リリカルなのはVS夜都賀波岐   作:天狗道の射干

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クアットロ無双回。ウザ過ぎ注意報。

推奨BGM
1.For you For me(リリカルなのは)
2.Fallen Angel(PARADISE LOST)
3.Fallen Angel(PARADISE LOST)


第十五話 地獄が一番近い日 其之壱

1.

 二柱の反天使が去った丘に、一人残された女は佇む。

 僅か背中に走る痛みにその無表情を揺らして、ふと顔を上げた彼女は背後の林の影に誰かが居る事に気付いた。

 

 

「おや、来ていたのですか」

 

 

 感情の籠らぬその問い掛けに、藪陰に隠れた身体が震える。

 無情の天使が見詰める先、其処に潜んでいたのは小さな少女。

 

 

「…………」

 

 

 一瞬、彼女はこのまま隠れていようかと思考する。

 だが、白き女の透明な瞳は、誤魔化す事も出来ないであろう事実を確信させた。

 

 

「……悪いか」

 

 

 故に彼女、烈火の剣精アギトは気まずそうな表情を浮かべながらも、素直に林の中から姿を現す。

 そんな彼女へと魔鏡が返す言葉は、何処までも冷静で無情な物。

 

 

「いいえ、別に。……貴女が居ても、大勢に変化はない。足手纏いにすら成り得ない貴女では、居ようが居まいが変わりません」

 

 

 だが、それは紛れもない事実だ。

 彼女が居たとして、一体何が為せると言えよう。

 

 

「ですが、故に理解に苦しみます。それは合理的な思考ではない。何故人はそうも、愚かしく在れるのでしょうか?」

 

 

 だが、故にこそ魔鏡は疑問を抱く。

 人形には理解できないその行動の意味を、彼女は澄んだ瞳で問い掛けた。

 

 

「お前には、分かんないのかよ」

 

「? 分からないから、問うているのです」

 

 

 小首を傾げる彼女の姿に、純粋な疑問以外の他意などない。

 それが分かったから、隠れて着いて来ていた烈火の剣精は、その疑問に素直に答えた。

 

 

「理屈じゃないんだ。そう言うの。見届けたいんだ。意味なんかなくても」

 

 

 彼は守ってくれた。彼は救ってくれた。

 何時だって、何時だって、何時だって――だから。

 

 

「あたしがこうしたいから、あたしは此処でこうしてるんだ」

 

 

 例え捨てられたのだとしても、その感情は薄れない。

 もう要らないと言われたって、その感情は整理出来ない。

 

 理屈ではない。理屈なんかではない。理屈などでは止まれない。

 

 胸に渦巻くそれがある限り、きっと動けなくなるまで、アギトは何度だって彼を追い掛けるのであろう。

 

 

「……感情、ですか」

 

 

 それは己にないものだ。

 機械的な思考をするアストは、冷静な思考で判断する。

 

 

「やはり不合理ですね。作り物である筈の貴女ですら、情と言う物に翻弄される」

 

 

 そして同時に理解する。

 その不合理極まりない感情。作り物の機械ですら狂わせるその衝動。

 

 それは――

 

 

「不要。不必要。所か害悪ですらある」

 

 

 それがあるからこそ、人は壊れる。

 それがあるからこそ、人は愚かな事を繰り返す。

 

 

「あらゆる生命にとって、感情こそが最も必要なきモノなのでしょう」

 

 

 故にアストは、それは必要ないモノだと結論付けた。

 

 

「……あたし、お前の事、誤解してたみたいだ」

 

「?」

 

 

 そんな言葉を強調する姿。

 まるで言い訳の様に、己自身に言い聞かせる様に、感情は不要だと語る姿。

 

 それは――

 

 

「お前、思ってたより感情的だな」

 

「…………」

 

 

 誰よりも感情に溢れた姿に見えたから、アギトは特に意識する事もなくそんな風に呟いていた。

 

 

「……私が、感情的?」

 

 

 その言葉に、どれ程の衝撃を受けたのか。

 アストは愕然と目を見開いたまま、小高い丘で呆然と立ち尽くす。

 

 

「……じゃ、あたしは兄貴を追うぜ」

 

 

 そんな彼女を放置したまま、アギトは先に行った少年の背を追い掛けた。

 

 

「…………」

 

 

 彼女の姿が小さくなっていく。

 その背が見えなくなる程に、距離が開くだけの時間が経っても、アストは愕然としたまま動けないでいた。

 

 

 

 大胆に背中が開いた白いドレス。

 その背から広がる光の翼の付け根に刻まれたのは、生々しく焼け爛れた醜い傷痕。

 

 その傷痕が、何故だか酷く疼いていた。

 

 

 

 

 

2.

