閣下が生きるハイスクールな世界   作:佐竹 リン

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受験が終わりましたので、再び投稿の方を始めていきたいと思います。
お待ちくださっていた方々につきましては、本当に長らくおまたせしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。更新中断の知らせを出しておくべきだったなと、後悔しています。
ですが、お陰様でなんとか無事進路が決まりました。中には応援の声をかけてくださった方もいて、本当に励みになりました。ありがとうございました。

さて、本人も軽く一年ぶりの投稿で、もはや内容を忘れつつある状態での更新です。「あ、こんな話だったなぁ」と思い返しながら読んでいただけると幸いです。


四十九話目

「…さあ、行きましょうか」

 

やや緊張したような顔つきの部長に頷き、俺たちオカルト研究部員は席を立った。とうとう当日を迎えた会談の日。本番を目の前にして、俺の心臓もバクバクと音を鳴らしている。

 

最初はあまり実感なかったけれど、各陣営の偉い方々が来られるとなれば、その護衛の人たちだって集まってくる。そして会場に入ることができない護衛の人は、学園に張られた結界の外で待機をすることになるのだ。

今も窓から学園の外を覗くと、天使、堕天使、悪魔の軍勢が互いに睨み合っているのが見える。今はまだどの陣営も大人しく待機してくれているけれど、ちょっとしたきっかけで大騒動になりかねない。この会談の流れ次第では、ここで戦争が始まってしまうかもしれないそうだ。

 

まさに一触即発。この街、この世界の命運はこの会談にかかっていると言っても過言じゃないだろう…。

 

「部、部長! 皆さぁぁぁん!」

 

そんな時、部室の隅にポツンと置かれた段ボールから悲痛の叫びが響く。もちろんこれは例の引きこもりヴァンパイア、ギャスパーのものだ。

 

まだ時間停止の神器を扱いきれていないギャスパーは、今回はお留守番するようにと指令がかかったんだ。会談の中で神器を発動させてしまったりなんてしたら目も当てられない。仕方なく、部長もその指令に従うことにしたそうだ。

 

「ゴメンなさいギャスパー。すぐに戻るから、いい子にしててね?」

 

部長は優しくギャスパーに語りかけるけど、やっぱり少し怖いみたいだ。こんなところに一人でお留守番というのも嫌なんだろう。分かるぜその気持ち。俺もこんな状況下で一人は嫌だもん。

 

「ほら、俺の携帯ゲーム機置いていくから、これで遊んでていいぞ? すぐにあのマスクも作ってもらうからな」

 

『は、はいぃぃぃ!』

 

俺の携帯ゲーム機を段ボールの近くに置くと、段ボールはカタカタ揺れた。最近判明したこいつの喜び表現だ。

 

「じゃ、シュウ。悪いけどあのマスク頼む」

 

「…そりゃ構わねぇけど、なんかお前ギャスパーとの付き合い方慣れてきたよな」

 

シュウは部室の棚から一枚の紙袋を取り出すと、神器の能力を発動。一瞬でギャスパー専用『覗き穴つきマスク型紙袋』に作り変えてくれた。毎回思うけど、本当に便利だよなあれ。

 

「やっぱり面倒見がいいんだね。ギャスパーくんの神器の特訓にもずっと付き合ってくれているし」

 

「確かに、昔っから歳下相手にはよく慕われてたもんな」

 

「任せろ。男の後輩一人くらい、なんとかしてやらぁ!」

 

出来上がったマスクを投げ渡され、段ボールの近くに置く。

自信満々に答えてはみたけど、正直不安もある。なんとかしてやりたいって気持ちは本当なんだけどな…。

 

ギャスパーを除く俺たちは校舎の方へ足を向ける。向かうは会談の会場。会議室だ。

 

 

「そう言えば、シュウ。お前さっきまで何書いてたんだ?」

 

その途中、少し気になったことを尋ねる。部室を出るまでの少しの時間の間、シュウはガリガリと一心不乱に何かを書いているようだった。

結構集中してたっぽくて、さっきは聞きづらかったんだよな。

 

「これか? ただの説明用の資料さ。一応しっかりと準備は固めたつもりだが、無いよかマシかと思ってよ」

 

そう言いながら、手に持っていた手帳をめくっていき、途中のあるページでその手を止める。そのページを横から覗くように見てみると、そこには何か妙な図形のようなものがたくさん並んでいた。

いや、図形って言えるのかこれ? 形も全部バラバラで一貫性がないし、どっちかって言えば『絵』といった方が近い気がする。人の形っぽいのとか、顔っぽいのとか…。何なんだこれ?

