リリカルなのはVS夜都賀波岐   作:天狗道の射干

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フローエ・ヴァイナハテン!

獣殿の鬣の一つ(志望)として、クリスマスに投下しない選択肢はなかった。……やべぇ、眠い。(本音)

作者は夜刀様超燃え萌え隊の一員で、鬣になる事を望んでいる天狗道の住人です。


推奨BGM 生贄の逆さ磔(相州戦神館學園 八命陣)


闇の残夢編第四話 夢界を行く 其之参

1.

 月村すずかは考える。この状況、一体どうすれば打破出来るか、と。

 抵抗の意志を残す少女は、何とかせねばと動かぬ体で必死に打開策を模索する。

 

 

「無駄だ。我の力に欠落などはない」

 

 

 だが無駄だ。無意味である。月村すずかは、最早逆サ磔にかけられている。

 彼女に未だ抵抗の意志がある事は知っている。その心が折れるには遠い事を知っている。未だ奪ったのはその姿のみ。与えたのは一欠けらの病みのみだ。

 その一欠けらすら、人の身には余る物だろう。ロード・ディアーチェの絶望は甘くない。だが、それでも、その程度は乗り越えられると認識していたから。

 

 ディアーチェはすずかの体を踏み付ける。全身に走る痛み。苦しめる為だけに行われる行為にすずかは嫌悪の情を抱いた。

 

 

「ほう。我を嫌悪したな。未だそんな情を持てる貴様が、我は羨ましいぞ」

 

「っ」

 

 

 嵌る。嵌ってしまう。逆サ磔が発動する。

 己を甚振る相手への嫌悪と、そんな事を考える余裕がある事への嫉妬が等価交換を成立させる。

 すずかの持つ夜の一族特有の身体能力が奪われ、そして代わりに病みの一欠けらが押し付けられた。

 

 

「ほう。今度は敵意か、我を敵として認識したな? 今更ながらにそう思考するその愚鈍。で、ありながらも平然と生存出来る恵まれた貴様が我は羨ましいぞ」

 

「――っ!? ――ぁ」

 

 

 掠れた声で悲鳴を上げる。一欠けらですら致死の病。病みの欠片が更に増やされ、すずかは魔法の力を奪われる。

 

 

「さあ、もっとあるだろう? ほら、さっさと出せよ、蝙蝠が! 貴様など、その為だけに生きているのであろうよ!!」

 

「っ」

 

 

 怖い。言葉も語れぬすずかは、唯、その少女の姿をした絶望に恐怖を抱き。

 

 

「今、恐怖を抱いたな?」

 

 

 嵌ってしまう。

 

 

「我はお前が羨ましいぞ」

 

 

 その逆十字からは逃れられない。

 

 

「だから、その輝きを寄越せ」

 

 

 月村すずかは奪われ続ける。

 

 

 

 

 

 生死之縛・玻璃爛宮逆サ磔。害意を抱く者。負の感情を消せぬ者は、逃れる事など出来はしない。

 一度抱いた感情は消せない。一度抱いた興味は消えない。そして羨まれる物がある限り、逆サ磔の簒奪は終わらない。

 

 一度嵌れば決して逃れられない。

 立て続けに、矢継ぎ早に、全てを奪われるまで終わらない。

 

 

「さて、そろそろ呼吸も辛くなってきたか? ……ああ、良いぞ。我だけが苦しむなど理不尽であろう? なぁ、お前も苦しめよ、蝙蝠よ」

 

 

 闇統べる王は脱力したまま両手を軽く広げる。

 その様はまるで十字架にかけられた聖者の如く。その背に無数の十字架が浮かび上がる。

 だが、そこに浮かぶは教えに反する逆さの十字。その顔に張り付いた醜悪な笑みは、殉教者の物では断じてない。

 

 

「そうして、その果てに逆十字にかかる犠牲の一つとなるが良い」

 

 

 背に負うは背徳の逆十字。その十字架にかけられるは木乃伊の如き犠牲者の姿。それが刻一刻と増えていく。

 

 

「これでも、お前には感謝しているのだ、蝙蝠よ。……夜天の屑めは、先程から我の邪魔ばかりしおってな。どうにも眠る者らを奪えんかったのだ」

 

 

 ディアーチェは無意味に倒れていた訳ではない。彼女はこの夢界に眠る者らから輝きを簒奪して、自由に動く体を得ようとしていた。

 だが出来なかった。真面に動く体はなく、振るえる力は逆十字唯一つ。不完全なまま廃棄された絶望の廃神は、夢の眷属ならば誰もが行える夢界への干渉すら不可能だった。

 

 そんな不完全な彼女では、夜天が眠らせる者らに影響を与える事すら出来なかったのだ。

 

 

「だが、お前のお蔭で奴の干渉から逃れる術を得た。お前の魔力を奪った事で、我は漸く奴を苦しめる事が出来る」

 

 

