リリカルなのはVS夜都賀波岐   作:天狗道の射干

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今回は珍しく短め。……短め?

今話文量は一万字ちょい。
最初は八千字程度を目指していたんだよなー(遠い目)


今回は魔改造キャラが複数出ます。
年齢すら変わっている人物が居ます。


終焉の絶望編第一話 神の半身

1.

 空に大輪の華が開く。満開に咲く桜が如き光の華は、確かな破壊の威を伴って目に見える空全てを蹂躙する。

 

 其は破壊の光。其は極大の砲撃。無数に、縦横無尽に、空を鮮やかに染め上げる光に隙間などはない。

 

 一撃を受ければ、等と言う話ではない。その光、僅かに掠っただけでも命を奪うであろう。そう思わせる程の脅威が其処にあった。

 

 対するは雷光の如き軌跡。ジグザグと、下から上へと走り抜ける閃光は、桜色の輝きを切り裂き立ち昇る。

 

 其は正しく異常。神業所か理不尽の極みとも言うべき悪魔の技術。全てを消し去る砲火を切り裂きながら進むは槍を構えた男である。

 

 男は飛べない。男に飛行適正はない。だと言うのに、そんな道理など知らぬと言わんばかりに槍を構えた男は空中へと突進を繰り返す。

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 貫くのだ。我はこの一撃にて、意思を貫くのだ。その想いの妨害になる物など、我には一切不要である。

 

 この桜色の砲撃を切り裂く一撃も、何もない空中を足場に行われる突進も、体に触れた砲撃を消し去る力場も、全ては己の意志を貫く為にある。

 

 貫く為の邪魔になる物など不要。ならば彼の歪みは正しく条理を覆す。この男の突進は止まらない。

 

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 対する少女もまた、理不尽の極みと言えた。

 壮年の男の半分も生きていないであろう、十代前半の少女が杖を振る度に空が桜の色で染め上げられる。

 

 降り注ぐは魔法の雨。その雨の滴は一滴ですら、核弾頭数発分の威力を伴っている。防げる道理はない。躱せる余地はない。

 

 男の歪みがその条理を覆すと言うならば、彼女の異能はその無理を破綻させる。

 

 

「ぐっ、ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 

 傷付く。傷付いて行く。槍を振るう内はあらゆる干渉を跳ね除ける乾坤一擲の一撃が、しかし降り注ぐ桜の光を消し切れない。

 

 反則をしている訳ではない。条理を覆している訳ではない。相性の有利不利ではなく、型に嵌めて罠に掛けている訳でもない。

 唯、純粋な力押し。圧倒的な力による蹂躙。男の無理では覆し切れない程に、少女の力が強いだけだ。

 

 不撓不屈。意志が続く限り無限に生み出される魔力は、あらゆる存在の根本たる魂の力は、間接的にではあるが少女の全てを引き上げる。

 圧倒的に成長し続ける少女の力は、歪みを以てしても覆し切る事が出来ない。そもそもの質量が違うのだ。

 

 熊を撲殺出来ぬ程度の際物で、山を崩す少女の破壊を覆す事など出来よう筈がない。

 

 

「まだ、だっ!」

 

 

 だが、男には矜持がある。意地がある。誇りがある。

 

 

「管理世界最強の称号は、伊達ではないぞっ!!」

 

 

 己の半分も生きていない娘に、抵抗せずに差し出せる程その名は軽い物ではない。その二つ名は、唯スペックが高いだけの小娘には渡せないのだ。

 

 そうでないと言うならば、この身を討ち果たす事で証明しろ。その意地がある。その意地を貫く力がある。故に。

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 男の突進が勢いを増す。傷付く己の身体に頓着などせずに、力を一点に束ねて砲撃を切り裂き抜ける。

 

 

「捉えた!」

 

 

 一閃必中。砲火を潜り抜けた男が放つは、正しく渾身の一撃。後に続く事など考えぬ全霊の一撃。

 空を切り裂く轟音と共に迫る一撃は、確かに少女の胴を射抜こうとして。

 

 

「甘いのっ!!」

 

 

 だが、少女は不動ではない。動かない訳ではない。男が振るう槍よりも、膨大な魔力で強化された少女はなお早い。己に迫る槍の一撃を、音を置き去りにする速度で回避する。

 

 

「だから、捉えたと言っただろうがっ!!」

 

 

 だが、それを持って甘いと言うのは、男の歪みを侮り過ぎだ。

 

