閣下が生きるハイスクールな世界   作:佐竹 リン

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はい、予測通り三ヶ月ぶりでございます。

前回に引き続き、長いスランプに陥ってまして、中々ペンが動きませんでした。
リアルもたいへん忙しくて…。受験勉強や英検取得、鬼退治や西遊記や円卓の騎士(分かる人は分かるはず!)など、中々…ね。

さて、三ヶ月ぶりの更新。どうか楽しんでいただけると幸いです!


四十八話目

次の休日の昼。

先輩から指定された場所にあった町外れのとある神社にて、オレはここで行われるという儀式の準備を手伝っていた。

不思議なお札が貼られた壺やら箱やらを儀式会場に運んだり、逆にいらないものを外に運び出したりといった力仕事を任せられ、黙々とその作業を頑張ってます。

 

 

…今の挨拶の中で、あれ? と違和感を感じたという人も多くいることだろう。だがちょっと待ってくれ。順々に説明していくから。

 

何がおかしいことなのか…。それは割と簡単なことだ。

 

普通、神社や教会といった神を祀るとされる施設には、魔除けの結界みたいなもんが貼られてんだ。悪魔の連中が入ろうとしたら、地味なダメージを与えて近づかせまいとするらしい。

これまでにオレらが押しかけてきた教会は、どれもとっくに廃れていたからか何かで結界の効果が薄れていただけで、普通はどこもそんな感じなんだそうだ。

 

 

…お分かりいただけただろうか。

 

要するに、儀式を受ける当人であるはずのイッセーが、会場に入ることができないんじゃないか? という疑問が浮かぶのだ。

 

神性バリバリな神社で悪魔の儀式なんてやるわけねぇじゃんっていうのも勿論ある。けど、実際はそれ以前の問題だ。当人が会場に入れない儀式とか、何それチョーウケるってレベル。

 

オレも最初ここに着いた時は、道間違えたんじゃないかとメチャクチャ焦った。だってここで儀式するだなんてマジで思えなかったし。

 

…じゃあそれについての答えなんだが……っと、その説明をするのは後にしよう。ちょうど今、最後の荷物を運び終えたところなんだ。

 

 

 

 

 

「先輩、こっちの方は終わりましたよ」

 

「ありがとうございます。お陰で随分早く終わりましたわ」

 

庭の方に声をかけると、そこで掃除をしていた朱乃先輩が姿を見せる。

先輩はいつもの制服姿とは違い、戦闘時に着るような巫女服を身にまとっていた。

 

 

…つまり、こういうことだ。

 

実は先輩はこの神社に住んでいて、その管理も請け負っているそうなんだ。そこいらの神社にもいる巫女さんをやってるっつーことになるのか?

 

悪魔を拒絶するような結界的な何とかは裏の取引で取り除いているらしく、悪魔でも簡単に入ることが出来るという。〝悪魔でも簡単に利用できる神の領域〟ってイメージだな。多分天界の連中といい関係を築くのに重要な場所となるんだろう。

 

だからここで悪魔の儀式をしても大丈夫だし、イッセーも入ってこれるということなんだそうだ。

 

なんで先輩が自分の家をここにしているのか〜とか、なんでここの巫女さんやってんのか〜とか、そんな深い事情までは分からない。けど、とにかくそういうことらしい。

 

ここを会場として選んだ理由はまだ分からないけど、これで一つの疑問は消えるだろう。

 

 

…余談だが、そのことを知った時はかなりホッとしたオレである。実際年齢三十過ぎのいいおっさんが迷子とか、恥ずかしすぎて…。

 

 

 

「それでは、私はこれから本格的な準備の方に入りますわ。シュウくんはこれからどうなされますか?」

 

「ん〜、取り敢えず適当にその辺ブラっと回っとこうかな〜っと。それより先輩。今日のあいつの儀式って、いったいどんなことやるんすか?」

 

先輩にこれからの予定を伝え、同時にちょっと気になっていたことを尋ねてみた。

イッセーに関係する儀式とは聞いていたが、詳しいことはまだ知らされてない。わざわざ神社を会場にするぐらいだし、結構重要なことをするんじゃないかと予想。

 

先輩は掃除用具を片付けつつ、その質問に答えてくれた。

 

 

「〝アスカロン〟をイッセーくんにお渡しするためのものなのです」

 

「アスカロン?」

 

…聞いたことない言葉だ。お渡しするって言ったから、多分何かの道具のことなんだろうが…。

 

