リリカルなのはVS夜都賀波岐   作:天狗道の射干

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上下編で纏めようと思ったら上中下編になっていた。

全部スカさんの所為(暴論)


副題 強くありたいが強くはなれない弱者
   新コーナー“なぜなにスカさん”


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3.Fallen Angel(PARADISE LOST)


訓練校の少年少女編第六話 無価値の悪魔 中

1.

 無数の鎖によって救われる少年。

 多くの人々に支えられたまま、トーマは深い穴の底を見詰める。

 

 

「エリオ」

 

 

 其処に如何なる感情が込められていようか。

 単純ではない思いを抱いて、誰にも救われる事無く落ちて行った宿敵の名を呟いた。

 

 

「僕達の、勝ちだ」

 

 

 鎖が音を立てて引き摺られ、少年は多くの人々の手によって救われる。

 落日の後、太陽が落ちた夜の中でも、その光景は陽だまりの中の様に輝いていた。

 

 

 

 

 

 そんな光を、地の底で見上げる。

 開いた大穴の底。崩れ落ちた廃墟の中に、差し込む光は届かない。

 

 何時もの様に己は溝の中に居て、あの輝きを仰ぎ見ている。手の届かない光の中へと、救い上げられた反身を見上げている。

 

 一筋の光。手が届く場所にはない輝きが、嗚呼こんなにも忌々しい。

 

 

「は、ははっ」

 

 

 滴り落ちる赤き色は、己が胸より零れる物。

 深く深く深い穴を墜ちた先、落下の衝撃にて砕けた骨が己を内より開いている。

 

 

「ははっ、はははははははっ」

 

 

 虚しく嗤う。内に何もない空っぽな笑みを浮かべて哄笑する。

 笑う度に開いた胸から血が溢れ出すが、それすら今はどうでも良かった。

 

 

「ははははははははははははははっ」

 

 

 余りにも長大な落下距離は、強化された魔人の肉体強度を以ってしても耐えきれる物ではなかった。

 

 けれど、余りにも長大な落下距離は、エリオに対策の猶予を与えていた筈だった。

 防御魔法で、或いは飛翔魔法で、如何様にも対処可能な物でしかなかった。

 

 それが出来なかったのは、その絆に目を奪われてしまったから。

 余りにも弱いのに己を破ったそれが、憎くて憎くて仕方がなかったから。

 

 だからエリオは冷静な判断が出来ずに、こうして無様を晒している。

 

 

「ああ……僕は未だ、こんなにも弱い」

 

 

 これは弱さだ。冷静に単純に無感動に動いていれば、あの瞬間からでも逆撃出来た。

 これは弱さだ。恨み憎み呪い羨む。そんな人の情こそが、圧倒的上位に居た己を敗北させた。圧倒的下位に居た奴を勝利させた。

 

 

「……なら、弱さは要らない。人の心(エリオ)は、必要ないんだ」

 

 

 己と言う弱者は必要ない。だから、それを捨てようと決める。

 

 決して使いたくはなかった全力を、発揮したくはなかった魔刃の真価を、頼りたくはなかった内なる悪魔を、此処に弱い人間を捨て去り顕現させる。

 

 一度アレが目を覚ませば、己はもう己の意志では戻れない。

 封印が解かれ、目を覚ました無価値な悪魔には、エリオ・モンディアルと言う自我が存在しない。

 極限のシンの塊に弱者である人の心は抗えず、その深い闇に飲まれて消えるのだ。

 

 それでも、極大の憎悪を以って、それを選択した。

 無頼であり続けるよりも、強く在りたいと言う願いよりも、アレへの憎悪が勝ったのだ。

 

 

「封印術式解除」

 

 

 黄色の輝き。エリオの持つリンカーコアの色。

 其処に茜と紫の輝きが入り混じり、その色を大きく変えていく。

 

 一つ、二つ、三つ。輝く色は自らのオリジナル。そしてその両親の物。

 四つ、五つ、六つ。尽きぬ輝きは、魔刃の糧となって死んだ者。犠牲者より奪われ、エリオに移植されたのは、魂の器官であるリンカーコア。

 

 

全魔導核(リンカーコア)過剰駆動(オーバードライブ)!」

 

 

 七、八、九、十。輝きは止まらない。

 百、千、万。数え切れぬ程に溢れ出す光は、混ざり合ってその色をゆっくりと変えていく。

 

 万を超える輝きが作り上げるのは、虹の如き美しい色ではない。全ての色が混ざり合って、其処に生まれるのは泥の様に濁った黒。

 

 湧き出し満ち、それでも尽きぬ魔力が溢れ出しては世界を侵す。人の身に収まり切らない極大の魔が、その背より翼の如く吹き上がる。零れ落ちた瘴気を喰らって、その傷が塞がっていく。

 

 

 

 これより現れる存在は人間ではない。

 

 無限の欲望の意志の下に奪われし命。ミッドチルダを恨み、呪い、怒りを抱くは幸福の礎となって散った魂。

 それらが混ざり合って生まれる群体は、醜悪なる魂の肉塊はその存在が無価値である。

 