 男は貫くと決めている。刺し貫くと決めている。その為の障害など、己が意志で塗り替えるのだ。

 空中という足場を無視した。受ける迎撃の全てを無視した。ならば何故、回避を無視できないと考えられるのか。

 

 

「なっ!?」

 

 

 回避した槍が再び己に迫る。物理的にあり得ない軌道で、再び少女に迫る。

 まるで、中ほどから直角に圧し折れているかのように、その槍が向きを変える。届かない筈の槍が急激に伸縮して、距離を無視して少女に届く。当たらないなどと言う条理が、ここに覆されている。

 

 

「レイジングハート!」

 

〈Protection EX〉

 

「ふんっ!」

 

 

 男の振るう槍と、少女の展開した障壁がぶつかり合う。互いに魂の力を根源とする技のぶつかり合い。それを制するは、より意志が強い方となる。

 

 貫く。不断の意志で以って唯そうあり続ける祈り。

 防ぎ切る。祈りと言う程の深度でなくとも、確かに意志が籠った防御魔法。

 

 渇望の差による有利不利など、純粋な魔力質量で補って見せる。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 上空にて、桜色と山吹色の光がぶつかり合う。その力の総量は正しく同等。ならば、その結末は。

 

 

「っ!」

 

「今っ!」

 

 

 矛と盾が同時に砕ける。盾の内側にて、続く一手を準備できていた少女と異なり、全霊を込めた男は次の一手を打つ事が出来ない。

 

 元より、彼の力は一撃に全霊を込めると言う物。攻撃の瞬間のみ、あらゆる条理を無視すると言う物。

 ならば、こうして攻撃を防がれてしまえば、最早何も出来はしない。

 

 

「……何という、馬鹿力だ」

 

 

 己の眼前に無数に展開される魔法陣。自身を球状に包み込む膨大な魔力に、そんな風に言葉を漏らす。

 

 

「ディバインバスター!」

 

〈Phalanx shift〉

 

 

 千六十四発のディバインバスターが、ゼストの身体に降り注ぐ。ゼストはそれを防ぎ切ろうと、全霊を以って防御魔法を展開する。

 

 終わるものか、終わらせるものか、こんなもので敗北する程、己の背負う物は安くない。無数の魔力砲を防ぎ切ろうと、男は守りを固めて。

 

 

「だけど、これだけじゃ終わらない!」

 

〈Reflect mirage〉

 

 

 この一撃で確実に落とさなければ、自分が敗れるやもしれぬ。この騎士は、千を超える砲撃を耐えきるかもしれぬ。

 故にこそ、高町なのはは全力全開だ。そこに油断などありはしない。

 

 ファランクスシフトを囲むように、無数の魔法陣が展開される。その魔法陣が持つ力は反射。

 魔力砲を反射させるリフレクト・ミラージュは、内に展開された千を超える砲撃魔法を反射させ続ける。

 

 終わらない。終わらない。放たれた砲撃が魔法陣によって反射され、その内側で砲火の華を咲かせ続ける。

 

 それに抗う術などない。それを防ぐ術などない。どれ程守りを固めようとも、終わらぬ砲火は耐えられない。

 

 そうして、耐えきったとしても、次などない。

 

 

「全力、全開!」

 

 

 既に敗北が確定した男を前に、されど少女は油断しない。

 その手に魔砲を、黄金の杖の先端には、極大の魔力砲が控えている。

 

 そんな絶望的な光景が、何処か清々しく思えたから。

 

 

「見事だ」

 

 

 ゼスト・グランガイツは己が敗北を理解して少女を称える。

 

 

「スターライトブレイカー!!」

 

 

 そうして最早抗う事はせずに、無数の魔力砲に撃ち抜かれ、続く極光に吹き飛ばされ、管理世界最強の男は意識を失い、地面に向かって墜ちて行った。

 

 

 

 

 

「そこまでっ! 最終試合! 勝者、西方、管理局海代表、高町なのは!!」

 

 

 神楽舞に決着が着く。御門顕明が告げる勝者の名は、空中で呼吸を整えている少女の物。

 その名を呼ばれると共に、観客席より大歓声が巻き起こる。新たな管理世界最強の誕生に、誰もが湧いている。

 

 そんな熱狂の中で、少女は一人の少年を探す。己が想いを向ける少年を観客席の只中に見つけると、にこやかな笑みを浮かべて口にするのだった。

 

 

「勝ったよ! ユーノくん!!」

 

 

 恋する少女は桜色の輝きと共に、ユーノ・スクライアを見詰めている。

 振り返される少年の手に、爽やかな日の太陽の如き、晴れやかな笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 高町なのは、十二歳。

 恋も魔法も一生懸命。全力全開で生きています。

 

 その果てにはきっと、あの光り輝く星々に追い付けると信じているから。

 

 

 

 闇の書を廻る戦いから、三年と言う月日が過ぎ去っていた。

 

 

 

 

 

2.