 

「くさび形文字みたいだね。何だか不思議な形してるけど」

 

そんな中、シュウの隣を歩いていた木場が同じく手帳を覗きながら口にした。

くさび形文字っつーと…大昔の人が使っていた文字だったよな? あぁ、言われてみると確かにそれとよく似てるな。形は全然違うけど、雰囲気は少し近いと思う。

 

「ま、そんなもんだわ。お偉いさん方っつーと頭がいい人ばっかりだろうし、資料も多いに越したことはねぇだろ?」

 

「ふふ、随分と手慣れていますのね」

 

そう言ったのは、部長の隣を歩いていた朱乃さんだ。俺たちの会話を聞いていたらしい。

 

「ま、まあ、昔からよくこういう感じのこと頼まれることありましたし。慣れてるって言われれば慣れてるんですが…」

 

と、シュウは落ち着きなく答える。

 

俺が朱乃さんの家で儀式を行った日。あの時シュウが言っていた用事ってのは、朱乃さんとの話のことだと、後で部長から聞いた。朱乃さんの事情についてと一緒にな。

その時も俺は色々と思うところがあったんだが、それは全部シュウが言ってくれたみたいだった。それ以来、朱乃さんは前より一層シュウに対して積極的になった気がする。

 

俺にはわかる。これはあいつに向けられた『春の訪れ』と言うやつだ。今夏だけど。

 

こうなったことは幼馴染として俺も羨ま……じゃなく、妬まし……でもなく、鼻が高い。精一杯応援してやろうと思う。

 

…でも、あいつの様子を見てると不安になるんだよなぁ。こういうことに慣れてないからだろうけど、いっつもどこか腰が引けてるし。

こういうところはホントに子供っぽいんだよな、あいつ。

 

 

 

「…って、あれ? そんなにスピーチなんてしたことあったっけ?」

 

ふと、ある疑問が浮かんで口にした。俺の記憶が正しければ、シュウはいつもそういう行事には消極的で、発表なんて機会はむしろ少なかった気が…。

 

「…あ〜いや。まぁ、そう思うことで不安をかき消そうとしたんだ。所謂自己暗示ってやつ?」

 

つまり、強がりだったということか。なんだかんだ言ってビビってるらしい。

 

 

 

「よしイッセー、あとで説教」

 

「なんで!?」

 

 

 

 

 

 

「残念だけど、談笑はもうおしまいよ」

 

その時、部長が真面目な声音で口を開いた。いつの間にやら会議室の前に着いていたらしい。俺たちも全員顔を引き締めて、扉の前に立つ。

 

「失礼します」

 

静かなノックとともに、部長が先頭で会議室に入る。そこには……

 

 

 

「来たね。入りなさい」

 

 

悪魔の代表、サーゼクスさまとセラフォルーさま。それから、初めて見た二人の男性。おそらく残りの魔王さまだろう。壁側の席にはソーナ会長たちもいる。

 

 

天使の代表、ミカエルさん。

 

 

堕天使代表のアザゼル。そして……

 

 

 

 

 

………白龍皇、ヴァーリ。

 

 

 

 

「妹と、その眷属たちだ」

 

サーゼクスさまの言葉に合わせ、部長が軽くお辞儀する。それに合わせて俺も頭を下げておいた。

…この部屋の空気が緊迫しているのが分かる。これが、トップの会談…。

 

 

「先日のコカビエル襲撃で彼女たちは大いに活躍してくれた」

 

「報告は受けています。改めてお礼申し上げます」

 

「悪かったな、俺んとこの奴が迷惑かけて」

 

ミカエルさんが綺麗な礼をしてくれるのに対し、アザゼルは少しも悪く思ってなさそうな態度で言ってのけた。

なんつー態度だよ。ホントにお前のところが原因だって分かってるのか?

 

「まずは座りなさい。席は用意してある」

 

サーゼクスさまが勧めた通り、俺たちも生徒会の隣に用意されていた席に座る。部長、俺、朱乃さん、小猫ちゃん、アーシア、木場、シュウ、ゼノヴィアという順番だ。

 

俺たちが席に着いたのを確認すると、サーゼクスさまは改めて声を上げられた。

 

「まずは、この会談に参加してくれたことに感謝しよう。これより三大勢力による会談を執り行う。この会談に参加する条件として、ここにいる全員が神の不在を承知しているものとする」

 

ん? 全員?