 それは無頼のシンに呼応している訳ではない。

 それは無価値と言う存在の在り様に同調して、奈落の最深奥より這い上がる。

 

 これは(ナハト)だ。これは虚飾(ベリアル)だ。

 無数の魂によって構成される無価値の悪魔(ナハト=ベリアル)は、犠牲者達の誰でもない。

 

 

蹂躙しろ(オキロ)――無価値の悪魔っ(ナハト=ベリアル)!!」

 

 

 言葉と共に、エリオの意識は闇の底へと沈み。それに代わり、悪魔の意識が浮上する。

 世界に顕現した悪魔の力に引き摺られ、その器が作り変えられる。その犠牲者達の魂が薪となり、悪魔の人格を作り上げる。

 

 暗く黒く、引き千切られたかの様に穴だらけの翼は、堕ちた天使の如き物。眼球が黒く染まり、瞳は暗闇を赫く照らし出す。

 

 その無表情を燃え滾る様な喜悦に変えて、無価値の悪魔は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ああ、正義と不法にどんな関りがあるだろう。光と闇に、何の繋がりがあるだろう。彼と我に、如何なる調和が許されるのか。これ全て否。無価値なり――

 

 

 怖気を催す言葉が紡がれる。

 遠く、深き穴より紡がれる声と共に、全てが震えた。

 

 

――相容れず反発し、侵し合い喰らい合い殺し合う以外に途などない

 

 

 トーマ・ナカジマが茫然自失する。ティアナ・L・ハラオウンが恐怖に震える。ゲンヤ・ナカジマとその指揮する部隊が、その威圧だけで動けなくなる。

 

 唯一人。内なる白貌との同調により如何にか身動き出来る月村すずかは、最も弱いであろう少女を庇う様に立つ。

 震える身体を意志で抑え付けながら、その怖気を伴う瘴気が溢れ出している深淵を睨み付けた。

 

 

――嗚呼、汝、我が反身よ

 

 

 ゆっくりと深淵より近付いて来るナニカ。それが身動ぎするだけで、世界が悲鳴を上げている。唯其処に居るだけで、それは全てを汚して堕として凌辱する。

 

 

――泣けるものなら泣いてやりたい。愛せるものなら愛してやりたい。されどまた、是も否。絶対の否定こそが、我が本質であるが故に

 

 

 神と神を殺せる者。其処に如何ほどの違いもない。神に匹敵する存在としての魔の塊。真に目覚めた魔刃を折伏出来る者など、この世界のどこにも居ない。

 

 決して完成に至れぬ欠陥品であれ、目覚めた悪魔は止められない。

 そう。深淵より這い上がって来る怪物は、偽りの神々と同格の存在であるのだ。

 

 

――この身に涙などはなく、この魂に愛などない。彼我の差は絶望なれば、絶死を以って告げるまで

 

 

 圧倒的な瘴気が吹き荒れる。羽ばたく翼が大地を抉る。赫き双眸が全てを見下す。

 その小さな身体が発する威圧に、ミッドチルダと言う世界が崩れ落ちるかの如くに大きく揺れる。

 

 

――SAMECH・VAU・RESCH・TAU

 

 

 誰も何も出来なかった。

 余りに格が違い過ぎる悪魔を前に、誰もが何も出来なかったのだ。

 

 

「終われ。次代の可能性」

 

 

 その冷たい瞳の一瞥で、その場に居た全員が地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

2.

 ゴポゴポと培養槽に気泡が浮かび上がる。

 何かを計測しているのか、心電図のような機材が定期的に機械音を立てている。

 

 同じ顔をした人型が材料採集用の機械へと囚われた人々を押し込み、出て来た物体を部位毎に分けていく。

 

 其れは無機質な屠殺場。解体された人々を使った遊び場(アトリエ)だ。

 

 

〈あららー。エリオ君ってば、本気で皆殺しにしちゃう気みたいですねぇ〉

 

「ふむ。これは少し不味いかね。完全覚醒した魔刃は撃破不能。今の管理局では、全軍を以ってしても返り討ちにしかならない。……常道で考えるならば、ここで回収するべきなのだろうが――」

 

 

 そんな遊び場の只中にて、聞こえる悲鳴に神経を揺るがす事もなく、男女は言葉を交わしている。

 

 明らかにおかしい。何処か所ではなく、あらゆる全てがズレている。

 こんな無機質な地獄の中で平然と会話を交わせる彼らを、人は狂人と呼ぶであろう。

 

 

〈なのだろうが?〉

 

「今のままの方が、面白そうではあるのだよ。神の子の成長速度が予定より遅い現状、この一手がブレークスルーに成り得るかも知れない。良薬であれ、毒薬であれ、劇薬には違いないだろうからねぇ」

 

 

 モニターに映る光景を、片やこの場で、片や機械越しに観察する二人の狂人。

 まるで遊興に耽るかの如くに笑い合う男女の会話には、真剣みと言う物が欠けている。

 

