閣下が生きるハイスクールな世界   作:佐竹 リン

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二ヶ月ぶりです。お久しぶりです。
いやぁ…長い間スランプに陥ってました。リアルもかなり忙しい時期に入りましたし、これからもペースガタ落ちする可能性大です…。下手すると次は二ヶ月以上かかるかも…。


どうか、気長に待っていただけるとありがたいです。これからもよろしくお願いします。


四十七話目

「ギャスパー、出てきてちょうだい。無理してイッセーに連れて行かせた私が悪かったわ。イッセーと仕事をすれば、もしかしたらあなたのためになると思って…」

 

『ふぇえええぇぇぇぇぇんっっ!!』

 

夕方の旧校舎に響き渡る、ギャスパーの悲しみの叫び。

閉め切られたギャスパーの部屋の前では、我らが部長がその扉をノックしつつ、部屋の中にいるギャスパーに向けて謝罪の言葉を述べている。

…見ての通り。ギャスパーが引きこもりに戻っちまったんだ。

 

今日、ギャスパーは皆のうち誰かの契約について行くことになっていた。出来る限り早く人と話すことに慣れて欲しいっていう部長の思いからそうなったらしい。

誰の契約について行かせるか話し合ったところ、ギャスパーの励みになってくれればってことで、イッセーが選ばれた。

 

今回の契約者さんは割と温厚な性格の人だというし、ギャスパーを怖がらせるようなことは何もしないだろう、と。

それに、もし万が一何か問題が起こったとしても、一緒にいるイッセーがある程度は解決する手筈になっていた。

だからあまり警戒しないでギャスパーを送り出した。それが、今日の夕方の話だ。

 

…ところがその結果、こうやって再び引きこもりに戻ることになってしまったんだ…。

 

 

「…ま、ある意味仕方ねぇ話か。今回の場合、あいつが引きこもったってのも当然っちゃ当然だもんな」

 

運が悪いことに、今回の契約者さんは特殊性癖を持ち合わせていた人だったらしく、所謂“男の娘好き”なんだったそうだ。

ギャスパーみたいなタイプはストライクゾーンど真ん中だったらしい。

 

その契約者さんはギャスパー相手にすっかり興奮しちまったわけなんだが…。

 

 

ただでさえ対人恐怖症なあいつが、そんな人に擦り寄られたんだ。そうなったらどうなるのかってのは想像に難くないだろう。

 

完全に怯えちまったギャスパーは無意識のうちに神器を発動させて、その場にいたイッセーと契約者さんの時間を停めてしまったらしい。

契約の方は何とかうまくいったみたいなんだが、責任感じたあいつはすっかり落ち込んじまって、ああして再び部屋の中にこもってしまったんだ…。

 

 

…ということで、ある意味仕方ない。その契約者さんがギャスパーにとって異様に怖かっただけなんだ。

 

 

「それはそうなんだけど…。俺が一緒にいたわけなんだから、ちゃんとフォローしてやらなきゃいけなかったんだ」

 

悔しそうな顔を浮かべ、イッセーが呟く。

 

 

…ギャスパーがここまで臆病な性格になってしまった経緯については、今日の朝の登校時間に軽く教えてもらった。

 

まず、吸血鬼という種族は純血ではない者を差別する傾向がかなり高いという。悪魔にもそんなところがあるらしいが、それとは比べ物にならないくらい激しいんだとさ。

名門の吸血鬼の父と人間の母の間に生まれてきたギャスパーはハーフという扱いになり、生まれた時からいじめられ続けていたらしい。

 

更には元から持ち合わせていた吸血鬼としての才能と例の神器の能力が合わさって、望んでもない力が年を経るごとに強くなっていき、ついに自分では制御できなくなってしまった。

 

自分の意思とは違うように働いてしまう。誰かと仲良くしようとしても、その相手を停めてしまう。停められた相手は、不審に思ってギャスパーを恐れるようになる。

ギャスパー自身、無意識に相手を停めてしまうことに怯えてしまい、人と触れ合うことを避けるようになった…。力を持つ者の悲しい運命ってやつだ。

 

結局ギャスパーは家から追い出され、人間としても吸血鬼としても生きにくくなった。

路頭をさ迷っていた時に、ヴァンパイアハンターに狙われて一度命を落とし、そこを部長に拾われたらしい。

 

 

……実際のギャスパーの心の傷はもっと複雑なもので、簡単には言葉にできない。けど、ざっくり言うとそんなとこだ。

 

 

 

『ぼ、僕は……こんな神器いらないっ! 皆、皆停まっちゃうんだ! 怖がるし、嫌がる! 僕だって嫌だ!