俺たちはあの戦場でコカビエルが叫んでいたのを聞いていたけど、外で結界を張っていた会長たちや別の戦場にいたシュウも知ってるのだろうか。

こっそりと横目で確認してみたけど、別に誰も驚いたような様子は見せなかった。

 

「私が伝えておいたの。この会談に参加することになるのは分かっていたから」

 

部長が俺の疑問を勘付いてくれたのか、小声で教えてくれた。なるほどね。

 

 

「それから…“グロンギ”という種族についても、ある程度認知しているものとして、会談を進めさせてもらおう」

 

 

そしていよいよ、三大勢力による会談が始まった……!

 

 

 

 

==============

【第三者視点】

 

 

「と言うように、我々天使は…」

 

「そうだな。このままでは三勢力ともに滅びの道を進むことになる…」

 

「ま、俺らは別にこだわる必要もないけどな」

 

会談は、順調に進んでいった。

各勢力の代表者らのみの会話が繰り広げられる中、時々アザゼルの無遠慮な一言で場の空気が凍りつくことはあれど、話の内容そのものは良い方に進みつつあった。

その様子を、ソーナ率いる生徒会も、リアス率いるオカルト研究部も、こわばった面持ちで見守っていた。

 

「さて、リアス。そろそろ先日の事件について話してもらおうかな」

 

「はい、ルシファーさま」

 

サーゼクスの促しに応え、リアスが立ち上がる。先日、学園で起こったコカビエルの事件に関することを、淡々と述べていった。

彼女の言葉に耳を傾ける三大勢力の面々。その反応は、ため息をついたり、顔をしかめたり、笑ったりと多種多様であった。

 

「…以上が私、リアス・グレモリーとその眷属悪魔が関与した事件の報告です」

 

「ご苦労、座ってくれたまえ」

 

「リアスちゃん、ありがとう☆」

 

報告を終え、リアスはサーゼクスの言葉に従い席に座り、労いの言葉をかけたセラフォルーに礼を返した。

そこで、サーゼクスはアザゼルの方に視線を向ける。

 

「さて、アザゼル。この報告を受けて、堕天使側の意見を聞きたい」

 

その言葉に、アザゼルは一度不敵な笑みを浮かべて語る。

 

「意見っつってもな…。あれは我が堕天使中枢組織、〝神の子を見張る者〟の幹部の一人であるコカビエルが、独断で起こした事件だ。こっちとしてもその対応として『白龍皇』ヴァーリを送った。奴は地獄の最下層に落とし、永久冷凍の刑に処すつもりだったのさ。

だが……何しろ既に事は終わっていたそうじゃねぇか」

 

「報告にもあった、カブトムシのような怪人のことですね。コカビエルすらも寄せ付けないほどの実力を持っていたという話ですが…」

 

アザゼルの言葉から会談の流れが一変し、コカビエルを打ち倒した怪人の話に一瞬移り変わる。

彼の処遇はどうするのか。敵なのか味方なのか。そもそも本当にそんな奴が存在しているのか…。会談の流れが止まりかけた時、サーゼクスが再び声をあげた。

 

「その件に関しては、こちらの方で既に頼んである。先に、こちらの要件を済ませてからにしよう」

 

「チッ、話は逸らさせねぇってことかい……。あーわかったよ、もう面倒な話はいい。さっさと和平でもなんでも結んじまおうぜ? お前らもそういうつもりだったんだろ?」

 

あっさりと挙げられた提案に、会談の席は驚きに包まれる。

確かに、ここにいる者は和平を結ぶことを目的として会談に参加したものがほとんどだ。だが、こうもあっさりと告げられると、流石に気が動転するのだろう。

 

やがて、その動転からいち早く抜け出したミカエルとサーゼクスが口を開く。

 

「…ええ、私も悪魔側とグリゴリに和平を持ちかける予定でした。これ以上三すくみの関係を続けたとしても、世界の害としかなり得ない」

 

「我らも同じだ。魔王がいなくとも種を存続させるため、悪魔も先に進む必要がある。戦争など、誰も望むべきものではないからな」

 

「そうだな。次に戦争が起こったとすりゃ、その時は全員共倒れだ。そしてやがて人間界にも影響を与え、世界は終わる。…俺らはもう、戦争は起こせない」

 