 

〈キャー! ドクターってば、相変わらず効率的かつ悪辣ですぅ! 其処に痺れる憧れるぅ!〉

 

「はっはっはっ! 褒めても何も出ないよ。クアットロ」

 

 

 白衣の狂科学者ジェイル・スカリエッティ。

 

 そんな彼を誉め称える女の声は、何処までも甘ったるく媚びた物。

 睦言を語る様な瞳で狂人を見詰める女こそは、魔群と呼ばれる反天使(ダストエンジェル)

 

 真なる魔群は通信機越しに、己が唯一敬意を払う生みの親との会話を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

〈ところでぇ、ちょっと気になったんですけどぉ〉

 

「何だい、クアットロ?」

 

 

 そんな彼女が口にするのは唯の雑談。

 目の前で展開される光景に対して抱いた当然の疑問。

 

 

〈今の魔刃ってば、相当なもんですよねぇ。テキトーな防衛線に配属させれば、大天魔をみぃんな討ち取ってくれそうですけどぉ。それでも失敗作なんですかぁ?〉

 

 

 それはモニターに映る絶望の光景。それを作り上げている魔刃の力を目にすれば抱く、当然の疑問。

 それでは駄目なのかと言う問い掛けに、スカリエッティは珍しく素面な表情へと戻った。

 

 

〈あ、いやぁ、話し難い事なら良いんですよぉ。唯、疑問に思っただけなんでぇ〉

 

 

 クアットロは不味い事を聞いたかと表情を変える。

 そして前言を翻す彼女に、しかしスカリエッティは構わないと軽く手で示すと言葉を選びながら口を開いた。

 

 

「……確かに、魔刃は既に下位の天魔を超えている。中級だろうと、大結界内で戦闘を行えば確実に勝利出来る。両翼相手でさえ、時と場所を選べばある程度の善戦は行えるレベルだ」

 

〈……だったらぁ、何であの子で神殺しをしないんですかぁ? ドクターの夢でしたよねぇ〉

 

 

 そんな説明に抱くは再びの疑問。求道者であるスカリエッティが、己の求道を達成できる場において、何故に手を拱くのかと言う問い。

 

 そんな問い掛けに、返る答えは――

 

 

「確かにエリオは私の自慢の子供の一人だ。……だがね、ナハトは違うのだ。アレはね、意図して生み出したのではなく、偶発的に生まれた怪物なのだよ。故に私は、魔刃を我が子と認められんのだ」

 

〈へ?〉

 

 

 そんな、他者から見ればどうでも良い理由であった。

 

 

 

 

 

「まず前提として、私はエリオ・モンディアルと言う個体にそこまでの期待はしていなかった」

 

 

 所詮エリオはクローンだ。如何に出来が良いとしても、複製故の欠落が目に映る。素材としては二級でしかなく、最高品質とは言えなかった。

 

 

「私の第一目標は、当初より高町なのはだけであった。クローンでしかないエリオは所詮消耗品であり、彼女に施す施術を完成させる為の実験体でしかなかった訳だ」

 

 

 元より視野に入れていたのは最高の素材のみ。

 最高品質のそれは替えが効かないから、替えが効く二級品で一番良い物を試作品にしてみただけなのだ。

 

 

「故に彼に試したのは、リンカーコアを移植する事で現れる副作用と、どれだけの数を植え付けたら器が自壊するかと言う確認作業」

 

 

 リンカーコア移植。前人未踏の行為には、さしものスカリエッティとて躊躇があった。技術的にも不足は多くあり、故に練習台は必要だったのだ。

 

 

「それは想定通りに推移した。魂の切れ端であるリンカーコアを植え付けられれば、その個体が持つ魂は相対的に薄れる。混濁する大量の魂の内で、それでも我を宣するだけの意志がなければ、人の魂は死者の恨みに飲まれて消えるのだ」

 

 

 足りなければ継ぎ足せば良い。

 そんな発想で次から次へと足し続けた結果、エリオは壊れた。

 

 自分が誰かも分からず、無数に存在する記憶に踊らされ続け、遂には人としての基本機能さえ失って廃人となってしまった。

 

 当然だ。クローンの持つ貧弱な自我に、他者の魂など足し続ければ崩壊に至るのは自然と言えよう。

 

 

「当然の如く、エリオの自我も一度は崩壊した。オリジナルと両親。三人分の魂から生じた自我は、所詮は張りぼての様に薄い紛い物。移植するリンカーコアが二桁を超えた時点で、己を認識できなくなり、三桁に到達する前に物を言わぬ肉塊に早変わりと言う結果となった」

 

 

 結局、失敗作が出来上がっただけ。数に限界があるなら、質に拘らなければいけない。そんな当然の発想に至るまで、余りにも多くの人間を犠牲にした。

 

 ならば、それなりの成果を得ねば嘘であろう。

 

 