 故に月村すずかから体と魔力を奪い取り、漸く夢界に干渉できるようになったディアーチェは、鬱憤を晴らすかのように眠る者らを次から次に十字架へとかけていく。

 

 

「故に褒めてやるぞ、蝙蝠。役に立つな、良いぞ、その調子でもっと我の役に立てよ、塵芥」

 

 

 磔にされた者らを嘲笑い、救うべき者らを奪われてなお気付けない夜天を無様と哂う。己の苛立ち。その捌け口として無辜の民らから簒奪する。

 

 悲鳴が上がる。絶叫を上げている。逆さの十字架に磔にされた犠牲者達が、痛い痛いと泣いている。

 そんな絶望の狂騒曲。悲鳴が奏でるオーケストラを耳にして、闇統べる王は醜悪な笑みを浮かべる。

 

 別段、恐怖が好きな訳ではない。憎悪や悲鳴に聞き惚れるような悪趣味はしていない。その点、彼女の感性は実に人間的だとすら言えるであろう。

 

 唯、気に入らないのだ。理不尽に感じるのだ。

 

 何故、我より劣る貴様達が、当たり前の如くに健康を享受している?

 何故、我程に生きたいと願う存在が、こうも糞の様な体を持って死に瀕していなければならぬのだ。

 我程に生に真摯でない貴様らが、何の努力もせずに生きる事を甘受していられる。その理不尽が気に入らない。

 

 羨ましいぞ。憎らしいぞ。だからこそ、闇統べる王は無辜の者らを苦しめる。そうすれば、僅かとは言え気が晴れるから。そうすれば僅かとは言え、死病の量が減っていくから。闇統べる王はすずかから奪う片手間に、夢界に眠る者らからも簒奪を続けている。

 

 これぞ逆十字。これぞ逆サ磔。残虐非道。悪逆無道。この少女は嘗て目にした氷村遊と同じく外道の類だ。

 そうなるのが当たり前だろうと犠牲者を増やし続ける絶望の廃神は、何かが致命的なまでにズレている。

 

 言葉も喋れぬ程に疲弊したすずかは、その病みに体を苛まれながら思う。

 病に苦しみながら、その身を少女に踏み躙られながら、熱に浮かされた思考で判断する。

 

 これは放置していてはいけない怪物だ。放っておけば、全てを奪い去るであろう。

 例え死病の全てを癒せたとしても、もっともっととその欲が満ちる事はない。何もかもを奪い去る悪逆無道は、その果てに何もかもを台無しにしてしまう魔人である。

 

 そう。すずかの目には映っていた。どうしようもなく救われない怪物であると、映っていた。

 だと言うのに――少女の容姿をした怪物は、たった一つの念話でその表情を変えたのだった。

 

 

「……む。レヴィ、か? 全く、何の用だと言う。今は忙しいのだぞ。……この蝙蝠が所詮は雑魚に過ぎんとは言え、我は暇ではないのだ」

 

 

 同胞からの念話。忙しいと語りながらも、己を頼る仲間の存在に相好を崩す。

 

 

「何? チェスのやり方だと? 何故、我に聞くのだ。……金髪の塵が意地悪して教えてくれない? ……後で逆十字にかけておくか」

 

 

 その口調は不機嫌である、その表情は苛立ちを浮かべている。

 だがそこに隠し切れない程の嬉しさが滲んでいる事は、高熱で真面に思考出来ない月村すずかにすらもはっきりと分かる程に濃厚だった。

 

 

「まあ、低脳な貴様にも分かるように簡単に教えるとだ。六種類の駒を使って、相手の持つ王の駒を奪い取るゲーム。それがチェスだ。六種それぞれに動かし方があってな」

 

 

 律儀に説明する少女は見た目相応。親しい友人や家族と談笑する当たり前の少女の如く、故にこそ先の非道が異常に映る。

 

 

「と、待て! 我はまだ説明を終えておらんぞ! 基本的には定石と言うべき動かし方があってだな、その中から相応しい行動を選択するのが――と良いから聞けよ、阿呆が!!」

 

 

 一方的に語り掛けて来て、一方的に念話を断ち切るレヴィに、ディアーチェは怒鳴り付ける。

 大声を上げた事で気分が悪くなり吐きそうになるが、続くレヴィの言い残した言葉に吐き気も忘れて表情を変える。

 

 

「はぁっ!? 王さま大好きだと!? ふざけておるか貴様!!」

 

 

 顔を真っ赤にして少女は怒鳴る。だがそこには嫌悪感も忌避感も存在せず。

 

 

「全く。……あの馬鹿は全く」

 

 

 本当に何処か嬉しげに呟く。その表情は、その感情は、先の外道性など欠片たりとも残っていない程に、当たり前の人としての色を映していたから。

 

 

(……ああ、気に入らないなぁ)

 

――ああ、気に入らねぇなぁ。

 

 

 珍しく、彼と意見があった。

 

 