首を傾げるオレの様子を見て、先輩はさらに補足の説明を加えてくれた。

 

「アスカロンというのは、聖ジョージ、ゲオルギウスが持っていたとされる『龍殺し』の聖剣の一つのことですわ」

 

「へぇ…」

 

そんなものを渡されんのか…。そういやあいつ、これといった武器がなかったっけ。

あいつの戦闘スタイルは殴って蹴っての格闘スタイルだから、そこまで重点的に使うことはないかもだけど、使えるに越したことはないか。

 

それがあれば、これからの戦いも一層やりやすくなるかもな。聖剣だからはぐれ悪魔の討伐も楽になるし、『龍殺し』っていうくらいだから多分龍特攻みたいなものがついてんだろう。仮に白龍皇との決戦になったとしても、それで優位に立てるだろうし…いいこと尽くしだな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなもんをあいつが持ってて大丈夫なんすか?」

 

サラッと言われたから気づかなかったけど、それ悪魔でドラゴンのあいつにとっちゃ害悪以外のなんでもないですよね? 効果はバツグン四倍ダメージどころか一撃必殺即刻お陀仏ですよね?

 

先輩はクスクス笑っている。…おのれ、これは狙われた感じがするぞ。そんなリアクションを期待していました感満載だぞ。

 

「ええ。ですから、こちらで最終調整を行い、イッセーくんでも扱えることができるようにするのです。

今、ある方がそのアスカロンを持ってこちらに向かわれています。…ちょうど今、到着されたようですわ」

 

「ん?」

 

先輩に言われて、周りに意識を向ける。…確かに、誰かが石段を上がってきているな。

石段がある鳥居の方に視線を向けると、ちょうど登り終えたところなのか、その人物は鳥居をくぐったところだった。

 

鳥居をくぐってきた人は、オレたちに…多分先輩の方に顔を向けた。

 

「ご無沙汰しています、姫島さん。本日はよろしくお願いします」

 

その人の挨拶に合わせ、先輩も軽く会釈する。その間にオレはその人のことをよく観察することにした。

 

…結論から言うと、なんか神々しい。うまく言葉にはできないが、優しそうな顔と柔らかい言葉、滲み出るオーラなどといった様々な観点で見ても、サーゼクスさんたちとはまた違った威厳がある。

神様ってのがホントにいるとしたら、こんな感じなのかもと思わせるような人物像だ。

 

…オレが知ってる神さんより神様っぽいってのはどういうことだろうか。

 

 

「…そちらの方は?」

 

見知らぬ男のことが気になったのか、その人はオレの方に視線を向けながら尋ねた。

オレの隣に立つ先輩が、その問いに答えるように紹介してくれる。

 

「彼は八神 柊。私たちグレモリー眷属の、人間の協力者です。今日は会場設営のお手伝いをお願いしたのですわ」

 

「どうも、八神です」

 

紹介されたのなら、こっちもちゃんとした挨拶を交わさねばならぬ。笑みを浮かべて軽く頭を下げると、あの人は納得したような顔を見せた。

 

「あぁ、あなたが八神さんですか。サーゼクスから話は聞いています。初めまして。〝熾天使〟…天使の長をしております、ミカエルという者です」

 

この人がミカエルさんか…。名前は知っていたけど、こうして会うのは初めてだな…。

 

天使のトップだというし、例の会談にも来るんだろうな。ちゃんと覚えとこ。メモメモ。

 

 

「それでは、早速始めましょうか。赤龍帝の彼は後ほどこちらに?」

 

「はい。今日の夕方に来るよう伝えましたわ」

 

「分かりました。では、それまでに済ませてしまいましょう」

 

そう言って、ミカエルさんと朱乃先輩は神社の方へ足を向ける。

 

去り際に先輩が、一瞬だけこっちに目を向け、「それでは、また後で」と視線だけで述べた。

 

 

もちろん忘れてはいない。今日は儀式の後、先輩が話したいことがあると言っていたんだ。

 

オレとしても一つ訊きたいこともあったし、ちょうどいい。儀式が終わったあたりにでも、ここにまた帰ってこよう。

 

 

…それまで、ノンビリと夕飯の買い物でもしとくかね。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

買い物ついでの観光気分であまり訪れたことのない地域をブラブラし、そろそろいい頃合かな〜と思った丁度その頃。神社の方から、ブワッと何かの力の波動が発生した。

 

邪気とか殺意とかそんな血生臭いものはなにもなく、ただ純粋に何かの力が、蒸し器の蓋を開けた時に出てくる煙のようにボワッと出てきた感じで……。イメージしにくい? ゴメンなさいね。表現しにくいんだよ。

 

どうやら儀式は成功したらしい。急いで神社に戻らねば…! ってことで、神社の方に足を向けた途端。

 

 

「あら、シュウじゃない」

 

 

野生 の ブチョー が 現れた!

