閣下が生きるハイスクールな世界   作:佐竹 リン

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エグゼイド終わっちゃうなぁ…(しみじみ)
ビルドが始まるなぁ…(わくわく)
プリヤの映画がくるなぁ…(ドキドキ)
…単位取れてるかなぁ(ドックンドックン)

そんな様々な思いが入り乱れる中で作りました。この季節、いろんなイベントがあるから大変ですね。
それでは、どぞ〜。



五十一話目

旧校舎に位置するオカルト研究部の部室に、紅い魔法陣が光を伴って現れる。リアスと兵藤の二名の転移に成功したようだ。

 

「っ! まさか、ここに転移してくるとは!」

 

「悪魔め!」

 

突然現れた二人の姿に、部室を占拠していた魔法陣たちが身構える。

 

「ぶ、部長! イッセー先輩!」

 

その中に、ギャスパーがいた。変わらない女装の姿と、頭部に紙袋の切れ端を乗せた状態で椅子に縛り付けられている。

 

「ギャスパー! よかった、無事だったのね!」

 

どうあれギャスパーが怪我もなく済んでいることに、リアスは安堵の息を漏らす。

 

「部長…。もう、嫌です…」

 

ところがギャスパーのほうは、二人の姿を確認するなり泣き出してしまった。

 

「僕は…僕なんか、死んだほうがいいんです。僕は、誰とも仲良くなんてなれない…。迷惑かけてばかりで…臆病者で…。お願いです、部長、先輩。僕を、殺してください…」

 

涙を流し、二人に懇願するギャスパー。敵にとらわれ、利用された彼は、何となくでもそれによる影響を察しているのだろう。

 

「馬鹿なことを言わないで。私はあなたを見捨てないわよ? あなたを眷属に転移させた時、言ったわよね? 生まれ変わった以上、私のために生き、自分が満足できる生き方を見つけなさいって」

 

「…見つけられなかっただけです。皆に迷惑かけてまで、僕に…生きる価値なんて…」

 

「あなたは私の下僕で眷属なの。私はそう簡単に見捨てない。やっとあなたを解放させることができたのに!」

 

「そうだぞギャスパー! 俺と部長は、お前を見捨てないからな!」

 

リアス、兵藤の言葉も届かず、ギャスパーは首を横に振るだけだった。

そんな中、ギャスパーのすぐ近くに立っていた魔術師がギャスパーの髪を掴み上げ、冷ややかな笑みを浮かべた。

 

「愚かね、あなたたち。こんな危なっかしいハーフヴァンパイアを普通に使うなんてバカげているわ。旧魔王派の言う通りね。グレモリー家は情愛が深くて力にあふれている割には頭が悪いって」

 

魔術師の侮蔑的な言葉に、怒りを見せることもなく面と向き合うリアス。

 

「さっさとこんなヴァンパイア、洗脳して道具として使えばきっともっと評価されていたでしょうに。敵対する堕天使の領域にこの子を放り込んで神器を暴走させれば、幹部の一人くらい退けたかもしれないわ。それをしないのはなぜ? 仲良しこよしで下僕を扱う気なの?」

 

「こ、この…!」

 

先に怒りを抑えきれなくなったのか、前に出ようとする兵藤をリアスは手で制止した。

 

「私は…自分の下僕を大切にするわ」

 

冷静に返すリアスに向けて、魔術師が魔力の弾を放つ。それほど威力を込めていないのか、リアスの服が一部弾け飛ぶだけで、彼女自身にダメージはなかった。

 

「生意気な口をきくのね。それに、悪魔のクセに美しいのも気に入らないのよ、グレモリーの娘」

 

嫉妬にまみれた声でそう言うと、魔術師はギャスパーの首元に刃を突きつけた。

 

「さあ、動くとこの子が死ぬわよ? ちょっと遊びましょうよ」

 

魔力弾を引き続き放つ魔術師。避ける気配を見せないリアスの前に、兵藤が盾になるように立ちはだかる。弾は、兵藤の首筋で破裂した。

爆発に耐えて怒り心頭の兵藤の前に、リアスは再び前に出てギャスパーに優しく語りかける。

 

「ギャスパー。私にいっぱい迷惑をかけてちょうだい。私は、何度でもあなたを叱ってあげる。慰めてあげる。決して…決してあなたを放さないわ!」

 