「エリオは廃棄処分するのももったいなかったからね。どうせなら行ける所まで行ってみよう。そんな思考で質の大小良し悪し一切問わずにリンカーコアを付け足し続けてみたのだよ」

 

 

 そんな思考によって、スカリエッティは壊れたエリオに更にリンカーコアを植え付け続けた。

 その身体が物理的に崩壊を始めるまで、何人も何十人も何百人も何千人も何万人も何十万人も殺し続けた。

 

 スカリエッティの材料庫である紛争地域は星の数程もあり、最高評議会が彼を全面的にバックアップしているのだから、出来ない事ではなかったのだ。

 

 

「その総数は、二十七万四千八人。……数だけは大した物だと言えるだろう?」

 

 

 それだけの数が犠牲になった。

 それだけの数を加えれば、人の器では持たないと判明した。

 

 

「数が質を凌駕する事はない。そういう訳だ。故に私は数の大小によるアプローチを早々に諦め、愛し合う男女の魂による相克。陰陽合一こそ太極への道であると判断した」

 

 

 結局、至った答えは其処になる。限界数ではなく、至上の質を以って至るべきだと言う発想こそが答えであると無限の欲望は判断したのだ。

 

 

 

 あの日、あの場所で起きた一つの事件を目にする迄は。

 

 

「だが、其処に一つ別の発想を得た。あの出来事を切っ掛けに、一つの可能性に気付いた」

 

 

 それは数の可能性。質を凌駕する数と言う暴威。

 それをあの日、あの地球と言う大地でスカリエッティは確かに見た。

 

 

「夜天の書。夢界と言う集合無意識が生み出した、盧生と言う存在」

 

 

 人類の意志総体。それは正しく数の極致。絶対の個ではなく、人類全てと言う数を以って神域へと手を伸ばし掛けていた盧生という存在。

 

 

「あれは数の極致だ。全ての意志を繋いだ結果生まれた夢界。その後押しを受ければ、百鬼空亡程の怪物が生まれ得る」

 

 

 其処から零れ落ちた夢の怪物は、確かに神々にも迫る程の力を持っていたのだ。

 

 

「ならば、同じ様に人間総体を作り上げれば? その思考実験の果てに作り上げた物こそ――」

 

〈それが奈落(アビス)。反天使が生まれた場所〉

 

「その通りだ。クアットロ。君達にとっての故郷とは、あの夢界を参考にしている。君達とは、奈落と言う名の夢界に発生した悪魔と言う名の廃神だ」

 

 

 奈落とは即ち夢界である。反天使とは即ち廃神である。

 

 スカリエッティが悍ましき術と許されぬ手法によって作り上げたそれは、既に過去の地球で生まれた夢界を超えている。

 スカリエッティが人の持つ感情。器との共通点を楔にする事で現実世界に固定された魔王達は、既に空想の神々を超えている。

 

 

「無論。あくまで秘密裡に動かねばならぬ以上、数は用意出来ない。数十万までなら兎も角、数億を超える人を犠牲にすれば流石に隠し切れない」

 

 

 ならば何故、それ程の夢界を作り出せたのか。

 ならば何故、罪悪の王程の廃神が生まれ得たのか。

 

 

「故に数の差を補う為に質を厳選した。丁度都合の良い場所に、特に優れたる魔力の塊が存在していたのだから、使わぬ道理はなかった」

 

 

 それは許されぬ手法を使ったから。悍ましき術を使ったから。

 スカリエッティが目を付けたのは魂の力である魔力に溢れ、それでいて失われても問題がない者達。

 

 即ち――

 

 

「重濃度高魔力汚染患者」

 

 

 それは歪み者になれなかった被害者達であり、同時に管理局を守る為に戦い続けた結果限界を超えて死ねなくなってしまった歪み者達の事である。

 

 

「彼らは魔力と言う一点に限れば、魂の力と言う一面で見れば、管理外世界の人間数万人にも匹敵するだけの個人と言える」

 

 

 犠牲者の数は万を超える。“不幸”にも避難が間に合わなかった者達や、前線で一命こそ取り留めるも歪みに至る程の渇望を持てなかった者達。

 

 管理局が未だ前身組織であった頃に活躍した古の英雄達。戦い続けた結果、死ねなくなってしまった事でこの時代まで生き続けていた者達。

 

 守るべき者らも、これより共に戦ってくれたかもしれない戦士も、敬意を払うべき偉大な先達も、全てがこの男の欲望に消えた。

 

 

「そして都合の良い事に完治の術がない彼らが消えてしまっても、誰も不信に思う者はいないのだ」

 

 

 彼らは隔離施設へと送られていた。癒せないと言う現実を隠す為の面会謝絶措置が、この男の暴挙を助けた。

 どの道使い道がなく、治しようもなかった。唯集められていた者達は、この男の材料となったのだ。

 

 

「だから彼らを、生きたまま繋げて潰して混ぜ合わせた。そうして尚蠢く肉塊で、夢界を形成したのだ」

 

 

 それこそが奈落。それこそが、スカリエッティが作り上げた最悪の地獄。

 