友達を、仲間を停めたくないよぉ……。大切な人の停まった顔を見るのは…もう嫌だ……』

 

部屋の中ですすり泣くギャスパー。

 

「…私、〝王〟失格ね。またこの子を引き篭もらせてしまうなんて……」

 

そんなギャスパーの泣き声を聞きながら、扉に手を添え、落ち込む部長。

けど…この人もいつまでもここにいるわけにはいかない。この後、部長は後日行われる会談に向けての打ち合わせに向かうことになっているんだ。

 

今回の会談は、例の三すくみの間で和平が結ばれるかどうかが決まるほど大切なものだという。グロンギの話云々はあくまでオマケであり、メインとしてはそっちの方だ。

もしその会談で何か失態を犯したとなれば、目も当てられないことになるそうだ。その重要性はオレでも理解できる。

 

だからこそ、事前の打ち合わせを慎重に、そして念入りに行わなければならない…。

 

 

 

…しかし、部長は部屋の前に立ったまま、まるで動こうとしなかった。

 

…分かってる。部長はギャスパーのことが心配なんだ。

普段なら、今すぐにでも打ち合わせの方に向かっていったことだろう。それがなかなかそう出来ずにいるのは、怖い思いをしたギャスパーを放っておけないっていう想いがあるからに違いない。仲間想いなこの人ならありそうなことだよな…。

 

 

「…部長。ここはオレたちに任せて、あなたは打ち合わせの方に向かってください」

 

「シュウ?」

 

ギャスパーの部屋の前に立つ部長に声をかける。

 

「心配なんでしょ? ギャスパーのこと」

 

部長は異を唱えることもなく、静かに話を聞いていた。

 

さっき言ったように、部長はギャスパーのことが心配で打ち合わせに向かえずにいる。なら、オレたちがこっちのことを引き受ければ、部長は心置きなく打ち合わせに向かえるはずだ。

ギャスパーとは個人的に話もしてみたいし、一石二鳥。

 

「こいつの面倒はオレらがきっちり見ますから。…大丈夫っすよ。せっかく出来た男子の後輩なんですから。なぁ? イッセー」

 

「おう! 当たり前だ!」

 

力強く返事するイッセーの声に、部長は暫くの間黙り込む。

やがて、決心したようにその顔を上げた。

 

「……分かったわ。イッセー、シュウ。お願いできる?」

 

「はい!」

 

「りょーかいっす」

 

オレたちの答えに満足そうな笑みを浮かべる部長。

一度ギャスパーの部屋を名残惜しそうに一瞥し、そのままこの場を去っていった…。

 

 

 

「…よし。早速おっ始めるとしますかね〜」

 

振り返り、ギャスパーの部屋に目を向ける。

どうやらあいつはまだ泣いているようだ。中から『ふぇえぇええ〜ん…』って感じの泣き声が扉を通して聞こえてくる。

きっちり鍵がかかっている堅固な扉が情けなく泣いているみたいで気味悪い。サッサと片付けるとしますかね。

 

「シュウ。何かいい考えでもあるのか?」

 

「モチのロン。任せときな」

 

自信満々に足を進め、部屋の扉の真横あたりに立つ。

ふむ。扉が扉なら壁も壁、こっちもこっちで頑丈だな。これを叩いて壊そうとしたところで、オレの手の方が先にイかれちまいそうだ。

…ま、そんなことしないけどさ。

 

 

「…一応確認なんだが、今は部屋に最初みたいな結界とかは張られてねぇんだろ?」

 

「え? あ、ああ、多分。普通に鍵を閉められてるだけだと思うぞ」

 

「オッケーオッケー。んなら大丈夫だ」

 

手を合わせ、頭の中で大体のイメージを思い浮かべる。

…簡易的なもんだし、そんな大きいもんは必要ないか。人一人が入れるくらいでいいかな。必要以上にデカくすれば、部屋そのものが崩れちまうし。

デザインは…この際カッコよく作ってみるか。どーせすぐ壊すもんだし、好きに作っても問題ないだろ。

 

 

 

「…っ!? お前まさか!」

 