 目を焼く程の光が世界を満たし、圧倒的と言うも生温い衝撃波が吹き抜ける。

 圧倒的な熱量を内包した風が吹き抜けて、周囲の景色を瓦礫の荒野へと変えていく。

 

 

「っ、リリィ!」

 

 

 その砲撃の余波を受けて、吹き飛ばされた少年少女達。

 咄嗟にリリィを抱きしめたトーマと、何一つ対応する事が出来なかったティアナ。三人揃って地面を転がり、瓦礫にぶつかりながら傷付いていく。

 

 

「……大丈夫、か?」

 

 

 収束された力は既にして物理法則の外にあり、故にその膨大な熱量が標的となった者たち以外に直接的な被害を与える事はない。

 

 膨大な熱量と大量の穢れの影響は受けず、与えられた被害は破壊の際に生まれた余波。物理的な衝撃を伴う暴風と砕けた瓦礫の残骸だけだ。

 

 されど嵐の如くに吹きすさぶ風と瓦礫の雨は、凶悪な性質を宿していなくとも恐るべき破壊の力を秘めている。

 

 人一人の命を奪うには、十分過ぎる程に強烈だ。

 

 

「……私は、けど、ティアナが」

 

 

 衝撃を受け止めてくれた相手が居たリリィと異なり、ティアナ・L・ハラオウンには何もない。

 被害をその身に受けても治癒出来るトーマと異なり、ティアナ・L・ハラオウンには何もない。

 

 故に彼女は当然の如く、無様に吹き飛ばされて倒れていた。

 

 

「……息はある。直撃じゃなかった、みたいだな」

 

 

 倒れた少女に軽く触れて、その呼吸を確認する。

 打ち所が悪かったのか、意識を閉ざしてはいるが目立った外傷はその程度。万が一の可能性はなくもないが、取り敢えずは一安心と言った所だろう。

 

 彼らの被害は、その程度で済んでいる。

 トーマを殺してはならない。そんな枷故にスターズ分隊は意図的に狙いから外され、それ故にその程度の被害で済んでいたのだ。

 ならば、意図して狙われた標的は、果たしてどうなったと言うのか。

 

 

「……トーマ、あれ」

 

 

 その答えが其処にある。白百合の指差す先、少年達の眼前に生み出された光景にこそ、正しくその解答があった。

 

 

「っ」

 

 

 巨大な穴が開いている。底の見えない深い深い穴は、まるで奈落の底に繋がっているかの如く。

 其処につい先ほど迄存在していた筈の摩天楼は、その残骸すら残していない。

 

 

「ホテル・アグスタが……消えた」

 

 

 倒壊ではなく蒸発。

 形骸すらも残せずに、ホテル・アグスタは消滅した。

 

 

「なのはさんはっ!? 他の皆はっ!?」

 

 

 生存者は確認できない。目に見える範囲には、誰一人として存在しない。

 其処に居た人々は、其処に居た仲間達は、例外なくその地獄の底へと堕ちて行った。

 

 その地獄に向かって呼び掛けようと、答えなどは帰らない。

 

 

「ウフフ」

 

 

 そんな中、嗤い声が響いた。

 

 

「ウフフ。フフフ」

 

 

 嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。

 天高く、嗤う女の声が聞こえる。

 

 その笑みは嘲り。その声は侮蔑。

 守り切れなかった人々を、巻き込まれた死者の群れを、その悪意は嘲り嗤っている。

 

 

「フフフ。アハハ。アハハハハハハ」

 

 

 嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。

 その嘆きを嗤う。その憤りを嗤う。その無様さを嗤う。その死を嗤う。

 

 其処に意味などない。その行為に価値などない。

 単なる悪趣味。嘲笑う事で他者を見下し、己の自尊心と嗜虐心を満たすだけの自己満足。

 

 頭上を飛翔する身勝手な堕天使の嗤い声に、トーマはその拳を握り締めた。

 

 

「アイツがっ!」

 

 

 嘲笑う奴こそが、この惨禍を齎した者。

 片翼の黒き翼で、天より全てに唾を吐くは罪に塗れた反天使。

 

 

「アイツが、皆をっ!!」

 

 

 気に入らない。許せない。認められない。

 その胸に抱いた感情は義憤。其処に刻まれた怒りは正当なるもの。

 

 無関係とは言えないかも知れないが、それでも戦う力を持たなかった非戦闘員。

 如何に効率良く敵を殲滅する為とは言え、嘲笑いながら諸共に殺し尽すその思考が認められない。

 

 

「其処にあったんだ。確かに、あったんだぞ!」

 

 

 其処に生きていた人達。

 顔も知らず、声も知らず、見知らぬ誰かが其処に居た。

 

