閣下が生きるハイスクールな世界   作:佐竹 リン

56 / 63
一話〜三十六話 ドライブ放映期間
三十六話〜四十八話 ゴースト放映期間
四十九話〜五十話 エグゼイド放映期間

多分こんな感じだった気がしますが…やばいな、どんどん期間が開いていくぜ。
よかった、ビルド放映期間に一話間に合ったぞ(コラ)

では、ひさびさにどぞ〜



五十二話目

ヴァーリと兵藤の戦いは、徐々に激しさを増していく。

赤い龍の鎧と白い龍の鎧を装備した二人が互いにぶつかり合うたびに、強烈な衝撃が校庭中に響き渡る。

 

純粋な戦闘能力でヴァーリに圧倒的に劣っている兵藤は、以前ミカエルから譲り受けたアスカロンを振るってヴァーリに斬りかかる。ヴァーリも悪魔の血を引き継いでいると分かった今、アスカロンはヴァーリにとって非常に有効な武器であることが判明しているため、一撃でも与えることができれば御の字だ。ところが、当然ながら単に振り回すだけの斬撃ではヴァーリを捉えることができない。兵藤の攻撃は、その悉くが全て躱されていく一方であった。

 

それだけではない。兵藤は禁手の効果の一つとして、倍加の力を待機時間を要することなく使用できる能力を得た。好きなタイミングに好きな配分だけ、一時的に自身の能力を上げることができるようになったのだが、当然ながらその能力には代償があり、倍増させる能力値が高ければ高いほど兵藤のスタミナを奪っていく。

ヴァーリも同じく、白龍皇の能力を使うたびに体力が削られているのは変わらない。ところが、兵藤と違ってヴァーリは凄まじい体力を備えている。このまま同じ攻防を繰り返し続けていると、いずれは兵藤のスタミナ切れという形で勝敗が決まってしまうだろう。

 

なにかとライバルとの力量差を見せつけられ、苛立ちを見せる兵藤と落胆するヴァーリ。基本スペックの圧倒的な違いがここまでの差を産むのかと、兵藤の中に若干の焦りが生じた。

 

その焦りを見逃すヴァーリではない。ヴァーリは焦りを見せた兵藤に生じた隙を的確につき、兵藤の目には止まらない速度で赤い鎧を殴りつける。兵藤の鎧にヒビが入り、鋭い痛みが胸に走った。

 

「グッハ…!」

 

「フフッ…アッハハハハハハハッッ!! これが俺のライバルか! 困ったな、弱い! 弱すぎるじゃないか!」

 

【Divide!!】

 

無様に飛ばされた兵藤を嘲笑いながら、白龍皇の能力を発動する。音声とともに、兵藤は自身の力が衰退したのを感じ取った。半減の能力だ。能力を発現させるには対象に一度触れることが条件となるのだが、今の一撃でその条件をクリアしたのだった。

 

【Boost!!】

 

すかさず赤龍帝の籠手の能力で自身の力を倍加させることで、先ほど失われた力を取り戻す。こうすることで白龍皇の半減の能力を相殺することは可能なのだが、これには一つ問題があった。

 

《ふむ…マズイな》

 

(なにがだ、ドライグ?)

 

《奴の能力は前に話しただろう? 半減した力を自分にそのまま付与させる能力だ。今も相棒から奪い取った力を己のものにしている。

半減された力はすぐに俺の倍加の力で元に戻してやれるが、そう何度も繰り返してはいられない。お前はマイナスから元に戻るだけなのに対し、奴はどんどんプラスになっていっていくんだからな。その上、相棒には体力の問題もある》

 

白龍皇の能力は、半減だけではない。赤龍帝の兵藤が溜めた倍加の力を他の誰かに譲渡することが可能なように、白龍皇であるヴァーリは半減によって奪った力を自身に蓄えることが可能なのだ。

この攻防を続ければ続けるほど、ヴァーリは自分では追いつけない力を手にすることになる。ただでさえ両者の力量差は決定的であるのに、これ以上差を開けるわけにはいかない。

 

(…なにか、弱点はないのか?)