「ハハッ、気付いたか。だがもう遅い!」

 

バンッ! と両手を壁に叩きつけると同時に、青い稲妻が手と壁を包むようにバチッ!っと走った。

ギャスパーの部屋の壁がピキピキと音を立て、少しずつ変化していき……

 

 

 

 

 

……やがて、小さな扉へと、その姿を変えてしまった。

 

 

 

 

 

「よし。んじゃ、お邪魔しま〜す」

 

カチャリとその扉を開けて、ギャスパーの部屋に入る。

えーっと、あいつはどこにいるのかな、っと……。

 

 

「………………」

 

 

お、いたいた。部屋の隅でポカンとしてやがる。

 

「よっ、ギャスパー」

 

シュッと手を動かし、ギャスパーに向けて挨拶。

こちらを指差すギャスパーは、ガクガクと震えながらその口を開き…

 

 

 

「えぇええぇぇえぇええぇぇっっ!!?」

 

 

と叫んだ。

 

あ〜もううるさいな〜。ちょっと勝手に扉作って入っただけじゃないか。何をそんなに騒ぐ必要があるんだかまったく。

 

 

「な、何やってんだよお前!!」

 

「ウルセェなぁ。こうやってでも顔を合わせねぇ限り何も始まんねぇだろ?

時には強行突破も上策だ」

 

イッセーからの苦言を適当に受け流し、再びギャスパーの方に視線を送る。

 

「アワ…ワワワ…アワワワワ……」

 

おやおや、完全に怯えきっちゃってまぁ…。…確実にオレのせいなんだろうけど。

 

「…だいじょーぶだ。別にお前を獲って食おうってわけじゃねぇ」

 

両手を上にあげ、戦う意思も狩る意思もないことを示す。

一応顔を合わせたことがあるからか、怯えてはいるものの顔はこちらに向いていた。ギャスパーもオレが部員の一人ってことは分かってくれてるだろ。

 

「ほ、本当…ですか…?」

 

「おう。ただ、男同士腹を割って話しでもしようかって思っただけさ。

…勝手に入り込んだのは悪かったよ」

 

「あ…いえ……」

 

ギャスパーの近くに腰を下ろす。

…ほら。なんだかんだ言ってうまくいっただろ? こういうのは多少強引にいったほうがいいんだよ。分かったかねイッセーくん。

入り口付近に立っているイッセーに自慢げな顔を向ける。やれやれとでも言いたそうな顔を見せながら、イッセーも近いところに座った。

 

 

「あ、あの…あれは一体、どうやって…?」

 

ギャスパーがそっと急造の扉を指差した。

そういや、まだオレの能力とか知らないんだっけ。

 

「オレの神器の能力さ。物質の構造を組み替えて、物の形を変えたり性質を変えたり…。まぁ簡単に言えば、“壁”の構造を変えて“扉”を作り出したってことさ。

…いい出来だろ?」

 

「え、えぇ…はい。そうですね…」

 

うむ、素直な奴だ。結構結構。

いや〜、あれ個人的にも自信作なんだよなぁ。この後元に戻すのが勿体無いと思えるくらい。

いっそのこと、元々あった方の扉を壁にしちまおうか。いや、二つの扉を合体させるのもいいかもな…。

 

「ギャスパー、無理しなくていいぞ。ダサいって思ったら正直にダサいと言ってやれ」

 

「おいコライッセー。素直なギャスパーくんを洗脳しようとすんな」

 

横目で睨みつけるも、イッセーは「だって当然じゃん」とでも言っているかのような顔を返した。

まったく、芸術の分からん奴め。別にお前に理解してもらわなくたって構わねぇし。オレとギャスパーだけで楽しんでおくし。

 

 

 

 

 

 

…さて、と。なんとか顔をあわせるのも成功したし…。

 

 

 

 

「…取り敢えず本題に入るが…。やっぱ、怖いのか? 神器と、オレたちが」

 

楽しい雰囲気から一転。真剣な顔つきで尋ねると、ギャスパーは再び悲しそうな顔を見せた。

 

この話を始めたら、ギャスパーを悲しませることになる…。それは分かっていたんだが、だからと言って何もその話題に触れなかったら何も進展しない。

それじゃダメだ。慰めるだけじゃなく、自分に自信を持てるようにしないといけない…。だから今、思い切ってこの話題を振ることにしたんだ。

 

 

