっと誰よりも大きな物だろう。

 

 

「怖い。怖いよ。あんな反則。あんな出鱈目。敵う訳がないじゃないか」

 

 

 ユーノには歪みがない。大天魔が現れただけで、死に掛けるのだと分かっている。

 ユーノには意志しかない。きっと此処で逃げ出しても誰も文句は言わないと、そんな立場だと分かっている。

 

 今この地球に居る三人で、一番の役立たずは自分であろう。

 そんなユーノは大天魔の前に立つと想像するだけで、身体の震えを隠せなくなっていた。

 

 それでも、そんな少年が前を向いているのは――

 

 

「だけど、さ。格好悪いじゃないか、それ」

 

「え?」

 

 

 そんな単純な理由。思わず少女が目を丸くする様な、そんな下らない男の意地が全てだった。

 

 

「……動けば何かあるかも知れない。何もないかも知れない。それでも、さ。震えて縮こまっているのは格好悪いから、せめて前に進みたいんだ」

 

 

 少年の誓いは唯の意地に他ならず、傍目に見れば愚かにも程がある事なのだろう。

 大天魔へと挑むというのは、例えるならば無明の闇の中に飛び込むような物だ。先のない崖へと飛び出すような物だ。考えなくとも分かる。それがどれ程に愚かしいかは。

 

 もしも今居る場所が崩れ落ちているのであれば、砂上の楼閣であるとするならば、無明の闇へと飛び込むのも已むを得ないだろう。今ある死を恐れて、断崖の果てを飛翔しようと足掻くだろう。

 だがそれが安全な大地ならば? 襲われる事のない場所にいるならば? それでも態々無明の闇に飛び出すのは、勇気ではない。唯の愚行だ。

 

 ああ、そんなことは分かっている。それでも、少年は意地でも進むのだ。

 格好悪くなりたくない。格好悪い姿を見せたくない。たったそれだけの、ちっぽけで下らない理由を胸に。

 

 

「……ユーノくんは、強いね」

 

 

 なのはには唯、そんな言葉を告げることしか出来なかった。

 

 違うのだ。自分と彼は。怯えて、震えて、縮こまって、それでもなお前を向ける人。天上に輝く星々の様に、彼は輝いている。

 

 嫉妬した。羨んだ。どうしようもない程に。

 そんな風に思う自分が、歩くのが遅い自分が、どうしようもない程に嫌いになってきそうで――

 

 

「違うよ」

 

「え?」

 

 

 だから、彼の言葉は予想外であった。

 

 

「僕は強くない。とても弱いさ」

 

 

 ユーノは思う。自分はとても臆病で、一人では立ち向かえるだけの意思もない。

 何時だって嫉妬している。なのはの力に、クロノの力に、歪みの力が自分にもあれば良いのに、そんな風に思っている。

 

 けれど――

 

 

「強く見えるのは、君がいるからだ」

 

 

 だってそれは格好悪いじゃないか。足を止めるのと同じくらいに、嫉妬してるのは格好悪い。

 気になる女の子にくらい。格好良い所を見せたい。だから、ユーノ・スクライアは意地で格好を付けるのだ。

 

 

「君が居たから。優しくて温かい君が居たからだ」

 

(ああ、そっか――)

 

 

 すとんと、高町なのはは納得する想いを抱いていた。

 真剣に語る少年を見て、その言葉ではなく、その想いに共感を抱いていた。

 

 

「……男の子には意地があるんだよ。自分でも、馬鹿だって思うけどさ」

 

 

 向き合う勇気の理由にならずとも、不屈の闘志は抱けずとも、それでも同じ想いは抱けた。

 自分の想い。胸に掛かっていた靄が晴れたように、答えは考えてみれば簡単な物だったのだ。

 

 

(私、ユーノくんが好きなんだ)

 

 