 

《あるにはある。容量をオーバーさせることだ。どれだけ宿主が優れていようと吸収できる力に限界があるのだが、キャパシティを超える力は、あの背中の翼から吐き出しているんだ。そうすることで身を滅ぼすことなく、力の上限を維持し続けているのさ。つまり…》

 

兵藤の心の問いに答え、ドライグがある作戦を提示する。ヴァーリやアルビオンに気づかれないように慎重に相談する兵藤にむけ、ヴァーリは無限にも等しい魔力の弾を撃ち出す。突然の攻撃をかわすことができなかった兵藤は、ひたすら魔力弾を耐える道を選んだ。

軽く撃ち出されているヴァーリの弾の一発は、兵藤に重いダメージを残していく。全身傷だらけであることを感じながら、兵藤は魔力弾の雨に耐え続けた。

 

「…攻撃も単調だな。ただ突っ込むだけでは意味がない。宝の持ち腐れだ。力の使い方もまるでなってない」

 

魔力弾の爆発によって舞い上がった土煙を見下すような視線で眺めるヴァーリ。そんな彼目掛けて、土煙から兵藤が飛び出してきた。

魔力の雨は未だ降り続けているのだが、その中を突っ切るように鎧の背中の噴射口から魔力を噴射させて一直線に向かっていく。

 

体の各所に魔力弾が当たり、爆発していく。着実にダメージを与え続けているのだが、兵藤は構わず向かってくる。ヴァーリに一撃をかましてやるという目的のために、ダメージを受ける覚悟でいるのだった。

 

「突貫か。馬鹿の一つ覚えだな。そんなもので…」

 

鎧の各所が破壊され、マスク部位までもが壊されているにも関わらず自分に向かってくる兵藤に対し、ヴァーリは光の盾を展開して防御の構えを取る。

 

「まだだっ! “赤龍帝の籠手”!!」

 

【Boost!!】

 

すると、兵藤は赤龍帝の籠手の能力で、籠手に収納してあるアスカロンに力を譲渡した。そして、籠手を装着した拳をヴァーリの盾に叩きつける。

ヴァーリが展開した光の盾は、一撃で粉砕された。アスカロンの龍殺しの力は、竜の力をもつ術者が使用した術に対しても効果がある。盾が破壊され、阻むものがなくなったヴァーリに向けてすかさず繰り出された兵藤の拳が、ヴァーリの頭部を捉える。

 

鈍い音を立てて、白龍皇の鎧の兜にヒビが入った。

 

「捉えたぜ! ヴァーリ!!」

 

ヴァーリに息をつく間を与えず、兵藤は鎧の背後に展開する光の翼の付け根に手を伸ばした。

 

【Transfer!!】

 

同時に、赤龍帝の鎧の籠手から譲渡の音声が鳴る。

 

「…まさか、お前!」

 

「ああ、そうだよ! 吸い取る力と吐き出す力を一気に高めてやる! 処理しきれなくなるほどな!」

 

兵藤の狙いは、白龍皇の鎧が処理しきれなくなるほどの力を無理矢理に吸収させ、同時に必要以上に力を放出させることによって、白龍皇の鎧の機能をオーバードライブさせることだった。奪う力と吹き出す力の両方を譲渡の力で加速させる。これまでは安定して力を調節させていたものを、その速度を急増させることで機能を混乱させる。それを狙ったのだ。

結果、白龍皇の鎧はその機能を停止させた。

 

《なんてことだ…! ヴァーリ! 一度体制を立て直せ!》

 

アルビオンの言葉に応え、ヴァーリは急ぎ防御の姿勢をとる。

ところが、兵藤の手には竜殺しの聖剣、アスカロンがある。アスカロンを埋め込んだ左腕の籠手でヴァーリを殴りつけると、ヴァーリの防御は両腕の籠手ごと難なく解かれ、その拳を懐に入れることを許すこととなった。

白龍皇の鎧はあっけなく破壊され、腹部に一撃喰らったヴァーリはよろよろと後ずさる。

 

これまで手も足も出なかった白龍皇に、ようやくの決定打を加えることができた。アスカロンの竜殺しの特性に驚きつつも、兵藤はヴァーリとの距離を詰めることを忘れなかった。

 