 見知らぬ人達でも、彼ら一人一人にも、確かな世界があった筈だ。

 温かくて、笑顔があって、幸福に満ちた命が其処にあった筈なのに。

 

 

「それをお前はっ、嘲笑ってっ!!」

 

 

 それを殺して刻んで嘲笑う。

 馬鹿め馬鹿めと、その無様を嗤っている。

 

 故に理解した。

 誰かのちっぽけな幸福を、嗤って奪うモノなどあってはいけないのだと言う事を。

 

 

「ウフフ。フフフ。アハハハハハハッ!!」

 

 

 天上で嗤う女を見上げる。

 呪われし魔群クアットロ・ベルゼバブの姿を睨み付ける。

 

 あれは許せない邪悪だ。存在してはいけない害悪だ。

 当たり前に生きていた人々を、殺して嘲笑う悪意の天使。

 

 そんな物が、この世界に居て良い筈がない。

 

 

「さぁてぇ、もぐら叩きで遊びましょぉ」

 

 

 そしてその堕天使は、まだ凄惨な光景を作り上げる心算でいた。

 この光景を生み出したと言うのに未だ飽き足らず、更なる地獄を作り出そうとしていたのだ。

 

 

「イザヘル・アヴォン・アヴォタブ・エルアドナイ・ヴェハタット・イモー・アルティマフ」

 

 

 嗤う女が呪詛を口にする。

 紡がれる呪言は奈落へと繋がる門を生み出し、現世を地獄へ変えるもの。

 

 

「ヴァイルバシュ・ケララー・ケマドー・ヴァタヴォー・ハマイム・ベキルボー・ヴェハシュメン・ベアツモタヴ」

 

 

 その行為は許せない。その存在は認められない。

 あれは輝かしい刹那に泥を塗る。あれは眩しい世界を糞尿で冒涜する。あり得てはならない邪悪の化身。

 

 

「呪いを衣として身に纏え。呪いが水のように腑へ、油のように骨髄へ纏いし呪いは、汝を縊る帯となれ」

 

 

 ならば、その呪詛が力を示す前に、あの存在を駆逐しなければならない。

 今直ぐにでも奴へこの刃を届かせて、その罪悪に満ちた首を処刑の刃にかけるのだ。

 

 

「リリィ!」

 

「はい、トーマ!」

 

 

 蒼き瞳の少年は、白百合の少女とその手を合わせる。

 

 

同調・新生(リアクト・オン)!』

 

 

 あの刹那を汚す、悍ましき堕天使を討つ為に。

 

 

形成(イェツラー)――白百合(リーリエ)正義の剣(シュヴェールトジュスティス)!」

 

 

 全てを分解するゼロ。

 世界を殺す毒を纏った処刑の剣を逆手に握り、前傾姿勢を取る。

 

 天に続くは翼の道。

 発現した時間加速の力を以って、あれを討たんと空を目指す

 

 だが、その一歩は――

 

 

「君の相手は僕だろう。間違えるなよ」

 

「っ!?」

 

 

 轟音と共に迫る雷光によって、切り裂かれて遮られた。

 

 

「テ、メェッ!?」

 

〈魔刃、エリオ・モンディアルッ!!〉

 

 

 迫る雷光に反応出来たのは、完全に偶然の産物だった。

 

 咄嗟に振るった剣と槍が、甲高い金属音を響かせる。

 襲い来る衝撃に対して、碌に態勢も安定しない状態で耐えられる筈もない。

 

 その突撃が有する質量を前に、トーマはまるで大型自動車に跳ねられたかの如く、大きく後方へと飛ばされる。

 

 

「エリオッ!」

 

 

 後方へと跳ね飛ばされたトーマが態勢を立て直すと同時、襲い来た悪魔は瓦礫の上へと舞い降りる。

 

 大地に音も立てずに舞い降りた赤毛の少年。

 その瞳は鮮血に染まったかの如くに赤く、背には暗い闇色の翼が羽ばたく。

 

 処刑の剣と切り結んでなお傷一つないその機械槍には、翼と同色の炎が燃えている。それは何処までも暗く、黒く、一切の価値を否定する腐滅の炎。

 

 

「やぁ、トーマ」

 

 

 浮かべる笑みは夜風の如く。

 内に秘めた激情と相反する表層は、見る者全ての掻痒感を掻き立てる。

 

 

「っ」

 

 

 背筋が凍る。喉を掻き毟りたくなる程の息苦しさ。

 夜風を纏う怪物が放つ気配は、死を確信させる程に濃厚だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは進歩か、或いは堕落か。

 どちらにせよ、以前とは違うと言う事だけは明らかだった。

 

 

「さあ、クリミナルパーティーを始めよう」

 

 

 この日を待ち侘びていた。この瞬間を待っていた。

 暗く黒く無価値な炎を心に燃やして、唯この瞬間を待ち侘びていた。

 

 

「誰が死ぬか。誰が生きるか」

 

 

 さあ、殺そう。

 さあ、終わらせよう。

 

 この因縁に決着を。

 終わりが始まるこの瞬間、出会えた事にさえ感謝を抱いて。

 

 

「どうなるにせよ。全て無価値だ」

 

 

 憎むべき者も、大切な者も、全てを無価値に変えてしまうのだ。

 

 

 

 

 

3.