「ぶ、部長…」

 

涙を溢れさせるギャスパー。しかし、今度の涙はこれまでの恐れや悲しみからくるものではなく、嬉しさからくるものだというのが誰からでも見て取れた。

 

「ギャスパー! 逃げるなっ! 恐れるなっ! 泣き出すなっ! 俺も部長も、朱乃さんもアーシアも、木場も小猫ちゃんもゼノヴィアもシュウも! 皆仲間だ! 絶対にお前を見捨てないっ! 仲間はずれなんかしないからなぁぁぁぁっ!!」

 

兵藤が部屋中に響く声で叫び、左腕を高く上げて自身の神器を発動させる。

 

「ブーステッド・ギア!」

 

【Boost!!】

 

「部長! 女王に昇格します!」

 

左手に装着された籠手を構え、更にリアスに昇格の許可を促す。リアスが頷きでそれに応えると、兵藤の力が女王のそれに底上げされた。

 

「アスカロン!」

 

【Blade!!】

 

籠手から、一本の鋭い剣が飛び出す。以前ミカエルから授かった竜殺しの聖剣、アスカロンだ。

兵藤はその切っ先を慎重に己の右の指先に向け、極僅かな切り傷を入れる。

 

ほんの僅かな切り口を、人間の感覚で捉えるなら紙で指先を切ってしまった時くらいの切り口を作っただけだというのに、その痛みは激しかった。それもそうだろう。アスカロンは竜殺しの聖剣。儀式で多少効力を抑えているとは言っても、ドラゴンで悪魔の彼にとっては相性が悪い一撃でしかないのだ。

 

「イッセー…?」

 

激痛に顔を歪める兵藤を、リアスは怪訝そうな顔で覗き込む。兵藤は小さく「大丈夫です」と応えると、改めてギャスパーのもとに向き直った。

 

「だけどな、ギャスパー! 自分から立たなくちゃ、何も始まらないんだぜ? 女の子に喝を入れてもらったんなら、あとは自分で立て! お前も立派な男だろうがぁぁぁぁっっ!!」

 

叫び、左手を一気に突き出す。するとアスカロンの切っ先は如意棒を彷彿とさせるような勢いで伸びていき、魔術師たちの誰もが反応できないうちにギャスパーの側で停止した。アスカロンの切っ先に付着していた兵藤の血が、ギャスパーの口元に飛びつく。

 

「飲めよ。最強のドラゴンの力を宿してるらしい俺の血だ。それで、男を見せてみろっ!」

 

兵藤の言葉に強い眼差しで頷き、ギャスパーは舌で口元の血を舐めとる。ギャスパーが兵藤の血を口にした、その瞬間ーー。

 

 

 

 

室内の空気が、一変した。

 

 

 

 

不気味で言い知れない悪寒が、室内にいる全員に駆け巡る。

 

 

魔術師たちが、椅子に繋がれているはずのギャスパーに目を向けた時、彼女たちはある異変に気がつく。

 

 

そこには、誰もいない。椅子に残っているのは、ギャスパーを繋いでいた縄だけだった。

 

 

兵藤も突然の事態に驚きを隠せずにいると…。

 

 

 

 

ーーチチチチチッ

 

 

 

 

不気味な鳴き声が、耳に入る。

 

 

 

視線を上げると、部室の天井付近を縦横無尽に飛び回るコウモリの軍勢が目に入った。

 

 

紅い瞳のコウモリの群れは、一斉に女魔術師たちに襲い掛かる。

 

 

「クッ! 変化したのか、吸血鬼風情が!」

 

 

「おのれ!」

 

 

魔術師たちはコウモリの軍勢に手を向けて、魔力弾を撃ちだそうと力を込める。

 

 

しかし、それは彼女たちの影から無数に伸びてきた黒い手によって阻害される。

 

 

影から現れた手は、彼女たちを影の中へと引きずり込もうとしていた。

 

 

「吸血鬼の能力か!? こんなもの!」

 

 

影に向けて弾を撃ち出すが、手は何事もなく霧散するだけでこれといった影響はない。むしろコウモリたちは影の手に意識を向けてしまっていた魔術師たちの体を包み込み、各部位を噛み始める。

 

 

「血を吸うつもりか!?」

 