 憤怒。嫉妬。憎悪。絶望。諦観。

 その夢界は負の情で満ちている。未だ生かされ続けている彼らに救いはない。

 

 その無限大の悪意の坩堝の底に悪魔は生まれた。

 ベリアル。ベルゼバブ。アスタロス。ルシファー。奈落の底(ジュデッカ)に蠢く魔王達。其処の底、最も深き場所に彼らは存在する。

 

 其処に天使は生まれ得ない。何故ならば奈落は罪科の象徴。人の醜さが作り上げた地獄であれば、そこに完全なる人間(アダム・カドモン)など生まれはしないのだ。

 

 

「その奈落にエリオを繋げたのは気紛れだ。……二十万を超える魂を上乗せしようと言う意図もなかった訳ではないがね」

 

 

 二十万もの魂を遊ばせておくのは勿体無い。

 奈落と人を繋げた場合、どの様な現象が起きるかも確認したい。

 

 そんな思惑で行われた高次接続実験。

 その結末は、彼の想定を大きく打ち崩す物であった。

 

 

「想定通りに奈落に飲まれて消える筈だったエリオは、しかし魔刃として再誕した」

 

 

 肉塊でしかなかったエリオは、奈落と繋がる事で悪魔の器に変わった。

 

 

「二十七万もの犠牲者。その無価値な肉塊が奈落の内に居た悪魔と同調した。無頼のシンではなく、無価値と言う在り様こそがその廃神を現実へと召喚させる媒介となったのだ」

 

 

 奈落より己の器足り得る物の内側へと這い上がって来た悪魔は、犠牲者の魂を材料に己の個我を確立したのだ。

 

 

「二十七万の魂によって自己を形成するナハト=ベリアル。強さしかない怪物の余剰として、不純物として零れ落ちた断片を再構成したものこそエリオ・モンディアルだ」

 

 

 生まれ落ちた悪魔は全てを無価値に変えんとした。

 無頼の怪物は、犠牲者達の恨みを聞き届け、彼らを嘲笑いながらもその願いを叶えようとしたのだ。

 

 

「余りにも強大過ぎる悪魔を制御する為に、私は首輪と言う機構によってエリオの自我を確立させたのだよ。人の弱さと言う面を主にする事で、無価値の悪魔を封じているのだ」

 

 

 咄嗟にスカリエッティは、零れ落ちた弱さを固定する事で主従を書き換えた。エリオと言う人格を作り上げ、ベリアルをその内的世界へと封印する。

 

 首輪と言う安全装置によって、想定外の出来事にも即座に対応したのだった。

 

 

 

 その結果が予想外とは言え、当初スカリエッティは喜んだ。

 生まれ出た悪魔。偶然の産物とは言え、その圧倒的な暴威は正しく神々に届く程。

 

 もしも、あの最高の素材で同じ事をすれば、生まれ落ちるは正しく神殺しと言える最高傑作に成り得るであろう。

 

 

「悪魔との同調。関連する要素を持つ器を奈落へと繋げれば、魔王達はその器へと流れ込む。最も確実なのは大罪の断片だが、それ程のシンは中々に用意出来ない。……流れ込んだ悪魔の影響によって、今のエリオの様に後天的にシンを得て、結果繋がりが強化される事はあり得るがね」

 

 

 故に同じ事を繰り返した。その現象の再現を狙った。――だが、結末は。

 

 

「魔群。そして魔鏡。そのどちらもが、エリオに起きた現象を再現した物であり――で、ありながらその完成度は魔刃に遥か劣っている」

 

 

 そう。出来上がったのは、魔刃の劣化品。

 どうしても、偶然の産物を超える代物が生み出せなかった。

 

 

「魔群も魔鏡も、魔刃を前にすれば一蹴される程度。その一瞥で燃え腐り、何も出来ずに敗れるだろう。……所詮は陰の等級にして拾にしか至れていない者。既に計測不能域に居る魔刃とは格が違う」

 

 

 魔群も魔鏡も、常識で考えれば埒外な域にある怪物だろう。

 不死不滅の魔群も、全てを模写複製する魔鏡も、人の手ではどうしようもない怪物だ。

 

 それでも、神域は遠いのだ。

 

 

「分かるかい、クアットロ? 確かにエリオは私が作った。……だが、ナハトは違う。あれが生まれたのは偶然でしかない!」

 

 

 エリオを作り出した親は、スカリエッティしかいない。

 だが同時に、スカリエッティでさえも、その再現は行えなかった。

 

 

「詰まりだ。私の技術は未だ、偶然の産物を超えられていないのだ!」

 

 

 合一に至らぬ高町なのはも、魔群や魔鏡と言った反天使も偶然の産物に届いていない。

 

 それは、運命と言う流れにスカリエッティが未だ抗えていない証。

 ナハト=ベリアルを超える者を生み出せぬ限り、彼の技術は偶然にすら劣る。

 

 そう思考するスカリエッティは、故にこそあの存在を最高傑作などと認められない。

 