「ハハハ…、すごいな! 俺の神器を吹っ飛ばした! やればできるじゃないか! それでこそ、俺のライバル…」

 

口の端から血を流しながらも余裕の表情を崩さなかったヴァーリの顔面を、再び兵藤の拳がとらえた。鈍い音を鳴らし、ヴァーリがよろよろと後退する。

 

「…殴らせてもらったぜ。お前だけは一発殴らないと気が済まなかった」

 

やっとの思いでヴァーリに攻撃を当てられるレベルまで持っていくことができた兵藤だが、妙な違和感を感じ、浮かない表情を見せた。

白龍皇の鎧が、その形を元の状態に戻していた。その状態から察するに、鎧は破壊された部位だけでなく、既にその機能をも復元させているだろう。

 

神器は、所有者が死ぬまで何度でも修復されるものだ。戦いを終わらせるには、ヴァーリを戦闘不能になるまで追い詰めなければならない。その為にもヴァーリの神器を破壊しなければならないのだが、それも間も無く復元してしまう。

神器を破壊してようやく安定した戦いになる現状において、その条件はあまりにも厳しいものだった。

 

《このままでは埒が明かん。制御装置の限界時間内に奴を倒すのは至難の技だ。逃げるのが一番得策だが、そういうわけにもいかないのだろう?》

 

(当たり前だ! 部長や皆を置いて逃げられるわけない!)

 

《では、どうする? なんといっても、実力の差は間違いない。制御装置のおかげで禁手を扱え、ようやく勝負できる状態にあるのが現状だ。制御装置なしでは、間違いなくこちらの敗北だぞ》

 

口惜しそうに、手元に視線を落とす兵藤。そんな彼の目に、とあるものが映り込んだ。

その瞬間、兵藤の頭にある考えが浮かび上がる。

 

「…なあ、ドライグ。神器は想いに応えて進化する、んだったよな?」

 

《ああ、そうだ。それがどうした?》

 

「俺のイメージをお前に伝える。…やってみてくれ」

 

兵藤の脳裏に浮かぶイメージを、神器を通してドライグに送り込む。イメージを受け取ったドライグが、一瞬息を呑む音が聞こえた。

 

《…随分と危険なことを考えるものだな。だが、面白い! 死ぬ覚悟はあるか、相棒!!》

 

「死ぬ覚悟なんてねぇよ! まだ部長を抱いてねえからな! けど、痛みならいくらでも我慢してやる! それで目の前のクソ野郎を超えられるならなぁ!!」

 

《フハハハハハハッッ!! いい覚悟だ、ならば俺も覚悟を決めよう! 我は力の塊と称された赤き龍の帝王! お互い生きて超えて見せるぞ、相棒! 兵藤一誠ッッ!!》

 

何やら意気投合したようだ。意を決した様子で振り返り、ヴァーリに向けて指を突き出した。

 

「アルビオン、そしてヴァーリ! もらうぜ、お前らの力!」

 

そう言うや否や、兵藤は自身の籠手にはめ込まれた赤龍帝の宝石を叩き割り、その手に持っていたものを新しく入れ込む。

途端……

 

「ウガァアアアァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」

 

兵藤がとてつもない悲鳴を上げ始めた。

何をやっているのかと疑問に感じたヴァーリが、兵藤の籠手を覗き込む。

そこには、赤龍帝の宝石の代わりにはめ込まれた、白龍皇の宝石が輝いていた。

 

「ッ! 俺の力を取り込む気か!?」

 

全てを察したように声をあげるヴァーリ。兵藤は先の一撃で白龍皇の鎧を破壊した際に、この宝石を手にしていた。ヴァーリにとってみればそれは自動修復で勝手に直るものであり、対して気にも留めなかったのだが、その小さな宝石にも多少なりとも白龍皇の力は埋め込まれている。それを吸収することで、兵藤は白龍皇の力を得ようとしているのだった。

 

《無謀なことを。ドライグよ、我らは相反する存在だ。それは自滅行為に他ならない。こんなことでお前は消滅するつもりなのか?》

 

《…アルビオンよ! おまえは、相変わらず頭が固いものだな! 我らは長きに渡り、人に宿り、争い続けて来た! 毎回毎回、同じことの繰り返しだ!》

 