「……何?」

 

 

 残骸と化した筈の少女から瘴気が漏れ始める。

 其は二大凶殺。内にある魂より引き出される力。大天魔の一角に或いは成り得る白貌が、絶対の自信と共に誇るは血染花。

 両者の合意によって生み出されるそれは、最早運気の簒奪などでは留まらない。過去にない程に高まった力は、そんな物を奪うだけでは終わらない。

 

 

「我から、奪うか!?」

 

 

 その瘴気が暗闇を生み出す。周囲を飲み込み、霧で満たしていく。

 それは未だ、薔薇の夜には届かぬだろう。それは未だ、天魔・血染花に変じることはない。

 

 されど忘れるなよ、逆十字。これは正しく、神格域に至らんとする白貌の吸血鬼の断片だ。

 その夜は未だ完成には至らぬが、それでも貴様の病みを重ねた程度で、釣り合うとは思わぬ事だ。

 

 

「……気に入らないなぁ。気に入らないよ。貴女」

 

 

 月村すずかが立ち上がる。まるで木乃伊の如くに変じていたその姿が、生命と魔力の収奪によって復元されていく。

 

 

「誰かを大切に想えるのに。誰かを想って笑えるのに。……ああ、どうして、そんなに誰かを嘲笑えるの?」

 

 

 その姿を見て、恐怖も怯懦も、全てが怒りへと変じていく。

 貴女が逆十字にかけた人々にも、貴女の様に大切に想う誰かが居ただろうに、それが分かる感性をしていて何故そうなのだ、と苛立っている。

 

 二大凶殺によって、ディアーチェから奪われた物を取り戻しながら、月村すずかは言葉を紡ぐ。

 

 

「蹂躙される痛みが分からない筈はない。それが分からないとは言わせない。……この身を侵す死病が教えてくれるよ。これに耐えている貴女が、痛みを知らない訳がない!」

 

 

 だから気に入らない。だから気に食わない。

 

 

「痛みが分かる貴女が、誰かを大切に想う貴女が、どうして誰かの大切を奪えるの!?」

 

 

 痛みを知る筈の少女が、唯の八つ当たりとその場凌ぎで他者にそれを押し付ける事が。

 誰かを大切に想える少女が、唯の八つ当たりとその場凌ぎで他者のそれを奪える事が。

 

 どうしようもなく許せない。

 

 

「覚悟して、ロード・ディアーチェ! 貴女の八つ当たりで、そんなちっぽけな絶望で、等価になる程に彼の魂は安くない!!」

 

 

 奪い。奪い。奪い続ける。

 その身に宿す絶望の病みを、八つ当たりで解消出来る程にちっぽけなのだと罵倒して、月村すずかはロード・ディアーチェから奪い取る。

 

 

「我の絶望が、軽い? この病みが等価に足りぬ?」

 

 

 対するディアーチェもまた、その発言に怒りを抱く。

 

 

「我の家族を想う情が、塵芥のそれと同等だと?」

 

 

 この身を侵す死病の山。唯一欠けらですら人を殺すそれが、白貌如き神格に至らぬ魂にすら及ばないと言うのか。

 我と共に生まれた大切な姉妹。それが唯人の持つ下らない塵屑と同じだと言うのか。ああ、何たる不敬か。許せないぞ、この塵は。

 

 

「ふざけるなよ! 良くも吠えたな、蝙蝠が!!」

 

 

 逆サの磔は発現している。月村すずかは未だその十字架から逃れられてはいない。

 故にそう。彼女の発言を否定するならば、その結果で示すとしよう。我が病みの全てで持って、その力を支える根源たる魂を奪い取ろう。

 

 ここに、簒奪者同士の奪い合いが始まった。

 

 

 

 

 

2.

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 裂帛の気迫と共に、黒き塊が轟と音を立てて飛翔する。

 形成された闇の賜物。全身から無数の杭を生やしながら、黒き瘴気を生み出し続ける少女は魔法の力で駆け抜ける。

 

 其は簒奪の怪物。全てを奪い去る吸血鬼。

 その力は薔薇の夜には届かねど、確かな脅威として存在している。

 

 大気が歪む。空気が淀む。黒き瘴気に侵された光景は、宛ら霧に沈む街の如く。辺り全てを染め上げていく。

 二大凶殺。白貌と少女の意志が一致している今、最大限に効果を高めているその力は、黒き霧に触れた万象全てを簒奪する。

 

 近付けない。近寄れない。黒き瘴気の根源たる少女は今、死を齎す暴風と化している。

 敵手の生命を奪い取り、周囲に満ちる魔力を暴食し、疾風怒濤に攻め立てる月村すずかは最早災厄の権化だ。

 