 深い穴の底で、女達は刻まれた傷に耐えながら立ち上がる。

 

 

「二人とも、無事!?」

 

 

 まず始めに立ち上がれたのは、高町なのは。

 精神の不調によりその能力を十全に発揮できない状態であっても、再生と蘇生と言う二種の力を持つ彼女の生存力はこの場に居る誰よりも高い。

 

 その身の傷は軽傷と言う程には軽くないが、戦闘不能になる程にも重くない。故に真っ先に復帰した彼女は、共に居た二人の友人達の安否を案じる。

 

 

「……何とか、大丈夫」

 

 

 彼女の声に答える様に続いたのは紫髪の女。

 滴り落ちる血は止まらずに、満足に起き上がれぬ身体を瓦礫の山に横たえる。

 

 夜の一族と言う強靭な肉体と命のストックを以ってしても、彼女の傷は癒せぬ程に重かった。

 それも当然、最上階に居た彼女らは、呪詛と破壊の塊である砲撃の直撃を受けたのだ。

 

 ホテルの地上階全ては跡形もなく蒸発し、地下にあった建築物まで瓦礫の山へと変じている。

 要塞クラスの防御壁で威力を軽減されていながら、地下階までも根こそぎ破壊し尽くす程の力だ。デバイスすらない女の命が、持った事こそ奇跡であろう。

 

 

「けど、私でこれなんだから……アリサちゃんは」

 

 

 だが、生存に特化した二人でさえこの有り様。

 ならば防御面で彼女ら二人に大きく劣る彼女がどうなっているのか、それは簡単に予測出来る事。

 

 碌な結末など待っていない。

 そんな光景が目に浮かんで顔色を悪くした二人の前で――

 

 

「だっ、らっしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 燃え盛る炎が天を突き上げる。

 アリサ・バニングスが瓦礫を吹き飛ばしながら、雄叫びを上げていた。

 

 

『アリサちゃん!』

 

「余裕よ。こんなの! ……って言いたいけどね」

 

 

 喜色を顔に浮かべる二人の前で、立ち上がった女の姿が揺れる。

 

 熱に対する耐性故に火傷はないが、魂を穢されたその身体。

 物理的な破壊力によって血塗れになった彼女は、既に限界がほど近い。

 

 今にも倒れそうな程の傷を負った女。

 そんな彼女がこうして立ち上がれている事には、一つの理由が存在していた。

 

 

「実際、ヤバかったわ。……あの二人が、庇ってくれなかったら」

 

 

 あの瞬間、壊れていた筈の老女達が動いた。

 ミゼット・クローベルとレオーネ・フィルスが、まるで盾になる様にアリサの身体に覆い被さったのだ。

 

 既に壊された彼女らは、自発的に動ける状態ではなかった。

 

 だからそれは、破壊の衝撃で倒れただけなのかも知れない。

 偶然傍に居たアリサを庇う様な位置に、倒れ込んだだけなのだろう。

 

 そう考えるのが自然である。

 

 そして、それが例え意図した行動であっても、然したる意味はなかった。

 膨大な熱量と破壊の力を前に、人一人の身体など盾にもならない。それは二人であっても変わらない。

 彼女達の遺体はダメージを軽減する事もなく、あっさりと魔弾の中に溶けて消えた。

 

 そう。冷静に考えるならば、其処に老女の意志があったとしても、その行為自体には意味がなかった。

 彼女達の最期の献身は、何も残さずに燃えて消えた。その行為は無意味であったとしか言いようがない。

 

 

 

 されど――無意味であれ、無価値ではなかった。

 

 

「守られたのよ」

 

 

 この女の心の熱を灯すには、それは十分過ぎる行為であったのだ。

 

 

「だったら、此処で寝てたら、女が廃るってもんでしょうがっ!!」

 

 

 血塗れの身体を引き摺り起こして、飛びそうになる意識を無理に留めて、アリサ・バニングスはそう宣言する。

 

 そう。彼女の心は守られた。

 故にこそ、その魂を全霊で燃やして、女は此処に立っているのだ。

 

 

「……結局、根性論なの」

 

「無茶ばかりするんだから。……取り敢えず、アリサちゃんの傷を治すね。デバイスがなくても治療魔法は使えるから」

 