 

「要は美観の問題だよ。私の作った私の神殺しが神を弑逆する事に意味がある。ぽっと出の怪物が神殺しを為して、それを我が技術の結晶だと何故に誇れるのだ!」

 

 

 求道者の求道とは譲れぬ物。だがそれ故に他者から見れば、どうでも良い事にすら拘ってしまい本懐を見失う。

 

 求道者とは、破綻者の別名である。

 

 

「故に、あの子の役割は決まっている。君達の役割も決まっている。私の本命は、未だ変わらんよ。……あの不屈の少女こそが、私の最高傑作となるべきなのだ」

 

〈……クリミナトレスちゃんが聞いたら、嫉妬で気が狂っちゃいそうなセリフですねぇ〉

 

 

 無限の欲望が見せる人らしき感情に、自身も強い嫉妬を感じながらも魔群は茶化すように口にする。

 胸の奥に泥のような感情を抱きながらも、にこやかに言葉を紡ぐのだ。

 

 

〈それでドクター。どのタイミングでエリオ君を回収しますぅ?〉

 

「……そうだね。限界ギリギリまで待とうか」

 

 

 激情を吐き出した求道者は、冷静さを戻してモニターを見詰める。

 己もまた随分と感情論で語る物だと自嘲しながら、映し出される映像に目を細めた。

 

 

「最悪、トーマ君だけでも生きていれば、まあ老人方も説得は可能だろうさ」

 

 

 

 

 

3.

 死屍累々。そこには死が溢れていた。

 

 それは異常な光景だ。崩れ落ちた局員達は粉微塵になって砕け散り、原型を留める者らの傷口は腐りながら広がっている。

 

 ゴルゴダの磔刑。殺すと言う念。死ねと言う命令。唯それだけで、彼らは息絶えた。

 

 

「嗚呼、詰まらない。足りないぞ、我が反身」

 

 

 久方振りの解放感に喜悦を浮かべながら、エリオだった誰かが呟く。

 その口より零れる言葉は人の物。人語を解するは当然、人の魂で構築される皮を被る今の彼は人間にも似た人格を得ている。

 

 だが違う。人の言葉を語り、人の如くに振る舞い、人の如くに嗤う。

 そんな彼はしかし人ではない。その感性は決定的にズレている。死人の山に立ち、深呼吸をして死臭を愉しむ彼をどうして人間と呼べようか。

 

 夜風の様な余裕を浮かべながら、人間の外装を纏った悪魔は己の対を見下していた。

 

 

「久し振りの自由なのに、こんなんじゃ喰い足りないぞ。なあ、お前達、これは一体どうしてくれる?」

 

 

 彼の視線の先。其処にあるのは生者の姿。

 

 月村すずかは崩れ落ちている。ティアナと言う少女を庇ってその被害まで請け負った女は、腐敗と言う吸血鬼にとっての弱点である一つを受けて死に瀕している。

 

 庇われたティアナ・L・ハラオウンは、しかし何も出来ていない。魔刃の発する威圧感を前に、押し潰されて地に伏している。

 呼吸さえ満足に出来ず、まるで陸に打ち上げられた魚の様に口をパクパクとさせている有り様だ。

 

 陸の部隊は壊滅した。立ち位置故に生きているゲンヤ・ナカジマとて、生きているだけ。意識を失くした男は、ゆっくりと腐り始めている。その死までの時間は、そう長くない。

 

 神の魂を内包する少年ですら、悪魔の王を前にすれば立ち上がる事すら出来ない有り様であった。

 

 

「あ、ぐっ」

 

 

 嘲る声に返るは苦悶。唯一動ける少年は、しかし自由になるのは声一つだけ。

 本当にそれで限界となっている反対なる器を前に、悪魔は落胆した様に溜息を吐いた。

 

 

「起き上がる事さえ出来ない、か。……どうやら、君がステージに上がるのは未だ早過ぎたらしい」

 

 

 何れ神に至る者。神を弑逆出来るやもしれぬ者。

 神と魔王が対を為すなら、未だ卵の殻が取れない雛では届かないのは必然だろう。

 

 

「だが、これで御終いと言うのも芸がない。手足が捥ぎれ、躯が砕け、血と臓物がばら撒かれる前に、この夜と言うステージが終わってしまうのは味気ないだろう?」

 

「お、前、何……を!」

 

「単純な事だよ、考えなし(エアーヘッド)。お前にも分かる様に言うなら、……相棒がやろうとしていた事を俺が変わりにやろうと言う、唯それだけの話さ」

 

 

 ニィと邪悪に嗤う悪魔。彼は進路を変えると、ゆっくりと見せ付けるように歩み始めた。その向かう先に居るのは一人の少女。

 

 

「大切な物。無価値な塵にしか見えんが、大切なのだろう? 相棒は小石に躓いてしまった様だし、先ずはそれを退けるとしよう」

 

 

 アレは悪魔をして理解し難い現象であった。

 何故にしてあの状況下から崩されたのか、彼にしても理解が出来なかった。

 