 

 

「…ちょっと。なによその草むらから私が飛び出してきたみたいなリアクションは。というより私野生じゃないんだけど」

 

「だってなんの前触れもなく出てくるんですもん。なんで部長がこんなところにいるんすか?」

 

「イッセーを迎えに行っているところよ。そういうあなたは…一体どこに行ってたの?」

 

「儀式会場の準備の手伝いとかで呼ばれてました。これからもう一回神社に戻るところっす」

 

「それは知ってるわよ、朱乃から聞いたから。そうじゃなくて……それは?」

 

部長はそう言って、オレが両脇に抱える袋を指差す。…それは、ただ買い物に行った男が持っているとは思えないほどの量があった。自分でもそう思えちゃうくらいの量が。

 

「いやぁ、この辺りオレん家の周りじゃなかなか見かけないブランドの紅茶やコーヒーがいっぱいありまして…それに激安スーパーもありましたし…つい、衝動買いを」

 

実際、この辺りはまるで紅茶専門店の激戦区なのだろうかと思うくらい店が多かった。朱乃先輩がそういうブランドに色々詳しいのも納得できるほどに。

観光気分でブラブラしていたのが運の尽きとも言えよう。最初の店でやめときゃよかったとちょっと後悔しているところだ。

 

何故だろうか。グロンギになったあの日から、珍しい紅茶やコーヒーを見るとつい買ってしまう。無意識のうちにカゴに入れていて、気づいた時にはお支払いしていた〜なんてのが結構ザラにあるのだ。…いけないクセだってのは、重々承知しているんだけどな。

 

 

「呆れた…。あなた、部費の管理を任せちゃいけないタイプね」

 

「ええ。それは是非やめといたほうがよろしいかと」

 

「威張らないの。…少し持ってあげるわ。行き先は同じでしょ?」

 

「大丈夫っすよ。このくらい、普通に持てますし」

 

 

その場の流れで一緒に神社に向かう。…何気にこの組み合わせは珍しいな。いつもは大体イッセーと一緒にいるからか。

 

そういや、部長は例の会談の打ち合わせに出向いてたんだっけ。だから今日はイッセーと別行動なんだな。

…ってことは、打ち合わせも終わったのか。

 

「打ち合わせのほうはどうでした?」

 

なんとなく気になって尋ねてみると、部長は少し苦笑を浮かべて答えた。

 

「だいたい片付いたわ。後はもう本番を待つだけね」

 

本番…。そうか、もうそろそろ本番か…。

サーゼクスさんにはああ言ったものの、まだどんなこと話すか決めてねぇんだよなぁ…。

 

 

 

 

「…ねぇ、シュウ。一つ聞きたいのだけど」

 

「はい?」

 

「あなたのそれ…いったいどうなっているの?」

 

部長はそう言って、オレの髪を指差した。

 

それって……あぁ、電撃体のことか。そう言えば、まだ皆には何も説明していなかったな。

皆からすれば、オレがいきなり自爆行為に走っていきなり髪の色が変わって……それはマズイ。ちゃんと話さねば。

 

さて、なんと話したものか…。この力を手に入れたのは、多分グロンギの特殊能力みたいなもんじゃないかとは思うんだが…。

 

 

「…おそらく、オレの神器の能力かと。先輩の雷の中にある魔力の構造を…というより、性質か? それを分析して、理解して、取り込んだ、みたいな。そうして先輩の魔力にある雷の力を手に入れることができたんだと思います」

 

取り敢えず神器の所為にしてみた。一応、まだその可能性も捨てきれたわけじゃないし。

もしこの力が原作通りなら、魔力だの光力だのといった化学式じゃ表せないものは組み替えできない可能性は高いが、一応は神器という形でこの世界に溶け込んでいる。ひょっとすると、魔力や光力にも効果があるのかもしれない。

可能性はなきにしもあらず、なのだ。だからこれの所為にする。

 

「そんな能力、聞いたことないわね…。じゃあ貴方、それが分かっていたから朱乃に雷を浴びせるように言ったわけね?」

 