 黒き怪物が赤き瞳で敵を見定める。闇の奥底から這い出してくるその姿は、正しく怪物。その針鼠の如き身体は、掠り傷一つを致命傷へと変えるだろう。

 少女は止まらない。最早止められまい。どれ程に命を奪われようとも、どれ程の傷をその身に刻まれようとも、敵手から生命力を奪い続けて再生する。この黒き霧は吸血の霧故に、それに触れる者が居る限り、月村すずかに限界などは訪れない。

 

 病に侵された体。夜の一族の身体能力を奪われた体。

 そんな事すら関係はない。大気から喰らい続けている高町なのはの魔力を使って、月村すずかは爆発するかのような速度で襲撃を繰り返している。

 その速度は戟法の迅と魔法による二段強化されたディアーチェすらも上回る。迫り来る吸血鬼という脅威を前に、闇統べる王は何ら有効打を打てていない。

 

 ならば、この戦いは月村すずかの圧勝で終わるか。否。

 

 

「舐めるなよ、蝙蝠風情が!!」

 

 

 接近は死を意味する。その暴風は命を奪う。だが、それが何だと言うのか、闇統べる王はその程度では打ち破られはしないのだ。

 咒法の射と散。魔法杖エルシニアクロイツより放たれる無数の魔法。それら一撃一撃が確かな威力を有している。唯の一撃で地を抉り、大気を震わせる魔力の群れが吸血鬼の少女を易々とは近寄らせない。

 

 

「紫天に吠えよ、我が鼓動、出よ巨重ジャガーノート!!」

 

 

 五つの魔法陣より放たれる暗黒の力。降り注ぐそれらが齎すは破壊の一撃。全てを消し飛ばさんとする大爆発。

 無論、それで白貌を得た少女が落ちる訳ではない。その程度で倒せる程、血染花は甘くはない。だが――

 

 

「近寄れんよな。近寄らせはせんぞ。不敬な塵芥め、このまま嵌め殺してやろうぞ」

 

 

 その破壊は確かに少女の足を止めるに足る。その疾風怒濤を一手遅らせるには十分だ。故にその一瞬の隙を突いて、戟法の迅と身体強化を合わせた二重の強化でディアーチェは距離を確保する。

 

 一歩では覆せない距離。両者との間にある距離は、一手打つだけでは変わらない。

 今の月村すずかに複雑な魔法は使えない。魔法を使う才。それ自体を奪われている彼女では、簒奪し続けている魔力を爆発させて飛翔するような単純な扱い方しか出来ない。

 

 時折形成した杭を射出してはいるが、ディアーチェはそれを危なげもなく迎撃する。吸精の杭が届かない。

 故にこれはディアーチェの距離だ。常に距離を取り、逆転の隙を与えぬと一方的に攻め続ける絶望の廃神を、打ち破る為の手段をすずかは持ち得ない。

 

 

「舐めるなってのは、こっちの台詞よ!!」

 

 

 そんな一方的な戦場において、月村すずかも蹂躙されるだけでは終わらない。

 距離を取れば簒奪から逃れられる? 一方的に攻撃出来るから己が勝利する? 愚かな、血染花は既に貴様を捉えている。

 

 

「侮らないで! 舐めるのも大概にして!!」

 

 

 放たれた咒法が失速する。生み出された魔法の力が枯渇する。己の霧に触れた物を、何であれ喰らい尽くす暴食の力は、迫り来る形なき力に対しても有効だ。

 遠距離射撃では決定打には成り得ない。どれ程攻撃を与えようと、吸血鬼にとっては糧としかならぬだろう。

 

 絶殺となるは黒き霧の中枢。月村すずかの五体に触れた者のみ。その周囲は必殺には届かず、その霧に触れただけでは全てを奪われるには遠い。

 だが、それでもディアーチェはその霧の影響を受けている。即死に至る程ではないが、常に生命力を簒奪され続けている。

 

 距離を取ったから、相手に触れていないから、その程度で防げる程、血染花は甘くはないのだ。

 

 

「ちぃっ」

 

 

 舌打ちと共に、逆十字は簒奪の力で奪われた生命力を補填する。

 奪い取る対象は月村すずか――だけではない。その力が及ぶのは、夢界にて眠る者全て。

 その満たされた夢を悪夢に変えて、己への憎悪を引き出させる。そんな満たされた者らを羨ましいと妬んで、その力を奪い取る。

 

 輝きと病みの等価交換。逆十字は己に興味を抱く者ならば、全て同時に効果対象とする事が出来る。

 その力。発動の速さと連続性においては、並ぶ夢などありはしない。吸血鬼の簒奪の霧が己の全てを奪う前に、奪われる分以上に己が奪う。

 

 

「貴女は、間違っている!」

 

 

 他者の命を奪い。無辜の者らを傷付け、そうして己に追従する逆十字をすずかは否定する。

 

 

「傷付く痛みを知っている癖に! 大切な想いが分かっている癖に! 誰かを平然と傷付ける貴女は、絶対に間違っている!!」

 

 

 そんな月村すずかの言葉に返されるのは、血反吐交じりの否定の声だ。

 

 