「イタッ!?」

 

 

 その笑顔に心射抜かれ、茫然としたまま手を振っていた少年は、腹部に感じた痛みで正気に戻っていた。

 

 

「ほら、いい加減に座んなさいよ。……表彰準備とかで、あの子はもう控室に戻ったわよ」

 

「痛っっ、……肘打ちは酷くないかな」

 

「ふんっ、アンタが鼻の下伸ばした馬鹿面晒してるから、いけないのよ」

 

 

 そんなに情けない顔してたかな、と己の鼻筋を確認しながら椅子に腰を下ろすユーノ。

 親友が管理世界最強になったと言うのに、何処か苛立ちながらアリサはそっぽを向いた。

 

 

「それで、貴方と会うのも久し振りなんだけど。……貴方達、進展あったの?」

 

 

 そんな風に問い掛けるのは、アリサの反対側の席に座っている月村すずかだ。二人の美少女と言うべき人物に挟まれて座るユーノは、何処か気まずそうに顔を背けた。

 

 

「……会う暇、なくて」

 

「三年もあったのに?」

 

「……月一度くらいは会ってるんじゃないの?」

 

 

 彼女達がユーノと再会するのは、随分と久し振りの事だ。だからこそ、二人の仲がどうなったのか、気に掛ってはいたのである。

 

 二人とも、なのはとは同じ海の部隊に属している。三人の少女達を、態々離して運用する理由がなかったから、同じ海の武装隊で助け合っている関係だ。

 だが、そんななのはに二人の仲が進展しているのか、二人は聞いたことが無かったのだ。

 

 否、一度はあるのだが、その一度で懲りたと言えよう。

 誰だって勤務明けの疲れた状態で、砂糖を吐くような惚気を数時間に渡って聞かされたくなどないのである。

 

 

「月一度は、無理かな。連絡は取り合ってるけど、直接会うのは半年に一度くらいだね。あの子も海で長期任務が多いし、どうしても、ね。二人の場合、部隊が同じだから機会も多いんだろうけどさ」

 

 

 無限書庫は、この三年で管理局の中枢に食い込む程の重要な部署となっている。

 人手も増え、影響力も増えたが、その分少年から自由な時間は減っていた。

 

 滅多に休みは取れず、取れてもなのはが居ないという状況。連絡こそ細目に取ってはいる物の、直接会う機会と言うのは自然と少なくなっていた。

 

 

「通信で伝えても良いのかも知れないけどさ。……愛の告白とか、そう言うのは、直接伝えたいと思うから」

 

 

 何処か乙女チックな考え方。夢界での言動を知られているのだから、正直今更な思考なのだが、ユーノにとっては譲れない項目らしい。

 

 

「偶に会う時に、告白しようとはしてるんだけど」

 

 

 だからこそ半年に一度会う時には、花やプレゼントを用意して伝えようと努力した。

 だが、半年に一度会うからこそ、どう切り出した物か掴めず、結局用意した贈り物は部屋の机の上に積まれていくというのが現状だ。

 

 

『へたれめ』

 

「うぐっ!?」

 

 

 二人の少女から白けた瞳で見詰められ、自覚があるユーノは思わず呻く。そんな少年の様子に、少女達はやれやれと溜息を吐いた。

 

 

「どうせ、アンタはこの後暇なんでしょ?」

 

「……いや、勤務中に無理言って抜け出して来ただけだから、なのはと一言交わしたら戻らないと」

 

「暇なんでしょ?」

 

「いや、だから」

 

「ひ、ま、な、ん、で、しょ!!」

 

 

 有無を言わせぬ、という迫力に、思わずユーノははいと頷いてしまう。そんな彼の様子によろしいと口にするとアリサは一つの提案をした。

 

 

「なのはも、この神楽舞が終われば暫く休みなのよ。……だから、二人でどっか行きなさい」

 

「え?」

 

 

 唐突な言葉に目を白黒させるユーノ。そんな彼の横で携帯端末を弄っていたすずかは、その画面に映ったネットの情報をさっと見せていく。

 