「分かっていたというより、予想です。成功する確率は五分五分でした。あの戦いでは少しでもパワーアップする必要があったんで、その五割に掛けてみたんです。…実際、今でもよく分かってないんすけど」

 

ハハハッて笑いながらそう答える。

 

 

すると……部長が、急に神社に向かう足を止めた。

 

「…部長?」

 

何かあったのだろうか…。そう思って、そっと部長の顔を覗き込む。

 

「…成功する確証がなかったのに、あんな行動に走ったわけ?」

 

その顔は、ついさっきまでのものとは違い、まるで何かを心配しているかのような…そんな顔だった。

 

「……まぁ、はい。そうですけど…」

 

今までとは違い、冗談半分で聞いちゃいけない話だ…。部長の口調からそう読み取れたオレは、顔を引き締めて部長に向き合う。

それに対し、部長も同じように真剣な顔になって口を開いた。

 

 

「…シュウ。確かに貴方のその瞬時の行動のおかげで、私たちはあの戦いを乗り越えることができたとも言えるわ。貴方がその力を得て、あの翼を持つ怪人を引き受けてくれたから、私たちは今も全員ここにいることが出来ている。そのことには感謝しているの。そこは間違えないで。

…でもね。貴方が雷を受けていた時、私たちは全員不安な気持ちにさせられたのも分かるわよね?」

 

「あ……」

 

部長から指摘されて、改めてあの時の自分の行為を思い返す。

 

…あの時、オレは電撃の力を得てパワーアップするために、先輩に雷を浴びせてもらうように頼んだ。

その行為自体は間違いだとは思わない。あれは確かに必要な行為だった。もしあれをやってなけりゃ、オレはガベリに負けはせずとも勝てもせずだったろうからな。

 

でも、その行動は、皆に余計な心配をかけるものだった。味方に攻撃を当てる、その行為そのものが不安なもの。なのに、電撃の力を得ることしか頭になかったオレは、皆にろくな説明をすることもなく、その行為に走った。

 

その結果、オレはガベリを打ち倒す力を得た代わりに、皆に精神的な側面でのマイナスの影響を与えた…ということか…。

 

 

…頭がひえた、なんてカッコつけたことを言っていたあの日のオレが馬鹿らしくなる。まだ血の抜け方が足りてなかったじゃねぇか…。

 

 

「貴方は間違いなく、私たちの中で一番強くて、戦場では一番頼りになる存在よ。でも、あまり無茶なことばかりしないの。貴方は眷属ではないけれど、オカルト研究部の一員なんだから」

 

…返す言葉もない。ぐうの音も出ないとはまさにこのことだ。

 

前世じゃ一人で戦ってるか、仲間と戦うっつっても、ユウスケと一緒くらいのもんだった。その上、ユウスケにはそんなに気ぃ使うこともなかったからな…。仲間に心配をかけないように戦うなんて経験は全くなかった。

 

…その感覚で動いちまった。今思うと、ホント浅はかだったよなコリャ…。

 

 

「……すんません」

 

小さく、それでもはっきりと謝罪の言葉を述べると、部長は笑みを浮かべ、また歩き出した。

 

横に並ぶようにオレも足を進めると、部長は小さく溜息をつき、空を見上げた。

その顔は、どこか悔しそうにも見て取れた…。

 

そんな顔を浮かべたまま、部長は愚痴をこぼすように小さく口を開く。

 

「…でも、今の私たちが力不足だから、貴方に無理を強いることが多くなるのも確かね。そこは謝るわ。ゴメンなさい」

 

「な!? いや、そんなことは」

 

「あるの。私たちがグロンギ相手でもちゃんと戦うことができれば、貴方一人で戦わせることはなかった。ライザーとの戦いも、コカビエルの時も…。貴方には無理をさせっぱなしね」

 

自嘲するように笑う部長。

…でも、部長たちは悪くない。確かに皆が奴らともやりあえるくらいになってくれれば、ありがたいことこの上ないのだけれど…。

 

 

…オレが一人で戦おうとするのは…皆が力不足だからとか、そんなんじゃないから…。

 

 

 

 

「今度、また強化合宿を開くつもりよ。貴方だけに戦わせることがないように、私たちも強くなるわ。だから、もっと私たちを頼ってちょうだいね?」

 

部長がそう言って話を終わらせた頃には、いつの間にか神社下の石段のところについていた。

オレたちがそこで足を止めたのとほぼ同時くらいに、上から、つまり神社の方から、聞きなれた声が聞こえた。

 