「何が間違いと言うか!!」

 

 

 血反吐を吐きながら、言葉と共に己の身体を壊しながら、死病に侵された少女は渇望を口にする。

 

 

「生きたいのだ。我は真面な体で、当たり前の如くに生きたいのだ!」

 

 

 作り物だから、夢より生まれた悪夢だから、そんな事はどうでも良い。己は生きたいのだ。唯、当たり前に生きたいのだ。

 それを邪魔する者らが許せない。我のこんな体が気に入らないのだ。

 

 

「生きたいと言う願いに、善悪などある物かよっ!!」

 

 

 それは切なる叫びだ。どこまでも真の想いが籠った。絶叫に似た叫びである。

 

 

「あるよ!」

 

 

 そんな渇望から生まれた叫び声を、すずかは真っ向から否定する。

 

 

「誰もが生きたいと願っている! 誰もが死ぬ事なんて望んでいない! 生きる為に、そんな誰かを犠牲にするのは間違っている! そんな祈りを、自分と同じ祈りを潰すのは、間違いなく悪なんだ!!」

 

 

 誰かを大切に想える貴女なら、それが分かる筈でしょう。

 そうすずかは言葉を続ける。当たり前の表情を見せた少女が、鬼畜外道である事が気に入らないから、月村すずかは怒っているのだ。

 

 

「はっ、我の願いを貴様らと同等と言うか! 我の家族を貴様らと同等と言うか! 一緒にするなよ、不快なんだよ! そも、生きる為に犠牲を生み出すのは、貴様らとて同じであろうが!!」

 

 

 食事をした事がない人間などいないであろう。命を奪った事がない人などいないのだ。

 一寸の虫にも五分の魂。どんな命にも価値があると語るのは貴様ら人間であろう、と闇統べる王は語る。

 豚や牛と言った家畜を屠殺し、草花や果実と言った自然の命を簒奪し、そうして己を保つのが人と言う種であろうとディアーチェは語る。

 

 

「我にとっては貴様らがそうだ。貴様らなど糧でしかない。……生きる為に必要なのだ! この病みを薄める為には必要なのだ! 奪わなければ苦しいのだ!!」

 

 

 与えられた痛みに耐えられない。押し付けなければ自分が苦しい。何故、己だけが苦しいのだ。何故貴様達は安穏としているのだ。何故、我は、こんなにも下らないのだ。

 

 

「我は望んで外道である! 我の邪悪さなど、我が一番分かっておるわ!!」

 

「分かっていてそれだから、貴女は間違っているんだよ!!」

 

 

 奪い合う。奪い合う。簒奪者は互いに奪い合う。

 月村すずかは届かない。一気呵成に苛烈な襲撃を繰り返す闇の怪物は、その手を届かせる事が出来ていない。

 

 ロード・ディアーチェは月村すずかを殺し切れない。生半可な攻撃は糧にしかならず、しかし何もしなければ追い付かれてしまう。触れられれば終わる。その一手が致命傷に至る。故に均衡が崩せない。

 

 

(埒が明かぬ、か)

 

 

 無限に続くかの如き奪い合いの均衡の中で、ロード・ディアーチェは思考する。

 気に入らぬ事ではあるが、現状不利なのは彼女である。闇より迫る吸血鬼に対して、このままでは敗れ去ると自覚する。

 

 無尽蔵に奪い続ける二大凶殺に対し、あくまでもディアーチェの逆サ磔は等価交換だ。交換すべき病みは無数にあり、尽きる事はないように思えるとは言え、どこまでいっても有限なのだ。

 病みが消えていく。押し付ける病みが失せていく。それ自体は喜ばしい事ではあるが、現状の戦いにおいては別である。

 

 病みが尽きれば逆サの磔は成立しない。どれ程病みを押し付けられようと糧とする怪物が居る現状で、病みが尽きれば敗北が待っている。

 

 

(それに、それだけでもない)

 

 

 両者の奪い合い。その簒奪の被害を最も強く受けているのは彼女らではない。この夢界そのものだ。

 夢見る者らを簒奪して減らしているディアーチェ。夢界を構成する魔力を食い荒らしているすずか。両者の暴威を夢界は一身に受けている。このまま行けば、遠からず夢界は崩壊を迎えるであろう。

 

 夢に支えられた悪夢である廃神は、夢見る者がいなくなれば消えてしまうのだ。そうでなくとも、夢界の維持に異常を来たす程に奪ってしまえば、壊れた夜天とて流石に気付く。

 ディアーチェを正しく認識出来ないが故に、夢界を揺るがすこの戦いも認識出来ていない夜天だが、流石に界の崩壊にまで至れば何等かの手を打ってくるだろう。それがディアーチェにとって喜ばしい結果に繋がると考えるのは、楽観が過ぎると言う物だ。

 

 

「なぁ、吸血鬼。お前は今まで食した食事の数を覚えているか?」

 

「何を!」

 

 