 

「ミッドチルダデートスポット情報に、なのはちゃんが最近欲しがってた服やアクセサリーの情報。ちゃんと覚えておいてね、淫獣さん」

 

「え、ええ?」

 

 

 二人の少女は何処か複雑な表情で、けれどそうするのが正しいと思ったから少年の背を押す。きっとその先にこそ、あの友人の幸せはあるのだろうと思ったから。

 

 

「そろそろ意気地見せなさいよ。……そうじゃないと、色々とあんのよこっちにも」

 

「これでヘタレるなら、分かっているよね」

 

 

 そっぽを向いた少女と、瘴気を纏った少女に急かされて、少年は再び壇上を見る。

 始まった表彰式。優勝トロフィーを受け取る想い人の横顔を見詰めながら、少年は良しと己に喝を入れた。

 

 

「……取り敢えず、グリフィス君に連絡して、今から休暇申請受けて貰えるか聞いておこう。……なのはに声を掛けるのは、その後で」

 

『へたれめ』

 

「社会人としての常識だよ!?」

 

 

 社会人と言うのは、色々と柵があるものである。だが仕事ばかり優先して、ここぞという時に進めないのはどうなのか。そんな女の視線を受けながら、ユーノは叫び声を上げていた。

 

 

 

 

 

3.

「うわっ、マジ?」

 

「ん、どうしたよ。……六条シュピ虫、遂に管理世界進出か!? ……ってこの記事、マジかよ、おい」

 

 

 青髪の女は暇潰しに捲っていた情報誌の掲載内容に驚きの声を上げ、後ろから覗き込んだ男もまた驚愕の声を漏らす。

 

 特集として、数ページに渡って綴られる記述は、ひょろながい爬虫類の様な男のインタビューを纏めた物。「一流芸人が持つ、厳然たる実力。その違いを管理世界の人々にも見せてあげましょう」という台詞が写真と共に強調されていた。

 

 

「やべぇ、コイツマジで、笑いで世界獲るんじゃね」

 

「世界進出どころか、ミッド進出だもんね。……神座世界でも芸人路線で行けば、案外お茶の間の大御所になってたかも」

 

「ってか俺は、まだ次元世界進出してねぇのに、コイツが特集されるくらいミッドチルダで有名だってのに驚いたわ」

 

「……地球で販売されてるDVDを態々購入していたコアなファンが、管理局の重役に居たみたい。しかも一人や二人じゃなくて結構居たとか、ここに書いてあるわ。それがネットで広がって、じわじわとブレイクしたみたいね」

 

「マジかよ。……マジだよ」

 

 

 そんな風に騒ぎ立てる二人の男女。神楽舞の控室へと戻って来た御門顕明は、その男女の姿を見て頭を抱えた。

 

 

「……何をやっておるのだ。天魔・宿儺」

 

 

 DSAA世界大会の会場の控室。その一室を好き放題に荒らしている彼らこそは、大天魔が一柱。

 黄金の法下であって、他の大天魔が立ち入れぬミッドチルダ。その大地に平然と入れる者が居る。その強制を意に介さぬ者が居る。

 

 嘗て彼の修羅道至高天に膝を折った大天魔達。その中にあって、一度足りともその支配を受けなかった者が居る。

 この両面の鬼と言う怪物だけは、黄金に守られたこの地であっても、他の地と変わらぬように動けるのだ。

 

 

「おっ、やっと来やがったか」

 

「はーい。お久ー!」

 

 

 声を掛けられた悪童は手にした情報誌を投げ捨てると、やっと来た待ち人に向き合うのであった。

 

 

 

「それで、何用だ貴様ら。態々こちらに来る。それも御門の御所ではなく、こんな人目に付く場所にだ。見つかれば不味いと言う事くらい、貴様らも分かっていように」

 

 

 仲間と言う程ではないが、互いに利用し合う者同士。共犯者とも言うべき男女の暴挙に、頭を抱えて顕明は口にする。

 

 

「……それ程に切羽詰まっているのか?」

 

 

 監視対策が万全となっている御門の屋敷ではなく、こんな場所に来るなどそれ程厄介な事でも起きたのか、と。女は訝しげな表情を浮かべながらも、そんな可能性を口にして。

 

 

「ん。まぁ、なぁ」

 

「割りとヤバい系? ……ぶっちゃけ、現実逃避したくなる位には不味い事が起きたわ」

 

 