「部長〜! 只今終わりました〜!」

 

そう言って勢いよく降りてきたのは、儀式を受けに来ていたらしいイッセーだった。あいつもちょうど帰ってきていたところだったらしい。

 

「あ、シュウもいたのか…ってなんだその荷物!?」

 

「ウルセェなぁ、買い過ぎたんだよ。……お前ってホント、空気読めねぇよなぁ」

 

皮肉交じりに言うと、イッセーは不思議そうに首をかしげた。

その様子を見ながらクスクスと笑っていた部長がイッセーの方に向き直る。

 

「儀式は成功したみたいね。アスカロンは?」

 

「バッチリもらえました!」

 

「そう、よかった。じゃあ帰りましょうか」

 

グッ! と元気よく返事するイッセーに微笑むと、部長は踵を返して神社に背を向けた。

 

「あれ? シュウはまだ帰らないのか?」

 

「あぁ。オレはちょっと先輩に訊きたいことがあるんだ」

 

「そっか。じゃあまた明日な!」

 

「ん、お疲れさん」

 

部長を追って走り出すイッセーの背中を見送り、ある程度離れたところで再び神社の敷地に足を踏み入れた。

 

先輩に質問したいことに加えて、もう一つやるべきことが増えた。さっさと用事を終わらせてしまおう。

 

石段を上がり、鳥居をくぐる。神社はすでにさっきの力の発生源とは思えないくらい静まり返っていた。

ミカエルさんももう帰っちまったみたいだな。気配がない。

 

さて、オレはどこに行けばいいのかな、と……。

 

 

「シュウくん、こちらですわ」

 

 

自分の名前を呼ばれ、そっちの方に目を向ける。

 

そこには、さっきと変わらない巫女服を身につけた先輩が立っていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

先輩が生活しているという境内の家に招かれたオレは、わざわざ先輩が入れてくれたお茶を飲んでいた。

一般的なお茶ではなく、器を三回まわして飲むという茶道的なものでとても苦いのだが、これがまたうまい。この人、和風の茶まで完璧か。…今度、それとなく習ってみよう。

 

「今日は本当にありがとうございました。すごく助かりましたわ」

 

「いえ、別にあれぐらいでよかったらいつでも手伝いますよ」

 

クルクルと器を回し、お茶を飲む…。それを何回か繰り返しながら、こっそりと先輩の様子を伺ってみた。

 

普通に見えるように振舞ってはいるみたいだが…どこか妙な違和感がある。いつもならもっと温かい人なのに、今日は曇った日のような感じがしてんだ。

 

やっぱり、先輩の話ってのが関係してるのかもな…。あの時もなんか暗かったような気がするし…。

 

 

 

 

 

 

…………よし。

 

 

 

「先輩。ちょっとオレからいいですか?」

 

「? …ええ、構いませんわ」

 

許可が下りた。

 

ということで、オレは体制を変える。足は正座の形に組み、両手を広げて添え、頭をゆっくりと地べたにつけて……。

 

 

 

 

 

 

「…先輩。この間はホントにすいませんでした」

 

 

謝罪した。

日本古来のトラディショナル・アポロジー。通称『土下座』を繰り出した。

 

 

 

 

「……え?」

 

大変珍しいことに、先輩が素っ頓狂な声を漏らした。頭下げてるから顔までは確認できないが、おそらく相当びっくりしてるのだろう。

 

さっきの部長との話にもあったあの行動…。部長や皆に心配かけたのも確かなんだが、何より不安な思いをしたのは間違いなく先輩だ。雷を浴びせた張本人なんだから。それをさっきの部長の言葉で実感させられた。

 

だから、先輩にはちゃんと謝ろうと思ったんだ。今更だけど。

 

 

「あの日…コカビエルとの戦いの時に、オレは先輩になんの説明をすることもなく、あんな頼みごとをしてしまって…しかも結構強引に迫った感じになっちまって…挙句その後に説明をするわけでもなく、ここまでズルズルと引きずってきて…なんつーかもう……」

 

…言えば言うほど罪が増えていく。これ以上言い続けていったところで終わらない気がしてきた。

オレの罪? 今更数えきれるかってんだチクショウめ。

 

「…本当にすいませんでした」

 

最後にもう一度、ちゃんと謝罪。許してもらえるかどうかは分からないが、せめて反省の意図だけでも伝わってくれたら…。

 