顔を下に向け、視線を合わせようとしない。そんな様子のギャスパーに向けて、出来るだけの優しい声で語りかけた。

 

「それについて責めるつもりは毛頭ない。…むしろ良いことだと思うぜ? 自分の力に恐れを抱くってのは大事なことさ。時間を停める、なんて末恐ろしい能力を持ってるなら尚更だ。

他の皆だって、自分の力が怖いもんさ。な?」

 

そこでイッセーの方に視線を向ける。

イッセーは軽く頷き、自分の左手を自分の顔の前に持ってきた。

 

「…あぁ。俺も怖い。赤龍帝だなんて呼ばれてるけど、その力を使うたびに体のどこかが別の何かになっていく感じがするんだ。

けど……悪魔のこととか、ドラゴンのこととかよく分からないけど、それでも前に進んでいこうと思う」

 

「…ど、どうしてですか? もしかしたら、大切な何かを失うのかもしれないのに…先輩方はどうしてそこまで真っ直ぐ生きていられるんですか?」

 

イッセーの決意の声を聞いたギャスパーは、意外そうな顔でオレたちを見つめて尋ねてくる。

 

「…そうだな。大切なものを失うのが嫌だって気持ちはよく分かる。オレも嫌だからな。…が、だからこそ前に進んで行けるとも言えるんだ。

…オレも一度、大切にしていたものを失ったことがある」

 

「えっ……?」

 

それに答えた途端、ギャスパーだけでなく、イッセーも驚いたような顔を見せた。昔からの付き合いなのに、そんなこと知らなかったって驚いてるのかもしれない。

 

…そりゃ知らねぇだろ。これ、イッセーに会うよりずっと昔のことなんだからさ…。

 

 

「…けど、色々あって、何とかもう一度手にすることが出来たんだ。だから、折角手に入れたその大切なものを再び失いたくはない。そのために、がむしゃらにやらせてもらってんだ。

…オレは聖人でもなけりゃ賢人でもない。だからカッコいいことを言ってはやれねぇけど、お前と一緒に頑張ってやることはできる」

 

あまり関係ない話には触れず、そのまま言葉を繋げる。

しかし、ギャスパーは顔を下に向けたまま、更に悲しそうな顔を浮かべた。

 

「…ぼ、僕じゃご迷惑をかけるだけです…。引きこもりだし、人見知り激しいし…神器はまともに使えないし…」

 

 

 

「ギャスパー。オレたちはそれくらいのことでお前を迷惑な奴だなんて思わないぞ?」

 

それを聞いたギャスパーは驚いたように目を見開き、ゆっくりと顔を上げてオレと目を合わせてくれた。

 

「引きこもりで人見知りなら、少しずつ慣れていけばいい。神器がうまく扱えないなら、少しずつ練習していけばいいじゃねぇか。

何度失敗してもいい。それでオレたちはお前のことを嫌いになったりはしない。オレでよければ、いくらでも相談に乗ってやる。イッセーやユウトだって、お前の練習なら喜んで力貸してくれるさ。部長や朱乃先輩やアーシアは何度でも励ましてくれるだろうし、ゼノヴィアや小猫だって多少スパルタでも鍛えてくれる。

…だから大丈夫だ。お前が心配するようなことにはならないし、させねぇよ」

 

最後に、できるだけの笑顔を向ける。隣では同じようにイッセーが頷いているのが見えた。

 

…そう。皆は頑張ろうとするギャスパーのことを見捨てたりなんかしない。きっと、全員で応援する。

それを、こいつにもわかって欲しいんだ。

 

 

「……ありがとうございます。少し勇気が湧いてきました」

 

顔を上げて、笑みを見せるギャスパー。

よろしい。やはり男は元気でなくてはな。

 

 

 

 

「…扉が二つあるから不思議に思ったけど…二人とも中に居たんだね」

 

その時、ユウトが部屋に姿を見せた。元からあった扉の方から顔を覗かせている。

 

「お、ユウト。どうしたんだ? 一応活動時間は終わりだろ?」

 

「うん。二人がギャスパーくんについていてくれてると聞いたから、どうしてるのかちょっと気になってね」

 

そう言いつつ、ユウトは部屋に入ってきた。

 

…お。何気にオカルト研究部の男子部員が全員集合したな。オレとイッセーとユウトとギャスパーか…。

…こうして見ると、結構面白い組み合わせだよな。

 