「…いや、違う! これは!」

 

 

コウモリは、魔術師たちから血と共に魔力も吸い出していた。

 

 

 

コウモリと影から伸びる手によって、されるがままにされている魔術師たち。そんな彼女らの姿を見て、兵藤は唖然とした様子を見せる。そんな彼の元に、リアスはやさしく解説を述べた。

 

「あれが本来のギャスパーが秘めていた力の一部よ。あなたの血を飲んだことで解放されたのね」

 

 

 

「くっ! ならば!」

 

魔術師たちが手の先をリアスと兵藤に向ける。ギャスパーが無理であれば、せめてあちらでも…という算段なのだろう。

 

二人に向けて放たれる魔力弾。しかし、それは空中の一定の距離を飛んだところで停止してしまった。

 

『無駄です。あなたたちの動き、攻撃は、全て僕が見ています」

 

室内に響くギャスパーの声。魔術師たちは突然発現したギャスパー本来の力によって翻弄されていたので忘れていたのかもしれないが、ギャスパーには、時間を停止させる神器の能力もあるのだ。赤龍帝の血は、神器を上手く制御させる効果もある。先の血を飲む行為によって得られたのは、吸血鬼本来の力だけではなく、神器をコントロールする術もだったのだ。

 

『僕は、あなたたちを停めます!」

 

無数のコウモリたちが紅い瞳を光らせる。途端、この部屋にいる全ての魔術師たちが停止させられた。

 

『イッセー先輩!』

 

「任せろ!」

 

ギャスパーの声に応え、兵藤が駆け出す。

魔力を込め、動けなくなった魔術師たちに繰り出されるその必殺の名は……!

 

 

 

 

「洋服崩壊ッッ!」

 

 

バァァァァァン…。

 

 

魔術師たちのローブが弾け飛ぶ。

割と感動的で、良い雰囲気が流れていたこの場面で、彼は女性特効一撃必殺の技を繰り出した。

その魂胆にあるものは、いつもと変わらない。

 

時間を停止させられた挙句、服を弾き飛ばされた魔術師たちは、一糸まとわぬ姿でマネキンのように固まっていた。女性陣から見れば地獄絵図のようなものを背後に、兵藤はそれはそれは満足そうな様子で静かにギャスパーに微笑みかけた。

 

「ギャスパー。俺たちが組めば、無敵だ」

 

『はい!』

 

「そうじゃないでしょ?」

 

コツン、とリアスが兵藤の頭を小突く。

思っていた道筋とはかけ離れた流れに、リアスはただただため息をつくだけであった。

 

 

その後、時間停止によって動けなくなった魔術師たちは、魔法陣を通して冥界にある役所に送られることになった。そこで彼女らは捕縛され、牢屋に入れられるのだという。

 

リアスは、いきなり裸のマネキンたちを大量に送りつけられる役所の職員たちに、そして気がついたら裸で牢屋に入れられることになる魔術師たちに、なんとも言えない同情の念を抱いてしまったとか。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

駒王学園上空にて繰り広げられる、堕天使総督アザゼルと旧魔王の末裔の一人、カテレアの激しい一騎打ち。

本来、アザゼルによる一方的な蹂躙が繰り広げられるだろうと思われていたその戦闘は、しかし、思いの外カテレアが喰らい付いていく展開になっていた。

 

アザゼルの力はカテレアを凌駕しているはずなのだが、カテレアは予想以上の力でアザゼルと対峙している。

 

身の丈を遥かに超える極太の光の槍を放つアザゼルに対し、カテレアは空中に何重もの防御用の魔法陣を張り巡らせてそれを防ぐ。そのような攻防が何度も繰り返される度に、その力の余波が校庭を襲う。魔王たちが結界を張り続けているために、校舎や校外には影響が及ばずに済んでいる状態だった。

 

その戦闘に、一瞬だけの区切りが訪れる。互いに少し離れ、それぞれの羽を広げて浮遊する。

これまで何とかアザゼルに喰らい付いていたとはいえ、劣勢であったのは間違いない。にも関わらず、カテレアは不気味な笑みを浮かべていた。

 

「そろそろ覚悟を決めてもらいましょうか、アザゼル」

 