暫く口を開かなかった先輩は、やがてゆっくりと語りだす。

 

「…いいえ。確かにあの日は本当に驚かされて、不安な思いではありましたが、あなたの力になれたのならそれで満足ですわ。…だから、もうお顔をあげてください」

 

先輩からそう促されたので、顔を上げた。

 

…よかった。なんとかお許しをいただけたらしい。

 

もう二度とあんなことはしないようにしよう。皆に心配かけるのは、こっちとしてもあまりいいもんじゃないしね。

 

 

 

「…では、次は私の番ですわね」

 

「?」

 

先輩は静かに立ち上がり、障子のまえに…夕日を背にするようにして立った。

 

先輩の番…。先輩がしたいと言っていた話のことだな。

ホントはもう一個訊きたいことがあるんだけど…ま、それは先輩の話の後でいいか。

 

「シュウくんはあの日…校舎にはいなかったから、まだ聞いてないことと思いますので」

 

あの日校舎にいなかった? それいつの話? オレは頭に疑問符を浮かべる。

 

 

 

 

そんなオレの目の前で…先輩が静かに翼を広げた…。

 

 

 

 

 

《バサッ!》

 

「………なっ!?」

 

 

 

それを見たオレは…驚きの声をあげずにはいられなかった。

 

そのこと自体は別に珍しいことでもない。先輩のようなウィザードタイプは、戦闘の場では羽を広げていることが多く、俄然見慣れているからだ。

 

 

 

 

 

ただ、先輩の翼が、カラスのような真っ黒な翼でなければ、の話だが……。

 

 

目の前で真っ黒な翼を広げる先輩は、悲しそうな顔を浮かべていた。

 

 

「私はもともと、堕天使の子なのです」

 

 

==============

【第三者視点】

 

 

朱乃が口にした事実は、彼にとってかなり衝撃的なものだった。

 

 

実は既にコカビエルが先日の戦いの中でその事実を口にしており、兵藤を始めとした若手悪魔たちはなんとなくそれを知っているのだが、ちょうどその時別の戦場で戦っていた八神はそうではない。

彼が慌てて校舎に駆けつけたのは、その少し後、眷属たちが光の槍の雨に晒された際の轟音を聞いてから。その話が終わりを迎えた後であった。

 

よって、彼は今初めてその事実を耳にすることになったのだ。

 

朱乃による告白を耳にした八神は、顔を完全にポカンとさせて驚きを隠せずにいた。

 

「汚れた翼…この堕天使の羽が嫌で、私はリアスと出会い、悪魔になったの。…でも、生まれたのは堕天使と悪魔の両方の翼を持ったおぞましい生き物…。ふふふ、汚れた血を身に宿す私にはお似合いかもしれません」

 

自嘲気味に笑う朱乃。しかしその顔は全く笑っておらず、明らかな悲しみに包まれていた。

 

「それを知って、シュウくんはどう感じます? 堕天使は嫌いよね。イッセーくんを襲い、一度アーシアちゃんの命を奪い、この街を破壊しようとした堕天使にいい思いを持つはずがないわよね…」

 

その顔を浮かべながら、小さく尋ねる。

そんな彼女に、八神もまた静かに答えた。

 

「……オレは確かに、堕天使は嫌いです」

 

「_______ッ」

 

返ってきた予想通りの答えに、彼女はより一層悲痛の顔を浮かべる。

…彼女もこうなることは分かってはいた。これまで八神が知っている堕天使の姿は、どれも自分勝手な連中のものばかり。そんな堕天使のことをよく思ってないことなど分かりきっていたことであったのだが、その事実を彼だけが知らない状況にするわけにはいかないと思った彼女は、こうしてこの場で告白することにしたのだ。

 

…しかし、分かっていたことでも、なかなか堪えるものはある。彼女は瞳に薄い涙を浮かべた…。

 

 

「でも、だからと言って先輩のことまで嫌いになったりはしませんよ」

 

 

しかし、そんな彼女の心境とは裏腹に、彼はあっさりとした口調で告げた。

 

朱乃はその言葉に驚き、再び八神の顔に目を向ける。

 

「イッセーやアーシアを酷い目にあわせたレイナーレも、皆を傷つけやがったコカビエルも、絶対に許すつもりはありません。仮にあいつらが生きていて、謝ってきたとしても、絶対に。