 そんな顕明の言葉に、両面の鬼は何処か困った表情を浮かべながら語った。

 

 

「もうちっと、時間があると思ってたんだけどなぁ」

 

「実際、砂漠で一粒の砂金見つけるより難しいんだから、まだ見つからないと思ってたのよね」

 

 

 韜晦しながら鬼は語る。それは揶揄っているのではなく、彼自身信じたくない、全ての策謀を崩してしまうかも知れない事実。

 

 

「……まさか」

 

 

 顕明も気付く。その可能性を一番深刻に捉えていたが故に、あり得ないとは思っていても、何処かであり得るかも知れぬと思っていたが故に。

 

 

「黒甲冑が、アイツを見つけた」

 

「動くわよ。彼」

 

 

 そんなどうしようもない現実を、両面の鬼が口にする。それは同時に、彼らの企みが大きく崩れ落ちようとしている事実も示していた。

 

 

「馬鹿なっ! 天魔・大獄が動くだとっ!?」

 

 

 それは、どうしようもない絶望を示している。

 それは、避けられぬ終焉が待ち受けている事を示している。

 

 

「貴様らの中で、唯一、()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 夜都賀波岐は神座世界に在った頃より劣化している。その能力は衰えている。その力は制限されている。それはこの天魔・宿儺とて例外ではない。

 

 だが、天魔・大獄だけは違うのだ。

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「この地は、ミッドは、否、この世界は終わるぞ!!」

 

 

 それが動くと言う事は、何も抵抗が出来ないという事実を示している。

 依代は回収され、そして残る一つを求めて、彼ら夜都賀波岐は全面攻勢を仕掛けて来るであろう。

 

 彼らにとっても、大獄を動かすと言うのは最後の手段だ。それを行った以上、もう止まらない。もう止められない。

 

 

 

 そう。世界の滅亡が迫っている。

 あの怪物が動くと言う事は、世界の破滅を意味している。

 

 天魔・大獄とは、そういう域にある怪物だ。

 

 

 

「だから、俺が動いてんだろ」

 

「……ま、流石にそんな終わりは御免だからね」

 

 

 御門顕明の言葉を否定する事はなく、面倒な事になったと口にしながら宿儺は語る。

 

 

「今のアイツは真面に行動出来ねぇ。……今の波旬を殺せるだけの力を維持する代償で、真面に動く事さえ出来なくなってる。今現在も、夜都賀波岐の最終兵器は運用不能って訳だ」

 

「だから、見つけらんないって踏んでたんだけどさ。……瀕死の状態で、数億年同じもん探し続けるって、ほんっと、頭おかしいんじゃないの? しかも見つけてるし」

 

 

 両面鬼は、愚痴を言うかのように己の対となる怪物を語る。

 今の己達を一瞥で殺せるだけの力を有している最強の大天魔は、故にこそ真面に行動出来ないと。

 

 

「……んで、見つけちまった黒甲冑は、見つけた以上は止まらねぇ。首領代行の意志じゃねぇ、独断で動いてやがる。他の連中が何を言おうと、アレはアイツを回収するまで立ち止まりやしねぇ」

 

「その結果がどうなる、とか考えないのよね。……どの道俺を前に滅びるようじゃ、後が続かないとか言っちゃってさ。けど、独断で動いてるからこそ、まだ手はあるわ。あれはもう瀕死の状態。どうしても行動には時間が掛かるのよね」

 

 

 凡そ五日前後。天魔・宿儺が見た、大獄がアレを回収するまでの期間の予測。

 

 

「そんな訳で、だ。黒甲冑が動くまでには、まだ少し余裕がある。……だから、その隙に先んじてアイツを回収する。んで、全力で黒甲冑襲来に備える。それが現状、打てる唯一の対抗策だわな」

 

 

 既に絶望的な状況。他に打つ手はないという現状。

 依代を回収しなかったのは、意味がないという理由以外にも、天魔・大獄がミッドチルダに襲い来る可能性を減らしたいという思惑もあった。

 

 だが最早、そんな皮算用をしている余裕はない。見つかってしまった以上、最強の怪物が来る事はもう確定してしまったのだ。

 

 

「……今代の依代は、何処に居た?」

 

 

 その確認の言葉に、両面の鬼が示すは一つの管理世界。

 

 

「第三管理世界ヴァイセン」

 

「俺らの大将の半分は、其処に居る」

 

 

 其処に居る。輪廻の中に紛れた、神の半身を宿した者が。

 