カテレアはそう言うなり、懐から小瓶を取り出す。その中には、何やら黒い蛇のようなものが蠢いていた。

小瓶の蓋を開け、口につける。小瓶の中で蠢く蛇は、そのまま瓶からカテレアの口の中へと移されていった。

 

 

ーー途端、空間が激しく揺れ動き、学園全体に力の波動を波立たせる。

 

 

その瞬間から、カテレアから発せられる力は全くの別物となった。もはや今の彼女には新魔王の面々に迫る勢いがある。

アザゼルが無数の光の槍を放つも、カテレアは腕を横になぐだけでそれらを難なく消失させてしまった。

 

「…チッ。お前のその力、たかが旧魔王の末裔のものにしては膨大だな。いきなり膨れ上がったオーラの量といい、お前オーフィスの野郎に何をもらった?」

 

「ええ、彼は無限の力を有するドラゴン。世界変革のため、少々力を借りました。おかげであなたと戦える。サーゼクスやミカエルも倒すチャンスでもあります。貴方も含めて、彼らは愚かな総督ですからね」

 

アザゼルの問いに、自信に満ち溢れた様子で応えるカテレア。

一方、アザゼルはそんな彼女に臆することもなく、相変わらず愉快そうにするだけであった。

 

「確かに俺は愚かかもな。シェムハザがいなけりゃ何もできねぇ奴で、ただの神器マニアだ。…だがな、サーゼクスとミカエルはそこまでバカじゃねぇと思うぜ? 少なくともテメェよか遥かに優秀だ」

 

「世迷言を! いいでしょう。貴方は今ここでトドメをさします。新世界創造の第一歩として、堕天使総督である貴方を滅ぼす!」

 

そんなアザゼルの様子にも、今の言葉にも腹を立てたのか、強めの口調で言い放つカテレア。

アザゼルは、懐から一本の短剣らしきものを取り出し、その切っ先をカテレアに向ける。

 

「それは……」

 

「…神器マニアすぎてな。自分で製作したりすることもある。レプリカ作ってみたりな。だが、そのほとんどが所詮ガラクタに過ぎねぇんだがな。その点、神器を開発した神はすげぇよ。俺が唯一奴を尊敬するところだ。

…だが、甘い。『神滅具』と『禁手』なんていう世界の均衡を崩し得るバグを残したまま死んじまったからな。だからこそ神器は面白いんだけどよ」

 

「安心なさい。新世界では神器なんてものは絶対に作らない。そんなものがなくても世界は機能します。いずれは北欧のオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」

 

「それを聞いてますますお前らの目的にヘドが出るよ。ヴァルハラ!? アース神族!? 横合いからオーディンに全部かっさらわれるつもりかよ」

 

ニンマリと口の端をつり上げ、吐き捨てるアザゼル。戦闘中、一度も態度を変えることのなかったその男は、その次の瞬間。明らかに様子を変貌させた。

 

 

 

「というよりもな。俺の楽しみを奪う奴は……まとめて消し飛ばしてやるよ」

 

 

 

アザゼルの持つ短剣が形を変えていく。

 

 

 

パーツが分かれ、光が吹き出す。

 

 

 

それは、何となく見覚えのある、感じた覚えのある強いオーラを放っていた…。

 

 

 

「ッ!? ま、まさか! アザゼル、貴方は!」

 

「禁手化…!」

 

一瞬の閃光が辺りを包み込む。光がやむと、そこには黄金の全身鎧を身につけた者が立っていた。背中から広がる十二枚の漆黒の翼。どうやらアザゼルが装備したものらしい。

ドラゴンを彷彿とさせる、金色に輝く生物的なフォルム。巨大な光の槍を構え、ドラゴンの鎧を身につけたアザゼルは、力強いオーラを放ちながらカテレアを睨む。

 

「白い竜と他のドラゴン系神器を研究して作り上げた、俺の傑作人工神器だ。『堕天龍の閃光槍』。それの擬似的な禁手状態…。『堕天龍の鎧』だ」

 

擬似的な禁手。それは、神器をバースト状態にし、強制的に覚醒させるもので、一種の暴走に近い。戦闘後に神器が壊れ、使い物にならなくなるという諸刃の剣だ。

本来の神器であれば所有者が死なない限り何度でも再生するが、人工神器はそうはいかない。人工神器を使い捨てにすることで可能になる、一時的なパワーアップであった。

 