…でも、それとこれとは別ですよ。悪魔にも皆のような人がいるんだし、堕天使だって全員が全員悪い奴じゃないってのは分かっているつもりですし…」

 

「そうではなくて、私は堕天使の血を引いているのよ? 許せるの? 悪魔に転生しているとはいえ、堕天使の血を引いているのは変わらないわ。私は嫌われたくなくて、あなたにあんな風に近づいたのかもしれないのよ? …いいえ、きっとそう。私は最低な女だわ…」

 

「ええ、それも分かってます。でも、オレの堕天使嫌いも全員に向いてるわけじゃないですし…それに、先輩は先輩でして…」

 

それから、彼は「えーっと、なんつーか…」と頭をガシガシと掻きながら呟き…

 

 

 

「オレもイッセーたちも、普段の優しい先輩が大好きなんですから」

 

 

 

 

にこやかに、そう言った。

 

 

 

その言葉を耳にした朱乃は、一度目を見開いたかと思うと、顔を伏せて八神から目を背ける。

 

一方の八神は……

 

 

 

 

 

「………今、スッゲェ変なことを言いませんでした?」

 

今更に自分が口にしたことの意味を認識したのか、間抜けな顔を浮かべてそう尋ねた。

 

「…いいえ。そんなことありませんわよ」

 

朱乃は目に涙を浮かべつつ、八神の方に向き直る。顔を背けている間に流れたようだが、その涙は先ほどのものとは違い、悲しみに溢れたものではないようであった…。

 

 

「…ねぇ、シュウくん。『朱乃』って呼んでくださる?」

 

「え………?」

 

朱乃の提案に、八神は戸惑いの顔を浮かべた。今の彼女の発言に、頭がついていけてないらしい。

八神が頭の中を整理していくこと数秒。

 

「え、ええぇっ!? そ、それって、呼び捨て、しろと…!?」

 

やっとその意味を理解したのか、より一層驚いた様子を見せる。

 

一応八神にも、女性を呼び捨てにした経験はこれまでにも何度かある。

だが、その相手はアーシアやゼノヴィアのような外国出身であったり、イリナのような昔馴染みの相手だったり、せいぜい小猫のような自分より年下相手にだけだ。外国人ならファーストネームで呼びやすく、昔馴染みならただの友人的な感覚でつきあえ、年下ならまだ抵抗感なく呼べるからだろう。

 

ところが、彼女のような、日本人で、昔馴染みではなく、歳上の女性を呼び捨てにしたことは全くない。前世の時からそんな経験は皆無だ。

 

無様に狼狽する八神のまえで、朱乃が一言。

 

「………ダメ?」

 

「___________!!」

 

 

効果はバツグンだ。

 

潤んだ瞳で上目遣いをする朱乃。彼女ほどの美人がそれを繰り出せば、たいていの男は悩殺されること間違いなしだ。

それは八神にとっても例外ではない。彼の顔は、まるで茹でダコのように一気に紅潮していく。

 

「あ、あああ…あけ……! あけ…の……」

 

震える口を懸命に動かし、彼女の名前を口にする。

 

 

「フフッ…嬉しい」

 

そして彼女は…静かに、柔らかく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ドゴズボォオオォォォォンッッ!!》

 

 

 

…途端、彼の中で何かが爆発した。彼の中で、何かが限界値に達した。

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁ!! すんませんっしたぁぁぁぁぁっっ!!」

 

目にも留まらぬ速さで和室を飛び出していく八神。よほど恥ずかしかったのか、顔は見事に真っ赤に染まっていた。

…それでも、あの大量の荷物を忘れずに持っていくあたりは流石である。

 

 

和室に残った朱乃は、そんな彼の様子を笑みを浮かべながら見つめていた。

その顔は、何かが吹っ切れたように見て取れた…。

 

頬のあたりを微かに赤く染め、静かに呟く。

 

 

 

「殺し文句…言われちゃいましたね。あんなこと言われたら、本気になっちゃうじゃないの…」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

一方、神社を飛び出していった八神は、その無様な様子とは打って変わり、落ち着いているかのような様子で帰路についていた。

 

神社を飛び出した後、わずかの距離を全速力で走り抜けたかと思うと、急にその速度を落としていき、こうしてゆっくりと歩き始めたのだ。

 

落ち着きを取り戻したわけではない。普段であれば、先の出来事の影響で昂ぶる心臓を抑えるために、全速力で走り回ったり電柱で頭を打ち付けたりしていたことだろう。

 

 

だが…今の彼は、落ち着かずにはいられない状況下にあった。

 