「よしっ! 男子メンバーが全員揃ったところで、俺から一つ話がある!」

 

胸を張って言い放つイッセーに視線を向ける。

フッフッフと得意そうに笑い、奴はさらに言葉を続けた。

 

「俺たち男四人で、合体技を考えてみたんだ」

 

「合体技……?」

 

頭に疑問符を浮かべる一同。

合体技か…。オレもガキの頃に色々見たっけなぁ。五人組くらいのヒーローが、それぞれ持つ武器を合体させて、強力な一撃を放ったりとか…。あるいは、それぞれの必殺技を同時にぶつけてみたりとか…。

 

そんな感じのやつを、この面子でやんのか?

 

 

「まず、ギャスパーが神器の能力で相手の動きを止める」

 

おお、なんかスッゲェそれっぽい。

悪魔になって何度も戦場を経験してきたからか、話す時の顔もいつもと比べて真剣そのものだ。

 

…そうか。考えてみると、こいつはギャスパーに悪魔歴では劣るっつっても、学園生活や戦場では先輩になるのか。

それなら、戦う時の心構え的なのも話す時が来るかもしれねぇな。

 

先輩として、後輩のいい手本になれるといいよなぁ……

 

 

 

 

 

「そして、俺がその女の人の服を“洋服崩壊”で吹き飛ばす!」

 

 

…………あ、やっぱいつも通りだったわ。

 

 

「そしたら、俺はその相手の女の子を見放題で触り放題……♡」

 

 

だらしなく鼻の下を伸ばし、イッセーは自分の妄想ワールドへ突入していく。

…どこまでもマイペースなんだな、コイツ…。

 

 

「え、えっと…それなら、僕とシュウくんはいらないんじゃないかな?」

 

「いや! そんなことはないぞ!

木場は俺がお触りしている間にやられないように、俺を守る係。そしてシュウは、いざとなった時の為に逃げ道を用意する係だ!

そう! これこそ、この世の全ての男の夢と希望が詰まった、ドリームフォーメーションなのだ!!」

 

なんとか優しいツッコミを入れるユウトに、猛烈な勢いで答える変態。言い切った! って感じでドヤる。

 

…なるほど。確かにそれは完璧なフォーメーションだろう。

相手の動きは封じ、周りからの加勢にも備え、かつ自身の退路はしっかりある。それはどんな凄腕が相手でも十分通用しうる戦法と言えるだろうさ。

 

 

「アホらし、オレはパスだ」

 

 

しかし、それはメンバーの全員が乗り気であるときに限る。

 

 

「なっ! シュウ!?」

 

「んな下らねぇ事に付き合ってられっか。そんなのにオレたちを巻き込むんじゃねぇ」

 

「分かってるのか!? お前も触りたい放題なんだぞ!? 折角の大チャンスなんだぞ!?」

 

「なーにがチャンスだ。それでオレの答えが変わるわけねぇだろうが、アホ」

 

適当にあしらうように言い放つと流石に効いたのか、「クウッ…折角考えた最強のフォーメーションが……」って泣きながらぼやき始めた。

 

本来なら天誅下してるとこだったが、今回は何もしない。だってギャスパーの目の前だからな。乱暴は控えますぜ。

 

 

「イッセーくん。僕はイッセーくんのためなら何でもするけど…一度今後のことをちゃんと話そうよ。

そんなことばっかりやってると、ドライグ、泣くよ?」

 

《木場はいい奴だなぁ》

 

突然イッセーの左手が喋り出した。例の赤龍帝なるものの声だ。

伝説のドラゴンさえも泣かせるとは…。こいつの変態っぷりは、ドラゴンも悩みの種らしい。

 

「…お前らはいいよなぁ……イケメンだから特に何も苦労しないんだからさ……。どうせ俺なんか……」

 

そんなやりとりを流しつつ、どこぞのバッタ兄弟よろしく心が病んだ様子のイッセー。

 

「す、すごいです…。僕にはとてもそんな作戦思いつきそうにもないです…」

 

「思いつかなくていいし、感心しなくていいぞ。あれはダメな先輩の例だからな。

……それより、何でお前はまたそこに入ってんだよ」

 

チラと視線を送ると、そこにはそれなりの大きさの段ボールが置かれてあった。

…この中に、またギャスパーが入ってる。そんなに好きか段ボール。というかいつ入ったし。全く気づかんかったわ。

 

「ぼ、僕、人と話すときはこっちの方が落ち着くんです。蓋はちゃんと開けときますから」

 

…そこまでの効果があるのか。お前にとっての段ボールって、オアシスか何かか?