白龍皇、アルビオンの問いに赤龍帝、ドライグが答える。こちらも力の融合に苦痛しているのか、苦悶を漏らしつつ返答する。

 

《だが! 俺はこの宿主…兵藤一誠に出会って一つ学んだ! バカも貫き通せば可能になることがある、とな!》

 

白龍皇の宝石が輝く。鎧の一部が、変化していくのが目に見えて分かった。

 

「俺の想いに、応えろぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 

【Vanishing Dragon Power is taken!!】

 

聞きなれない音声と共に、兵藤の鎧の右腕部が白い光に包まれる。その光が収まったところには……白色の籠手が出現していた。

 

「…へへっ。“白龍皇の籠手”ってとこか?」

 

得意げな声をあげる兵藤。赤い鎧の右腕部だけが白色である見た目が不格好な見た目だが、それは白龍皇の力を取り込むことに成功したことを証明する何よりの証拠となった。

 

《馬鹿な! こんなこと有り得るはずがない!》

 

「いや、可能性は少しだけあった。俺の仲間が、聖の力と魔の力を融合させて聖魔剣なんてものを創り出した。神がいないことによるバランスの崩れ。それが聖魔剣を実現可能にしたんだとか、お偉いさん方は言っていた。システムエラーとか、プログラムバグだとか。それをちょっと利用したんだ」

 

《…なるほど。神器プログラムの不備をついて実現させたということか。しかし、思いついたとしても実際に行うのはおろか以外の何者でもあるまい。相反する力の融合は何が起こるかわからない。それがドラゴンに関わるものだとしたら、死ぬかもしれなかったのだぞ? 否、死ぬ方が自然だ》

 

「ああ、無謀だった。…でも、俺は生きている。確実に寿命が縮んだだろうけど、一万年も生きるつもりはない。まあ、やりたいことが山ほどあるから、最低でも千年は生きたいけどな」

 

呆れたように嘆息する赤い龍と、信じられなさそうな声をあげる白い龍。元が一般人であった彼が、二天龍が想像だにしなかった結末を迎え入れることに成功した瞬間だった…。

 

そんな彼に、パチパチと力のない拍手が送られる。それを送る人物は、ヴァーリ一人しかいない。兵藤はヴァーリを睨むように視線を合わせる。

 

「面白い。なら、俺も少し本気を出そう。…アルビオン、今の彼になら“覇龍”を見せるだけの価値があるんじゃないか?」

 

聞き覚えのない言葉に対し、明らかに機嫌を悪くしたような様子を見せるアルビオン。

 

《それは良い選択とは言えん。無闇に“覇龍”の力を使うことで、ドライグの呪縛が解けるかもしれないのだ》

 

「願ったり叶ったりじゃないか、アルビオン」

 

アルビオンの忠告を耳に入れず、ヴァーリはその腕を天に掲げる。何が起こるのか理解できずにいる兵藤を尻目に、ヴァーリは呪文を唱え始めた。

 

「……『我、目覚めるは覇の理に…』」

 

《自重しろヴァーリッ! 我が力に翻弄されるのがおまえの本懐なのか!!》

 

 

 

 

 

 

ーーーーーービシィッ!!

 

 

 

 

 

途端、何かがひび割れるような音が響く。

 

その場にいる誰もがその音に目を見開き、一斉に学園の外に視線を向ける。

 

……学園を囲むように貼られた結界に、巨大なヒビが入っているのを発見した。

 

「あの結界に、ヒビが入っただと!?」

 

アザゼルが驚きの声をあげる。

 

その驚きも当然だ。その結界は、人間界と学園を完全に遮断し、万が一にも人間界に影響を及ぼすことがないように貼られた超強力なものであり、そこいらの襲撃者ではビクともしないようになっている。故に、テロリストたちもその結界には手を出さず、わざわざ内部に侵入する手段を用いたのだ。

 

それに、ヒビが入った。となればその襲撃者は、彼らが意図していないような何者かである、ということなのだろう。

 

 

 

何度も結界に強い衝撃が加えられ、その度にヒビが大きくなる。やがて…

 