アザゼルの言葉を最後に、会談は静寂の空気に包まれた。誰もが戦争を望んでいないことが分かったからか、緊張感も弱まっていく。

その後、今後の戦力について、現在の兵力と各陣営の対応、これからの勢力図などが議題となり、会談は先ほどよりいくらか円滑に進んでいった。

 

そして、会談は終わりの時を迎える。

 

 

「…と、こんなところだろうか?」

 

サーゼクスの一言で、出席者らがそれぞれ息をつく。時間にして約一時間ほどであった。

グレイフィアがお茶の給仕をしている中、ミカエルが兵藤に目を向ける。

 

「さて、話し合いもいい方向に片付いてきましたし。そろそろあなたのお話を聞いてもよろしいかな?」

 

「お、覚えててくれたんですか!?」

 

「もちろん」

 

優しく微笑むミカエルに、兵藤は一度大きく深呼吸してから言葉を発する。

 

「…アーシアを、どうして追放したんですか?」

 

その問いに、ミカエルは一度目をつぶってから真摯に答える。

 

「それに関しては申し訳ないとしか言えません。神が消滅した後、加護と慈悲と奇跡を司る『システム』だけが残りました。神が奇跡などを起こすためのもの、という認識で構いません。

正直、『システム』を神以外が扱うのは困難を極めます。熾天使全員で何とか起動させていますが、神がご健在だった頃に比べると、救済できるものに限りができてしまうのです。ですので、『システム』に影響を及ぼす可能性のあるものを遠ざける必要がありました。その中に、悪魔や堕天使も回復できてしまう『聖母の微笑』も含まれるのです。

他にも、影響を及ぼす例として…」

 

「神の不在を知るもの、ですね?」

 

ミカエルの言葉を繋げるように、同じく教会を追い出されたゼノヴィアが告げた。

その言葉にミカエルは頷き、続ける。

 

「その通りです、ゼノヴィア。熾天使と一部の上位天使以外で神の不在を知るものが本部に近づくと、『システム』に大きな影響が現れてしまう。だから、貴方とアーシア・アルジェントを異端とするしかなかった…。本当に、申し訳有りません」

 

そこで、彼は頭を下げた。

一つの勢力のトップが自分らに頭を下げてきたことで、彼女らは少し困ったような様子を見せる。しかし、ゼノヴィアはすぐに首を横に振り、微笑んだ。

 

「ミカエルさま、どうか謝らないでください。これでもこの歳まで教会に育てられた身。いささか理不尽を感じてはいましたが、理由を知ればどうということもありません。

…多少は後悔も致しましたが、教会に仕えていた頃にはできなかったこと、封じていたことが私の日常を華やかに彩ってくれています。私は、今のこの生活に満足しているのです」

 

「私も今、幸せだと感じております。大切な人がたくさんできましたから。それに、憧れのミカエルさまにお会いしてお話もできたのですから、光栄です!」

 

「…あなたたちの寛大な心に感謝します。デュランダルはゼノヴィアにお任せしましょう。サーゼクスの妹君の眷属ならば、下手な輩に使われるよりも安全です」

 

ゼノヴィアとアーシアの言葉に安堵の表情を見せたミカエルは、ゆっくりと頭を上げた。

そんな中、堕天使のトップであるアザゼルが、アーシアを見ながら言葉を発した。

 

「そういや、俺んとこの部下がそこの娘を騙して殺したらしいな。その報告も受けてる」

 

その言葉に、アーシアは身体をビクリと震わせる。そんな彼女を守るように、兵藤がアザゼルとアーシアの間に割って入った。

 

「そうだ、アーシアは一度死んだんだ! あんたの知らないところで起きたことかもしれないが、あんたに憧れていた堕天使が、あんたのためにアーシアを殺したんだ!」

 

リアスが「落ち着きなさい、イッセー」となだめるが、彼は収まらない。怒りを隠せずにいる兵藤を、アザゼルは一度睨んだ。

流石にトップの一つに君臨する男に睨まれては、彼も怖気付かざるを得ない。口をつぐんだ兵藤を、アザゼルは今度は笑みを浮かべて見上げた。

 

「いまさら俺が謝ったところで、それは後の祭りってもんだ。だから、俺は俺にしかできない形で、お前らを満足させてやろう」

 

そう言って、アザゼルは席を立ち、興味なさそうに壁に寄り添うヴァーリに告げる。

 

「ヴァーリ。お前は、世界をどうしたい?」

 

その問いかけに、白龍皇ヴァーリは笑みを浮かべる。

 