「…力を有したドラゴンをベースにしましたね?」

 

「ああ。ちょっくら『黄金龍君』ファーブニルをこの人工神器に封じてな。赤い龍と白い龍の神器を模したのさ。いまのところは成功ってとこか」

 

苦々しい様子のカテレアの問いに、あっさりとした口調で返すアザゼル。それは、カテレアを激昂させるには十分であった。

 

「アザゼル! それだけの力を持ちながら、貴方は!」

 

「カテレアよぉ。『無限の龍神』をバックにしておいてよく言うぜ」

 

「神器の研究は、そこまで進んでなかったはず!」

 

「その様子じゃ、俺の組織を裏切った輩が研究をいくらか持ち出したみたいだな。…だが、残念だったな。真理に近い部分は俺とシェムハザしか知らねぇんだよ」

 

アザゼルの言葉に小さく舌打ちし、カテレアはこれまで以上のオーラを放つ。

 

「私は偉大なる真のレヴィアタンの血を引くもの! カテレア・レヴィアタン! 貴方ごとき忌々しい堕天使などに、負けはしない!」

 

挑戦的な物言いに、アザゼルは小さく指を動かした。

 

「来いよ」

 

「なめるなっ!」

 

特大のオーラを纏い、アザゼルに突撃して行くカテレア。

二人がぶつかり、互いのエネルギーが波打ったその瞬間。勝負が決した。

 

カテレアの身体から鮮血が噴き出す。アザゼルは、自分が持つ光の槍で、カテレアごとその背後の景色一帯を切り裂いてしまっていた。コンマ一秒の間で、決着がついた。

 

力なく、その場に膝をつくカテレア。あとはそのまま倒れ伏せるだけであろう彼女は…。

 

「ただでは、やられません!」

 

最期の抵抗を見せた。

自身の腕を触手のように変化させ、アザゼルの左腕に巻きつける。するとすぐさまカテレアの身体に、怪しげな文様が浮かび上がった。

 

自爆用の術式だ。カテレアは最期に死ぬ覚悟で、アザゼルを道連れにしようと判断したのだった。

 

「アザゼル! この状態になった私を殺そうとしたところで無駄です! 私と繋がった以上、私が死ねば貴方も死ぬ、強力な呪術を発動させています! さらにその触手は私の命を吸った特別性! 切れませんよ!」

 

「犠牲覚悟で俺に大ダメージってか? 安っぽい発想だが、効果は絶大だな」

 

カテレア最期の抵抗に、アザゼルは流石にしてやられたとでも言いたそうな様子を見せる。最期の抵抗が効果ありと察したのか、不敵な笑みを浮かべて勝ち誇った様子を見せたカテレア。

 

 

 

 

「じゃ、こうしよう」

 

 

 

 

しかし、アザゼルは一瞬にして解決策を導き出した。

 

 

 

 

自分の腕を切り落とし、カテレアとの術式の繋がりを断つことによって……。

 

 

 

 

「片腕ぐらいお前にくれてやる。ま、精々あの世で自慢すりゃいいさ」

 

絶望の淵に叩き落とされたカテレアに、光の槍を投擲するアザゼル。槍はカテレアの腹部を貫き、カテレアの身体は爆破することもなく、光の力によってそのまま塵と化していった。

 

「チッ、人工神器の限界か。まだ改良の余地ありだな。核の宝玉が無事なら、また作り直せる。もう少し俺に付き合ってもらうぜ、ファーブニル」

 

鎧が解除され、手の中に残った人工神器の核の宝玉を見つめながら、アザゼルはニヒルな笑みを浮かべた。

ちょうどその時、アザゼルの背後から紅い光を伴った魔法陣が現れる。グレモリー家の転移の魔法陣だ。その魔法陣から、ギャスパーの救出に向かっていった兵藤とリアス、救出されたギャスパーが姿を現した。

 

「おう、そっちもなんとか終わったらしいな」

 

魔法陣から現れた三人の姿を見つけ、アザゼルが笑いかける。

 

「アザゼル!? なんでお前がここに、つーか腕が!」

 

「お前さんらがあっちに向かった後もいろいろあったんだよ。そろそろ魔術師の掃討戦も終わる。何とかなったってとこだろうな…」

 