「ふん。好きに言ってなさい。……後、治療は助かるわ。正直今にも意識飛びそうだから」

 

 

 何処か呆れの籠った二人の視線に、何が悪いのかと胸を張る。

 その拍子に気を失いそうになったアリサは、流石に小さく弱音を吐いた。

 

 

 

 そうして三人の女達は、こうして復帰する。

 

 

「……それで、まずどう動く?」

 

「生存者の捜索やクロノ君との合流も重要だけど」

 

「まずは、襲撃者の迎撃ね」

 

 

 立ち上がった女達の意見は一致する。

 まずは生存者を捜すよりも、襲撃者を止めねばならない。

 

 一手でこれ程の被害を齎した相手だ。

 次の一手を許してしまえば、最早後はない状況へと追い込まれてしまう。

 

 

『行こうっ!』

 

 

 互いに声を呼び交わし、傷を癒した女達は即応する。

 意見の一致した女達の対応は、戦場においては最適解と言える物であったであろう。

 

 そう。これが戦場であったならば――

 

 

「ウフフ。フフフ」

 

 

 されど此処は戦場ではなく、奈落の底。

 今日は地獄が一番近い日。真っ向から鎬を削る争いなどあり得ない。

 

 此処にあるのは、一方的な蹂躙だけだった。

 

 

「ゾット・ペウラット・ソテナイ・メエット・アドナイ・ヴェハドヴェリーム・ラア・アル・ナフシー」

 

 

 声がする。声が響く。

 女の嗤い声と共に、呪われし門を開く声が周囲に響く。

 

 

「暴食のクウィンテセンス。肉を食み骨を溶かし、霊の一片までも爛れ落として陵辱せしめよ」

 

 

 呪われた声は暴食の罪を内包した第五の元素を以って、この世界に隠された奈落へと接続する。

 その接続が齎す恩恵は、奈落に潜む悪魔の力を現実の脅威へと変えると言う力。

 

 

「この声……」

 

「これはっ、あんのクソ女ぁぁぁぁっ!」

 

 

 聞き覚えのある声になのはが呟き、その声の主の性悪さを知るが故にアリサが吠える。

 

 最悪だ。最悪の状況だった。

 それをクアットロ=ベルゼバブと言う女を知る誰もが、この瞬間に理解した。

 

 クアットロが真面な勝負をする筈がない。

 それはこうして、三人ものエース級が揃っていれば尚の事。奴は尻尾を巻いて逃げ去り消える。

 

 僅かでも敗北の可能性があれば逃走する。

 そもそも真面な戦闘をしようとさえしない。

 

 あの女は、そんな性格をした小物である。

 

 そんな女が一手を打つのは、絶対的な勝機を有するが故に。

 そんな女が攻めに転じるのは、確実に勝てると言う確信があるが故に。

 

 アリサは直接相対したが故に悟る。

 アレがその力を解き放つ時点で、既に自分達の敗北は確定しているのだ。

 

 

「死に濡れろぉぉぉっ――暴食の雨(グローインベル)!!」

 

 

 ぽつり、ぽつりと、雨が降り始める。

 それは赤い雨。血の様に、赤い紅い朱い雨。

 

 天の気候さえも操って、魔群の主はその雨を降らせた。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ぐ、うぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

 

 悲鳴が上がる。

 歯を食い縛って、痛みに耐える声が響いた。

 

 降り注ぐ赤は全てを溶かす酸の雨。

 霊の一片さえも凌辱するは、魂汚す悪意に満ちた魔群の毒。

 

 

「レイジングハート!」

 

〈Circle Protection)

 

 

 身体を焼き尽くす雨を払う為に、高町なのはが魔法を使う。

 半球形の防御魔法を展開して、三人纏めて降り注ぐ雨の被害から守り通す。

 

 だが――

 

 

「っ!?」

 

 

 じゅぅと嫌な音を立てて、足元から煙が立ち上った。

 

 視線を下へと向ければ、其処にあったのは湯気を上げる水溜り。

 降り注いだ雨が地面に溜まり、まるで血の池の如く広がっていた。

 

 

「っ、まさか。敵の目的は」

 

 

 魔群の意図を察して、すずかが頬を引き攣らせる。

 

 深い穴の底に、降り注ぐ雨が流れる先はない。

 ならば必然として、全てを溶かす雨は貯水槽に貯められた水の如く笠を増していく。

 

 その結果出来上がるのは、赤き酸に満たされたプール。

 彼女らが落とされた奈落の穴は、全てを溶かす貯水槽へと変じるのだ。

 

 

 

 クアットロ=ベルゼバブは唯雨を降らせるだけ、それだけで逃げ場をなくした彼女達は酸の海に飲まれて溶ける。

 