 

 

 

 

結界が、破壊された。

 

 

 

 

「グゥギィャアアァァアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

「一体…何が来やがったってんだ…!?」

 

 

学園中に轟く叫びに、アザゼルたちは身構えた。

三大勢力が、グロンギという種族の恐ろしさを目の当たりにするまで、あと数刻…。

 

 

 

 

 

一方、結界が破壊されたことは、校庭の隅で身を潜めていたガドルにも伝わった。

結界が破壊されたとともに外界から流れ込んで来た邪悪な気配を察知したガドルは、一瞬の迷いもなくその破壊された部位へと急ぐ。

 

自身の存在が感知されるために、部員たちやアザゼルといった者たちと戦うことになる、などという不用意な事態を避けるためにこれまで身を潜めていたのだが、もはやそれまでのことは忘れてしまったかのようにガドルは飛び出していた。

 

何故なら。外から流れ込んで来たこの気配は、これまでのものと比べまた一段と不気味なもので、彼にとっても無視できないものを秘めていたからであった。

 

(この気配は、ただのグロンギのそれじゃない。どっちかっつーと…あの時に感じた、アレに近い!)

 

彼の頭に浮かぶは、彼が人としての姿を失ってしまった日に感じた、あの気配。トラウマに突っ込んでいく感覚を覚え、怯えたように震える腕を抱えて走る。

 

幸い、アザゼルや眷属たちはヴァーリとの戦闘を繰り広げていた最中であったせいか、こちらの方に注意を向けている様子はない。ガドルは全速力で、結界を破壊したと思しきグロンギの元へと駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

結界を破壊した張本人…ゴオマは破壊された結界をまたぎ越し、学園に足を踏み入れる。

暫く学園全体を何かを探すように見渡した後に、中心部を見据えて不敵な笑みを浮かべた。

 

「あそこ…か? 美味そうな匂いが、ひとつ、ふたつ、みっつ…」

 

視線を合わせた先に向かって足を進める。ところが数歩歩いたあたりで、おもむろにその足を止めた。

 

「いや…違う。あいつは、あそこじゃない。どこに、いる…?」

 

再び、何かを探すようにあたり一帯を見渡すゴオマ。

その視線の先に、煌びやかな和装を羽織った艶かしい女性が映った。ゴオマはその存在を確認するや否や、ニヤァッと口角を上げて見せた。

 

「見つけた、ぞ…?」

 

ゴオマと出会ってしまった女性…黒歌はその言葉に、背中が凍りつくような恐怖を感じた。

半歩下がってゴオマと距離を離そうとするも、ゴオマは笑みを浮かべたまま離された距離を詰めてくる。

 

「今度は。今度こそは、逃しはしない、ぞ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァアアァァァァッッ!!」

 

 

ゴオマの背後の茂みから、また別の影が飛び出してきた。茂みから飛び出した影はその勢いのままゴオマに殴りかかるが、ゴオマはその攻撃の気配を感じ取り、素早い動きでそれを躱した。

 

かわした勢いで、その影の腕を掴み、投げる。投げられた影は空中で回転するように体制を整え、着地した。

 

その影は、ガドルだった。一直線に駆けてきたガドルは、一足先にゴオマのいる場所へとたどり着いたのだ。

 

「貴様は…まさか、ズ・ゴオマ・グ、か?」

 

確認するように尋ねたガドルの言葉に、ゴオマは答えない。言葉が通じないのか、そもそも問いを理解した様子もなさそうだった。

 

(…ありえねぇ。あっちの世界でもゴオマはいたが、あいつがあんな気を発するなんてこと、あるはずが…)

 

ガドルの記憶にあるゴオマは、他のグロンギたちにいいように使われるだけの不憫なグロンギだった。階級はズで、その実力も階級相応。同階級の間でも乱雑に扱われていた覚えもあり、ガドルにとっての彼の印象は『最弱のグロンギの一角』と言っても差し支えないほどだった。

そんな彼が、自分にとってトラウマと言える力に似たものを感じさせた。それは、ガドルにとって困惑すべきものであった。

 