 故に、ディアーチェはここに、現状を動かす為の一手を打つ。

 

 

「何、貴様らは人の生き血を糧とするのであろう? そら、我と同じく、人を糧とする生き物であろう?」

 

 

 人の生き血を糧にしなければ生きられない。そんな貴様に己を罵倒する権利などある物か、とディアーチェは嘲笑う。

 豊富な資金で購入した輸血パックだから。直接人を吸い殺した事は無いから。そんな物は言い訳にすらなりはしない。

 

 輸血パックとて、本来は重症患者の為に用立てられた物だ。血液が不足している者の命を救う為に必要な物だ。

 月村すずかの吸ったその一滴が、他の誰かの命を救う筈だった。それを奪った結果、誰かの犠牲を生んでいる可能性を、何故に否定出来ようか。

 

 仮に吸血が日に一度だとしても、一年で365回。それだけの血液を吸っている。それだけの量を、夜の一族は消費している。

 

 己の伴侶の血を吸う。それだけで済むならば、他者に迷惑を掛けないと言えるだろうが、それだけで済むとも思えない。

 人が一日で作れる血液量はそう多くはない。その血液とて、無駄に作られている訳ではない。連日連夜のように吸血され続ければ、当然体調は異常を来たす。

 

 一日二日、一月程度で変化はなくとも、数年も続けば悪影響は必ず現れる。

 そうでなくとも、大怪我を負うなり、体調を崩すなり、何等かの要因によって伴侶の血が吸えなくなればどうするか。

 

 己の命を伴侶に捧げる。それは確かに美談だが、恐らくはそうはなるまい。

 誰だって、身内の方が可愛いのだから。奪っている自覚のない行為に流れるのは、まあ自明の理と言えるであろう。

 

 

「吸血をせねば生きられぬ寄生虫。そんな貴様が我を罵倒するのは滑稽だぞ。……お前はこれまでに、どれ程の命を犠牲にして来た」

 

 

 愛しい人を殺すよりは赤の他人を、赤の他人から直接吸うよりは実感の湧きにくい輸血用の血液を、安きに流れているとは言え、確かに月村すずかは誰かを犠牲にして生きている。そんな彼女は、ロード・ディアーチェと何が違うと言うのであろうか。

 

 

「私は……」

 

 

 ロード・ディアーチェによる揺さぶり。月村すずかの心を丸裸にして、その内面の傷を抉る行為。

 それに傷付けられたすずかは、その力を揺らがせる。その力が揺らいだ事により、拮抗していた奪い合いは逆十字へとその天秤を傾ける。

 

 それが彼女の打たんとする現状を打破する一手。それこそがロード・ディアーチェの勝利の布石――ではない。

 

 

「そんな貴様に、我が馳走してやろう」

 

 

 そんな物は唯の余禄だ。この少女を破る為の策を使うまでの時間稼ぎ。好き放題言ってくれた彼女への、苛立ちをぶつけただけでしかない。彼女が真に狙っていたのは、そんな物ではなく。

 

 

「顕象。高町士郎!」

 

 

 御神不破が秘剣。薙旋。高速四連の斬撃が、月村すずかの体を四つに引き裂く。

 戦闘者としての一面のみを抜き出された男は、何ら躊躇を見せる事もなく、命を奪う剣を振るう。

 

 

「顕象。綺堂さくら!」

 

 

 人狼の女が拳を振るう。その強烈な打撃は切り裂かれたすずかを打ちのめす。

 他者を害する。排他的な一面のみを抜き出された女は、身内であろうと関係なしに暴威を振るう。

 

 己の身体を再生させながら、血縁のある叔母を吸い殺さんとする己の力を抑えながら、月村すずかは何も出来ずに殴られ続ける。

 

 

「顕象。神咲那美!」

 

 

 真威・桜月刃。若き少女、神咲那美が振るうは退魔の秘剣。神咲一灯流。

 悪霊、化外を討ち滅ぼす為に生み出された破魔真道剣術は、怪異に堕ちたすずかには極めて特攻。

 その身を焼き尽くさんとする斬撃に、少女は苦悶の声を上げる。吸収した生命力では癒せずに、滅んでしまった体を切り捨てる。

 

 

「ほう。まさか食わんように抑えるとは、……折角我が用立てた馳走だぞ? そんなにも身内は口に合わんのか? 知り合いを食うのは心が痛むか? 滑稽だなぁ、ええ、蝙蝠よ」

 

 

 背に負う逆十字に掛けられた木乃伊が動く。解き放たれるは、一面の感情のみを増幅させられた犠牲者達。偽りの殻を与えられ、今一度動き出すは逆十字の操り人形。

 夢界に囚われた魂がその内にある。その身を跡形もなく食い荒らせば、内にある魂すら食われるであろう。痛い痛いと逆十字に囚われた人々を、月村すずかが食い殺してしまうのだ。

 

 