 故にこれは戦闘ではない。

 絶対的優位より行われる唯の虐殺であった。

 

 

「っ、ならっ!!」

 

 

 降りしきる雨の中、高町なのはは決断する。

 

 傘の替わりにしかならない盾を展開し続けても、何れ溶かされるは必定。

 ならば対処は一つ、空の穴を目掛けて雨の中を飛翔し突き抜ける事。

 

 

「アクセルフィン!」

 

 

 足元に翼を生み出して、ふわりとその身体が飛翔する。

 

 降り頻る雨は、不撓不屈の意志で乗り切る。

 その身を酸に焼かれながらであろうと、突破できれば勝機はあると――そんな単純な正攻法を、その女が予想していない筈がない。

 

 

「来たれ――Gogmagoooooooooooog!!」

 

 

 無数の羽音と共に、現れるのは暴食の獣達。

 集い貪り埋め尽くすのは、魂さえも凌辱する蝗の群れ。

 

 

「っ!?」

 

 

 百。千。万。億。

 無数に増え続ける悪なる獣が、その群体を以って天を覆う。

 

 生半可な力では対処できない悪性情報の塊が、まるで天蓋の如くにその穴を覆いつくした。

 

 

「これ、じゃぁ」

 

 

 抜け出せない。抜け出しようがない。

 あの蟲の群れは魔法では防ぎ切れず、飛び出そうとすれば集い群がってこの身を貪り喰らうであろう。

 

 死に難い。死なない。そんな対策に意味はない。

 

 無限に死なない身体もあれにとっては無尽蔵に増える為の糧にしかならず、一度群がられれば最期、精神力が尽きるその瞬間まで苗床として殺され続ける事となる。

 

 不死身の身体と無尽蔵の軍勢。

 無限の糧にしかなれぬ限り、その相性は最悪だ。

 

 それが分かってしまったから、高町なのはは飛び立てない。

 無理をしても抜け出せない以上、脱出と言う術は完全に封じられていた。

 

 

 

 例え蟲が天蓋を覆おうとも、降り頻る雨が止む事もない。

 

 蟲の身体を滑り落ちて、滴る雨はヘドロの如く。

 あらゆる悪性を凝縮しながら、地面に落ちては溜まっていく。

 

 突破は出来ない。この蟲全てを抜けられるだけの力がない。

 ならば耐え続けるより他に術はなく、されど耐え続けたとしても先はない。

 

 最早詰み。既にして戦闘ではない。

 これは蹂躙。これは虐殺。これは一方的な無双劇。

 

 クリミナルパーティーは終わらない。

 恐怖劇に役者の奮起などは要らず、ただ詰将棋の如くに磨り潰されて終われば良いのだ。

 

 

「ウフフ。アハハ。アハハハハハハッ!!」

 

「っ! 何処よ、何処にいるのよっ! あんのクソ女ぁぁぁっ!!」

 

 

 嗤い声が暗い穴の底に響く。

 何も出来ずに溶けていくしかない女達を、嘲笑う魔群の声が響いている。

 

 されど女は此処にはいない。クアットロが此処に赴く理由がない。

 ただ座して待てば済む現状、彼女の器が安全圏より出て来る事はないだろう。

 

 

 

 そんな当然の思考を嘲笑う様に、魔群はその予想を裏切った。

 

 

「Sancta Maria ora pro nobis」

 

 

 奈落の底に聖句(オラショ)が響く。

 蟲の群れに覆われた暗い天蓋の下、あぶれた悪なる蟲が一点へと集っていく。

 

 

「Sancta Dei Genitrix ora pro nobis」

 

 

 それはまるで太陽。

 蟲の群れが折り重なって生まれたのは、暗い昏い黒い太陽。

 

 どす黒い悪性情報が収束した場所に生まれた太陽が、ぐじゅぐじゅと音を立てて人の型へと変じていく。

 

 

「Sancta Virgo virginum ora pro nobis」

 

 

 地の底に響く福音は、良く通る澄んだ女の美声。

 だと言うのにその歌は奈落の底から響く呪いの如く、怖気を催す悪意と悪臭に満ちていた。

 

 

「Mater Christi ora pro nobis Mater Divinae Gratiae ora pro nobis」

 

 

 ヘドロで出来た太陽が、女の姿へと変わっていた。

 長い栗色の髪を腰まで伸ばし、父と同じく白衣で着飾ったその姿。

 

 悪女の笑みを張り付ける美女の顔を、見知った者は誰一人としていなかった。

 

 

「Mater purissima ora pro nobis Mater castissima ora pro nobis」

 

 

 誰が知ろう。その姿こそ、嘗ての女の器。

 ベルゼバブとなる為に、磨り潰された女の躯。

 

 