ゴオマの気に気後れしながらも、視線を移して襲われかけていた黒歌の様子を伺う。このような場所に潜んでいた時点でテロリストの一味か、そうでなくとも不審者の一人であるのは間違いない。グロンギに襲われかけていたように見えたのだが、彼女もまた敵に回る可能性はある。十分に警戒した方が良い、と思ってのことだった。

黒歌もまた、ガドルとゴオマの両名に注意を向けていた。彼女にとっては自分に襲いかかってきた怪物とそれに似ても似つかない怪物が互いに向き合っている構図だ。両者とも警戒対象に入るのも当然だ。しかし強いて言うならば、明確に自分に敵意があると分かっているゴオマの方をやや重視しているようにも見える。

 

ひとまず、黒歌からいきなり攻撃されることはなさそうだ。黒歌に対して僅かな警戒心を残したまま、ゴオマに向き直る。

 

その頃、ゴオマはと言うと……。

 

 

 

 

 

「……ガド、ル?」

 

 

 

 

 

どこかおかしな様子で、ガドルに視線を合わせていた。

 

先ほどまで黒歌に襲いかかっていたことはまるで忘れたかのように、突如現れたガドルの方にのみ視点を合わせる。何かあるのかと、ガドルは思わず身構えた。

 

 

 

 

 

 

「ガドル…ガドル、ガドル…!」

 

 

 

 

 

 

不気味な声で名を呼ばれ、ガドルはやや表情を硬ばらせる。

 

 

 

 

 

 

「ガドル…ガドル、ガドルガドルガドル! ガドルガドルガドルガドルガドルガドル……!!!」

 

 

 

 

 

錯乱したように名を叫び出すゴオマ。

このままでは埒があかないと、自分から仕掛けるつもりで身構えたガドルに…

 

 

 

 

 

 

「ガァアァァアアァァドォォオオォォオオォルウゥゥゥウゥゥウゥゥゥウッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

ゴオマが、飛びかかった。

 

咄嗟に繰り出されたゴオマの拳に防御の構えを取るも、その勢いは止まらず、ガドルはその勢いのまま飛ばされる。

飛ばされるガドルに、追撃するゴオマ。暴力的で乱暴に繰り出される攻撃のその一撃一撃をいなしながらも、ガドルはその重さに驚かずにはいられなかった。

 

ズの中にも、力自慢なグロンギはそれなりにいた。その筆頭とも言えるのは、ズ集団の中でトップクラスの実力者であるズ・ザイン・ダが頭に浮かぶ。その一撃もなかなかに重いものであったが、ゴの名を持つグロンギと戦ってきた経験があれば捌けない攻撃では決してない。

ところが、ゴオマの一撃は、ゴ集団との戦いを乗り越えてきたガドルですら捌ききれないほど、響く攻撃であった。

 

腹部に重い衝撃がかかる。どうやら少しの隙を突かれ、腹部にブローをかまされたのだろう。こみ上げる痛みをこらえ、前傾姿勢になったところをゴオマは畳みかけようと拳を振るう。

 

「この程度で…舐めるなっ!」

 

その拳を、すんでのところで受け止めた。

パワー自慢にはパワーで返す。ガドルは剛力体に変化し、ゴオマの一撃を止めてみせた。

 

空きができたゴオマの頬をめがけ、力を込めて殴りかかる。もろにその一撃を受けたゴオマはよろけるように後退し、ガドルは距離が離れたことを利用して胸の石から剣を錬成する。

 

すかさず斬りかかるが、その一撃は空を切った。ゴオマは空に飛び上がることでその一撃をかわし、空からの襲撃へと移り変わった。

 

ガドルを取り囲むように空を飛び回るゴオマを見据え、ガドルは剣を下ろして両手を合わせる。それを隙だと判断したのか、ゴオマは凄まじい勢いでゴオマに襲いかかった。

同時に、ゴオマは合わせた両手を地面に叩きつける。青い稲妻と共に地面が蠢くように動き出し、ゴオマとガドルの間に土でできた壁を作り出した。

 

突如目の前に現れた壁に弾き飛ばされ、ゴオマは空に打ち上げられる。なんとか体勢を立て直そうとするゴオマの身体を、鋭い痛みが連続して襲いかかった。

 