「俺は強い奴と戦えれば、それでいいさ」

 

「そうかい。じゃあ赤龍帝、お前はどうだ?」

 

次に、同じ質問が兵藤にも問われた。

兵藤はいきなりの問いに戸惑い、頬をかきながら答える。

 

「正直、よく分からないです。小難しいことばかりで頭が混乱して、ただでさえ今の状況の中だけでも手一杯なのに、世界がどうこう言われても、実感わきません…」

 

「だが、お前は世界を動かし得る力を秘めた者の一人だ。選択を決めないと、俺を始めた各勢力の奴らが動きづらくなるんだよ。

…そうだな。恐ろしいほどに噛み砕いて説明してやろうか」

 

そう言って、アザゼルは何か企んでそうな顔を浮かべながら兵藤に歩み寄った。

 

何をしようと言うのか…。少し身構える兵藤に、衝撃の一言が告げられる……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺らが戦争すれば、リアス・グレモリーは抱けないぞ?」

 

 

 

「っ!!?」

 

 

 

その一言に、明らかな動揺と驚きを見せる。

 

 

更にアザゼルは、わざと兵藤に肩を組んで、馴れ馴れしそうに言葉を続けた。

 

 

 

「和平を結べば、戦争する必要はなくなる。そうすりゃ後は種の存続と繁栄が大切になってくる。子作りに専念すればよくなるんだ。

分かるか? 戦争なら(自主規制)なし。和平なら(自主規制)し放題だ」

 

「和平でお願いします! ええ、平和が一番です!」

 

悪魔の囁きならぬ堕天使の囁きを耳にした兵藤は、これ以上なく元気に応えた。流石は最強の赤龍帝、こんな場面でもブレなかった。

 

ハッと正気に戻る兵藤。周りを見渡すと、隣に立つリアスは真っ赤に赤面しており、陣営のトップたちは面白そうに笑みを浮かべ、眷属たちは苦笑し、幼馴染が恐ろしく怒っていた。

少し慌てるように、今度は真面目な顔で言葉を繋げる。

 

「えっと、俺はバカだから、この会談の内容もほとんど理解できてません。でも、そんな俺でも言えることが一つあります。

俺に宿る力が強力なら、それを仲間のために使いたい。仲間の誰かが危険に晒されたら、俺が守りたい…とは言っても、俺はまだ弱いから守られてしかいないんですが。

けど、俺にできることはそれぐらいです。だから、体張って仲間と一緒に生きていこうかなって……」

 

 

 

兵藤がそこまで精一杯言葉を発した、その瞬間……

 

 

 

 

身体の機能が、一瞬停止したような感覚を覚えた………!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「あれ?」

 

ふと、兵藤は声を漏らした。

なんとも言えない緊迫感を、さっきまでとは違う何かの違和感を感じる。

と言うより、そもそも室内の様子が少し違う。先ほどまで席についていたはずの面々が、窓際で外を見ていたり、真剣な面持ちで話し込んだりしていた。

 

何が起きたのだろうか…。兵藤は、少し困惑したような顔を浮かべた。

 

「おっと、赤龍帝の復活だな」

 

そんな時、アザゼルが兵藤の存在に気づいたように声をあげた。

 

「な、何かあったんすか?」

 

周囲を見渡すと、明らかな異常が見て取れた。

サーゼクスをはじめとした各陣営のトップたちは普通に動いていたが、中には動きが停まっているものたちがいた。

 

イヤな予感を感じる兵藤に、アザゼルが笑みを浮かべながら告げる。

 

「…テロだよ」

 

その言葉に、驚嘆した顔を浮かべる兵藤。

外を見ようと窓ガラスをのぞいた途端、眩い光が視界を遮る。また、微妙に校舎が揺れているのも感じ取った。

 

「攻撃を受けてるのさ。いつの時代も、勢力と勢力が和平を結ぼうとすれば、それを嫌がる連中が邪魔しようとするもんだ」

 

そう言って指をさすその先には、校庭から空に至るまで、バラバラに人影らしきものがあった。

その正体は、黒いローブを着込んだ人間だった。彼らは校舎に向けて、魔力の弾に似た何かを放っているようだった。

 

「いわゆる魔法使いって連中だな。悪魔の魔力体系を伝説の魔術師『マーリン・アンブロジウス』が独自に解釈し、再構築した魔術、魔法の類を扱う奴らだ。

要するに、人間が悪魔みたいな力をふるえるってことさ。悪魔にもできないことも可能らしいが、神器所有者が魔術を覚えたりしていると非常に厄介だ。俺らが強力な防壁結界を張ってるから、奴らの攻撃じゃこの校舎に少しの被害もないだろうが、おかげでここから出られなくなってんだ」