今回の襲撃に見切りがつき始めたことで、若干警戒心が緩む。目の前の事態に驚いたのかやや興奮して騒ぐ兵藤を受け流すように、アザゼルは戦場を見下ろしながら答えた。

 

その瞬間、思わぬところからの攻撃が入った。

 

完全に不意を突かれたアザゼルはその攻撃をモロに受ける。爆撃に飲まれ、身を焦がしながらもその攻撃を放った敵が誰なのかと睨みつける。その攻撃の主が眼に映る。

 

 

アザゼルは自嘲的に笑った。

 

 

 

「…ッチ。この状況で反旗か? ヴァーリ」

 

 

 

白い鎧を纏い、空中からアザゼルらを見下ろすヴァーリがいた。

 

 

 

「いつからだ? いつからそういうことになった?」

 

「コカビエルを連れ戻しに行って帰る途中にオファーを受けた。悪いな、アザゼル。こっちの方がいくらか面白そうなんだ」

 

「白い龍がオーフィスに降るのか?」

 

「あくまで協力するだけだ。『アースガルズと戦ってみないか』と、魅力的なオファーがでたんだ。自分の力を試してみたい俺ではそれは断れない。アザゼルはアース神族と戦うことを嫌がるだろう? 戦争嫌いだものな」

 

「俺はお前に強くなれとは言ったが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』とも言ったんだがな」

 

「関係ない。俺は永遠に戦えればいい」

 

アザゼルと短く会話を交わし、放置されていた兵藤たちに視線を動かす。困惑した表情を浮かべる兵藤を冷ややかな目で見下ろしながら、ヴァーリは改まるように名乗りを上げた。

 

「俺の名はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーだ」

 

その名乗りに、リアスは目を見開いて驚く。

 

「死んだ先代魔王ルシファーの血を引く者だ。だが、俺は旧魔王の孫である父と人間の間に生まれた混血児。だからこそ白い龍の神器を手にすることができた。半分人間だからな。偶然に偶然が重なり、ルシファーの真の血縁者であり白い龍でもある俺が誕生した。運命、奇跡というものがあるのなら、それは俺のことかもしれない。…なんてな」

 

「嘘よ…そんなこと…」

 

「事実だ。もし冗談のような存在がいるとしたら、こいつのことさ。俺が知ってる中でも過去現在、おそらく未来永劫にかけて最強の白龍皇になる」

 

愕然とした様子を見せるリアスに、苦虫を噛み潰したような顔をするアザゼル。先代魔王の血筋を持つものは、悪魔としての質も高い。先のカテレア・レヴィアタンも然り、その力は通常の悪魔の中で上位に位置する存在だ。

彼はその事実に加え、世界を揺るがし得る白龍皇の力を持っている。先代魔王の時代から長年生きてきたアザゼルを以ってしても、最強と言わしめる存在。それがヴァーリだ。

 

「じゃあ、どうするよヴァーリ。俺とやるか? 言っとくが俺は鎧がなくとも、片腕だけでお前と十分に戦える」

 

挑発するように発言するアザゼルを無視するように、ヴァーリは兵藤から視線を動かさなかった。

暫く見下ろし続けると思うと、ヴァーリは心底残念そうな息を漏らした。

 

「しかし、運命というのは残酷だと思わないか?」

 

ヴァーリの言葉に疑問符を浮かべる兵藤。そんな彼をあざ笑うかのようにヴァーリは言葉を繋げる。

 

「俺のように、魔王プラス伝説のドラゴンみたいな思いつく限りで最強の存在がいる反面、そちらのようにただの人間にドラゴンが宿る場合もある。いくらなんでもこの偶然は残酷だと思うな。ライバル同士の神器とはいえ、所有者二名の間の溝は深すぎる。

君のことは少し調べた。父は普通のサラリーマンで母はたまにパートに出る普通の専業主婦。両親の血縁も全くもって普通。先祖に力を持った能力者や術者がいたわけでもない。当然、悪魔や天使に関わったこともない。本当になんの変哲も無い。君自身も悪魔に転生するまで、ごく普通の男子高校生だった。ブーステッド・ギア以外、何もない」

 