 

「……っ、ヴァイセンか。距離を考えると、本当にギリギリだな」

 

 

 都合良く近くに居る次元航行船はない。そうでなくとも、運送中にアレと遭遇する可能性を考えると、歪み者以外に任せる事など出来はしない。

 

 五日と言う期間で、どれ程の用意を行える物か。ヴァイセンとミッドチルダとの移動時間も考えれば、直ぐにでも人を動かさなくては間に合わない。

 

 否、今すぐ動かしても、帰路の途中で追い付かれる。

 

 

「奴に遭遇する可能性を考えるならば、やはり生存能力の高い者。……それに距離を考えるならば、あやつを動かすべきか」

 

 

 御門の本山。その最奥にて封じられる少年を動かすべきかと思考する。彼の力があれば、回収を確実にする事は出来るだろう。

 極まった歪みを持ってすれば、往路を片道にする事は出来るのだ。遭遇を、こちらの本拠に限定する事は可能なのである。

 

 そんな風に考え、部下に連絡を取る為に部屋を後にしようとする顕明。そんな彼女の背に、両面の鬼は思い付いたように言葉を投げ掛けた。

 

 

「ああ、そうだ。……部隊を派遣すんなら、高町なのはを連れて行け」

 

「何?」

 

 

 それは彼女にとって予想外にも程がある言葉。

 現状では失いたくない重要な戦力であり、故にこそ無駄死にさせる気かと眉を顰める。

 

 

「こいつは勘だがな。多分、その方が良い」

 

 

 そんな顕明に掛けられたのは、余りにも曖昧な言葉。宿儺自身、理由が分からない唯の勘。

 だが、その方が良いと感じている。そして、そうしなければ、本当に終わってしまうと感じていたから。

 

 

「……良いだろう」

 

 

 そんな鬼の提案に頷いて、御門顕明はその場を後にした。

 

 

 

 

 

4.

――血、血、血、血が欲しい

 

 

 黄昏色をした砂浜で、金糸の如き長い髪の女が歌を口遊んでいる。

 

 

――ギロチンに注ごう。飲み物を

 

 

 首に斬首痕のある美しい女が語るのは、忌まわしきリフレイン。布切れ一枚を身に纏った彼女が歌うのは、そんな呪いの詩。

 

 

――ギロチンの渇きを癒すため

 

 

 だが、何故だろうか。悪い印象は受けなかった。怖いとは思わなかった。恐ろしいとは感じなかったのだ。

 

 そう。きっと、彼女は悪いモノではない。

 

 

――欲しいのは、血、血、血

 

 

 もっと声を聞きたいと思った。その顔を見たいと思った。だから。

 

 

「君は誰?」

 

 

 言葉と共に振り返る彼女の顔は、まるで擦り切れてしまったように映らない。この身に宿る魂には、もう彼女の記憶は残っていないから。

 

 

――血、血、血、血が欲しい

 

 

 唯、歌声を繰り返す。まるで壊れたビデオの様に、砂嵐ばかりが映るリフレイン。

 

 

 

 そんな夢を、毎晩見ている。

 そんな想い出ばかり、夢に見ている。

 

 そんな光景など、見た事もないのに、懐かしいと感じていた。

 

 

 

 

 

 朝が来る。いつも通りの朝が来る。

 九年間、同じ夢を見て、同じように目を覚ます。

 

 寂れた鉱山街にある孤児院の一室。贅沢は出来ない。寧ろ貧しいと言える日々。そんな寂れた日常が、この生活が、少年は意外と気に入っていた。

 

 何を考えているのか分からない。感情がないんじゃないか。まるで人形みたいに無反応だ。

 良く言われるのはそんな言葉。孤児院の仲間達もまた、近付こうとしない変わり者。自分自身、まるで自分がないように感じる事も多くある。誰かの想いに引き摺られているだけだと思う事もある。

 

 当然だ。彼が持つは神の魂。その膨大な質に影響されて、己と言う個我が育つ筈がない。無表情。無反応。無感動となるのが必然なのだ。

 

 それでも、度重なる輪廻の果てに、彼の魂は弱っている。その内に、少年と言う色が生まれる余地を生み出している。

 そんな少年は気に入っているのだ。それが自分以外の影響だとしても、確かに気に入っている。

 顔に出なくとも、表に出来なくとも、友人が居なくとも、この一瞬の刹那を気に入っていた。

 