 切っ掛けは何であったのか、今では定かではない。

 両面宿儺に立ち向かう姿を見た時か、あの大震災の日に身を挺して守ってくれた時か、ああけれどそんなのはどうでも良い。

 大切なのは、ただ一つ。自分は当の昔に恋に落ちていて、それを言葉にしてみればとてもすんなりと受け入れることが出来ていた。

 

 

「……ユーノくんの気持ち、ちょっとだけ分かった気がする」

 

「なのは?」

 

 

 格好付けたいという気持ち。唯の意地と言える想い。その全てが分かった訳ではない。

 ああ、それでも、大切な誰かの為に、大切な誰かの瞳に、良い所を見せたいと言うのは理解出来たから。

 

 

「きっと、同じなんだ」

 

 

 そう。同じなのだ。

 

 好きだから、隣に立ちたい。

 好きだから、守られるのではなく、傍らで歩いて行きたい。

 

 優しくて温かいと言ってくれた彼に、恥じない自分でありたいと思う。

 そんな湧き上がって来た感情と同じ物を、彼は抱いていたのであろうと。

 

 

「けどユーノくんのさっきの言葉、まるで告白みたいだね」

 

「うぇっ!?」

 

 

 そんななのはの言葉に、ユーノは目を白黒させてシドロモドロに言葉を口にする。

 羞恥に染まった赤い顔で右往左往と始める少年は、彼が語った格好良さとは無縁であろう。

 

 

「あ、えっと、そういうつもりじゃなくて、いや、なのはが嫌とかじゃないんだけど」

 

「ふふっ」

 

 

 ヘタレた言葉を口にするユーノの姿に、なのははクスリと微笑む。

 そんな情けない姿すら、可愛らしいと思える程に、嗚呼こんなにも想いは募っていたのだと。

 

 

「分かっているよ、ユーノくん」

 

「あ、え、あ、うん。分かっているんなら良いんだけど、……何が?」

 

 

 ユーノは気付いていないようだが、彼の挙動や表情は分かり易い。

 それは恋愛初心者であるなのはでも、開き直ってしまえば直ぐに分かってしまう程だった。

 

 

 

 彼の生い立ちを考えれば無理もないのだろう。

 母を知らず、父を知らず、愛された自覚がないのだ。

 だからこそ、愛するという気持ちが、恋をするという感情が分からない。

 

 実際にそういう感情を抱いていても、これがそうだと断言が出来ない。

 それでいて誠実で居たいなどと考えてしまうから、こうしてヘタレてしまうのだろう。

 

 

 

 目と目が合う距離で見つめ合う。恥ずかしそうに目を逸らす少年を、真っ赤になりながらも笑って見詰める。

 今はこのままでも良いかな、という感情と、もう少しだけ先に進みたいという感情が湧いて来る。そのどちらに従うべきか、なのはは少し戸惑った。

 

 

――と、ここで次の質問に行ってみましょう。S市在住無職のS・Yさんからのお便りです。六条さん、こんばんは。

 

――はい。こんばんは。

 

――疑問に思ったんですけど、六条さんは結婚されないのでしょうか? 岩倉さんや千種さんはご結婚なされているようですが、六条さんは結婚しないんですか、出来ないんですね。分かります。形成(笑)。やっぱり顔の差ですか? との事です。

 

――イィィィィエェェェェッラァァァァァァッ!?

 

 

 ずっと付きっぱなしになっていたラジオから、弄られ芸が売りの芸人が読者のお便りにすら弄られている声が聞こえて来る。

 そのネタ塗れの内容は、今の気分的にはどうでも良い。だがそれでも、二・三引っかかる言葉が出て来ていた。

 

 

「結婚、か」

 

 

 なのはのような幼さでは、恋愛の先に恋人があって、その先に結婚が待っているという認識しかない。

 途中にある関係や遣り取りなどは思い浮かばず、ただ新婚夫婦さながらの両親の仲の良さに憧れたことはあった。

 

 少しだけ、積極的に出てみようかと思考する。

 

 

「な、なのは?」

 

 