 故に先ずはそれから排除しよう。

 既に重圧だけで呼吸困難となっているティアナを、確実に殺そうと悪魔はゆっくりと進むのだ。

 

 

「っ、やめっ!」

 

「嫌だね、断る」

 

 

 必死に手を伸ばそうとする。

 止めようとする少年の声に、しかし悪魔は止まらない。

 

 

「まあ、自分の弱さを恨みながら、大人しく観戦していると良い」

 

 

 手に取るは巨大な槍。全身に腐炎を纏い続ける怪物は嘲りを顔に張り付けながら、まるでトーマに見せ付けるかの様にゆっくりと近付いて行く。

 

 

 

 さあ、止めたくば動いてみせろ。

 ダンスパートナーも務められないようでは、何もかもを失うぞ。

 

 

 

 動け。動け。動け。必死に身体を動かそうとする少年を、悪魔は愉悦したまま放置している。

 

 一歩。悪魔が進む。トーマが歯を食いしばって起き上がろうとする。

 

 二歩。悪魔が進む。己の意志だけでは立ち上がれないと気付いた少年は、故にこそ己の内側にある存在を取り出そうと手を伸ばす。

 

 三歩。悪魔が進んで、其処で止まった。

 

 

「時間切れだ」

 

 

 既に其処は間合いの内。振り下ろせば腐炎を纏った刃は少女を焼き尽くす。

 そんな至近距離に置いて、悠然と笑みを浮かべる悪魔はその刃を振り上げる。

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 その光景を前にして、トーマは己の殻を破った。否、己の殻を砕いた。

 威圧感に抵抗する為に、この領域でも動けるようになる為に、必死で内側にある彼の力を引き摺り出す。

 

 出来る筈だ。嘗ては当たり前の様に出来ていたのだ。

 あの終焉の怪物の異界でも動けていたのだから、本来の真価を発揮できればトーマは悪魔に立ち向かえるのだ。

 

 

「来るかい? 我が反身」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 雄叫びと共に立ち上がる。その瞬間に硝子が砕けるような音がして、何かが頭の中から抜け落ちた気がした。

 

 瞳が青く輝く。全身に赤い文様が浮かび、大切な思い出の一部と引き換えに取り戻した本来の力で、トーマは疾走する。

 

 

「ディバイドゼロ・エクリプス!」

 

 

 放つは全霊の一撃。如何なる力をも破壊する世界の毒は――無価値の炎とぶつかり合って相殺した。

 

 

「嗚呼、残念。……未だ幼い雛鳥では、それが限界らしい」

 

 

 結局、結果は変わらない。無理矢理に限界を超えたトーマはその反動で崩れ落ち、しかし悪魔は揺るがない。

 

 

「暴走状態で挑んでくれば或いは、……だが、俺以外を傷付けないように意識を逸らしたソレでは届かんよ」

 

 

 それは単純な解答。世界の毒と無価値の炎は等価であり、互いにぶつかり合えば相殺と言う結末以外は生じ得ない。

 常に炎を鎧の如くに纏い無制限に行使できる魔刃に対して、使う度に暴走の危険が生じるトーマの毒では届かないのだ。

 

 それこそ、何もかもを壊してしまおうとしない限りは――

 

 

「失いたくない。その想いが余計だ。失くしたくない。その感情が余分なのだ。……分かるか? その絆が、お前の弱さだ」

 

 

 崩れ落ちたトーマに冷たい一瞥を向けた後、ナハトは再びティアナへと刃を向ける。

 

 ナハトとエリオは違う。少年程にトーマを憎んではいない悪魔は、別に彼の命に然したる執着を持ちはしない。

 

 ナハトと犠牲者達は違う。今尚奈落の最深奥にて苦しみ続けているミッドチルダの犠牲者達は、ミッドチルダに愛された申し子であるトーマを妬んでいる。

 

 だが、そんな恨みすら悪魔にとっては甘露にしか成り得ない。

 

 エリオの怒りも、犠牲者達の恨みも全て無価値と蔑んで、唯見ていると面白いと嘲笑って、悪魔はトーマの眼前で彼にとっての宝石を踏み躙る。

 

 

「君達がどれ程清く生きようと、どれ程悪辣に生きようと、死ぬときは死ぬし死ねば塵と変わらない」

 

 

 夜風の如き余裕は消えない。その悪魔の笑みは揺るがない。

 

 

「これは相棒にも言える事だがね。全て無価値なのだから、せめて今を愉しめよ」

 

 

 もう一人の自分である相棒の執着を嘲笑い、そんな自傷行為にも似た自己矛盾に悦楽を感じながら、ナハトは子供達に向かって笑い掛けた。

 

 

 

 少女は思う。真面に呼吸すら出来ず、霞む視界で曖昧な光景を見ている少女は思う。

 自分は死ぬのか。こんな所で意味もなく、虫けらを踏むかの様に、理不尽に殺されると言うのか。

 