「食い殺してから教えてやろうと思ったのに、ああ残念だな。我の算段が崩れてしまったではないか」

 

 

 笑う。笑う。嘲笑いながら口にする。その声には、言葉程に惜しむ色はまるで見えない。

 

 

「まぁ、良い。耐えると言うならば、耐えてみせよ。その力もなしに、我に抗えるかどうか示して見るが良い」

 

 

 嘲笑う王の声は届かない。月村すずかは外界に意識を向ける余裕がない。それは、己の内で荒れ狂う彼を封じねばならぬから。

 

 

「やめて! ヴィルヘルム!!」

 

 

 白貌の吸血鬼は怒り狂っている。月村すずかとの相性が良すぎるが故に、彼女の痛みを共感している彼は、ロード・ディアーチェを殺させろと猛っている。

 

 彼にしてみれば、操られた者らに価値などはない。その死を避ける為に力を抑えるなど慮外の行為だ。

 故にその暴威を振るわんと力を増し、それを何とか抑えようとするすずかは手も足も出せずに身動き一つ取れなくなる。

 

 

「はははっ! 良いぞ、そのまま八つ裂きにされてしまえ! 我に歯向かった不敬。その首級を持って贖罪としてやろう、なぁ、吸血鬼!」

 

 

 致命的に食い違う。内と外の同調は外れ、月村すずかの快進撃はここで終わる。その身を引き裂かんと、糸に操られた傀儡達はその凶刃を振るった。

 

 

 

 引き裂かれ、八つ裂きにされ、逆十字に奪われる。

 今までストックしていた生命力と魔力を駆使して何とか命を繋ぐが、それももう持たぬであろう。再生速度が落ちている。命の終わりが見えていた。

 

 

――おい。メスガキ。……てめぇ、何でここまでする?

 

 

 荒れ狂っていた内なる白貌は、そんなすずかの行動に疑問を零す。

 

 

――どうせ他人だろうが。自分以外なんてどうでも良いだろう? 俺らは所詮畜生だ。

 

 

 それは白貌が少女に抱いた、初めての興味。どこまでも自分に似通っているから、嫌悪しか抱けなかった相手が見せる、自分とは違う一面への興味であった。

 

 

「……私は、この血が嫌いだ」

 

 

 そんな問い掛けに、すずかは呟くように答えを返した。

 

 ディアーチェの行為に苛立ったのは、あそこまでの怒りを覚えた原因はそれである。

 当たり前の感性を持ちながらも、奪う事に開き直っているディアーチェを、奪う事に嫌悪を抱いている月村すずかは受け入れられない。

 同じなのに、どうしてそう外道であろうと出来るのか、そんな姿が汚らわしくて、同時に何処か羨ましい。そんな想いを抱いてしまうからこそ、あの少女が気に入らなかった。

 

 

「私は畜生。この血も、この血族も、皆無くなってしまえば良いと感じてる」

 

――そうだな。どうしようもねぇ程に、俺達は畜生だ。

 

 

 己の内に眠る白貌の願いに共感する。

 己の身体を流れる不浄の血。全て入れ替えてしまえば真面になれるとすれば、ああ、確かにそう動いてしまいそうになる。

 

 

「けど、心まではそうありたくないんだ。中身まで、畜生にはなりたくない!」

 

 

 その内にある白貌の記憶を垣間見ているから。こんな畜生を受け入れてくれた友人が居たから。

 ああ、だからこそ月村すずかは、その一線だけは譲りたくないのだ。

 

 

「だから、ヴィルヘルム! 貴方は要らない!! 心まで畜生にならない為に、この病みは、私自身で乗り越える!!」

 

 

 切り裂かれながら、打ちのめされながら、それでもそんな言葉を口にするすずかに、畜生ではなく騎士に成りたかった男は何か思う所でもあったのか。

 

 

――そうかよ。……なら、好きにしろや。負けたら承知しねぇぞ。

 

 

 白貌は眠りに就く。内で暴れる者を抑え付けた少女は、漸く外へと駆け出した。

 

 

「力を封じる? それは愚策だぞ、蝙蝠」

 

 

 そんな決意を闇統べる王は嘲笑う。血染花を封じれば、最早何も出来んだろうと。

 

 確かに愚策であろう。確かに採るべきではない選択だ。

 白貌の力を封じた今、最早すずかは簒奪が行えない。今あるストックを使い切れば、その時点で何も出来なくなる。

 逆十字を防げない。その身を侵す死病を、残されたストックを奪う異能を、何一つとして防げずに受けるであろう。

 

 嫌悪感は崩せない。認めないと言う感情は揺るがない。逆十字からは抜け出せない。けれど――

 

 

「貴女は、逃げたんだ!」

 

 

 月村すずかは奪われながらも前に進む。

 

 

「開き直って、自分はこうだと決めつけて! そうなりたくないのに、罪悪感から目を逸らす為に己は邪悪と定義した!!」

 

 