 時が止まってしまえば良いのに、そんな風に思うぐらいに、変わらぬ日々を愛していた。

 

 だから、今日も変わらないのだろう。

 だから、何時までも変わらないのだろう。

 

 そんな風に感じて窓を開く。

 

 そこには、地獄絵図が広がっていた。

 

 

「……え?」

 

 

 分からない。分からない。分からない。

 何が起きたのか分からない。いつも通りな筈だったのに、何かがおかしい。誰も彼もが狂っている。

 

 ヴァイセンと言う小さな世界で、その嵐が起きていた。

 

 殺し合っている。笑い合っていた友人達が、仲睦ましい恋人達が、長年連れ添った夫婦が、支え合っていた親子が、支え合って生きていた兄弟達が、皆狂って殺し合っている。

 

 阿鼻叫喚の地獄はない。嗤い狂っている外道が居る訳でもない。誰もが獣になったかのように、浅ましく殺し合い喰らい合っている。

 

 肉を潰されようが、骨を圧し折られようが、彼らは止まらない。

 感染し、発症した彼らは、心の臓か脳漿を潰されぬ限り止まらない。

 

 動悸がする。呼吸困難が起こる。この感覚を知っている。これは既知だ。

 

 

――永劫破壊とは、即ち聖遺物を人の手で扱う技術。その発動には、人の魂を薪とする。故に、この術を施された者は魂を狩り集める為に、慢性的な殺人衝動に駆られる事となる。

 

 

 違う。そうではない。これは永劫破壊ではない。

 だが、この病毒は、限りなくそれに近い。だから慣れている。だから耐えられている。だから、適合出来てしまっている。

 

 これは劣化品だ。これは模造品だ。この原初の種より生み出された病は、永劫破壊に極めて似ている。

 似ているだけで違うから、才なき者らにも感染し、しかし適合出来ぬから、こうして地獄絵図を生み出している。

 

 殺意の方向を定められていない活動位階の者らは理性を失い、獣の如く外部の魂を求めて喰らい合っている。この地で自我を残しているのは、神の依代である少年だけだ。

 

 

 

 ガタンと音を立てて、部屋の扉が砕け散る。其処には、返り血に染まった孤児院の園長先生の姿。背には頭部の砕け散った無数の屍。

 

 赤く、赤く、赤く、赤い液体が砕けた扉から流れ込んで来る。

 

 

「う、うあああああああああああああああああっ!!」

 

 

 逃げ出した。逃げ出した。逃げ出した。

 脇目も振らず、考慮もせず、窓から飛び出して全速力で逃げ出した。

 

 生存を確認する事もせず、止めようとも考えず、失われてしまった刹那を想う事もなく、恥も外聞もなく逃げ出していた。

 神の魂の内に生まれたばかりの小さな色が悲鳴を上げる。確かにある細やかな感情が、恐怖の悲鳴を上げている。

 

 適合した己に、発症しただけの彼らでは追い付けない。自分ではない誰かの記憶がそう冷静に判断している。

 そんな事すら気にならない程に、幼い子供は恐怖に駆られて逃げ惑う。

 

 

 

 そうして、逃げ続けた果てに、其処に辿り着いた。

 

 

「スカリエッティの奴。……こうなるなんて、聞いていない」

 

 

 お気に入りの場所。広く鉱山街が見える高台。

 そこに立っているのは、赤き髪に巨大な槍を携えた黒き鎧の幼い少年。

 

 そんな彼は気配に気付くと振り返る。そうして、その目を見開いた。

 

 

「まさか、適合者が居るなんて」

 

 

 本当に信じられない、と驚愕の瞳で見やる黒き槍騎士。

 その態度に、彼がこの事件と関わっているのは間違いないと感じた。

 

 

「……お前が」

 

 

 少年は黒騎士に問い掛ける。

 お前がこの地獄を作り上げたのか、と。

 

 

「お前がやったのか」

 

「……ああ、僕がやった」

 

 

 返る答えは肯定。当たり前の事を認めるかの如く、騎士は口にする。

 

 

「っ! あぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 言葉を聞いた瞬間に、獣の如く飛び掛かっていた。だが、届かない。

 

 

「寝てろ」

 

「がっ!?」

 

 

 翻った槍の石突が腹部に打ち込まれる。

 再生を起こさせず、それでいて痛みで行動を封じ込める絶妙な威力でその打撃が撃ち込まれる。

 

 そしてバインドが絡みつく。その魔力の輝きは黄色。変換資質により雷を纏ったそれは、少年の自由を完全に奪い取る。

 