 

いつの間にやら兵藤の隣に立っていたアザゼルが、不敵な笑みを浮かべながら言う。

いきなりの事態に気が動転した兵藤が、最初に感じたイヤな予感について問う。

 

「さ、さっき、時間が停止したっぽいのは?」

 

「おそらく力を譲渡できる神器か魔術で、お前らんとこのハーフヴァンパイアの小僧の神器を強制的に禁手状態にしたんだろうな。一時的な禁手状態でも、視界に映るものの内部にまで効果を及ぼすとはな…。あいつの潜在能力が高いってことか」

 

その予感は、当たりだった。

動きが停まるという現象を、以前身を以て経験したことがある彼は、この出来事にギャスパーが関係しているのではないかと不安を覚えたのだ。

 

「じゃあ、皆は!?」

 

「私たちはこっちよ、イッセー」

 

焦る彼の元に、優しくかけられる声。それは、彼の王であるリアスのものだった。

 

「部長! 無事だったのですね!」

 

「ええ。貴方が近くにいてくれたから、貴方の力の恩恵を得られたみたいね」

 

安堵した表情を浮かべる兵藤に、笑みを浮かべて語りかけるリアス。

彼女の背後には、木場とゼノヴィアの姿があった。

 

「イッセーは赤龍帝を宿す者。祐斗はイレギュラーな聖魔剣によるもの。ゼノヴィアは直前でデュランダルを発動させたから無事だったのかしら」

 

見ると、木場はその手に聖魔剣を持ち、ゼノヴィアはちょうどデュランダルを空間の歪みに収めているところだった。

仲間たちの無事な姿を目にしてホッとした顔を浮かべるも、彼はそこにいない部員がいることに気づき、再び不安そうな顔を浮かべた。

 

「…じゃあ、他の皆は」

 

「…皆動かなくなっていたわ。朱乃も、アーシアも、小猫も。シュウはまだかろうじて動けるみたいだけど…」

 

そういうリアスの視線の先には、苦しそうに肩で息をする八神の姿があった。

駆け寄る兵藤の姿を見た八神は、大量の汗を流しながら無理やり笑みを浮かべて兵藤に応える。

 

「ユウトの聖魔剣と、ゼノヴィアのデュランダルに挟まれたからだろうな…偶然助かったみたいだが、どうも、体の調子が良くないみたいでよ…」

 

見ると、確かに一目で様子がおかしいと読めるほど八神の顔は青白くなっていた。椅子に座って頭を抱える八神の様子を一瞥したアザゼルは、校舎の外に目を向けたまま口を開く。

 

「まぁそうだろうな。本来、ただの人間がこうして神器の影響を受けずに済んでいるってだけでも軽く奇跡なんだ。多分そいつは俺たちより早く動けなくなるだろうし、戦力として考えないほうがいいかも知れん」

 

アザゼルの推測に、それぞれが納得したような様子を見せた。

彼は聖剣と聖魔剣に挟まれ、偶々助かっただけだと言っていた。もし彼の両側が木場とゼノヴィアでなければ、他の部員同様に固まっていたのだろう。

 

そして彼の身体が、周囲の環境の変化に耐えられなくなり始めている。そう考えるのはごく自然なことだ。

 

「取り敢えず、今はまだ動けるんだ。邪魔にならねぇよう別室の方で固まっておいてくれや」

 

「そう、だな…。そうしたほうが、よさそうだ…」

 

アザゼルに促されるように、八神は会議室の扉から外に出た。

その様子を見届けるリアスは、少し不安げな様子で呟く。

 

「…そう考えると、イッセーのおかげで助かった私も警戒しとく必要がありそうね」

 

「いや、お前はそこまで心配する必要はない」

 

「どういうことだ?」

 

リアスの不安を断つように放たれたアザゼルの言葉に、兵藤は怪訝な顔を浮かべた。

その様子を見たアザゼルが、さらに言葉を繋げる。

 

「お前は赤龍帝の恩恵を得たことで神器の影響を受けていない。あいつとは状況が違う。例えるなら、仮に超巨大なビームを放たれたとして、あいつは誰かが張った結界や盾に阻まれて助かっただけ。お前は無敵状態を付与されたようなもんだ。