 目の前の彼とそういう関係になるのは、確かに魅力的だと思えたのだ。

 だから、開き直った女は強いのだと、彼に教えてあげよう。

 

 

「え、あ、う」

 

 

 無言でゆっくりと近付いていく。

 この先にどのような事をすれば良いのかは分からず、少女は唯、親愛を示す為に抱き付いた。

 

 とくん。とくん。と心臓の音が聞こえる。

 真っ赤になった少年は、今にも顔から火を噴いて倒れそうな程で、ああ、その姿に笑みが零れてしまう。

 

 

「ユーノくん」

 

「な、何、なのは?」

 

 

 本当は言われる方が良いのだけれど、このヘタレな少年は伝えなければ気付かないだろうから――その想いを伝えようと、なのはは小さく笑みを浮かべた。

 

 

「私は、君が――」

 

〈掛かったぞ! 守護騎士が!!〉

 

 

 邪魔者の通信がそこに割り込んできた。

 

 ユーノの首に下げられている簡易デバイス。通信用にとクロノが渡したそれが起動していた。

 

 

〈余り時間はない! 座標は特定しているから、カウントスリーでお前を転移させ……何だ、その目は〉

 

「……」

 

「……クロノくん。空気読んで欲しいの」

 

 

 一瞬で変わってしまった空気に、なのははジト目でクロノを見据えた。

 対してユーノは、変わった空気にほっとしたような、がっかりしたような複雑な表情を浮かべて息を吐く。

 

 そんな少年の態度に、ちょっと勇み足だったかな、となのはは己の行動を省みて。

 

 

〈まぁ、良い。……その様子なら腹は決まったようだな。付いて来るなら、ユーノに触れていろ。万象掌握で纏めて転移させる〉

 

 

 そんな言葉に頷いて、なのはは抱きしめる腕を名残惜しそうに手放した。

 

 

 

 そして一息。魔力が桜の花びらの如く中を飛び散って、寝間着から白き戦装束へとなのはの姿を変じさせる。

 

 

「……良いのかい?」

 

 

 その姿を見て取って、彼女の選択を理解したユーノは問い掛ける。

 本当にその選択に後悔はないのかと、問い掛ける声になのはは確かに頷いた。

 

 

「うん」

 

 

 恐怖はまだ残っている。守護騎士と語らう暇などないと分かっている。

 けど、それでも、此処で退くのは格好悪い。何もしないで諦めるのは、余りに格好悪過ぎる。

 

 だから、高町なのはも決めたのだ。

 

 

「女の子にも、意地はあるんだ」

 

 

 好きな人が褒めてくれた自分であれるよう、怖くても前に進むとしよう。

 月の如く優しく見守ってくれる君がいるならば、きっと怖がったままでも進んでいけると思うから。

 

 

「行こう! ユーノくん!!」

 

 

 少年へと手を伸ばす。その小さな掌を、ユーノ・スクライアは確かに握り返した。

 

 

「ああ、行こう」

 

 

 そして少年と少女は死地へと向かう。

 空間を飛び越えて、大天魔が潜むであろう戦地に進む。……そこに現れる大天魔。その正体を未だ知らずに。

 

 

 

 

 

 崩壊は直ぐ其処に、別れの時は迫っている。

 

 

 

 

 




恋愛要素はリリカル的に受けが悪いかも知れませんが、割と後半の重要な要素となるので外せません。
DiesやKKK的に、愛を知らずに大天魔に敵う訳がないので、苦手な人はまあ、我慢してくださいとだけ。


作者はなのフェイ派だが、同性愛で負ける大天魔とか想像したら涙が溢れて止まらなかったのでノーマルに。
そう言う要素は幕間編から入れる予定だったので、ぽっと出ではない方が良い。となるとキャラがクロノかユーノしか居なかった。クロノはSTSの所為でエイミィの相手というイメージが強いので、ユーノに。

メイン級の野郎が少な過ぎだろ、常識的に考えて。



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