 

 

 

「…先輩が堕天使の力も持っていた…。だからこの力まで一緒についてきたんだな」

 

そう言って、手のひらの上に小さな光る玉を作り出す。

 

この玉は、あの戦いの中で彼の中に備わってしまった“光の力”を集めたものだ。本来は堕天使や天使が扱う力で、悪魔が苦手とする力でもある。

 

彼は今日、この光の力について質問するつもりだった。どうせ戦闘に使えるほどの量が備わってるわけでもなし、たいして気にする必要もなかったのだが、その力が備わることになった原因は気になっていた。

というのも、彼には天使や堕天使には知り合いがおらず、敵対していたレイナーレやコカビエルの光を受けた覚えもない。その上、直前に受けたのは朱乃の雷。これはいったいどういうことなんだろうと、軽い気持ちで尋ねる気でいたのだ。

 

…だが、それは思わぬ形で答えにたどり着くことになった。

 

彼女は、自分には堕天使の血が流れていると言っていた。ならば、堕天使が使う光の力も大なり小なり宿しているということになる。

おそらくだがあの日、八神が取り込んだ雷の中に、その光の力が僅かに含まれていたのだろう。そして、彼の中にごく微量の光の力が備わってしまうという結果につながった…ということであろう。

 

…結果としては良かったのかもしれない。もし彼女が自身の秘密を告白する前にこの話題をふりかけていれば、彼女を傷つけることにつながったかもしれなかったからだ。

 

 

しかし、彼女のあの告白は…彼にとっては別の意味でも衝撃的であった。

 

 

「先輩にも、あんな秘密があったんだな…」

 

朱乃は、八神の悩みとよく似たものを抱えていた。自身のもう一つの姿を明かせずにいた…。その事実を知った彼は、色々と思うところがあるようだ。

 

 

「皆は…きっとオレの事を、受け入れてくれるんだろうな…」

 

 

夕暮れの下で、一人。八神は人知らず彼の抱える悩みについて、呟いた。

 

 

 

______________________

 

 

雑談ショー with 神

 

 

神「おやおや。あんな暗〜い感じで終わったというのに、こんなコーナーをする元気だけはあるのですか?」

 

八「ここでは本編の流れを引き摺らねぇようにしてっからな…。それより、なんであんな危なっかしいもんをイッセーに渡したんだろうな」

 

神「アスカロンのことですね。あれは、兵頭さんが初めての悪魔の赤龍帝だということが関係しています。歴代の赤龍帝は全員人間だったそうですし」

 

八「らしいな。イッセーは元が人間でも、悪魔に生まれ変わったもんな。けど、それがアスカロンと一体何の関係があるんだ?」

 

神「アスカロンと兵藤さんが直接関係するわけじゃありませんけどね。大昔の話をしますが、絶賛戦争中だった三大勢力が一度だけ手を取り合ったことがありましたよね?」

 

八「ああ、あの赤龍帝と白龍皇が大暴れしたっつーアレか」

 

神「その通り。そしてその時のように、三大勢力が再び手を取り合うことができるよう、現赤龍帝の彼に願をかけた…。そのために渡されたのがアスカロンです。

要するに、兵藤さんに三大勢力の架け橋となってほしいという期待みたいなものですね。それが半分」

 

八「半分? 残りの半分は?」

 

神「ぶっちゃけて言えば、歴代最弱の赤龍帝に、ちょっとでも長生きしてもらうためです」

 

八「…おおイッセー。そんなあだ名がつくとは情けない」

 

 

 

 

 

 

八「しっかし、あんなことがあったとは言え、急に逃げ出しちまったもんな…。朱乃先輩、怒ってんだろうなぁ…」

 

神「そんなことはないですよ? 寧ろ、逆を警戒したほうがよろしいかと」

 

八「…逆? なんのことだ、それ?」

 

神「さてね。……フフフ」

 




さて、今回は雑談ショーと後書きを分けました。
なぜか。それは…


この作品の一周年の報告をさせていただきたかったからです!


厳密に言うと、本当の一周年は7月7日あたりだったのですが…ちょうどスランプ期間でしたすみません。

一年間頑張ってこれたのも、スランプ中でも諦めずにやってこれたのも、皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました!
また皆様をお待たせすることになるかもですが、今後もどうかこの作品を温かく見守っていただけるとありがたいです。

では、今回はこの辺で失礼します。次回もどうかお楽しみに!
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