みると、剣ではなくボウガンを手にしたガドルがこちらに照準を合わせ、引き金を引いているのが見えた。今の一瞬で射撃体に変化し、ゴオマを的確に狙い撃ったのだ。

 

連続して襲いかかる痛みに耐え、空に飛び上がるゴオマ。苛立ちを込めてガドルのいた場所を見下ろすが、そこにはすでにガドルの姿はなかった。

 

どこに姿を消したと視線を往復させるゴオマの頭上に、影がかかる。何かと思って空を見上げたところに、俊敏体に姿を変えてボウガンを槍に持ち替えたガドルが、渾身の力を込めて槍を叩きこんだ。

 

上空から地上めがけて叩き落とされたゴオマは、そのまま地面に不時着する。叩き落とされた衝撃に悶えるゴオマの前に、俊敏体となったガドルがそっと着地した。

 

流石にダメージも大きかったのか、なかなか立ち上がれずにいるゴオマをガドルは不可解な様子で眺めていた。

 

今もガドルの目の前では、記憶にあるのと同様、他のグロンギと比べ情けないような印象を与えるゴオマの姿がある。最弱のグロンギといって良さそうなゴオマの姿がある。これまで戦ってきたグロンギたちが、何も劣っていないと確信できるゴオマの姿がある。

それが、なぜあんな力を有していたのか。なぜ自身を恐怖させる気を発したのか。なぜ魔王が貼った結界を破壊できるのか。

 

ゲゲルを乗り越えたからではない。人と同様、厳しい練習を乗り越えて強くなったスポーツ選手たちの顔が自然とたくましくなるように、ゲゲルを乗り越えたグロンギたちはそれに伴って風格も出てくるというものだ。現にゴのグロンギは、形こそ違えど、人に恐怖を与える風格を備えているものばかりだ。

それで言うなら、目の前のゴオマはどうだ。確かにガドルが苦戦するくらいの力を有していた。確かにかつてのトラウマを煽るほどの気を発していた。確かに魔王の貼った強固な結界を破壊した。ところが、ゴオマからは強者の風格が微塵とも感じられないのだ。

 

強者の風格はまるでないのに、実力だけは優れている。それはまるで、先ほどの例でいうなら……

 

 

 

 

 

 

ドーピングか何かで、無理やり自身を強化したスポーツ選手のような……。

 

 

 

 

 

 

 

「キキ…ッ、キハハハハハハ…ッ」

 

 

奇妙な笑い声をあげるゴオマ。ユックリと不気味な動きで身体を起こし、ガドルと向き合う。

 

 

「アァ……やはり、強い。流石だ。俺に、戦士としての自覚が無いとか、言うだけのことは、あるな」

 

 

身に覚えのないことを言われ、困惑した様子をみせたガドルをよそに、ゴオマはベルトにそっと手を添える。

 

 

「だから……俺は、お前を。ガドルを。貴様を、殺す。絶対に、殺す。

お前が否定した、やり方で……お前を………

 

 

 

 

 

 

 

 

コロス」

 

 

 

 

 

途端、ゴオマの発する気が、より禍々しくなったのを感じた。

ガドルは、感じた。今度はより深く。より一層と。よりはっきりと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

究極の闇が訪れた、あの力を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キキキ…ッ ハーッハッハハハッハッハッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオマの叫びと共に、ゴオマの身体は、深い闇に包まれた………。




雑談ショー withリアス

リ「赤龍帝と白龍皇の戦い、三大勢力の会合、イッセーの禁手…。今回は色々と詰まっていて大変よね〜」

八「そっすね。皆のグロンギに対する認知とか、ヤベェ奴出てきたりとか、オレの身体の異常とか…」

リ「でもだからって、投稿期間がこんなに開くのは良くないわよね〜」

八「確かに。早くしてくれねぇと、オレ中途半端な状態のまま半年以上放置ですし、よくないです。今後の展開的にも」

リ「あとは…朱乃とシュウの関係、とか?」

八「(OwO;)< ヴェ⁉︎ オマエナニイッテンダ⁉︎」

リ(…ほんと分かりやすいわね)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。