 嗚呼、けれど、このどうしようもない世界なら、本当にそうなってしまいそうだとティアナは理解して。

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 悪魔は嘲笑う。ナハトは馬鹿にする。崩れ落ちて叫ぶしか出来ない反身を鼻で笑う。

 まるで物語から出て来た悪魔の如く、彼は何処までも他者を愚弄するのだ。

 

 

「さようなら。どうせ生きていても塵なのだから、何時死んだとて構わんだろう?」

 

 

 刃が振り下ろされる。己の命を奪うそれから、ティアナは目を瞑って現実を拒絶しようとする。

 だが、逃避しても結果は変わらない。流麗でありながら、見る者に掻痒感と抱かせる歪つな動きで振るわれた刃は、もう止める事など出来はしない。

 

 まるで熱したナイフで切り裂かれるバターの如くに、振り下ろされた刃が切り裂いた。

 

 

 

 痛みはなかった。そう。痛みはなかったのだ。――何故ならば、槍の穂先が切り裂いたのはティアナではなかったのだから。

 

 

「……おや?」

 

 

 手応えがない。そんな感覚に驚きを浮かべるナハトの前に、黒い影が躍り出る。

 ティアナは痛みではなく、浮遊感を感じて閉ざした瞳を僅かに開く。そうして、其処に映った奇跡の様な光景に、一筋の涙を零したのだった。

 

 

「……この子を殺させる訳にはいかない」

 

 

 その人は会いたいと思い続けて、会えないと諦めて、嘘つきと罵った人。

 管理局の将官用コートを夜風に棚引かせ、白を基調とした和服を着た人物をティアナは誰より知っている。

 

 言葉は口に出来ない。声を出す事は出来ない。

 震える瞳で、どうしてと問い掛けるティアナに、男は苦笑しながらその髪を優しく撫でる。

 

 男が来た理由は単純だ。時には感情のままに動くのも正しい、そう親友に背を押されたから、彼は全ての縛鎖を引き千切って此処に来たのだ。

 

 全てを裏切り、全てに嘘を吐き、そうして抜け出して来た男は、故にこそこの瞬間に間に合った。

 

 

「悪い。迎えに来るのが、随分と遅れてしまった」

 

 

 言葉は素っ気ない物。抱き締める手は冷たい鋼鉄で、頭を撫でる手付きは無骨だ。

 けれど、胸の奥で凍っていて物全てが溶け出す様な、そんな充足感が其処にはあった。

 

 そう。こんな筈じゃなかった世界でも、こんな筈じゃなかっただけではないから、きっとこんな奇跡だってあっても良いのだろう。そんな風にティアナは微笑んで、その意識を手放した。

 

 

 

 

 

「なるほど、君が相手か。英雄殿が相手とは、これはこれは」

 

 

 少女を抱き抱える青年の姿に、嘲笑を浮かべたままナハトは口にする。

 

 そんな悪魔より感じる重圧。正しく己を超える怪物を前に、しかし管理局の二大英雄の一人は何処までも澄ました顔で強気で居る。

 

 

「何だ? 抱かれたいのか、気狂い(ソドミー)

 

 

 己を見詰める悪魔の一瞥に強い圧力を感じながらも、そんなに情熱的に見詰めて抱かれでもしたいのか、と茶化す。

 

 生憎、僕の腕は妹を抱くので手一杯なんだ。

 そんな風に冗談を飛ばして、嘘吐きと罵られた男は悪魔へと向き合った。

 

 己を前にそれだけの虚勢を騙れる敵手の登場に、心底から愉しげにナハトは伝える。

 

 

「いいや、踊りたいのさ。嘘吐き(ライアー)

 

 

 無価値の悪魔に睨まれた子供達を守る様に、万象流転の救い手が此処に現れる。

 

 

 

 クロノ・ハラオウンと言う英雄は、こうしてこの戦場に参戦した。

 

 

 

 

 

 

 




そんな訳でナハトさんモード解放。

魔刃エリオはギリギリまで、全力時を言語も喋れない暴走状態にするか、パラロスのナハトさんが出張って来るか悩みました。


前者だとエリオ本人が強いイメージだけど、スカさんがどうしてこの子を神殺しにしないかが分からなくなる。
後者だと内なる悪魔に頼る無頼漢()と言うちょっと情けない子供になっちゃう。


決め手はパラロス再プレイして、ナハトさんカッケー書きてーってなった事。
まあ、エリオ君も未だ13歳ですし、強くなりたい弱い子ならそんな弱さがあっても良いかなーとか思った訳です。

エリオ君の無頼云々は本人の資質ではなく、このナハトさんに影響されていたと言う形になります。



そんなナハトさんはエリオ君が大好きです。(見ていて面白いから)
そんなナハトさんはエリオ君の為に、毎晩良い夢を見せてくれます。(トーマ君の日常風景)
ナハトさんのエリオ君に向ける好感度は、神野がセージに向ける感情と同質かつ同量です。(悪魔的な意味で)




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