その言葉に、兵藤は表情を曇らせる。事実、彼と自分の実力には天と地ほどの差がある。相対しただけで身震いするほどの力の差が。仮にそれが経験からくるものであれば、これから次第でその差を埋めるのは容易であったかもしれない。しかし、血筋からくるものとなれば話は別だ。何かしら劇的な変化が起きない限り、ヴァーリとの力の差は永遠に縮むことはないだろう。

 

「つまらないな。あまりにつまらなさすぎて、君のことを知った時は落胆より笑いが出た。『これが俺のライバルなんだ。まいったな』って。せめて親が魔術師ならば話は少しでも違ったかもしれないのに。…そうだ。こういうのはどうだろうか。君は復讐者という設定だ」

 

「何?」

 

突然提示された、「復讐者」という設定。面白おかしそうに設定について語り出すヴァーリに対し、何かしら嫌な予感を察知したのか、顔をしかめさせる兵藤。

 

「俺が君の両親を殺す。そうすれば、君の身の上が少しはおもしろいものになる。親を俺のような貴重な存在に殺されれば、晴れて重厚な運命に身を委ねられると思わないか?」

 

 

 

 

「……殺すぞ、この野郎」

 

 

 

 

 

兵藤らしからぬ、怒気のこもった言葉。戦いの中で生き、戦いを最大限に楽しもうとするヴァーリの言葉は、元が普通の人間であった兵藤を激昂させるには十分であった。

 

 

「お前の言う通り、俺の父さんは朝から晩まで働く普通のサラリーマンだ。母さんは朝昼晩と、俺たちのために美味い飯を作ってくれる普通の主婦だ。…でも、俺をここまで育ててくれた、俺にとって最高の親なんだ。

…殺す? 俺の父さんと母さんを? なんでテメェなんかの都合に合わせて殺されなくちゃいけないんだよ! 貴重だとか、運命だとか、そんなの知るかよっ! ……やらせねえ」

 

そこまで一気にまくし立てると、左腕に赤龍帝の籠手が現れる。強い光を放つ籠手を掲げ、叫びを上げた。

 

「テメェみてえなやつに、俺の親を殺されてたまるかよぉぉぉぉっ!!!」

 

【Welsh Dragon Over Booster!!】

 

叫びとともに、赤龍帝の籠手から音声が流れる。赤く、強大なオーラを放ちながら、籠手はその形を変貌させた。赤龍帝の籠手の禁手、『赤龍帝の鎧』だ。アザゼルから受け取ったリングの効果もあり、最初と違って代償を払うこともなく鎧を装着することができていた。

籠手の宝玉に、カウントダウンらしきものが現れる。禁手を発動させていられる制限時間だろう。時間的には十五分にも満たないが、それでも十分だと構え直す兵藤に、見直したような息を漏らすヴァーリ。

 

「…見ろ、アルビオン。兵藤一誠の力が桁違いに上がったぞ。怒りという単純な引き金だが、これは…心地いい龍の波動だな」

 

《神器は単純で強い想いを力の糧とする。奴の怒りは純粋にお前に向けられているのさ。真っ直ぐなもの、それこそドラゴンの力を引き出せる真理のひとつ》

 

「そうか。そういう意味では俺よりも彼の方がドラゴンと相性がいいわけだな。だが! 頭が悪いのはどうだろうか! 兵藤一誠! 君はドライグを使いこなすには知恵が足りなすぎる。それは罪だ!」

 

「さっきからベラベラと、訳の分からんことを言ってんじゃねぇ!」

 

「そう! それこそバカという奴なんだ!」

 

二人はそれぞれの鎧を纏い、赤と白の光を放ちながらぶつかる。激しい衝撃が校庭に広がる。

 

赤い龍と白い龍。世界を揺るがすライバルの対決が、三大勢力の集まる会談の会場で勃発した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

場面は変わり、学園の角側。

 

駒王学園の校庭には、森とも林とも言えないくらいの小さな規模ではあるが、隅の方に軽く森林浴ができるくらい木々が生い茂っている場所がある。学生たちは主に木陰で休む休憩所として使っているが、ちょっとした隠れ場所としてもその場所を活用することが可能だ。いつしか外でスポーツをしていた女生徒が、そこの茂みから怪しい視線を三人分感じたとか言う話があるくらいだ。

そして現に、いま現在もその木陰に身を隠す二人の人物がいた。

 