 己を壊す死病の群れに、痛みに震えながらも一歩を進む。

 私は捨てたくない。何も出来ずとも、何も変わらずとも、この罪悪感だけは捨てたくない。

 

 だって、これさえも捨ててしまえば、中身まで怪物になってしまうから。

 

 

「そんな人に、私は負ける訳にはいかない!!」

 

 

 啖呵を切る。退いてはならぬと己に宣するように、このあり得たかもしれない己自身には負けられぬのだと。

 己の心に不敗を誓って、月村すずかは走り出す。諦めて心まで怪物となった少女に、怪物として生まれても、心だけはそう有りたくない少女は立ち向かうのだ。

 

 

「ちぃっ! やれ、傀儡共!!」

 

 

 己に迫るすずかの気迫に気圧されて、ディアーチェは己の傀儡に命ずる。その身を八つ裂きにせよ、と彼らに命じる。

 

 

「……なぜ、動かぬ!?」

 

 

 だが動かない。傀儡達が動かない。

 彼らは奪われた魂を核に再現された人形。一面のみを肥大化された脅威。だが、それでも中には魂があるのだ。彼ら自身が其処にいるのだ。

 だから、この輝きを見せた少女に対して、どれ程傷付いても自分達を食おうとはしなかった少女に対して、彼らが動く筈がない。

 

 

「役に立たん屑がぁっ!」

 

「ロード・ディアァァァァチェッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 気圧されたほんの僅かな時間が、傀儡達の全霊の抵抗が、その一歩が届かせる。

 残った全てのストックを己の強化に回して、その拳を振り被る。

 

 

「これで、終わりっ!!」

 

 

 勝負を決める渾身の一撃が。月村すずかの全霊の一撃が、闇統べる王へと迫る。

 その身を死病に侵され、動くだけでも辛いだろうに、血反吐を吐きながらも拳を振るう。

 

 

(躱せぬ!?)

 

 

 その拳は吸い込まれるように、ディアーチェを仕留めんと放たれて――届く前に、業火が少女を焼き尽くした。

 

 

 

 

 

3.

「……っ。なに、が」

 

 

 何が起きたのか分からない。何が起こったのか分からない。

 唯分かるのは、赤熱した大地の熱さと、己の半身が失われた事で感じる空虚さのみ。

 下半身が灰となった。腰から下が焼け落ちた。炎に焼かれてうつ伏せに崩れ落ちて、残ったのは死病に侵された上半身のみ。

 

 命のストックを使い切ったすずかではもう癒せない。

 分かる事実はそれだけで、どうしてそうなったのかが分からなかった。

 

 

「分からんか。ならば教えてやろう」

 

「がっ!?」

 

 

 残った体が蹴り飛ばされる。血反吐を吐きながらすずかは仰向けになり、それを見た。

 

 偽りの海鳴市が焼かれている。天すら焦さんと言う業火に焼かれ、その大地は炎に蹂躙されて、街は原型も留めてはいない。

 咆哮を上げる巨人が居る。肉を固めたような醜悪な巨人は、その圧倒的な力によって周囲全てを蹂躙している。

 

 シュテル・ザ・デストラクターは三千人を継ぎ足した巨人だ。その身は三千と言う同一人物の集合体であり、個でありながら群でもある怪物である。

 彼女はユーノを見詰めている。その意識の九割以上は、ユーノ・スクライアだけに注がれている。だが、それでも僅かには同胞の事を気に掛けている。意識の一パーセントに満たずとも、その程度には心を配っている。

 例え一パーセントとは言え総数が三千ならば、それは三十人のシュテルが常にレヴィやディアーチェを監視しているのと同意だ。故にこそ、シュテル・ザ・デストラクターが仲間の危機を見逃す筈はない。

 

 

〈これは貸しですよ。ディアーチェ〉

 

「ああ、分かっているさ。シュテル」

 

 

 愛する男との逢瀬を邪魔されたシュテルはそんな言葉を口にして、分かっているさとディアーチェは返す。

 一対一ならば負けていただろう。その敗北を確信して、故にこそディアーチェは笑う。

 

 

「ああ、我は良い仲間を持ったよ」

 

 

 外道の笑みではなく、当たり前の少女のようににっこりと微笑む。

 そうしてディアーチェは、笑顔のままエルシニアクロイツを振り下ろした。

 

 

「ではな、月村すずか」

 

 

 ぐしゃりと音を立てて、まるで熟れた柘榴の様に、すずかの頭は飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 




○一発ネタ

 闇統べる王は脱力したまま両手を軽く広げる。その様はまるで十字架にかけられた聖者の如く。その背に無数の十字架が浮かび上がる。

 だが、そこに浮かぶは教えに反する逆さの十字。その顔に張り付いた醜悪な笑みは、殉教者の物では断じてない。


「荒ぶるセージのポーズ!!」


 闇統べる王は、ドヤ顔でそんな言葉を口にした。




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