 そうして蓑虫の如く、あらゆる自由を奪われた少年から目を逸らすと、黒騎士は視線を鉱山街へと向ける。

 

 

「……奴との約定は果たした。ならば、もういらない」

 

 

 指示された通りに病をばら撒いた。一昼夜観測せよとの約定も果たしている。恐らくはあの狂人が望んでいたであろう、適合者も此処にいる。

 

 ならば、最早、狂い殺し合う人々は不要だ。

 

 

「手向けだ。哀れな者達。君達の悪夢はこれで終わる」

 

 

 騎士の掌に炎が灯る。その色は黒。

 

 

「アクセス――我がシン」

 

 

 暗い炎が燃え上がる。その炎は何処までも暗く、暗く、無価値な色をしている。

 

 

(シン)(シン)から、(シン)(シン)へ、堕ちろ、堕ちろ――腐滅しろ」

 

 

 物質界の全てを消滅させる、黒き炎が燃え上がる。何もかもを一瞬で消し去り、無価値にする炎が街を蹂躙する。

 掌から零れ落ちた黒き炎は一瞬でヴァイセンの鉱山街を包み込み、何もかもを焼き尽くした。

 

 

 

 後には何も残らない。後には何も残さない。

 無価値の炎に全てが焼かれ、何もかもが燃え去り消える。

 

 美麗な刹那が、無価値に燃えて消え行く姿を、少年は唯、見ているだけしか出来なかった。

 

 

「意識はあるかい? ならば覚えておくと良い」

 

 

 黒き騎士が見詰めている。全てを焼いたその少年が語っている。この黒き炎を、この無価値な我を、その身に刻んでいけ、と。

 

 

「僕を恨め。お前から全てを奪い去った、この僕を」

 

 

 これは己の罪だ。これは己のシンだ。

 命じられた事など理由にならぬ、故にそれを背負う為に黒き騎士は言葉を告げる。

 

 

「名を聞こう。名を刻め。僕を恨むお前の名を、お前が憎む僕の名を」

 

 

 産まれたばかりの小さな意志は、憎悪を抱いて黒騎士を見上げる。この怨敵にその名を刻み付けるかのように、小さくも確かな意志で睨み付ける。

 

 

「トーマ・アヴェニール」

 

 

 対する黒き槍騎士は、そんな少年に己の名を返す。感情を酷く揺さぶられた結果、漸く生まれ始めた少年に向かって、己を刻み込むように名を語る。

 

 

「エリオ・モンディアル。覚える価値などない名だけど、生憎、これ以外に名乗れる物がないんだ」

 

 

 ここに神の半身と、無価値の悪魔は邂逅した。

 

 

「さらばだ、トーマ」

 

 

 その邂逅は一瞬だ。それ以上などありはしない。

 燃え盛る黒き炎を背に、エリオは立ち去っていく。

 

 

「……エリオ」

 

 

 その名を忘れない。その怒りを忘れない。生まれ始めた憎悪を忘れない。

 

 己の内にある記憶はこの程度なら動けると判断している。もう一人の己は動けると語っている。

 であるのに、己は痛みで動けない。体を汚染し作り変えている病で動けない。

 

 だから、唯、憎悪を込めて、その名を忘れないと口にするしか出来なかった。

 

 

 

 第三管理世界ヴァイセン。この世界は今日、この日を持って滅び去る。

 無価値の炎に焼き尽くされて、後には唯、神の依代だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 




スカさん「私がエリオ君程に良質の素材を使い捨てるとでも思っていたのかね?」


設定変更はトーマ関係のアレコレ。
年齢と、原作でまだ明かされてないエクリプスやヴァイセン犯人などを捏造しました。

年齢は現時点で九歳に変更。(本来はまだ二、三歳くらいだった筈)
STS開始時にはティアナと同い年になる予定です。彼の魂に影響されているので、原作通りには育ちませんが。


そして、ここのエクリプスウイルスは信頼と実績のスカさん印。その性質は劣化永劫破壊。
ついでに劣化品の無価値な炎を作ってるスカさん。輝いていますね。彼。

そろそろ本領発揮しそうなスカさん。STSではもっと輝いてくれる事でしょう。



そしてマッキー降臨フラグ。
うん。まあ、アイツ、原作スペックなんだ。

そんなマッキーが降臨する理由。

┏(┏^o^)┓「カメラードォ」

トーマくんが見つかったからです。




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