一人は昔の中国時代を彷彿とさせるような鎧を身につけたいかにも身軽そうな男性。そしてもう一人は綺麗な和服を羽織り、頭から猫のような耳を生やした女性だ。二人は兵藤とヴァーリの戦いが繰り広げられている校庭の方に視線を向けながら言葉を交わしていた。

 

「ヴァーリのやつ、久しぶりに上がってるみたいだぜぃ。ここまで力が響いてくる」

 

「そうね。今回の赤龍帝ってどんな子なのかしら。一度見てみたいにゃん♪」

 

「ヴァーリからはつまらない奴だとしか聞いてないんだが、どうやら想定外だったみたいだねぃ。けどそろそろ戻らねえとな。本部の奴らも騒ぎだす頃だろうしよぅ。そこで帰り道作って待っててくれや」

 

「はいはーい。美猴、行ってらっしゃい♪」

 

茂みから身を出して校庭に向かっていく美猴という男を、ヒラヒラと手を振って見送る女。彼女は黒歌という名のテロリスト側の人物だ。とはいえ彼女も美猴も、そしてヴァーリも今回のテロを計画した者ではない。このテロの結末を見届けに、あるいは少しだけ助力しにきた人物だ。

 

ここから眺めるだけでも、今回のテロは失敗に終わるのは確実だろう。ギャスパーは奪い返され、計画の首謀者であるカテレアは敗れた。他の魔術師らも、木場とゼノヴィア二名にただやられていくだけ。こうなってはあとは全滅になるのを待つだけだ。

黒歌は校庭で起きている惨状には目もくれず、さっさと帰り道となる陣を貼り始める。今回の作戦は成功すればラッキーくらいの感覚でしか捉えておらず、大して期待を寄せていなかった。失敗したところで別の作戦もある。だからこそ、失敗すると分かったならばその次の作戦に取りかかるのだった。

 

陣を貼るために魔力を込め、地面に独特な魔法陣が現れたところで、黒歌は何かを思い出したかのようにチラと結界の外の駒王町に視線を送る。どこか懐かしそうな様子で暫く町を眺めると、帰りの移動手段の作成を続けるために結界の外から視線をそらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーービシィッ!!

 

 

 

 

その瞬間。結界から、何やらひび割れたような音が鳴る。

 

 

 

 

何が起きたのか。今のは何の音なのか。本来ならばそちらの方に気を引かれるであろう。しかし黒歌は、今の音が鳴ったその時に、外から流れ込んできた邪悪な気配に気をとられた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーービキィッ! ビシビシッ! バリっ!!

 

 

 

 

 

 

 

再び、今度は先ほどより多く、不気味な音が鳴る。

 

 

 

 

音とともに背後から感じる、あの気配。黒歌は目を見開き、ゆっくりと背後を振り返る。

 

 

 

 

目に映った。学園の外に貼られた結界に、異常に大きな亀裂が入っていた。

 

 

 

 

 

「…ま、さか…そんな、はず…」

 

 

 

 

 

黒歌の中に、ある予感が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

結界が、破られた。

 

 

 

 

 

 

割れた結界をまたぎ、学園の外から、一つの人影が学園に足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

「…ここに、いる。あの時、逃した…最高の獲物…」

 

 

 

 

学園に進入したタンクトップの男は、今にも飛び出しそうな目を大きく見開き、その眼光で学園を睨みつける。

 

 

 

 

 

「ウウゥ…グゥギィャアアァァアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

叫び声を上げる。その声に同調するかのように、彼の身体は少しずつ変化を遂げ始めた。

 

 

 

 

 

真っ白の髪は更に伸び、皮膚は黒に染まる。口は裂けるほど広がり二本の鋭い牙が生え、腕からは一対の巨大な翼が出現した。

 

 

 

 

 

ズ・ゴオマ・グ『究極体』。数多いるグロンギの中でも更に例外的なグロンギが、駒王学園に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 




独り言ショー

「ふむ、アザゼルの戦いは熾烈を極めてるようだな。激しい力を感じる」
「時間の違和感も収まったな…どうやらうまくいったようだ」
「なに!? まさかあいつが裏切り者だったのか!?」
「この気配…まさか、奴らがまた…?」

こんなこと考えながら木陰に隠れるガドル閣下のお姿は、さぞシュールなことだろうなぁ…(他人事)

「おのれぇ!」
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