お前は神器の効果を弾く力を与えられてるのに対して、あいつにはそれがない。あいつにはあのままの状態を維持することはできないが、お前はそれができるってことだ」

 

「そう…。それなら、まだ大丈夫なのね?」

 

「そうだな。だが、完璧に安心できるわけじゃない。神器の効果をこれ以上高められると、俺たちもいずれ停止させられる恐れがある。この猛攻撃で俺たちをここに留まらせて、時間を停めた瞬間に校舎ごと屠るつもりだろう。あちらは相当な兵力を割いているようだな」

 

そう言うが早いか、校庭の各所で怪しく輝く魔法陣が現れ、更には先ほどアザゼルによって葬られた魔術師集団と同じ格好をした者たちが姿を見せた。

 

「さっきからこの繰り返しだ。倒しても倒しても次が現れる。このタイミングといい、テロの方法といい、こちらの内情に詳しい奴がいるのかもしれないな。案外、ここに裏切り者がいたりしてな」

 

呆れるように息を吐くアザゼル。

そして今の言葉に不安を感じられたのか、兵藤が少し焦ったように問う。

 

「ここから逃げられないんですか?」

 

「逃げないさ。学園全体を囲う結界を解かないと、俺たちは外に出られない。だが、結界を解いたら人間界に被害を出すかもしれんからな。

俺は相手の親玉が出てくるのを待ってんだよ。しばらくこうやって籠城してりゃ、痺れ切らして顔出すかもな。それに、下手に外に出て大暴れすると敵の思うツボかもしれないってわけだ」

 

余裕そうに答えるアザゼル。

 

「…というように、我々首脳陣は下調べ中で動けない。だが、まずはテロリストの活動拠点となっている旧校舎から、ギャスパーくんを奪い返すのが目的となるね」

 

「お兄さま、私が行きます。ギャスパーは私の下僕、私が責任を持って奪い返してきます」

 

サーゼクスの言葉に、強い意志を瞳に乗せたリアスが進言する。サーゼクスは微笑んでその言葉に応えた。

 

「そういうと思っていたよ。妹の性格ぐらい把握している。しかし、問題は旧校舎までの移動方法だ。この新校舎の外は魔術師だらけ、通常の転移も魔法に阻まれる」

 

「問題ありません。旧校舎の部室に、未使用で残りの駒である戦車を保管してあります」

 

「なるほど、キャスリングか。普通に奪い返しにくるのは彼らも予想しているだろうが、それなら相手の虚をつける」

 

キャスリング。それはチェスのルールの一つで、ルークの駒とキングの駒を一手で同時に動かすという特殊な動かし方のことだ。

その戦法を悪魔はレーティングゲームでも採用しており、効果は王と戦車の位置を瞬時に入れ替えるものになっている。

 

つまり、グレモリー眷属の王であるリアスは、キャスリングを使うことで部室にある戦車の駒と位置を入れ替えることができる。敵陣のど真ん中に転移し、相手の隙を突こうということだ。

 

「だが、一人で行くのは無謀だな。グレイフィア、キャスリングを私の魔力で複数人転送可能にできるかな?」

 

「残念ですが、ここでは簡易術式でしか展開できそうもありません。お嬢さまと、あと一人なら転移可能かと」

 

「ふむ、リアスと誰かか…」

 

グレイフィアと言葉を交わしたサーゼクスは、少し考え込むように息を吐く。

そこに、ひとりの男が勢いよく進言してみせた。

 

「サーゼクスさま、俺が行きます! 大切な後輩なんです、行かせてください!」

 

グレモリー眷属の兵士、兵藤だ。

護ると決めた後輩を救いに行きたいと望む彼は、リアスと同じ眼をしてサーゼクスに告げる。

 

サーゼクスは一度兵藤に視線を送るが、すぐにそれをアザゼルに向けた。

 

「アザゼル。噂では神器の力を一定時間自由に扱える研究をしていたそうだな?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「赤龍帝の制御はできるだろうか」

 

サーゼクスの問いに、アザゼルはしばらく黙り込む。しかし、すぐに懐に手を入れて中を探り出すと、兵藤に声をかけた。

 

「おい、赤龍帝」

 

「お、俺は兵藤一誠だ!」

 

「なら、兵藤一誠。こいつを持っていけ」

 

兵藤に何かを投げつけるアザゼル。それをキャッチした兵藤は、手にした何かに視線を落とす。

それは、見知らぬ文字が幾重にも刻まれた、手にはめるリングのようなものだった。

 