「oh Amen glorious!!」

 

 

 無数の汚濁を振り撒きながら、赤き雨に溶かされる女達の前に姿を見せる。

 

 其は魔蟲形成。

 集めた蟲を媒介に、己の分体を作り上げる女の業。

 

 持ち主の魂の色へと形を変えるその影は、意図せずとも魔群が持っていた本来の姿を作り上げるのだ。

 

 

「どうかしらぁ、少し芸風を変えてみたのだけどぉ?」

 

「フォイアッ!!」

 

 

 ニヤニヤと嗤う女が言葉を発した瞬間、アリサが形成した質量兵器を以って砲火を浴びせた。

 

 相手が現れたならば、それこそ好機。有無を言わせる暇すら与えない。

 

 一瞬の隙を見逃さずに放たれた砲撃は、確かにクアットロの頭を吹き飛ばし――次の瞬間には、彼女の傷は塞がっていた。

 

 

「アハハハハ。無駄よぉん。だってこれは唯の影。幾ら撃っても意味なんてないわぁ」

 

「ちっ」

 

 

 此処にあるは唯の影。折り重なった蟲の群体。

 破壊の力で吹き飛ばしたとて、その蟲が再び集えば傷は塞がる。

 

 これを傷付け得るは唯二つ。

 滅びの概念を宿し、消滅を必定とさせる力のみ。

 

 そして此処に、それはない。

 それを知るからこそ、クアットロは分体を生み出したのだ。

 

 

「ねぇ、今どんな気分?」

 

 

 魔群は、己を害する術を持たない女達を嘲笑う。

 

 決して傷付けられる事はない。

 そんな優位を維持したままに、嘲りの声を掛ける。

 

 

「少しずぅつ溶かされてぇ、無数の蟲に行く手を塞がれてぇ、なぁぁぁんにも出来ないエースさんたちはぁ、いぃぃぃたいどんな気分なのかしらぁぁぁ?」

 

 

 嘲り嗤う女が影を動かしたのは、唯その為だけに。

 その無様を眼前で鑑賞し、その散り様を嘲笑う為だけに此処に居るのだ。

 

 

「辛い? 悲しい? 悔しい? 腹立たしい? けぇぇぇどぉ、ぜぇぇぇんぶ無価値なのよねぇぇぇ! だぁぁぁって、みぃぃぃんな此処で死ぬんだからっ!!」

 

 

 ニタニタと気味悪く嗤う。ゲラゲラと下品に哂う。

 

 嗤い愚弄し嘲笑する。

 無様無価値無意味と罵倒する。

 

 お前たちには何も出来ないのだと強調する様に、そんな彼女達をエースと評価している者らすらも馬鹿にする様に、クアットロは腹を抱えて嗤い転げていた。

 

 

「ウフフ、フフフ、アハハハハハハッ!!」

 

 

 その笑みは腹立たしい。その表情は憎たらしい。その余裕が気に入らない。

 

 だが――

 

 

「ちっ、……二人とも、アイツは無視するわよ!」

 

 

 現状で打つ手はない以上、アレの相手などしていられない。

 ならば所詮雑音と決め付け視界から追い出し、この閉塞した状況を突破する術を考える事こそ有益だ。

 

 そう結論付けたアリサは、二人の友に視線で促す。

 視線に頷く二人。彼女達が取った選択はとても分かり易い力技。

 

 

「ディバィィィン――」

 

「タイラントォォォッ――」

 

「二大凶殺――血染花っ!」

 

 

 今持てる全霊を以って、この包囲網に穴を開ける。

 一瞬の空隙を抜けて、あの魔群へと一矢報いるのだ。

 

 

 

 それはとても薄い勝機。

 薄氷の上を渡る方が、まだ安心できる無策特攻。

 

 それでも、それしか打つ手がないと判断したが故に――

 

 

「レェェストイィィンピィィィィスッ!」

 

 

 そんな抵抗は、降り注ぐ破壊の力によって、あっさりと潰された。

 

 

「っ!」

 

「相殺すら、出来ないっ!?」

 

 

 無数の蟲は妨害にして弾丸。

 集いて放たれた偽神の牙は、無数に枝分かれして女達の全力を打ち崩す。

 

 

「アハハ、アハハハハハハッ!!」

 

 

 相殺所か減衰すらも出来ない。

 リミッター付きの彼女達、既に重症を負った女達の全力程度で揺るがす事が出来る程に、魔群の牙は軽くはない。

 

 分裂する魔弾はレーザーの如き軌道を描きながら、女達の魔法を撃ち抜いていく。

 彼女達の全力攻撃を正面から撃ち破って、魔群の毒が女達の身体を貫いた。

 

 

「つぁぁぁぁぁっ!?」

 