 

「…なら、これでも被ってろ」

 

カポッと、そこらへんに落ちてあった紙袋をギャスパーの頭に被せる。

ちょうど目の当たりに少し大きめの穴を開けると、紙袋でできた簡単な覆面が出来上がった。

こっちも大概変な奴だが、喋る段ボールよりかマシってもんだろ。

 

「こ、これ…なんだか落ち着きます。なんかいいかも……」

 

ペタペタと覆面を触るギャスパー。

 

「ど、どうですか〜? 似合いますか〜?」

 

段ボールから出て、フラフラとゾンビのように歩き回る。

紙袋を被っている時点で怪しさが溢れ出ているのに、覗き穴からはギャスパーの赤い目がギラリと光り、妙な迫力が…。

 

……あり? これはさっきの段ボールの方がまだ良かったかな?

 

 

 

==============

【第三者視点】

 

ギャスパーを慰めて自信をつけさせ、暫く男四人で雑談しあった後、既に夜遅くなっていたことに気がついた八神たちは、ギャスパーと別れてそれぞれの帰路についていた。

最初は木場も合わせて三人で帰っていたのだが、途中の分かれ道で別れ、今は八神と兵藤の二人だけで歩いている。

 

普段ならあの後の下らない話の続きで盛り上がっていたとこだろう。好みの女性のタイプや、女性のどんなところが好みなのか、といった話で。

 

…ところが、今はどちらも一言も言葉を発しない。ただただ黙って、それぞれの家へと向かっていた。

 

 

 

「…なぁ、シュウ。お前の言ってた、大切なものを失ったって話は…」

 

木場と別れてからずっと黙っていた兵藤が、遠慮しがちに口を開く。

先程、ギャスパーとの話の中で突然出た話…。二人きりになってから、彼はそれがずっと気になっていたみたいだ。

 

八神は不意にその足を止めて、尋ねられた問いに答えようと口を開く…。

 

「……ま、お前のことだ」

 

「…え?」

 

意外な答えを聞いた兵藤は、驚いたような顔を浮かべて、八神と同じように立ち止まる。

そんな様子を見た後も、八神はそのまま言葉を続けた…。

 

「オレが不甲斐なかったから、お前を人間じゃなくしてしまった。お前を戦いの世界に引き込んじまった…。

あの日、もっと早くに気づいてやれれば、こんなことにはならなかったって思うとな…」

 

暗い夜空を見上げる八神。その顔からは、どこか後悔のような、そんな悲しい感情が込められているような気がした…。

 

「…そんなこと気にするなよ! お前らしくもないぞ!」

 

兵藤が彼の背中を叩く。急に背中を叩かれた八神は驚いたような顔を浮かべ、兵藤の方に顔を向けた。

 

「あれは俺が〝赤龍帝の籠手〟を宿していたから起こったようなものなんだから、シュウのせいなんかじゃない。どっちかと言えば、浮かれていた俺の自業自得さ。

それに、今の生活の方が前より楽しいんだから、シュウが気にするようなことじゃないし…」

 

そこまで言い切った後、兵藤は「あ〜! こういう時、なんて言えばいいのか分からね〜!」と言いながら、再び歩き始めた。

 

 

「…そうかい。それはありがとさん」

 

 

苦笑を浮かべ、八神も彼の後を追う。

それからは普段通り、馬鹿な話をしながら自宅の方へと向かっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「…悪いな、イッセー…」

 

 

 

 

 

 

 

「ギャスパーには、ああ言ったオレだけどさ…」

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ、本当の事を言う気にはなれねぇんだ」

 

 

 

 

 

 




雑談ショーwith朱乃

朱「八神くん。今度のお休みの日、町中の神社に来てくださりませんか?」

八「別に構いませんけど…なんかありましたっけ?」

朱「その日、イッセーくんに関係することで儀式が執り行われるのです。そのお手伝いに来て欲しいのと…個人的にお話ししたいことがあるんですの」

八「…? まぁ、分かりました。今度の休日っすね」

朱「…えぇ。よろしくお願いします」




八「…なんか先輩暗いな…。何かあったのか?」
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