「それは神器をある程度押さえる力を持つ腕輪だ。例のハーフヴァンパイアの小僧に一つ付けてやれ。多少は力の制御に役立つだろう。

もう一つは、お前のだ。それがあれば、代価を払わずとも禁手状態になれる。それが代価の代わりになってくれるさ」

 

アザゼルの説明に息を飲む兵藤。かつて、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームの際に、たった一度だけ至った禁手状態。

あの時はその代価として、左腕を支払った。故に今の彼の左腕はドラゴンのそれであり、普段は魔力でただの腕に見せているだけの状態なのだ。

それが、代価を払うこともなく禁手に至れる。それは彼にとって衝撃であり、頼もしくも思えるものだった。

 

リングに目を向ける兵藤に、アザゼルはさらなる補足を口にした。

 

「そのリング、使うのは最後の手段にしておけ。体力の消費までは制御できんから、いきなり禁手に至っても無駄に消費するだけだ。あの鎧は、体力や魔力を激しく消耗させるからな。

よく覚えておけ。今のお前は人間に毛が生えた程度の悪魔だ。強大な神器を宿していても、宿主が役立たずでは意味がない。今のお前でも、相手によればドライグの力を振りまくるだけでなんとかなるが、その力に対抗する術を持つ者にとっては御しやすい代物だ。何せお前自身が弱点だからな。

使いこなせないというのは、それだけ弱味の塊なんだ。…力を飼い慣らせなければ、いずれ死ぬぞ」

 

「…ああ、分かっている」

 

兵藤の返答を最後に、リアスと兵藤は、ギャスパーを救出するがために旧校舎へと転送していった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

一方、別室の方に一人移った八神は、壁にもたれかかって息を吐いた。

 

ギャスパーの神器が発動して暫く経ってからというもの、彼は妙な不快感を感じ始めていた。

別段身体の調子が悪いと言うわけではなく、どこかが痛むわけでもない。ただ、形容しがたい『ナニカ』が自分に襲いかかっているような、そんな感覚を覚えていた。

 

(一体何なんだろうな…コレ…)

 

アザゼルはこれが神器の影響によるものだと言ってはいたが、彼自身はそのように思えなかった。

 

誰か他人の影響というより、もっと近くにある『ナニカ』の影響ではないのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!! 」

 

 

 

突如、異常な腹痛が彼に襲いかかる。

 

 

まるで腹部の中のあらゆるものが、身体を突き破って外に出ようとしているかのような激痛。その痛みに耐えるように、その場に屈む形で自身の腹部を抱え込む。

 

 

だが、その痛みは収まらない。むしろ痛みは徐々に激しさを増していく。

 

 

 

 

「〜ッ! ググッ ウッ! アガッ ハッ!」

 

 

 

 

痛みに必死に耐えている彼は気づいてないが、彼の腹部が不気味な光を発していた。

禍々しくも恐ろしい光は、最初は小さく灯っていたが、徐々にはっきりと現れるようになる。

 

 

 

 

「ッグウッ!! ガハッ アァッ!!」

 

 

 

 

そしてまた、彼自身の身体が少しずつ、彼の意図に反してその姿を変えていった。

手先が鋭く、体は硬い甲殻に覆われ、光を発する腹部からはベルトが現れ…。

 

 

 

 

 

 

「ガァアァアァァアアァアァアァッッ!!!!」

 

 

 

 

…ついに全貌が完全に変わり果て、彼は窓から外に飛び降りていった。

 

 

 




雑談ショー with ゼノヴィア


八「久しぶりの投稿で、いきなり大変なことになりました!」

ゼ「動ける部員が僅かな状態で、テロリストと戦わなければいけないのか…」

八「しかも、スパイがいる可能性もあると言う話じゃないですか!?」

ゼ「そうだな。部員の方は大丈夫かもしれないが、他はどうだか分からない状態だ」

八「つーかギャスパー利用してるやつマジ許さん絶対許さん!」

ゼ「…お前は一体どうしたんだ?」

八「そりゃもう久しぶりだし!? 終わり方も意味深だし!? 何がどうなってんのか分かんねーし!!? アゲてかねぇと追っつかねえんだよぉ!!」

ゼ「なるほど、これがカオスというやつだね」

八「なんか違う気がするけど、まあいいわ! 次回、果たしてギャスパーの運命は!? オレは一体どうなっちまうのか!? お楽しみにっ!」
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