「いやぁぁぁぁっ!!」

 

「アァァァハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 射抜かれた彼女らが落ちる先には酸の池。

 降り注ぐ雨は止む事はなく、守りが失われた彼女らの身体に蟲が喰らい付く。

 

 僅か一手の選択ミスが、余りにも多くの被害を齎すのだ。

 

 

「さいっこう。ほんと最高の気分」

 

 

 抵抗など出来ない。対抗など不可能だ。

 始まる前から勝負は決していたのだから、女達に出来る事など何もない。

 

 

「踏み躙られる人間の悲鳴って、なんでこんなに素敵なのかしらぁ」

 

 

 その頬を紅潮させて、高ぶる欲を隠そうともせずに、甘える声音でクアットロは口にする。

 

 

「さあ、このまま磨り潰して・あ・げ・る」

 

 

 最早死は必定。弄ばれて終わるであろう。

 クリミナルパーティーの幕引きは、女達の絶望の悲鳴で終わるのだ。

 

 

「っ、アリサちゃん。すずかちゃん」

 

「はっ、こりゃ、本気でマズイわね」

 

 

 逃れられない最期が迫る。

 押し寄せて来る悪意の牙を、止める術など何処にもない。

 

 

「けど」

 

「うん。……諦める訳には、いかないっ!」

 

 

 それを覚悟して、それでも抗う意志を絶やさない。

 その強き意志を砕く為にこそ、魔群はニタニタと笑みを浮かべる。

 

 

 

 そんな彼女らの下へ、男の声はその時届いたのだった。

 

 

〈高…、バ……グス、…村〉

 

 

 それは途切れ途切れの念話。

 男の声は擦れていて、今にも消えそうな程に弱っている。

 

 

「クロノ、くん……」

 

 

 その声の主に、すずかが気付く。

 女達は揃って、彼の念話へと耳を傾けた。

 

 

〈よ……た。ま…い………るな〉

 

「アンタこそ、まだ無事みたいね」

 

〈……、辛…じて、……な〉

 

 

 念話の声に言葉で返す。秘匿性などは気にしない。

 

 クアットロは妨害もせずに、女達の好きにさせているのだ。

 この外道の性格上、念話の盗聴も行っているのであろう。その上で、この女は放置している。

 

 ならば隠そうと努力する事、それ自体が無駄である。

 

 

〈こっちは……に悲……な。……手詰まり…〉

 

「……クアットロの分体は、一人じゃなかった」

 

 

 あのクロノが押されている。

 その事実に思わず、思い付いた事を呟くなのは。

 

 そんな彼女に返るのは、ニィと嗤う女の悪い笑み。

 

 女は聞いている。その念話を傍受していた。

 その上で自由にさせているのは、その方が面白いから。

 

 希望が絶望に堕ちる瞬間、それこそが女にとっては最も愉しい娯楽である。

 

 

「……クロノ君の歪みで、合流は出来ないの?」

 

〈そ……余……あったら、やっ………さ〉

 

 

 言葉で問い掛けるすずかも、念話の向こう側で荒い呼吸をしているクロノも、どちらにも余裕などはない。

 

 それを知っているが故の余裕。

 絶対に己の敗北はないと、確信しているからの遊び。

 

 

〈だが、………………が無…な…勝機…あ…〉

 

 

 ニタニタと嗤い続ける魔群の掌の上で、弄ばれる玩具たち。

 彼らは念話の中で互いの状況を知り、僅かな勝機を手繰り寄せようとしている。

 

 そんな彼らに教えてあげよう。

 

 

「勝機? そんなモノはないわぁ」

 

 

 だってこれは勝負ではないから、最初から勝ち負けなんてレベルの話をしていない。

 お前たちに許された事は唯、無意味に絶望したまま、無様な姿を晒して、無価値に死ぬことだけなのだ。

 

 

「今日は地獄が一番近い日(クリミナルパーティー)。貴女たちの命日よ!」

 

 

 両手を広げて嗤い続ける魔群を前に、女達は拳を握り締める。

 

 逆転への一手。起死回生の最後の手段。

 例え筒抜けの策しかなくても、そのか細い道は確かにある。

 

 故に――

 

 

「行くよ、反撃開始だ!」

 

 

 機動六課のエース達は、神を騙る悪魔へと立ち向かうのだ。

 

 

 

 

 




トーマ「お前は生きていちゃ、いけないんだっ! 此処から居なくなれぇぇぇっ!!」
クアットロ「……ただ踏み躙って遊んでただけなのに、解せぬ」


そんな訳でクアットロ無双回。
本気クロノと同格な怪物なので、消耗&足手纏いありだとこんな展開になります。


逆転の方法?
クロノお義兄ちゃん、万象掌握早よ!



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